Noble Audioから、同社初となるMEMSスピーカー(MEMSドライバー)を搭載したハイブリッド・ドライバー構成の完全ワイヤレスイヤホン「FALCON MAX」がついに正式に発表された。発売日は2023年12月29日で、市場想定価格は39,600円前後(税込)。
Noble Audio「FALCON MAX」。2023年12月29日発売で、市場想定価格は39,600円前後(税込)
「FALCON MAX」に使用されているMEMSスピーカー(MEMSドライバー)はxMEMS社が手掛けたもので、日本国内ではクリエイティブメディアの「Creative Aurvana Ace」シリーズに次ぐMEMSスピーカー(MEMSドライバー)搭載の完全ワイヤレスイヤホンとなる。先日行われたプレス向け説明会の内容も交えながら、「FALCON MAX」の詳細をレポートしていこう。
「FALCON MAX」の詳細をレポートする前に、まずは「FALCON MAX」に搭載されているMEMSスピーカー(MEMSドライバー)について解説しておこう。
MEMSとは「Micro Electro Mechanical Systems」の略称で、半導体製造技術を応用してひとつの基板に電子回路とセンサーやアクチュエーターといった機械構造を組み込んだものだ。MEMS自体はそれほど新しい技術といったわけではなく、加速度センサーやジャイロセンサー、マイク、スイッチなどですでにMEMSが実用化されている。
非常に小型で使い勝手がよいことから、身近なものだとスマートフォンやデジカメ、スマートウォッチといったデジタル機器にも使われていて、最近では自動車の自動運転向けの各種センサーとしても使われている。完全ワイヤレスイヤホンもタッチセンサーや加速度センサー、マイク部分ですでにMEMSは活用されていた。これをイヤホンの要であるドライバーユニットにも活用するために、音の発振に特化して作られたのがMEMSスピーカー(MEMSドライバー)というわけだ。
MEMSスピーカー(MEMSドライバー)を開発・製造しているメーカーはいくつかあり、xMEMS社もその中のひとつ。米国シリコンバレーで2018年に起業したばかりのベンチャー企業ではあるが、すでに「Montara」「Cowell」「Montara Plus」という3つの製品ラインを有している。
xMEMS社のMEMSのラインアップ。MEMSスピーカー(MEMSドライバー)だけでもすでに3ラインを有しているほか、ユニークなところではイヤホンのベントを制御するMEMSも開発しているという
今回の「FALCON MAX」で使用されているのは、完全ワイヤレスイヤホンなどの小型モデルに最適な「Cowell」と呼ばれるもので、段ボールのフタのようにカンチレバー構造(片側を固定、もう片方を自由にした)のピエゾ素子を向かい合わせに2つ配置。バイアス電圧をかけてピエゾ素子を上下に動かし、空気を振動させて音を生み出している。原理としてはピエゾ素子を使ったピエゾドライバーに近いが、振動板を直接振幅して音を生み出しているピエゾドライバーに比べてより正確に動作させることができるため、歪みが限りなく発生しにくいという特徴があるという。
赤い丸で囲ったのが「FALCON MAX」に搭載されている「Cowell」と呼ばれるMEMSスピーカー(MEMSドライバー)。「Cowell」にはトップファイアリングとサイドファイアリングの2種類がラインアップされているが、「FALCON MAX」では前者を採用している
こちらが「FALCON MAX」に搭載されているトップファイアリングタイプの「Cowell」
上のアニメーションのようにカンチレバー構造のピエゾ素子を上下に動かし、空気を振動させて音を生み出している
また、既存のイヤホンで多く使われているダイナミック型ドライバーやバランスド・アーマチュア型ドライバーと比べた場合も、本体が小さくてイヤホンを小型化しやすく、人の手による組み立て工程が発生しないため製造誤差が少なく、位相特性や空間表現にすぐれる、チップ自体でIP58の防塵・防水性能を有しており、落下や熱にも強いという優位性があるという。唯一、駆動させるためにバイアス電圧を供給するためのアンプが必要というデメリットはあるが、こちらについても「Aptos」という超小型アンプを用意。イヤホンの大きさを損なうことなく実装できるようにしているそうだ。
長期間稼働テストや落下テスト、防塵・防水テストなどをクリアし、耐久性にもすぐれているという
プレス向け説明会で披露された有線イヤホン「XM-1」は、「FALCON MAX」と同じMEMSスピーカー(MEMSドライバー)「Cowell」を搭載。「FALCON MAX」では左右のイヤホン内に「Aptos」という超小型アンプを内包しているが、「XM-1」ではUSB DAC内蔵のアクティブUSB-Cプラグの中にバイアス電圧を供給するためのアンプを内包しているのではないかとのこと
