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【動画】パネルの違いは画質に表れる! 55V型有機ELテレビ5機種“ガチ”比較

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2022年モデルを取り上げて好評だった42V型有機ELテレビ4機種比較レビューに続き、2023年は人気の高いサイズである55V型有機ELテレビ5機種比較レビューを実施

人気の高いサイズ帯というだけでなく、各社の最新技術が投入されたハイグレードモデルが集まっている。こうした各社の有機ELテレビを横並びで比較する機会はなかなかないので、筆者としても興味津々の取材となった。 もちろん、今回も画質の違いは以下の動画で確認できる。ぜひ、4K/60pで再生してみてほしい。

5機種の実映像比較動画はこちら!

取材を行ったのは、「価格.comくらしラボ」。一般的なマンションの一室ではあるが、リビングルームのスペースが広いので、55V型テレビを5台並べることも可能だ。

比較視聴は基本的に前回と同様で、ブルーレイレコーダーのパナソニック「DMR-ZR1」をプレーヤーとして使用。その出力をエイム電子の4K/60p対応HDMIスプリッター「AVS2-18G108」を使って5台に分岐させ、すべてを同時に接続している。HDMIケーブルもすべて同じもので揃えるなど、可能な限り同じ条件としているのは昨年と同様だ。

テスト機は5機種。左から、ソニー「XRJ-55A95K」、シャープ「4T-C55FS1」、LGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」、パナソニック「TH-55MZ2500」、TVS REGZA「55X9900M」

テスト機は5機種。左から、ソニー「XRJ-55A95K」、シャープ「4T-C55FS1」、LGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」、パナソニック「TH-55MZ2500」、TVS REGZA「55X9900M」

再生ソースは基本的にUltra HDブルーレイ。スプリッターを使う都合で、すべてHDR10として再生している

再生ソースは基本的にUltra HDブルーレイ。スプリッターを使う都合で、すべてHDR10として再生している

プレーヤーとして使ったのはパナソニックの「DMR-ZR1」

プレーヤーとして使ったのはパナソニックの「DMR-ZR1」

「DMR-ZR1」から出力した映像信号をエイム電子のスプリッター「AVS2-18G108」で分岐。5台同時に同じ映像を映して視聴を行った

「DMR-ZR1」から出力した映像信号をエイム電子のスプリッター「AVS2-18G108」で分岐。5台同時に同じ映像を映して視聴を行った

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徐々に普及しつつある有機ELテレビに、2022年は初めて42V型製品が登場しました。この“小型”有機ELテレビ4製品には、意外なほどの画質差があるのです。
2022/12/07 07:00

2023〜2024年のハイエンド有機ELテレビで注目すべきはパネルの違い

2023年モデルの有機ELテレビレビューでのポイントは、ずばりパネルの違いだ。大型有機ELテレビのパネルといえば、登場初期はLGディスプレイのWRGBタイプのパネルのみだった。メーカーによってパネルの世代による差が生じたことはあったが、基本的にはどこのメーカーもパネル自体は同じLGディスプレイ製だったのだ。

しかし、最近では状況が異なってきている。サムスンディスプレイが「QD-OLED」という新しいテレビ向け有機ELパネルを実用化し、日本国内では2022年にソニーが有機ELテレビに採用したのだ。「QD-OLED」はパネル自体の発光色は青色で量子ドットシートを透過することで純度の高い色を取り出せる。各色の色純度が高いだけでなく高輝度も実現できるというもの。

