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平面駆動ならではの追従性! ヤマハ初の高級ヘッドホン「YH-5000SE」

ヤマハは同社の開放型フラッグシップヘッドホン「YH-5000SE」を発表した。2022年9月に開催された「秋のヘッドホン祭」で参考展示されていた製品が正式にリリースされた格好だ。希望小売価格は495,000円(税込)で、12月下旬発売。

「YH-5000SE」の主な仕様は以下のとおり。
●型式:開放型
●ドライバー:50mm平面磁界型(オルソダイナミック型)
●再生周波数帯域:5Hz〜70kHz
●インピーダンス:34Ω
●出力音圧レベル:98dB/mW
●質量:約320g(ケーブルを除く)

セット内容は、ヘッドホンスタンド、2種類のイヤーパッド、2mアンバランス(3.5mm3極)接続ケーブル(6.3mmアダプター付き)、2mバランス(4.4mm5極)接続ケーブル。これらはすべて付属するが、単体での購入も可能だ。そのほか、別売りオプション品として、XLR端子形状の2mバランスケーブルもラインアップされる

セット内容は、ヘッドホンスタンド、2種類のイヤーパッド、2mアンバランス(3.5mm3極)接続ケーブル(6.3mmアダプター付き)、2mバランス(4.4mm5極)接続ケーブル。これらはすべて付属するが、単体での購入も可能だ。そのほか、別売りオプション品として、XLR端子形状の2mバランスケーブルもラインアップされる

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目指したのは「True Sound」「極上の装着感」、そして高い「ビルドクオリティ」

ヤマハは言わずと知れた楽器、オーディオメーカーであり、これまでにも多くのヘッドホン、イヤホンを発売してきた。しかし、ここまで高価なヘッドホンをフラッグシップモデルとして位置づけて発売するのは初めてのこと。型番の「5000」はスピーカーやアンプのフラッグシップモデルと共通したナンバリングであり、ヤマハが目指す「True Sound」を志向することももちろん共通している。

とはいえ、「YH-5000SE」がターゲットとするのは、スピーカーやアンプを揃えるオーディオマニアではなく、ヘッドホンでの音楽リスニングを愛する人々。そこでテーマとなったのは、上記の「True Sound」つまり音のよさ。それに加えて長時間のリスニングに堪える「極上の装着感」。そして、フラッグシップモデルにふさわしい「ビルドクオリティ」の3箇条だ。このコンセプトをひと言で表すと、「深く・長く音楽に没入できるヘッドホン」であるという。

「True Sound」のための平面磁界型ドライバー

それぞれの要素を順に見ていこう。まず、「True Sound」とは、「アーティストが込めた思いを表現し感情を動かす音」のこと。その実現のために必要なのは「トーナル(音色の)バランス」「ダイナミクス」「サウンドイメージ」。具体的には、高い応答性や微細音への追従性、広い音場、開放感と密度感の両立を目指したという。

そのために開発者が目を付けたのが、1976年に発売された「HP-1」というヤマハの平面次磁界型ドライバーヘッドホン。自社開発の平面磁界型「オルソダイナミック(ORTHODYNAMIC)ドライバー」を搭載した知る人ぞ知るモデルだ。

「HP-1」発売当時のパンフレット。兄弟モデルとして「HP-2」「HP-3」も掲載されている

「HP-1」発売当時のパンフレット。兄弟モデルとして「HP-2」「HP-3」も掲載されている

「HP-1」の外観を手がけたのは、建築家/デザイナーとして高名なマリオ・ベリーニ。東京デザインセンターの建築デザインやカッシーニ社の家具などを手がけたことで知られる

「HP-1」の外観を手がけたのは、建築家/デザイナーとして高名なマリオ・ベリーニ。東京デザインセンターの建築デザインやカッシーニ社の家具などを手がけたことで知られる

ヘッドホンにおける平面磁界型ユニットの基本は、振動板にコイルを設置し、それを挟む形でマグネットを配置。磁界の中でプッシュプル動作させるというもの。マグネットはメーカーごとでさまざまに成形されていて、振動板を全面で一様に駆動しやすいというメリットを得られる。デメリットは、設計の難しさとコストの高さ。いっぽう、円形(や楕円形)振動板の中央片側に磁気回路を置いてその駆動力を周囲に伝播させるダイナミック型では、原理的に振動板端までの均一な駆動が難しい。

なお、平面磁界型と似た駆動方式として静電型があるが、こちらは振動板(膜)の両面に配置された電極に対して電圧をかけてプッシュプル駆動する。平面を一様に駆動することを突き詰めたこの方式のヘッドホンメーカーとしてSTAX(スタックス)が有名だが、専用のヘッドホンアンプ(ドライバー)を必要とするデメリットがある。

