レビュー

実は狙い目! アンダー3万円のノイキャンワイヤレスヘッドホン4製品を試す

音楽を聴くなら、耳に挿し込むイヤホンより耳を覆うヘッドホンが好み、という人も多いはず。それぞれ一長一短はあるものの、低域の量感や遮音性は押しなべてヘッドホンが有利、確かに携帯性・機動性に目をつぶってでも選びたくなる魅力がある。

そこで今回選んだテーマが「アンダー3万円のアクティブノイズキャンセリング対応のワイヤレスヘッドホン」。ストリーミング対応とアクティブノイズキャンセリング対応は時代の要請、そこを踏まえたうえでどれほどの満足度を得られるのか。3万円以下なら比較的買いやすく、通勤・通学の友としての現実味を帯びてくる。発売後間もない4製品をチョイス、音質やノイズキャンセリング効果をじっくり検証した結果を述べていきたい。

1. ソニー「WH-CH720N」

ソニー「WH-CH720N」

ソニー「WH-CH720N」

「ソニーのワイヤレスノイキャンヘッドホン史上最軽量」をうたう「WH-CH720N」。確かに、構造上密閉型とならざるをえないノイズキャンセリングヘッドホンとしては192gと軽く、側圧は穏やかで装着したときの圧迫感・異物感も少ない。2時間装着し続けても疲れないところは、この製品の大きなアドバンテージと言っていいだろう。

アクティブノイズキャンセリングの効果は及第点以上、という印象。「1000X」シリーズと同じ統合プロセッサー「V1」を搭載、フィードフォワード・フィードバックの2方式を組み合わせたハイブリッド型アクティブノイズキャンセリング(「WH-1000XM4」と同様の「デュアルノイズセンサーテクノロジー」)を採用と、ノイズ低減へのアプローチは最新・最強の布陣。パッシブ性能の違いか、効果のレベルは「WH-1000XM4」ほどではないものの、電車の走行音もしっかり低減できる。この価格帯でこのノイズ低減性能は、十分納得できるレベルだ。

音質に関しては、応用範囲の広い手堅くまとめた音作り、という印象。φ30mmドライバーが描き出すはつらつとした低域とキレのある中高域は、J-POPは言うに及ばずEDMも、ヘビーメタル/ハードロックもソツなくこなす。ドライバーのレスポンスのよさか、低域・中域に目立つ歪みやモタつきは感じられず、アコースティック楽器主体の曲を再生しても粗が気になることはない。LDAC非対応は惜しまれるが、圧縮音源の高域を補完するソニー独自の「DSEE」を搭載、iPhoneかAndroidかに関係なくストリーミングを高音質で楽しめるという点では、抜かりのない設計ともいえる。

難をいえば、やや樹脂製の重厚感に乏しい筐体デザインか。ヘッドバンドの長さを変えるときの手触りもカタカタしており、もう一声、という気もしてしまう。小さく折り畳めない構造も、外へ持ち出すことを考えるとマイナスポイント。軽さ重視の設計ではやむを得ない部分もあるが、製品全体のバランスを考えると目立ってしまう部分だ。

飽きのこないシンプルなデザインだが、もう一声、という気も

飽きのこないシンプルなデザインだが、もう一声、という気も

今回はテストできなかったが、認知特性プロセッサー「XR」を搭載するBRAVIAとワイヤレストランスミッター「WLA-NS7」の組み合わせにより、Dolby Atmosの立体音響コンテンツを楽しめることは大きなメリット。ドラマや音楽番組などの2chコンテンツも立体音響で楽しめるから、対応するBRAVIAのオーナーにとっては背中を押す材料となるはずだ。

「360 Reality Audio」に対応。耳まわりの写真を撮影し最適化できる

「360 Reality Audio」に対応。耳まわりの写真を撮影し最適化できる

2. JBL「TUNE 760NC」

JBL「TUNE 760NC」

JBL「TUNE 760NC」

分離可能なスピーカーを備えた7.1.4chサウンドバー「BAR 1000」など、ホームオーディオでの尖った製品展開が目立つJBL。イヤホン/ヘッドホン分野では完全ワイヤレスの影に隠れてしまいがちだが、なかなかどうして、オーバーイヤーヘッドホンでもしっかり気を吐いている。