右がサムスンディスプレイ製「QD-OLED」パネルのイメージ。左はLGディスプレイ製パネルのイメージ。WRGB方式と呼ばれることもある

右がサムスンディスプレイ製「QD-OLED」パネルのイメージ。左はLGディスプレイ製パネルのイメージ。WRGB方式と呼ばれることもある

LGディスプレイのWRGBタイプは高輝度化のために赤/緑/青の3原色に白を加えた4色で表示する(発光色自体は白)。カラーフィルターによってRGBの光を取り出しているということだ。こちらも着実に高輝度化を進めてきた経緯があるが、2023年は上位の存在として「MLA(マイクロレンズアレイ)」を採用したパネルが登場した。これは微小なレンズを配列してパネルから生じる光を集めて効率良く照射するためのもので、LGディスプレイでは「MLA」を使った技術を「METAテクノロジー」と呼んでいる。

なお、「MLA」パネルを採用したパナソニックの2023年モデル「MZ2500」シリーズは、2022年のビエラスタンダード有機ELテレビ「LZ1800」シリーズ比(55V型モデル「55LZ1800」)で約2倍の高輝度化を達成しているという。

「MLA」では、従来は内部反射によってむだになっていた光をうまく取り出し、効率化を図る。そのレンズ数は77V型で424億個

「MLA」では、従来は内部反射によってむだになっていた光をうまく取り出し、効率化を図る。そのレンズ数は77V型で424億個

LGディスプレイでは「MLA」を採用した技術を「METAテクノロジー」と称している。このため、このパネルは「MLAパネル」や「METAパネル」と呼ばれることもある

LGディスプレイでは「MLA」を採用した技術を「METAテクノロジー」と称している。このため、このパネルは「MLAパネル」や「METAパネル」と呼ばれることもある

このように有機ELパネルは大きく分けて2種類になったわけで、各社で採用しているパネルが異なっていることに注目したい。

今回視聴した有機ELテレビでは、LGエレクトロニクスとパナソニックは「MLA」搭載のWRGB方式、シャープは2023年仕様の最新「QD-OLED」、ソニーは2022年モデルの継続販売なので2022年仕様の「QD-OLED」、レグザは“MLA技術を搭載しない”2023年仕様のWRGB方式と、同じパネルを使っているのはLGエレクトロニクスとパナソニックだけで、ほかはパネル世代や採用技術が異なるものとなっている。

これまでも同じ有機ELパネルを使っていたとしても、各社有機ELテレビの画質は異なっていた。それはテレビのための画作りがメーカーごとに異なるためだが、今年はパネル自体にも違いが出てきて各社の画質の違いがさらに大きくなった。いちばんのポイントはパネルの高輝度化による画面の明るさの違いだ。

動画から切り出した各社有機ELテレビの画質の違い。画質モードは「オート」や「自動」もしくは「標準」に準じたもの。この写真を見ただけでも、それぞれの映像の違いをわかっていただけるだろう

動画から切り出した各社有機ELテレビの画質の違い。画質モードは「オート」や「自動」もしくは「標準」に準じたもの。この写真を見ただけでも、それぞれの映像の違いをわかっていただけるだろう

まずはテストで使用した有機ELテレビの概要を確認

5機種の2023年12月25日時点での価格.comの最安価格は写真のとおり。各社のハイエンドモデルといっても価格に差があることは留意したい

5機種の2023年12月25日時点での価格.comの最安価格は写真のとおり。各社のハイエンドモデルといっても価格に差があることは留意したい

パナソニック VIERA「TH-55MZ2500」

「TH-55MZ2500」は「MLA」搭載のWRGB方式パネルを採用。パネルの背面には独自設計によるバックカバー一体型放熱プレートと独自素材の放熱シートなどを追加してパネル性能を引き出している。映像処理エンジンは「ヘキサクロマドライブ プラス」で有機ELパネル特性に合わせて色を補正、暗部や明部での階調と色再現を高精度に行う。スピーカーは画面下に小型ユニットを複数個並べたラインアレイスピーカーをメインとし、側面のワイドスピーカーと上部のイネーブルドスピーカーを装備。背面にはウーハーとパッシブラジエーターも備え、すぐれたサラウンド再生を実現している。