このように、xMEMS社のMEMSスピーカー(MEMSドライバー)はイヤホン向けのドライバーユニットとしてはかなり理想的なものになっている。しかし現時点では、「Cowell」を含め、xMEMS社が現在有するMEMSスピーカー(MEMSドライバー)はサイズ的な制約から、単体で強力なノイズキャンセリング機能に求められる低音域の音圧をカバーするが難しい。単体でフルレンジをカバーできるポテンシャルを有している「Cowell」を搭載した「FALCON MAX」がダイナミック型ドライバーとのハイブリッド構成を採用するのもこのあたりに理由がありそうだ。
なお、xMEMS社は2024年のCESで140dB@20Hzを実現させた「Cypress」という新世代のMEMSスピーカー(MEMSドライバー)を披露する予定とのこと。既存の技術だけでなく、新たに超音波技術を活用したものになるそうだ。量産時期は2024年夏頃で、実際の製品に搭載されてくるのはもう少し先になりそうだが、今後もxMEMS社のMEMSスピーカー(MEMSドライバー)の動向に注目だ。
年明け1月に開催されるCES 2024にて、「Cypress」という新世代のMEMSスピーカー(MEMSドライバー)を披露する予定だそうだ
というわけで、ここからは「FALCON MAX」について詳しく解説していこう。
同社が「FALCON MAX」を“すべてがNoble Audio史上初。最高クラスの性能を誇るドライバー・SoC・コーデックの三位一体設計”とアピールしているとおり、「FALCON MAX」は、ドライバー、SoC、コーデックの3つのポイントでこれまでの完全ワイヤレスイヤホンとは一線を画す製品となっている。
ドライバー・SoC・コーデックのすべてが最新世代となった「FALCON MAX」
まずドライバーだが、こちらはMEMSスピーカー(MEMSドライバー)の解説でも触れたとおり、「Cowell」と呼ばれるMEMSスピーカー(MEMSドライバー)を高域再生用として、10mm径複合素材ダイナミック型ドライバー「Dual-Layered LCP Driver」を低域再生用として使用したハイブリッド・ドライバー構成を採用している。
「Dual-Layered LCP Driver」には、高い耐熱性と強度、内部損失性を持つポリエーテルケトン(PEEK)とポリウレタン(PU)の複合素材に加え、高い弾性率と内部損失性を持つ液晶ポリマー(LCP)を採用することで振動板として理想的な特性を追求。高域の再生周波数帯域が広いMEMSスピーカー(MEMSドライバー)と組み合わせることで、沈み込むながらもレスポンスのよい低音、立体感のある中域、高い解像度と広い音場を誇る高域をすぐれたバランスで実現したという。
「FALCON MAX」のイヤホン本体の分解図。ちなみに、「FALCON MAX」の再生周波数帯域はSoCの上限となる48kHzまでの高域再生に対応しているとのこと
SoCについては、従来製品に比べて演算性能を2倍に強化しながら消費電力を20%低減させたというクアルコムの最新世代SoC「QCC5171」を採用したのがトピック。Bluetooth 5.3に対応し、「低遅延」「LC3コーデック」「左右独立」「複数人でシェア(ブロードキャスト)」機能を備えたBluetoothオーディオの新しい標準規格「LE Audio」へもしっかりと対応を果たしてきている。
SoCには、クアルコムの最新世代SoC「QCC5171」を採用
また、この「QCC5171」の採用と密接に関係しているのが対応コーデックの部分。これまでの完全ワイヤレスイヤホンは、クアルコムのチップを搭載した場合はaptX Adaptiveは対応するがLDACには非対応、逆にクアルコム以外のチップを搭載した場合はLDACは対応するがaptX Adaptiveには非対応という状況で、aptX AdaptiveとLDACの両方を使えるというモデルはなかったわけだが、「FALCON MAX」では高い処理能力を生かしてプログラマブルな拡張ができるようになった「QCC5171」をフル活用し、LDACのライブラリーを実装。完全ワイヤレスイヤホンとして初めて*aptX AdaptiveとLDACの両方を使えるようになったのだ。
*2023年12月18日時点、エミライ調べ
さらに、aptX Adaptiveは96kHz/24bitのサポートだけでなく、Lossless(44.1kHz/16bit)、Low Latencyもサポート。「Snapdragon Sound」プラットフォームにもばっちりと対応している。SBC、AAC、aptX、aptX Adaptive、LDAC、LC-3(LE Audio接続時)と、主要なコーデックをここまで網羅した完全ワイヤレスイヤホンというはほかにはなく、かなり貴重なモデルなのは間違いない。