かつての製品と技術にインスパイアされ、最高音質を目指した「YH-5000SE」だが、実際にはまったくの新規製品だ。新たな「オルソダイナミックドライバー」については2019年から1,000以上の試作を繰り返してきたそうで、計画自体はもっと以前から始まっている。そのほかにも、振動板を挟み込むようにダンピングする「微細孔ダンパー」や、ハウジング内部の通気をコントロールしつつ音のバランスを整えるステンレスフィルターなど、要所に独自技術を投入し、製品として仕上げられた。

矢印の部分が、振動板をダンピングするためのパンチングメタル製「微細孔ダンパー」。フェルトなどの一般的な素材に比べて中高域のロスが少ないという

矢印の部分が、振動板をダンピングするためのパンチングメタル製「微細孔ダンパー」。フェルトなどの一般的な素材に比べて中高域のロスが少ないという

ハウジング内のステンレスフィルター。圧延プレスすることでフィルターの目地を調整し、バランスをとったという。紙や樹脂などではなく剛性の高いステンレスを使うことで、ハウジングを大きく開口した設計を可能とした

ハウジング内のステンレスフィルター。圧延プレスすることでフィルターの目地を調整し、バランスをとったという。紙や樹脂などではなく剛性の高いステンレスを使うことで、ハウジングを大きく開口した設計を可能とした

軽量化にも注力して「極上の装着感」を目指した

「極上の装着感」は、長時間のリスニングのための必須事項として掲げられたテーマ。軽量化のために本体素材にマグネシウムが採用された。ケーブルを除く質量は、ハイエンドモデルとしては軽量と言える320g。さらに、長さを無段階調整可能な「ステップレススライダー」、ハウジングの回転軸が傾いて耳の後ろのへこみにフィットする「スラントスイベル」機構を採用。快適な装着製としっかりしたフィット感が生み出す正しい低域再生をサポートする。ヘッドホン装着時、耳の後ろに空間ができてしまうと、低域の量感が不足して感じられてしまうのだ。

スライダーにより、長さを無段階調整可能なヘッドバンド。「HP-1」を踏襲した、バンドとスライダーの二重構造。動きがとてもなめらかで、高い「ビルドクオリティ」を目指した、結果の一端が感じられた

スライダーにより、長さを無段階調整可能なヘッドバンド。「HP-1」を踏襲した、バンドとスライダーの二重構造。動きがとてもなめらかで、高い「ビルドクオリティ」を目指した、結果の一端が感じられた

2種類のイヤーパッドが付属することも「YH-5000SE」の特徴だ。基本のイヤーパッド(左)は羊皮と合成皮革の組み合わせだが、もう1種は起毛素材のウルトラスエード(右、合成皮革の一種)。好みのフィット感を選べるうえ、音色の傾向の変化も楽しめる

2種類のイヤーパッドが付属することも「YH-5000SE」の特徴だ。基本のイヤーパッド(左)は羊皮と合成皮革の組み合わせだが、もう1種は起毛素材のウルトラスエード(右、合成皮革の一種)。好みのフィット感を選べるうえ、音色の傾向の変化も楽しめる

「ビルドクオリティ」を担保するための自社工場組み立て

最後に、「ビルドクオリティ」について。「YH-5000SE」は静岡県掛川市の自社工場で、熟練工の手で組み立てられる。この工場でヘッドホンが組み立てられるのはとても珍しいそうで、普段はピアノの生産がメインだという。この工場で厳密に組み立て精度が管理され、最終的に製品が出荷される。もちろん、このクオリティは設計自体の緻密さと望ましい装着感の実現と無関係ではないだろう。

「YH-5000SE」の発売まではあと少し。試作機を少しの間試聴できる機会を得たので、ファーストインプレッションとして記しておきたい。本機の美点は開放型らしい音場の広がりと、帯域の整ったバランスだ。ベーシックな能力が高いことは間違いない。そのほか、パルシブな楽曲への俊敏な追従性の高さが「オルソダイナミックドライバー」ならではの魅力と言えそうだ。

試聴に使った再生システムはノートPCとRMEの「ADI-2 DAC」。「ADI-2 DAC」は定評のあるすぐれた製品だが、「YH-5000SE」の価格を考えると、他のヘッドホンアンプとも組み合わせてみたいと思ったのも事実だ。さしあたりは「ヘッドフォン祭」主催のフジヤエービックなど、専門店で取り扱いが開始されるとのこと。まずは試聴機に触れてみていただきたい。

柿沼良輔(編集部)

柿沼良輔(編集部)

AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。

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