LGエレクトロニクス 「OLED55G3PJA」

「OLED55G3PJA」は、「MLA」搭載のWRGB方式パネルを採用。映像処理エンジンには「α9 AI Processor 4K Gen6」を採用し、AI技術によって視聴する番組に合わせて最適な映像に自動で調整する機能も備える。内蔵スピーカーは4.2ch構成で、Dolby Atmosに対応してバーチャル9.1.2chのサラウンド機能も備える。背面に凹凸のないフラットな一枚板デザインを採用しておりデザイン性にもすぐれる。また、専用の壁掛け金具を使用することで壁にぴったりと寄せた壁掛けも可能だ。

シャープ AQUOS「4T-C55FS1」

「4T-C55FS1」は、サムスンディスプレイの2023年仕様「QD-OLED」パネルを採用。独自の放熱構造を備えて、高輝度だけでなく白均一性の向上なども果たしている。映像処理エンジンは「Medalist S4X」を搭載。AIによって画質を自動調整する「AIオート」モードを備える。内蔵するスピーカーは「ARSS+」という名称で、Dolby Atmos対応。画面下部のフロントスピーカーはチャンネルあたりミッドレンジ×2とツイーター×1の3ユニット、画面上部のハイトスピーカーはミッドレンジ+ツイーターという2ユニット構成。さらに背面にサブウーハーを備えるため、合計ユニット数は11にものぼる。OSは「Google TV」で、テレビ録画や動画配信サービスへの対応も万全だ。

ソニー BRAVIA「XRJ-55A95K」

※写真は65V型

※写真は65V型

「XRJ-55A95K」もサムスンディスプレイの「QD-OLED」パネルを採用するが、昨年からの継続販売モデルのためパネルは2022年仕様。映像処理エンジンは認知特性プロセッサー「XR」だ。OSは「Google TV」で、独自の動画配信サービスである「BRAVIA CORE」も備える。スピーカーは画面を振動させて音を出す大型アクチュエーターと背面のサブウーハー2機による「アコースティック サーフェス オーディオ+」。こちらもDolby Atmosに対応する。2022年からの継続販売とはなるものの、最上位モデルだけ基本的な機能では他社に対してそん色はない。

TVS REGZA REGZA「55X9900M」

「55X9900M」は“MLAを搭載しない”通常タイプのWRGB方式のパネルを採用。映像処理エンジンは「レグザエンジンZRα」でAI技術を応用した数々の高画質・高音質技術を採用している。さらにミリ波レーダーを内蔵して視聴する人の位置や距離を把握、その位置に合わせて最適な画質・音質へ最適化する技術も備える。スピーカーは、画面の上下左右、画面を振動させて音を出すアクチュエーター、そして背面のサブウーハー合計10個のユニットによる「重低音立体音響システムXHR」。そして地上波放送を6チャンネルまで同時に録画できる「タイムシフトマシン」を搭載(外付けUSB HDDの増設が必要)。主要なテレビ放送を録画予約なしで自由に楽しめる機能も持つ。画質・音質もすぐれるが、総合力の高さが魅力だ。

まずは明るい環境で自動画質調整モードを試す

では視聴に入ろう。まずは明るい環境での試聴だ。テストを行った「価格.comくらしラボ」は外光も入る明るい室内で、さらに室内照明もつけている。元々が一般的な住居ということもあり、いわゆる明るいリビングルームと考えてもらってよいだろう。

画質モードの設定は、上の写真のとおり。基本的に各社が備える自動画質調整モードとしている。ソニー「XRJ-55A95K」は画質モードを「スタンダード」としたうえで「オート画質モード」をオン。LGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」は「標準」としたうえで「AIサービス」から「AI映像プロ」「AI輝度設定」「AI映像ジャンル選択」をオン。

また、自動画質調整モードとは別に画面の明るさを環境に合わせて最適化する機能を持つものも、すべてオンとしている。 動画でも紹介しているが、視聴に使ったメインのソフトはビコムから発売されているUltra HDブルーレイ「世界一 正四尺玉 越後 片貝まつり」(以下「片貝まつり」)と「8K空撮夜景 SKYWALK〜TOKYO YOKOHAMA〜」(以下「8K夜景」)。

