8月に中国・香港で開催された「Hong Kong High-End Audio Visual Show 2023」で初披露されたオーディオテクニカのハイエンドオーディオシステム「鳴神(NARUKAMI)」。日本国内での発売は未定となっていたが、ついに国内でも正式に発売されることが決定した。
オーディオテクニカのハイエンドオーディオシステム「鳴神(NARUKAMI)」
日本国内での販売価格はなんと1,320万円(税込)! 販売方法は同社の「鳴神(NARUKAMI)」SPECIALサイトからの申し込みのみで、製品のデリバリーは2024年夏を予定している。ちなみに、購入者宅へは同社スタッフが専用キャリーケースに入れてデリバリーしてくれるとのこと。
こちらが「鳴神(NARUKAMI)」のデリバリーで使用される専用キャリーケース。中に普通に人が入れるほどの大きさだ
今回、いち早く新製品を体験することができたので、本稿では実機の写真を交えながら「鳴神(NARUKAMI)」の特徴を詳しくレポートしたいと思う。
「鳴神(NARUKAMI)」は、真空管ヘッドホンアンプ/プリアンプ「HPA-KG NARU」とヘッドホン「AW-KG NARU」で構成されるハイエンドオーディオシステム。日本の伝統文化において、雷の神である“雷神”や雷の鳴る音“雷鳴”を意味する「鳴神」をシリーズ名に冠し、同社がこれまで培ってきた音響技術と厳選されたカスタムパーツを惜しみなく投入した意欲作となっている。
非常に見どころの多い製品となっているが、まず注目してほしいのが、見た目のインパクト抜群な本体デザインだろう。
「鳴神(NARUKAMI)」は、日本を代表する老舗のオーディオメーカーが手がける至高の1台であり、見た目からも「自然の神秘」や「日本の職人技」を感じられるように、外装の一部に漆塗りを施した「黒柿」が使われている。柿の木の中でもごくまれに内部に黒い紋様が現れる「黒柿」は、国産木材の中でも特に希少な木材で、深みのある独特の黒い紋様はどれひとつとして同じものはなく、製品ごとにまったく異なる表情に仕上がっているという。
希少な木材「黒柿」を外装にふんだんに使用。艶やかで深みのある独特の黒い紋様がとてもかっこいい
さらに、真空管ヘッドホンアンプ/プリアンプの「HPA-KG NARU」では、この「黒柿」の紋様を生かして和のテイストをふんだんに取り入れているのもポイントだ。日本庭園の枯山水をイメージした天面から水流が落ちるようにデザインされた側面には、「黒柿」の中でも大きめの紋様が表れている部分をチョイス。真空管と出力トランスを囲う金属製メッシュカバーには日本伝統の「綾杉模様」を取り入れた。
日本庭園の枯山水をイメージした天面部分。孔の位置に真空管が配置されている
側面にも「黒柿」を使用。大きめの紋様が表れている部分を厳選して使用しているという
「黒柿」を使った正面操作部のパネルについても、「黒柿」の中でもと組に細かな紋様が表れている部分をチョイス。「黒柿」の紋様を損なわないよう、パネル部に余計な装飾を施さず、操作部の説明は金属でできた付属品の機能説明パネルに逃がすという徹底したこだわりようだ。
正面操作部のパネルももちろん「黒柿」。こちらはあえて細かな紋様が多い部分をチョイスしているとのこと。なお、正面操作部のパネル手前にある金属製のプレートは「機能説明プレート」と呼ばれる付属品。パネル部分の装飾を最小限にするため、各操作部の機能やダイヤル位置を示した別パーツにして用意したそうだ
ボリュームダイヤルにも「黒柿」が使われている。ちなみに、中身はアルプスの50型真鍮削り出しボリュームを使用しているとのこと
付属のヘッドホン「AW-KG NARU」にも「黒柿」が使われている。独特の黒い紋様はどれひとつとして同じものはいので、左右のデザインもまったく異なる
大自然の営みから生まれる「黒柿」ならではの神秘性や、古来より愛されている日本の伝統的な模様を取り入れたデザインは、まさに「鳴神(NARUKAMI)」のコンセプトにぴったりだ。
もちろん、「鳴神(NARUKAMI)」のこだわりはデザインだけではない。内部設計に関してもかなり突き抜けた設計になっている。