この「TUNE 760NC」は、アクティブノイズキャンセリング対応もさることながら、220gという軽さやコンパクトに折り畳める構造など、気軽に屋外へ持ち出せる工夫が光る。それでいてドライバー径は40mmと大きめ、ヘッドホンならではの音の量感も期待できる。そのうえ実勢価格が1万円台前半ともなれば、注目が集まるのも道理だろう。

アクティブノイズキャンセリングの効果は、正直なところ"マイルド"だ。オンにすると環境ノイズ低減効果は感じるが、中高域のノイズは取り切れず大半が残ってしまう印象。換気扇の回転音でいえば、取り除かれるのは低域成分で、シャーッという中高域の音は残ってしまう。人間の声も、テレビ野球中継の実況がそのまま聴き取れるレベル。周囲の音を聴き取るための外音聴き取りモード(トランスペアレントモード)は用意されていないが、なんとか用が足りてしまうのは少々皮肉だ。

専用アプリは提供されず、アクティブノイズキャンセリングのオン/オフにはボタンを使用する

専用アプリは提供されず、アクティブノイズキャンセリングのオン/オフにはボタンを使用する

肝心の音質は、40mm径ドライバーが頑張りを見せる。オーディオコーデックはSBCのみとシンプルだが、低域にはキレがあり量感十分、バスドラムのキックもボワつくことなく収束する。中高域は光沢があり伸びやかでボーカルの定位も明瞭、手堅くまとめられている。価格帯を考えると、まずまずのサウンドクオリティといえそうだ。

惜しまれるのは、側圧の強さ。ヘッドバンドを限界まで延ばしても、耳周りが強く押されてしまう。イヤーパッド表面(合成皮革)は適度にやわらかく肌触りもさらりとしているが、クッション素材がやや硬めのためか、装着開始から5分もすると耳周りが痺れたような感覚になってしまう。しばらく使ううち、ヘッドバンドの素材がやつれてきて側圧が弱まる可能性もあるが、この点は留意しておいたほうがよさそうだ。

イヤーパッドのクッション素材はやや硬め、側圧も強く長時間の連続装用は厳しいかも

イヤーパッドのクッション素材はやや硬め、側圧も強く長時間の連続装用は厳しいかも

3. Anker「Soundcore Space Q45」

Anker「Soundcore Space Q45」

Anker「Soundcore Space Q45」

Anker独自の「ウルトラノイズキャンセリング 2.0」搭載をうたうアクティブノイズキャンセリングワイヤレスヘッドホン。音楽再生は最大65時間/アクティブノイズキャンセリング有効時50時間、わずか5分で4時間もの再生が可能というタフなバッテリーも装備、専用アプリを使えばイコライザーやボタンの機能アサインなどさまざまなカスタマイズを実現できる。ボディはコンパクトに折り畳めるうえ専用ハードケースも付属、Anker製品らしい全方向にスキのないスペックだ。

アクティブノイズキャンセリングの効きは穏やか。屋外へ持ち出して試したが、自動車のロードノイズはそれなりに低減したものの、地下鉄の走行音はやや荒々しさが減ったかな、という程度。周囲の人の話し声も苦労せず聴き取れた。とはいえ、音楽の音量を上げ過ぎない程度にノイズが低減することは確かで、耳の健康維持には効果を期待できそう。

折り畳み構造など機構部分の仕上がりは、期待以上のレベル。イヤーパッドには低反発クッションを採用したうえ、ヘッドバンドは適度にやわらかくしなるつくりのため、側圧はキツ過ぎずユル過ぎず着け心地がいい。ハウジングに施されたマットな塗装も、アルミ合金製だというヒンジ部分の質感も上々。ボタン数の多さはやや気になるものの、価格以上の外観・デザインといっていいだろう。