「片貝まつり」は花火大会を4Kおよび8K/60p撮影した映像で、花火大会としては珍しく昼間に行われる花火や片貝まつりの様子も収録されている。なお、音声は96kHz/24bitで収録されており、正四尺玉の打ち上げなどは砲弾かと勘違いするような凄い音が収録されている。

「8K夜景」は2022年に実施した42V型有機ELテレビの比較でも使用したタイトル。夜景の明るさや色の再現、夕暮れのグラデーションの再現などを見たほか、ネオンの明るさなどのため完全に黒く沈みきってはいない夜空の再現などをチェックしている。

動画でお見せするのは、Ultra HDブルーレイ「世界一 正四尺玉 越後 片貝まつり」と「8K空撮夜景 SKYWALK〜TOKYO YOKOHAMA〜」。いずれもビコムの作品だ。ぜひ、自宅でも本作を再生してみてほしい

動画でお見せするのは、Ultra HDブルーレイ「世界一 正四尺玉 越後 片貝まつり」と「8K空撮夜景 SKYWALK〜TOKYO YOKOHAMA〜」。いずれもビコムの作品だ。ぜひ、自宅でも本作を再生してみてほしい

明るく力強い映像で目を引くLGとシャープ

「片貝まつり」の昼の花火のシーン。明るさや白・青の再現などに注目したい

「片貝まつり」の昼の花火のシーン。明るさや白・青の再現などに注目したい

「片貝まつり」の日中のお祭りの様子や昼の花火などを見ると、各テレビの明るさの違いがよくわかる。いちばん明るいと感じたのはLGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」で、ついでシャープ「4T-C55FS1」。両者ともかなり明るく、真夏の太陽のギラギラと照りつける感じがよく出ている。ただ明るいだけでなく色もしっかりと出ているので不自然に明るいとか画面が白っぽいという感じはない。ただし日陰の部分は少し黒側に引き込み気味で少し見通しが悪い。

パナソニック「TH-55MZ2500」やソニー「XRJ-55A95K」も十分に明るいが、LGエレクトロニクス、シャープに比べるとやや控えめ。これは無理に輝度を欲張らずに日陰の部分もきちんと見通せるなど全体のバランスを整えているためと思われる。十分に明るいが暗部もしっかりと見えて、見やすい映像だ。カラーバランスもよく出ていて空の青さもきちんと出ている。

ちょっと見劣りしてしまったのはTVS REGZA「55X9900M」。ほかと比べるとやや映像が暗いと感じてしまう。並べてしまうと、高輝度の液晶テレビと以前の有機ELテレビを並べて見ているようだ。

これまでと同じWRGB方式のパネルと、「MLA」搭載のWRGB方式や「QD-OLED」は、パネル自体の輝度性能が目で見てはっきりとわかるほどに違うのだ。残念ながら明るい環境下での明るさ勝負となるとTVS REGZAはちょっと分が悪い

ただし注意したいのは「パネルに最新技術が搭載されていないから今年のTVS REGZAはだめ」というわけではないこと。そして、TVS REGZA以外でも従来型のWRGB方式のパネルを採用したテレビは多数発売されていること。ここでのテストモデル以外の製品はほとんどが「55X9900M」と同じ従来型のWRGB方式だ。明るさに注目して有機ELテレビを選ぶならば、動画での「55X9900M」の見え方が参考になるだろう。

「55X9900M」について補足すると、絶対的な画面の明るさでは差があるが色はしっかりと出ているし、雲の階調や青空もきちんと描けている。明るい場面ではよさが発揮しにくいが、きめ細かい表現などTVS REGZAらしい精細さがきちんと描けていた。「55X9900M」は単独で見れば空の青が最も自然な色だと感じたし、階調感なども含めて成熟度は高い。使い慣れたパネルをきちんと使いこなしている安心感があった。

