FiiOから2月3日、新機軸のオーディオストリーマー「R7」が発売される。昨年の「秋のヘッドフォン祭2022」で初披露され、僕も製品発売を心待ちにしていたひとりだ。
据え置きタイプのオーディオストリーマー、FiiO「R7」。発売に先駆けて試用させてもらった
まず、FiiO「R7」の全体像を説明しておこう。製品のコンセプトはAndroid OS搭載のオールインワンデスクトップオーディオデバイス。市場想定価格は112,200円前後と、価格設定からして超ハイエンドなオーディオ製品という訳ではなく、比較的手ごろな価格で導入できる多機能ガジェット的な立ち位置の製品だ。
FiiO「R7」の出発点は、DAP(デジタルオーディオプレーヤー)を据え置き化したものとイメージするとわかりやすい。現在のDAPはWi-Fi&Android OS搭載の機種も増えているが、本機はそのデスクトップ版。本体前面に4.97インチ液晶ディスプレイを搭載しており、タッチ操作も可能だ。FiiO独自カスタマイズのAndroid OSだがGoogle Playも問題なく使えるので、音楽サブスクのアプリをインストールすれば、それらを音源ソースとしたプレーヤー・ストリーマーとしても活用できる。ちなみに、プレーヤー部を一切使わず、本機をUSB DAC/ヘッドホンアンプとして利用することも可能だ。
OSにはFiiO独自カスタマイズのAndroid 10を搭載。本体前面に用意された4.97インチ液晶ディスプレイからタッチ操作も行える。前面右下には、ヘッドホン出力も搭載している
出力は、本体前面からヘッドホン出力(6.3o/4.4oバランス/4ピンXLRバランス)もできるし、本体背面にはライン出力(RCA×2/3ピンXLRバランス)も搭載されている。さらに、光/同軸デジタル出力や入力も搭載しており、これ1台でデスクトップオーディオ用途に使える接続性をほぼ全方位でカバーしているのだ。
FiiO「R7」の背面。パソコンなどの接続に使用するUSB Type-C、USBメモリーなどを接続するHOST専用USB Type-AやSDメモリーカードスロット(最大2TBまで)、RCAライン出力×2、3ピンXLRバランスライン出力、光/同軸デジタル入出力、有線LAN、Bluetooth送受信/Wi-Fi兼用アンテナがすき間なくびっしりと並ぶ
本体底面には、平面タイプとわずかに上向きになる2種類の付属シリコン製スタンドを取り付け可能
説明すればするほど、何が主目的のオーディオ機器なのかわからなくなるFiiO「R7」だが、そんな何でもできるというところが本機のコンセプト。現在のオーディオファンが「使うかもしれない機能」を全方位で搭載する、デスクトップ向けの万能オーディオストリーマーなのだ。
FiiO「R7」から切り替えられる動作モード一覧
上に掲載した画像が、FiiO「R7」から切り替えられる動作モードの一覧。動作モードの内容は以下のとおりだ。
・Androidモード:音楽ストリーミングサービスを含む、さまざまなサードパーティー製アプリを楽しめます。
・Pure Musicモード:FiiOが開発した、ローカルファイルの高品質な音楽再生に特化したモードです。
・USB DACモード:PCやスマートフォンなどのDACとして動作することで、音声を高音質で楽しめます。
・Bluetooth受信モード:さまざまなデバイスからBluetooth受信した音声を高音質で楽しめます。
・AirPlay受信モード:iOSデバイスから受信した音声を高音質で楽しめます。
・Roon Readyモード:Roonの認証を受けており、すぐれたネットワークプレ−ヤーとして動作します。
・同軸/光デコードモード:同軸/光入力端子から入力されたデジタル信号をデコードして再生します。
FiiO「R7」の各種スペックも紹介しておこう。SoCはクアルコム社製「Snapdragon 660」を搭載し、RAMは4GB、ストレージは64GB。ちなみに、Bluetoothイヤホンやヘッドホンに音声データをワイヤレスで送信できるBluetooth送信機能では、SBC、AAC、aptX、aptX HD、LDAC、LHDCコーデックまで対応している(受信の対応コーデックはSBC、AAC、LDAC)。
※2023年2月2日18時 訂正:初出時、送信時のBluetoothコーデックにaptX LL、aptX Adaptiveを記載しておりましたが、正しくは使用できません。お詫びして訂正いたします。
Android OSのGoogle Playストア経由でさまざまなアプリを導入可能
今回は「Amazon Music」と「Apple Music」を導入してみた
DACチップはESSの「ES9068AS」を、ヘッドホンアンプにはFiiOとTHXが共同開発し、据え置きヘッドホンアンプなどにも用いられている「THX AAA-788+」というハイパワー仕様のヘッドホンアンプ回路2基を組み合わせて搭載している。回路部分にも、パナソニック製のPPSフィルムコンデンサーや、高精度・低ジッターを実現する位相同期ループテクノロジーを搭載する第4世代FPGA、2系統の超高精度水晶発振器など、オーディオ向けの高品位パーツを随所に採用。AC電源だけでなくDCも利用可能と、音質設計を見るとガチのオーディオ仕様だ。
FiiOのポータブルDAPから受け継いだ音楽再生特化のPure Musicモード。ファイルベースの音楽再生向けのモードだ
万能オーディオストリーマーとしていろいろな使い方ができるFiiO「R7」なので、さすがにすべてのパターンを網羅して使い倒すには時間が足りない。ということで、今回は僕が利用したシーン別のレポートをお届けしたい。