質感・デザインは上々。コンパクトに折り畳むこともできる

質感・デザインは上々。コンパクトに折り畳むこともできる

しかし、音楽を聴くと印象は一変する。アクティブノイズキャンセリングのオン/オフで音が変わってしまうのだ。アクティブノイズキャンセリングオンで聴いたうえでアクティブノイズキャンセリングオフ(標準モード)に切り替えると、まるでエコーが効いたような音になってしまう。外音取り込みモードに切り替えても、また別の違和感を覚えてしまうから、どのモードが標準の音なのかはっきりしない。最新のファームウェア(v2.33)で試したが、次のアップデートではモードごとの音質差が解消されることを期待したい。

専用アプリ「Soundcore」では、アクティブノイズキャンセリングのオン/オフなど、ひと通りの機能を操作できる

専用アプリ「Soundcore」では、アクティブノイズキャンセリングのオン/オフなど、ひと通りの機能を操作できる

4. EDIFIER「WH950NB」

EDIFIER「WH950NB」

EDIFIER「WH950NB」

平面磁界型ドライバー搭載の「Edifier STAX SPIRIT S3」など音質志向の製品を連発する、中国・Edifier(エディファイア)。この意気軒昂なブランドから、アクティブノイズキャンセリング対応かつハイレゾワイヤレス規格準拠でアンダー3万円のヘッドホン「WH950NB」が出ると伺い、本企画へ推挙することにした。

さっそく開梱してみると、全体の質感が想像以上。スライダーを兼ねるヘッドバンドはステンレス製、細かいヘアライン処理が施されている。イヤーパッドとヘッドバンド内側にはプロテインレザー(シープスキン調の人工皮革)があしらわれ、適度にクッションが効いているので見た目も装着感も上々。アルミに見えるが実は樹脂製のアームを採用するなど、重量に配慮していることも好印象だ。フラットに折り畳めるうえに、妙な軋み音などジョイント部分のチープさがなく、価格帯以上の手応えがある。

イヤーパッドにはプロテインレザーが使われ、クッションの加減もちょうどいい

イヤーパッドにはプロテインレザーが使われ、クッションの加減もちょうどいい

アクティブノイズキャンセリングの作りこみもソツがない。4つの動作モード(ディープNR/ローNR/防風/アンビエント)が用意されており、主にディープNRモードを検証したが、フィードフォワード+フィードバックのハイブリッド型ということもあり、換気扇の回転音や電車の走行音といった環境ノイズを低減してくれる。装着直後は効きが弱い気もしたが、数分で効果が高まり始めた印象からすると、イヤーパッドの特性も影響しているのだろう。各動作モードのサウンドチェックもしっかり行われているようで、モードを切り替えても違和感が少ないところもいい。

ハイレゾワイヤレス対応ヘッドホンとしての実力は、AndroidなどLDACをサポートする端末との組み合わせでのみ発揮されるが、工場出荷時点ではLDACが無効化されているので要注意。LDACを有効にするには、専用アプリ「Edifier Connect」でマルチポイント機能をオフ、その後ペアリングし直した上でLDAC/96Kモードをオン、という段取りを踏まなければならない。

コーデックの切り替えには専用アプリ「Edifier Connect」を利用する

コーデックの切り替えには専用アプリ「Edifier Connect」を利用する

しかし、LDACを有効にしたあとのサウンドは、まさに"一皮むけた"印象。低域の張りとスピード感はさらに向上、中高域の見通しもよくなりサウンドステージが広がる。40mm径チタンコーティング複合振動板はレスポンス良好、アコースティックギターのハーモニクスは倍音成分が心地よく、輪郭の描写も精緻。音質面だけに注目しても、かなりの実力派だ。

海上 忍

海上 忍

IT/AVコラムニスト、AV機器アワード「VGP」審査員。macOSやLinuxなどUNIX系OSに精通し、執筆やアプリ開発で四半世紀以上の経験を持つ。最近はAI/IoT/クラウド方面にも興味津々。

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