また、空の青さは各社の再現の違いがよく出ている部分だ。いちばん明るいLGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」は空の青さが少し薄く感じやすくなるいっぽう、雲の白さは力強い。明るい部分が強調されがちにも見える。

同じパネルのパナソニック「TH-55MZ2500」は明るさを少し抑えてでも雲の階調や空の青さの深みまで描いている。このあたりで見せ方の違いがわかる。

世代が違うとはいえ「QD-OLED」採用のシャープ「4T-C55FS1」とソニー「XRJ-55A95K」は、どちらも空の青が少し赤に寄る(紫色っぽくなる)傾向がある。これはQD-OLEDパネルの傾向で暗いシーンでもその傾向が確認できた。ただし、「XRJ-55A95K」では明るさのピークはそれほど欲張って出そうとはしていない。ソニー画質として明るさや色をコントロールしているのだろう。

夜景のような映像では明るさの差が目立たない

続いて「8K夜景」を再生してみる。夕景の赤く染まった空は42V型有機ELテレビでも再生したシーンだが、やはり各社で違いが大きかった。

明るさではLGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」、シャープ「4T-C55FS1」、パナソニック「TH-55MZ2500」が印象的。街全体が明るく見えると、全体の見通しがよいのだ。「テレビ画面は明るいほど高画質に見える」とは昔から言われてきたことだが、それは現在も同様だと感じた。

4Kならではの精細さとかディテールまでよく見えて、まさに鮮明だと感じる。上記3モデルで言うと、LGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」が最も明るく見通しがよい。シャープ「4T-C55FS1」は空の赤みを帯びた部分と白い部分との間にある黄色が豊かに出る印象。赤、緑、青の3原色だけでなく中間色も豊かに再現することにこだわっているのがわかる部分だ。パナソニック「TH-55MZ2500」は明るいだけでなく黄色や朱色の夕景のグラデーションがよく出ている。

ソニー「XRJ-55A95K」は夕景くらいの明るさでは画面全体の明るさを誇張せず、空のグラデーションや暗部も含めた階調をきちんと描いている。

TVS REGZA「55X9900M」も同様で、陰影や濃淡がしっかりと出ている。夕焼けの色の濃厚さや深みはいちばん豊かだし、やはり自然な描写になっていると感じる。絵作りの上手さがよくわかる部分だ。

すっかり夜になった街の夜景シーンを見ると、画面全体としてはそう明るくはないのでTVS REGZA「55X9900M」も大きく見劣りするようなことはない。

ここでコントラスト感やシルエットになったビルの陰影の再現などもていねいに描いているのはTVS REGZA「55X9900M」とパナソニック「TH-55MZ2500」。映画などでも見ることの多い画面全体が暗めの映像だが、こういったシーンをバランスよく再現している。

ソニー「XRJ-55A95K」もコントラスト感やバランスのよさは見せてくれていたのだが、暗部がやや潰れ気味になる傾向がある。「QD-OLED」パネルの第1世代は暗部の階調表現が苦しく、またノイズ感も目立ちやすい傾向があったので、ちょっと苦労している感じだ。

ネオンが明るく、街灯に照らされた道路がよく見えるのはLGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」。暗部の描写にも意欲を見せるが、少し黒潰れがある。シャープ「4T-C55FS1」もそれに近い傾向だ。

こうした夜景では、かなり彩度の高いネオンなどの色が各社で大きくずれているわけではない点に注目してほしい。以前の薄型テレビでは色を重視したテレビとなると原色がキツめに出て、不自然になってしまう製品もあった。

そのあたりは各社ともきちんと制御していて、色が派手すぎるとかキツい色になってしまうことが少ない。特にパネル自体の輝度が高くなっていることもあり、より正確な色を再現することを徹底できているのだと思われる。このため、画面が明るくても不自然にならないし、明るい部分から暗い部分まで正しい色が再現できているのだ。

