レビュー

Noble Audio「FoKus Mystique」はただの“音質全振り”なTWSにあらず

ポータブルオーディオファンを自認するなら、いろいろ気になるイヤホンブランドが1つや2つあるはず。ダイナミック型ならここ、BA型ドライバーの使いこなしならあそこ、といった具合にメーカーごとの得手不得手をわきまえたうえで、新製品に期待する。やはりいいね、路線変更だけどこれはこれでアリだな、などと好事家同士で盛り上がれるのも、メーカー渾身の新製品があるからこそだ。

Noble Audioというブランドは、筆者にとって気になるブランドのひとつ。2013年の設立以来、数々のイン・イヤー・モニタータイプイヤホンを手がけ、ここ日本でも高い知名度を誇る。ほぼすべての製品を創設者ジョン・モールトン博士が事細かに監修、エントリーモデルでもううむと唸らされる音作りを堪能できる。

そのNoble Audioも、市場のニーズに応えるべく完全ワイヤレスモデルを漸次投入。「FALCON」や「FoKus」といったモデルは、ポータブルオーディオファンを中心にヒットを記録している。決め手はやはり「音」、真っ向音質で勝負の製品でも完全ワイヤレスで戦えることを証明してみせた形だ。

今回の「FoKus Mystique」は、Knowles製BA型ドライバー2基とφ8.2ダイナミック型ドライバー1基からなるハイブリッド構成。アクティブノイズキャンセリング対応ではないがヒアスルー機能を搭載、音途切れ防止機能「TrueWireless Mirroing」のサポートなど、先進の完全ワイヤレスイヤホンとしてのフィーチャーがひと通り揃う注目の製品だ。

Noble Audioの音質全振り完全ワイヤレスイヤホン、「FoKus Mystique」

Noble Audioの音質全振り完全ワイヤレスイヤホン、「FoKus Mystique」

まるで"イヤモニ"のような佇まい

試用を開始して最初に気づいたのは、その装着感。一見してIEM風な佇まいとサイズ感は、耳もとで自己主張するような、ともすれば耳に負担を強いるほどの重みを予感させるが、実際に着けてみるとそんなことはない。羽のように軽いとまでは言わないが、30分以上装着しても疲れがないし、歩き回ってもズレない。イヤホン単体の重量は7g、軽いというほどでもないが、フィット感があり耳穴にしっかりホールドされる。

本体の質感は独特、というより「イヤモニ感たっぷり」。完全ワイヤレスイヤホンの多くが再生/停止などのコントロール用にタッチパネルを採用しており、「FoKus Mystique」もその点では同じだが、タッチパネル表面が微妙に波打って見える。タッチセンサーの反応や製造現場の事情を考えれば、普通ここは鏡面仕上げにするものなのに...釉薬(ゆうやく)が塗られた陶器のように、かすかな起伏があるのだ。ボディ形状も均一/シンメトリーではなく、端のほうが微妙にカーブしているなど細かい作り込みが見てとれる。

タッチパネル表面が微妙に波打っているのがわかるだろうか

タッチパネル表面が微妙に波打っているのがわかるだろうか

ボディは端のほうが微妙にカーブするなど、細かく作り込まれている

ボディは端のほうが微妙にカーブするなど、細かく作り込まれている

なお、充電ケースは「FoKus PRO」と共通設計のもの。そのためかどうかはわからないが、指先に引っ掛けるための適度なスペースがなく、そのうえ固定用マグネットが強めのため、ケースに格納したものを取り出すとき少々手間取った。細かいサンドブラスト仕上げの金属製ケースは質感良好、色味よく高級感漂う仕上がりなだけに、惜しまれる点だ。

充電ケースは質感高いが、取り出しにくいのが難点

充電ケースは質感高いが、取り出しにくいのが難点

BAらしい繊細さとDDらしいグルーヴ感

20時間ほどのエージング(断続的なストリーミング再生)のあと、試聴をスタート。aptX Adaptive(48kHz/24bit)対応のAndroid端末を利用し、アコースティック楽器主体のスローテンポな曲をいくつかピックアップ、「ONKYO HF Player」で再生している。

まずは「Love Song for #1/コリン・メイ」。ピアノとボーカルのみというシンプル構成なだけに、再生機器の粗が見つかりやすい曲だが、「FoKus Mystique」はこの難題をさらりとこなす。冒頭のブレスノイズは生々しく、伴奏のピアノもサスティーンが自然。かすかにエコーがかかったような音場には奥行きがあり、有線イヤホンさながらの広々とした印象を受ける。BA型ドライバーらしい繊細さと高域方向の表現力が感じられ、aptX Adaptiveという24bit幅コーデックならではの情報量もある。

低域方向の再現力を確かめるべく、「Disco Ulysses/ヴォルフペック」を再生したところ、想像以上に豊かでソリッドな低域にハッとさせられる。いつ聴いてもイケているJoe Dartのベースはグルーヴ感2割増し...というのは心理的な話、音のエッジが明確で付帯音が少なく、作為的に音を持ち上げているわけではないからハイハットの刻みとのバランスも自然。"低域増強系"のイヤホンにありがちなもっさり感とは無縁だ。この点、ダイナミック型ドライバーとBA型ドライバーの組み合わせの妙であり、Noble Audioらしい音質設計の巧みさなのだろう。

ところで、「FoKus」シリーズ向けに提供されているiOS/Android対応のアプリを利用すると、10バンド対応のイコライザーを利用できる。帯域別にテストトーンを流し聴力測定を実行、最適なEQカーブを導き出す機能「myEQ」も用意されているので、音に物足りなさ/テイスト違いを感じる場合にはそれを利用してもいい。適用する・しないは別として、"素の音"を確認する意味でも試す価値はある。

「FoKus」シリーズには専用アプリが用意されている

「FoKus」シリーズには専用アプリが用意されている

帯域別にテストトーンを流し聴力測定を実行、最適なEQカーブを導き出す機能が用意されている

帯域別にテストトーンを流し聴力測定を実行、最適なEQカーブを導き出す機能が用意されている

ただの“音質全振り”にあらず

“音質全振り”の完全ワイヤレスイヤホンという先入観で「FoKus Mystique」を試してみたが、なかなかどうして。aptX Adaptive利用時でも連続6時間以上再生できたし(環境や音量にもよるだろうが)、耳によくフィットするからアクティブノイズキャンセリングなしでも周囲の雑音はそれほど気にならず、EQ/聴力測定アプリの提供など先進機能も揃っている。音途切れに効果的な「TrueWireless Mirroring」のサポートなど、クアルコムチップ搭載によるメリットも多く、製品としての総合力の高さを実感した。

気になる点があるとすれば、前モデル「FoKus PRO」に付属のものをもとにした充電ケース。質感良好でサイズ的にも不満はないが、なにせ取り出しにくい。メーカー側では「FoKus PRO」のときから把握していただろうから、モデルチェンジのタイミングで改良してほしかったところだ。

ともあれ、この「FoKus Mystique」、Noble Audio渾身の作であるとともに期待を裏切らない完成度ということは間違いない。今後も完全ワイヤレスイヤホンの開発は継続されるのだろうが、これより上をどうやって目指すのか。個人的にはそこに興味がある。

海上 忍

海上 忍

IT/AVコラムニスト、AV機器アワード「VGP」審査員。macOSやLinuxなどUNIX系OSに精通し、執筆やアプリ開発で四半世紀以上の経験を持つ。最近はAI/IoT/クラウド方面にも興味津々。

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