対応コーデックの豊富さは完全ワイヤレスイヤホンの中でも随一
ほかにも、リアルタイムでノイズキャンセリング効果を最適化する第3世代「Adaptive ANC」をはじめ、同社最高レベルの外音取り込みを目指して開発したという「Full-band anbient mode」、内蔵アンテナの位置を最適化することで高い接続安定性を実現する「High Precision Connecr Technology 4」、最大2台までのマルチポイント対応、IP54の防塵・防水性能、専用アプリによるカスタマイズ対応など、最新世代にふさわしい充実の性能を有している。
専用アプリも現在開発中とのこと。コーデックの切り替えに関しては、現時点では開発者モードから設定変更するかコーデック変更機能付きアプリを使う必要があるが、専用アプリからコーデックの切り替えができるように日本から要望を出しているそうだ
なお、「FALCON MAX」は、これまでの「FALCON」シリーズから本体デザインが刷新されている。イヤホン本体はやや丸みを帯びたデザインで、ロゴの部分にタッチセンサーを内蔵。充電ケースは「FALCON 2」以降で採用していたスクエアタイプから細長いオーソドックスなデザインに変更され、厚みが抑えられて持ち運びがさらにしやすくなっている。
イヤホン本体は丸みを帯びたデザインに変更。イヤホン本体はIP54の防塵・防水設計。イヤーピースはアイソーレションコーティング加工を施したウレタン製のものがS/M/Lの3サイズ付属する
充電ケースは細長い形状になり、携帯性もアップ
今回、製品発売に先駆けて「FALCON MAX」をいち早く体験することができたので、最後にインプレッションをお伝えしておこう。
まずは気になる音質から。手元にあるAndroidスマートフォン(Xperia 1)との接続はLDACが真っ先に接続されたので、LDACから試聴してみる。ダイナミック型ドライバーのおかけで低音もそれなりに出ており、全体的なバランスのよさはNoble Audioらしさを感じるが、同じ「FALCON」シリーズでバランスド・アーマチュア型ドライバーとダイナミック型ドライバーのハイブリッド構成を採用する「FALCON PRO」(aptX Adaptive接続時)と比べると、MEMSスピーカー(MEMSドライバー)を使用した「FALCON MAX」は全体的に音がとてもクリアで、特に高域側の端正でピュアだけど尖らない絶妙な鳴り方がとても心地よい。付帯音が少なく、音の出どころもわかりやすく、ボーカルがしっかりと定位して浮かび上がってくれる。
Androidスマートフォン(Xperia 1)との接続はLDACが真っ先に接続された
面白かったのがコーテックをaptX Adaptiveに変更した時で、LDACの高音質モードに比べると高域の音の線の細さが若干変わったような印象を受けた。LDACの高音質モードは繁華街だと接続性がかなりシビアなこともあり、屋外ではあまり活用する機会は少なそうだが、普段はaptX AdaptiveやLDACの標準モードを使用、繊細な音までしっかりと音楽を聴き込むならLDACの高音質モードといったように切り替えて楽しむのもよさそうだ。
接続しているデバイスの対応コーデックの確認やコーデックの切り替えを行える「Bluetooth Codec Changer」というアプリの画面。「FALCON MAX」がaptX AdaptiveとLDACの両方に対応しているのがわかる
もうひとつ、ノイズキャンセリング機能と外音取り込み機能についても触れておこう。「FALCON MAX」は、ケースから取り出すと自動でノイズキャンセリング機能がオンになり、外音取り込み機能やノイズキャンセリング機能オフはイヤホン本体のタッチ操作から切り替えることができる(デフォルトは右側長押し)。
Boseやソニーなどの強力なノイズキャンセリング機能をウリにした製品に比べると若干控えめではあるものの、そこそこ強力なものに仕上がっており、平均的なボリュームで音楽再生をしていれば周囲の騒音はほとんど気にならなかった。外音取り込み機能も比較的自然で、風切り音が多少気になるものの十分実用レベルなので屋外でも積極的に使っていけそうだ。
話題のMEMSスピーカー(MEMSドライバー)を搭載、aptX AdaptiveとLDAC両対応など、非常に見どころの多い「FALCON MAX」。完全ワイヤレスイヤホンとしてはやや高価だが、気になる方はぜひ試してみてほしい。
バッテリー駆動時間は、音楽再生がイヤホン単体/ANCオンで約4.5時間(ボリューム60%、Classicコーデック接続時)、イヤホン単体/ANCオフで約5.5時間(ボリューム60%、Classicコーデック接続時)、連続通話が約4時間。15分の充電で約1時間の音楽再生が可能な急速充電機能も備わっている。充電ケースはイヤホンに約4回充電が可能で、ワイヤレス充電も可能だ。