映画やアニメを見てみると各社の傾向がよりよくわかる

一般的な映画のUltra HDブルーレイも再生してみた

一般的な映画のUltra HDブルーレイも再生してみた

明るい環境のまま、映画ソフトも見てみることにした。筆者のようなマニアは、映画は映画館のように部屋を暗くして見るものだと思っているが、多くの人はそうではないだろう。動画配信も普及し、普通にテレビドラマなどを見る感覚で映画を気軽に見る人も多いはずだ。画質モードなどは先ほどと同じ。

まずは「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」。Dolby Vision収録ディスクだが、5台同時出力のためHDR10でテストしている。昼間のローマ市街で繰り広げるカーチェイスの場面を見たが、昼間の明るさがよく出るのはやはりLGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」とシャープ「4T-C55FS1」。色温度がやや高めになることもあり映画とは思えぬ明るさ感がある。そのぶんスピーディーなカーチェイスも動きがよくわかるし地下鉄の線路に入り込んだような暗いシーンでも映像は見やすい。

明るく、総じて見やすくなるLGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」だが、輝度のピーク感が高く映像に迫力があるので見ていてなかなか楽しい。映画の世界に入った感覚ではなく、実際にローマの街で撮影されている現場を見ているような感覚になるようだ。映画らしさは減るがリアルさはある。

シャープ「4T-C55FS1」もこれに近い見え方だが、印象的だったのはフィアットの小型車の黄色が豊かに出ること。有名な黄色のフィアット500は実車を見た人も少なくないと思うが、リアルな実車の色と艶が出ていた。

パナソニック「TH-55MZ2500」も昼間の空などは明るめだが映画らしい色調と明るさ感に近づけている印象だ。見慣れた映画として完成度の高い映像を見られたのはTVS REGZA「55X9900M」とパナソニック「TH-55MZ2500」。階調表現が上手なので映画らしい質感や肌の滑らかさなどもよく出る。

ソニー「XRJ-55A95K」もよくできているが、暗部の階調表現がやや苦手で黒が潰れ気味なのが残念。

アニメの「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」は、色使いから派手で映像表現も斬新なものが多いが、LGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」とシャープ「4T-C55FS1」は明るく鮮やかな再現で作品の持ち味がよく出ている。それでも派手すぎるように感じることはなく、色再現自体は正確だ。

そのうえでの両モデルの特徴をあげると、LGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」は忠実度の高い色再現性だと感じるし、シャープ「4T-C55FS1」は中間色がより豊かで濃厚な色になっていると感じる。パナソニック「TH-55MZ2500」は明るめながらも映画らしい感触に近づけた再現。階調感が豊かで特に暗色がしっかりと再現できている。ソニー「XRJ-55A95K」はやや暗めに感じたが、色は最も適正で映画館での印象に近い。暗部の階調が苦しいのが残念。TVS REGZA「55X9900M」も色は正確でディテールがしっかりと出るので、ベーシックな表現力の高さがよくわかる。

音質はどうか? サラウンド感が豊かだったのはシャープ「4T-C55FS1」

ここで、それぞれの音質についても触れておこう。今回集めた5モデルは各社の最上位モデルのため音質の実力もなかなかのもの。サラウンド感が最も豊かなのはシャープ「4T-C55FS1」で空間感までよく出る。

パナソニック「TH-55MZ2500」は空間の再現もうまいが個々の音の力強さ、セリフの厚みなど基本的な実力が高い。

TVS REGZA「55X9900M」はサラウンド空間と声の厚みや定位感のバランスが良好。

ソニー「XRJ-55A95K」は画面から音が出る画と音の一体感がよくサラウンド感もそれなりにすぐれるが、空間感などでやや劣る印象だった。

LGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」は比較的シンプルな構成のスピーカーシステムの割にはサラウンド感もよく出るが、他社製品と比べるとやや見劣りがする。低音の迫力などにもの足りなさを感じてしまった。