特に真空管ヘッドホンアンプ/プリアンプの「HPA-KG NARU」は、JJ Electronic製真空管「ECC83S-gold」を計4本使用した前段のSRPP回路で信号増幅、後段の高槻電器工業製真空管「TA-300B」4本でルンダール社の出力トランス「LL2765AgAM」4基を駆動させるというフルバランス駆動を採用。
左右独立信号回路・電源供給はもちろん、真空管ならではの音を損なわないように、整流回路にはダイオード整流ではなくJJ Electronic製「GZ34S」を用いた真空管整流を採用したり、アンバランス入力の際にもハーモニクスを良好に保つため、ルンダール社の入力トランス「LL1532」を介してバランス信号に変換してから左右のバランス回路に送る形にするなど、細部まで作り込みを徹底している。厳選した高品質部品を惜しげもなく投入した、まさに至高の1台にふさわしい充実した内容だ。
金属製メッシュカバーのすき間から搭載されている真空管を確認できる
後段には高槻電器工業製の真空管「TA-300B」が使われている
真空管の前方にはルンダール社の出力トランス「LL2765AgAM」4基が配置されている
ルンダール社の出力トランス「LL2765AgAM」。特別仕様のアモルファスコア+銀線を使用している
さらに、特別仕様のアモルファスコア+銀線を使用した出力トランス「LL2765AgAM」のヘッドホンのマッチング回路もユニークだ。巻き線独立でシールされたリレーで切り替える構造になっており、ヘッドホンの特性や音質に応じて正面操作部の切り替えスイッチ経由でインピーダンスマッチングを32、150、600の3パターンから選択することができる。
ヘッドホンマッチング回路は正面操作部に用意されているスイッチで切り替え可能
また、「HPA-KG NARU」はプリアウト機能を搭載している点も面白い。「TA-300B」でスピーカーを駆動するのが一般的だが、「HPA-KG NARU」では「TA-300B」で駆動した出力トランスの信号をプリアウト、パワーアンプに接続して大型スピーカーも駆動できるという新しい提案を行うという。
背面に用意されている入出力端子。出力トランスの信号をプリアウトすることもできる
ちなみに、大型の「TA-300B」4本を使用し、左右完全独立のフルバランス駆動という大規模な構造を採用したこともあり、「HPA-KG NARU」の本体サイズは493.5(幅)×409(奥行)×352.5(高さ)mm、重量約50kgとなかなかのサイズ感となっている。設置する場所にも注意したいところだ。
付属のヘッドホン「AW-KG NARU」は、同社が展開する木のヘッドホン「ATH-AWAS」や「ATH-AWKT」と共通する基幹部品を採用しつつ、ハウジングに「黒柿」を採用するとともに、「HPA-KG NARU」への音質マッチングを実施。付属する2本のヘッドホンケーブルはバランスケーブル仕様になっており、長さ2mのものは金メッキ線材、長さ3mのものは通常線材のものになっており、線材の違いによる音の違いも楽しめるようになっている。
ヘッドホン「AW-KG NARU」は、「HPA-KG NARU」への音質マッチングを行っている
ちなみに、ヘッドホンを収めるパッケージにも「黒柿」が使われている。時期は未定だが、ヘッドホンの単体販売も今後予定しているとのことだ
今回、発売に先駆けて「鳴神(NARUKAMI)」を同社試聴室でいち早く体験することができたので、最後にファーストインプレッションをお届けする。
試聴室には、さまざまなアナログレコードやCD、デジタル音源ファイルが用意されていたが、最初に試聴したのは、宇多田ヒカル「First Love」のアナログレコード。最初はインピーダンスマッチングを32のままボリューム位置を徐々に上げてくと、アナログレコードとは思えない驚くほどパワフルでクリアな音に驚く。ボリュームを11時あたりまで上げてもノイズ感は一切なく、それどころかアナログレコードらしいダイナミックレンジを生かした空気感のおかげで情感がよく伝わってくる。そのままインピーダンスマッチングを32、150、600と切り替えながら聴き込んでみたが、個人的には32のときのブレスの生々しさが気に入った。