まずは、FiiO「R7」をプレーヤーとしたシンプルなヘッドホンによる音楽リスニングから。僕は音楽リスニングの音源はサブスク配信派なので、今回は普段使用している「Apple Music」のロスレス音源を試聴してみた。組み合わせたヘッドホンはAKG「K712 PRO」で、3.5mmのアンバランスを変換アダプターで6.3mmに変え、前面のヘッドホン出力に接続した。
前面のヘッドホン出力は全部で3系統。今回は変換アダプターを使用した6.3oのアンバランス接続だったが、4.4oバランス接続や4ピンXLRバランス接続にも利用でき、これ1台で多彩な接続方法を楽しめる
ちなみに、FiiO「R7」でヘッドホン・イヤホンを接続する際、最大32Ωで3.2Wという強力な出力を搭載しているため、ゲイン切り替えは必ずチェックしてほしい。Ultra high、Super high、High、Medium、Lowの5段階のゲイン設定が用意されており、初期設定はHighとなっている。モード切り替えやゲイン切り替えなどオーディオ的な部分の操作はAndroidのUIを画面上から下にスワイプしたコントロールメニュー内にあり、今回のAKG「K712 PRO」は試聴の際にLowに切り替えている。
ゲインはUltra high、Super high、High、Medium、Lowの5段階から選べる
ヘッドホンアンプとしての音質は、ニュートラル志向と呼ぶべきか、バランス志向でとてもクオリティが高い。解像感も躍動感も引き締まった低音の再現もあるのだが、軽やかな聴こえ方で、どこか一方向に突き抜けたサウンドではないのがFiiOらしいところだ。同価格帯のFiiO製ポータブルDAPのサウンドをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれない。
続いて、FiiO「R7」をUSB DACとして動作させてみた。手持ちのMacbook AirとUSB C to USB Cケーブルで接続し、FiiO「R7」側をUSB DACモードに切り替えるとあっさりと認識してくれた。Mac OSの「Apple Music」を使用し、同じロスレス音源を再生、ヘッドホンもAKG「K712 PRO」で条件を揃えて聴き込んでみると……USB DACとして動作させたほうが音の見通しがよくなり高音質に感じる。ちなみに、Mac OSだけでなくWindowsのデスクトップPCでもUSB DACとして動作することは確認済みだ。
Macと組み合わせてUSB DACとしても使ってみた
FiiO「R7」のモード切り替えを試していたところ、AirPlay受信モードが存在することにも気づいた。そこでFiiO「R7」をAirPlay受信モードに切り替え、手元のiPhoneからAirplayを試してみると、FiiO「R7」が「FiiO Music Player」として認識され、すぐに音源が流れ出した。これはネットワーク系の母艦としても扱いやすそうだ。
iPhoneと組み合わせてAirPlay受信モードをテスト。すぐに認識されるので、手軽に音楽リスニングを楽しめる
スタジオモニタースピーカーの民生版と知られるGENELEC「G One」は、いわゆる赤白のRCA端子でPCスピーカー的に使える高音質のアクティアクティブスピーカーなのだが、スピーカー本体に音量調整の機能がないため接続機器を選ぶところが悩みの種だった。一般的にはRCA出力は音量固定、ヘッドホン出力は音量可変なのだが、そこで僕ががぜん興味を持ったところが、FiiO「R7」の背面にあるRCAライン出力が固定出力と可変を切り替えられるかどうか。
FiiO「R7」とGENELEC「G One」でミニマムなオーディオ環境を構築
実際にFiiO「R7」とGENELEC「G One」をRCAケーブルで接続してみると……FiiO「R7」は背面のRCA出力も含めて音量可変であることを確認。一応補足しておくと、スピーカー/ヘッドホンを両方接続したままにできるように、FiiO「R7」には前面上から2番目のダイヤルで前面/背面端子の音声出力の有効/無効を切り替える音声出力モードに応じて挙動が変わるようだ。なんにせよ、音量操作無効のモードを選ばない限りRCAライン出力も音量可変だ。
FiiO「R7」を前にして、僕がすぐにこれは試したいと思った用途は以上。ほかにもヘッドホン・イヤホンなどのバランス接続系、豊富な入出力端子を介して据え置きオーディオ機器に接続、Roonなどネットワークオーディオ系、Bluetoothイヤホン・ヘッドホンとLDACコーデック接続の利用シーンも考えられるが……機能がありすぎて、さすがに一度にすべてはカバーしきれなかった。
デスクトップ周りが定位置になりそうなFiiO「R7」。Mac/WindowsでUSB DACで普段使いしつつ、手軽に使いたいときはAndroidアプリからサブスク経由でイヤホン・ヘッドホンリスニングを楽しもうかな……?
デスクトップ周りで音楽リスニングに求められることなら、これ1台で大抵のことならできてしまうFiiOの万能オーディオストリーマー「R7」。既存製品にはない万能性こそが、最大の魅力であると言って間違いない。FiiO「R7」は誰におすすめと明確には語りにくいが、「これ、ちょっとほしいかも」と思った人は、全員手を出してみて、遊び倒してみてほしい。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。