部屋を暗くして実力をさらに深くチェックしてみる

今度は部屋を暗くした環境でのテスト。日没を過ぎて外もすっかり暗くなり室内照明も落とした。完全な暗室ではないがメモをとるのがやりづらいと感じるくらい、読書はできないレベルの暗い環境だ。画質モードは上の写真のとおり。いずれも暗い環境で映画を見るための画質モードだ。

いずれも映画用のモードなので絶対的な明るさは控えめになり、暗い環境でも眩しいと感じるほどではない。そして、各社ともに忠実度の高い再現になる。映画を再生すれば当然各社ともに近い表現になるが、それだけに各社の画作りの違いがよくわかる部分でもある。

映画ではない「片貝まつり」や「8K夜景」の昼間のシーンや明るい場面では、LGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」やシャープ「4T-C55FS1」はきちんと明るく見やすい映像になる。映画っぽいトーンになるのがソニー「XRJ-55A95K」、パナソニック「TH-55MZ2500」、TVS REGZA「55X9900M」。

大まかに言えば、ソニーはコントラスト重視のメリハリ型、パナソニックは階調重視、TVS REGZAはバランス型とそれぞれに違いはある。パナソニックは局所的な強い光をしっかりと出すなどパネルの強みをきちんと生かしている。ソニーはパネルのクセが出やすく暗部で赤による傾向やノイズ感が少しあるし、暗部も潰れ気味だ。TVS REGZAは階調もコントラスト感もしっかりとしているしまとまりがよいが、ほかと比べるとおとなしい印象になる。

映画系のモードでは差が縮まる傾向はあるが、各社の画作りの違いは確実に存在する

映画系のモードでは差が縮まる傾向はあるが、各社の画作りの違いは確実に存在する

夜景のシーンでも、LGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」やシャープ「4T-C55FS1」は局所的な明るさの再現性が高い

夜景のシーンでも、LGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」やシャープ「4T-C55FS1」は局所的な明るさの再現性が高い

「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」と「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」では、LGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」は明るいシーンはかなり明るく、暗いシーンはしっかり暗く、シーンに合わせて見せ方を変える。明るめだが眩しくはないし映画らしいトーンもある。これは、今までの「映画らしさ」に慣れた人には少し違和感もあるが、決して悪くない。新しい映画の見せ方とも感じる。

シャープ「4T-C55FS1」も明るさや鮮やかさが印象的だが。派手さはきちんと抑えていて不自然さはない。明るめの色の鮮やかさやキレ味のよさが好ましい。

ソニー「XRJ-55A95K」は暗部再現が少し苦手なことが気になるものの、色のりのよさやコントラスト感はしっかりとしていてまとまりはよい。

パナソニック「TH-55MZ2500」とTVS REGZA「55X9900M」は映画的な感触をしっかりと出す見せ方。パナソニックが暗部も明部も階調性を豊かに描いて映画らしいトーンと情報量をしっかりと伝えるのに対して、TVS REGZAはディテールの緻密さやパノラマ的な景色の立体感が見事だ。

まとめ:実力の高い5機種は使い方や見たい映像ソースに合わせて選びたい

さすがは各社の最上位クラスの有機ELテレビと言うべきか、いずれもトータルでの実力はかなり高い。最新有機ELテレビでは、パネルの違いで各社の個性がさらに強まったと感じた。

暗い部屋で映画を見るためのテレビとしてはベスト
パナソニック「TH-55MZ2500」

パナソニックの「TH-55MZ2500」は暗い部屋で映画を鑑賞するという観点で言えば、現時点では最も優秀なテレビと言ってよい。高輝度化を果たしたパネルの実力をしっかりと引き出しつつ、パナソニックの持ち味である階調性などもさらにすぐれたものにしている。内蔵スピーカーについても下手なサウンドバーより優秀なくらいで、これをさらにアップグレードするならAVアンプとスピーカーによるサラウンドを検討するべきレベル。