せっかくなら同じ楽曲で聴き比べしてみようかと思い、続けざまに宇多田ヒカル「First Love」のデジタル音源を再生してみた。こちらもインピーダンスマッチング32から聴き始めたが、アナログレコードとは異なり密度のある音に感じられ、インピーダンスマッチングを600に切り替えたほうがナチュラルで耳あたりがよく感じられた。まったく同じ楽曲だが、メディアによっても聴こえ方が異なるし、インピーダンスマッチングの切り替えでヘッドホンの特性に合わせていろいろと遊べる。真空管らしいパワフルさとクリアで高純度なサウンドでダイナミックな演奏をストレートに再現できる「鳴神(NARUKAMI)」だからこそできる楽しみ方だと思う。
非常に高価なので、誰もがおいそれと導入できるものではないが、見た目も音も荘厳さと優美さがあり、日本を代表する老舗のオーディオメーカーが手掛ける至高の1台であることは間違いない。10月28日開催の「秋のヘッドフォン祭 2023」や11月18・19日に開催の「Analog Market 2023」などで試聴会も予定されているので、憧れの「鳴神(NARUKAMI)」のサウンドにぜひ触れてみてほしい。
真空管ヘッドホンアンプ/プリアンプ「HPA-KG NARU」の主な仕様
●回路構成
オールチューブバランスアンプ
●対応ヘッドホンインピーダンス
32-600Ω
●瞬間最大出力レベル
・6.3mmヘッドホン出力(10% 1kHz)
1600mW+1600mW(32Ω)
1300mW+1300mW(150Ω)
1000mW+1000mW(600Ω)
・バランス出力(10% 1kHz)
1600mW+1600mW(32Ω)
1300mW+1300mW(150Ω)
1000mW+1000mW(600Ω)
●最大出力レベル
・PRE出力(10% 1kHz)
35dB(PREバランス出力)
29dB(PRE LINE出力)
●周波数特性
・ヘッドホン出力
10Hz〜60kHz(±3dB)
・PRE出力
10Hz〜90kHz(±3dB)
●全高調波歪率
0.8%以下(10mW出力時、20Hz〜20kHz)
0.08%以下(10 mW出力時、1kHz)
●ゲイン
・6.3mmヘッドホン出力/バランス出力
15dB(32Ω負荷)
17dB(150Ω負荷)
18dB(600Ω負荷)
・PRE出力
18dB(PREバランス出力)
12dB(PRE LINE出力)
●ノイズ
・6.3mmヘッドホン出力/バランス出力
-98dBv以下(A Weighted)
●チャンネル間セパレーション
・シングルエンド出力
68db(負荷:32Ω 1kHz)
・XLR4バランス出力
100db(負荷:32Ω 1kHz)
●アナログ入出力端子
RCAジャックLINE×2(入力、出力それぞれ1系統)
XLRバランス×3(入力2系統、出力1系統)
●ヘッドホン出力端子
6.3mmステレオヘッドホン×1
XLR4バランスステレオヘッドホン×1
●アナログ出力端子
RCAジャックLINE入力×1
XLRバランス入力×2
●ヘッドホンインピーダンスマッチング
32:32Ω〜80Ω
150: 80Ω〜250Ω
600: 250Ω〜600Ω
●本体サイズ・重量
493.5(幅)×409(奥行)×352.5(高さ)mm、重量約50kg
●付属品
真空管(TA-300B)交換用×4
機能説明プレート
※電源ケーブルの付属はなし
ヘッドホン「AW-KG NARU」の主な仕様
●型式
密閉ダイナミック型
●ドライバー
φ53mm
●出力音圧レベル
102db/mW
●再生周波数帯域
5Hz~45kHz
●最大入力
2,000mW
●インピーダンス
60Ω
●入力端子
A2DCコネクタージャック
●重量
約395g
●付属品
金メッキバランスケーブル(2.0m/XLR-M コネクター(4ピン))
バランスケーブル(3.0m/XLR-M コネクター(4ピン))