明るさという地力が高く懐が深い
LGエレクトロニクス「OLED55G3PJA」

LGエレクトロニクスの「OLED55G3PJA」の特徴は、なんと言っても画面の明るさだ。無理に明るくして画面が白っぽいということもなく、色は正確で肉眼視に近い見え方をする。その点ではドキュメンタリー作品やテレビ放送を見たいという人に合う。映画もきちんと楽しめる実力はあるので、普段から明るい部屋で映画を見るという人に適しているだろう。音質に関しては他社と比べてやや貧弱なので、サウンドバーなどの追加を考えたいところ。

最新パネルを生かした明るさと豊かな色
シャープ「4T-C55FS1」

シャープの「4T-C55FS1」も明るい部屋でさまざまな映像を存分に楽しめる画作り。パネルの高輝度と豊かな色をしっかりと引き出して、これまでのシャープ画質をワンランク高めた表現ができている。パネルの特性もあって少し赤寄りになる傾向はあるが不自然に感じるほどではない。音に関してもサラウンドの広がり感も豊かだし、実力の高いスピーカーをぜいたくに使用しており基本的な実力が高い。

1年間のハンデはあるがお買い得感もある
ソニー「XRJ-55A95K」

ソニーの「XRJ-55A95K」は1年前のモデルというハンデもあって暗部階調などで少し差を感じる部分が多かったのが残念。ただし基本的な実力は十分に優秀だし、価格がこなれているのでお買い得感もある。いっぽうでそろそろ2024年の新モデル情報も出始めるタイミングなので、さらなる進化を果たした最新モデルに注目するのも手だ。音質の実力的に大きな不満はないが、サラウンドを存分に楽しむならばサウンドバーなどを検討したいところ。

映画画質などの総合力は高い
TVS REGZA「55X9900M」

TVS REGZAの「55X9900M」はパネルの違いで、今ひとつよさをアピールできていない感じはある。高輝度パネルを採用した後継機にも期待したいところ。ただし、映画画質の完成度の高さ、今回はテストしていないがテレビ放送などでの質感再現やディテール復元の実力の高さなど、さまざまな映像で美しい映像を楽しめる総合力の高さはある。音質もかなりのもので重低音再生も十分だし、6チャンネル全録というほかにはない武器もある。部屋を暗くして映画を見る人など、画面の明るさにそこまでこだわらない人ならばデメリットはほとんどない。

ぜひ、動画もチェックを!

こちらの記事に合わせて、各社の映像を比較できる動画コンテンツもぜひ参考にしてほしい。パネルの明るさの違いが思ったよりも大きいことがよくわかってもらえると思う。すでに2024年モデルの情報が出始めるタイミングではあるが、各社が採用したパネルの特徴や傾向などは来年モデルでも引き継がれると思うのでそうした情報の参考にもなると思う。

鳥居一豊
Writer
鳥居一豊
オーディオ専門誌の編集スタッフを経て独立。マンガ、アニメ、ゲームをこよなく愛し、視聴取材などでも数多くの名作を取り上げる。ホームシアターのために家を新築して早10年。現在は8.2.4ch構成のDolby Atmos対応サラウンドシステムと120インチスクリーン+プロジェクターによる視聴設備を整えている。ホームシアターは現在でもまだ進化する予定。
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柿沼良輔(編集部)
Editor
柿沼良輔(編集部)
AV専門誌「HiVi」の編集長を経て、カカクコムに入社。近年のAVで重要なのは高度な映像と音によるイマーシブ感(没入感)だと考えて、「4.1.6」スピーカーの自宅サラウンドシステムで日々音楽と映画に没頭している。フロントスピーカーだけはマルチアンプ派。
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