年始に米ラスベガスで開催された大型家電見本市「CES 2024」が盛況のうちに閉幕した。今年もさまざまな製品、技術展示がされた。ここではAV家電のなかでも花形と言うべき有機ELテレビにフォーカスして「CES 2024」を振り返ってみたい。CESの発表を見れば、2024年の有機ELテレビの動向をフォローできると言っても過言ではないのだ。
まず注目すべきは、有機ELテレビの“元”となる有機ELパネル供給元の発表だろう。LGディスプレイは「META Technology 2.0」を発表した。
有機ELパネル供給元であるLGディスプレイは、「META Technology 2.0」技術を採用した有機ELパネルを発表。最大ピーク輝度は3,000nit。サイズ展開は4K解像度が55/65/77/83V型、8K解像度が77/88V型をラインアップ
「META Technology 2.0」を採用したパネルは、2023年モデルのLGエレクトロニクスやパナソニックのハイエンド有機ELテレビに搭載されていたパネルをブラッシュアップしたもの。最適化された「Micro Lens Array Plus(MLA+)」、輝度向上アルゴリズム「META Multi Booster」、輝度ディテール向上アルゴリズム「Detail Enhancer」という主要技術からなり、これらの組み合わせでピーク輝度は3,000nitに達するという(4Kパネルの場合)。2023年のハイエンドパネルのピーク輝度は2,100nitであったことから、大幅な輝度向上を果たしていると言える。
2023年のLGディスプレイの発表より。「MLA」とは、発光層の前に微少なレンズを並べ、効率的に光を取り出す技術のこと。77V型パネルでは424億個ものレンズが使われる。この構造自体は「MLA+」でも変わらないようだ
こちらも2023年の発表時資料。「MLA+」の特徴は、1年間で蓄積されたデータに基づいてレンズの角度を最適化させたこと。これによりさらなる高効率での発光を実現した
日本市場で販売されている2023年の有機ELテレビを見ると、(「MLA+」ではなく)「MLA」パネルを採用していたのはLGエレクトロニクスの「G3PJA」シリーズとパナソニックの「MZ2500」シリーズ。これらの映像を確認すると、確かに目を見張る明るさで、「有機ELテレビは液晶テレビよりも暗い」という定説が必ずしも当てはまらなくなってきていると感じさせるものだった。この映像と後述する(第1世代と第2世代の)「QD-OLED」パネルを採用したテレビに映像については以下動画でも確認でいるので、ぜひご覧いただきたい。
「MLA」パネルの明るさをさらに増したのが「MLA+」パネルというわけで、2024年のハイエンド有機ELテレビは、この明るさをどう画質に生かすか、がポイントになりそうだ。どのメーカーが「MLA+」を使うかは不明だが、LGエレクトロニクス以外には、後述するパナソニック、2024年の新モデルにLGディスプレイ製のパネルを使うと告知したTVS REGZAがあげられそうだ。
LGディスプレイと並ぶ有機ELテレビ向けパネルの供給元といえば、サムスンディスプレイだ。日本市場ではサムスンディスプレイ製の「QD-OLED」パネルを採用した有機ELテレビを販売しているメーカーとしてソニー(第1世代パネル)とシャープ(第2世代パネル)があげられる。
「QD-OLED」パネルも当然にアップデートされ、2024年最新モデルである第3世代パネルのピーク輝度はやはり3,000nit。白だけでなく、RGB各色の明るさも大幅に向上。昨年比で約50%向上したとのこと。
サムスンディスプレイ製の「QD-OLED」は量子ドット技術を採用した有機ELパネル。第3世代パネルを搭載したテレビが日本市場に導入されるかは不明だ
また、PCモニター向け「QD-OLED」として、360Hzのリフレッシュレートを誇る27インチパネルと、4K(3,840×2,160)解像度、リフレッシュレート240Hzの31.5インチパネルも同時に発表。高いリフレッシュレートと有機ELならではの高速応答性がゲームやビデオ制作、医療用途に生きるとして訴求した。
リフレッシュレート360Hzの27インチパネル(左)と、4K(3,840×2,160)解像度、リフレッシュレート240Hzの31.5インチパネル(右)
ここまで追ってきたは有機ELパネルの供給元の話。それを受けて、各テレビメーカーがどんな製品を発売するのか? それこそがユーザーの関心事だ。LGエレクトロニクスからはさっそく新たな有機ELテレビ「M4」と「G4」シリーズが発表された。
どちらもパネルや輝度については触れられていないが、基本的には(97V型を除いて)LGディスプレイによる「MLA+」を使った最新パネルを搭載すると見るのが自然だろう。2シリーズに共通した特徴はAIプロセッサーの性能を従来の4倍とした「α11 AI Processor」の採用だ。これにより、グラフィックパフォーマンスが70%、処理速度が30%向上しているという。
また、「AI Sound Pro」により、仮想「11.1.2」サラウンド再生が可能。そのほか、4K/144Hzのリフレッシュレート対応(97V型を除く)などが特徴としてあげられている。
「M4」シリーズは、日本で2023年末に発表された「LG SIGNATURE M3PJA」シリーズの後継機と思われる。インターフェイス部分が別ボックスとなっており、画面部分とは無線で接続する。画面サイズについては65〜97V型まで。「LG SIGNATURE M3PJA」シリーズの最小サイズが77V型だったので、新たに“比較的小型”の65V型が登場したことがトピック
いっぽうの「G4」シリーズは「G3PJA」シリーズの後継と思われる。スタンダードなテレビのハイエンドだと思って間違いないだろう
LGエレクトロニクスは、「M4」「G4」シリーズとは別に「Wireless Transparent OLED TV(ワイヤレス透明有機ELテレビ)」として「LG SIGNATURE OLED T」を発表した。以前から有機ELパネルのデモンストレーションなどでは半透明の有機ELディスプレイが展示されることはあったが、LGエレクトロニクスが満を持して画面が半透明なテレビを製品化してきたのだ。
画面サイズは77V型で、「M4」「G4」シリーズと同様に「α11 AI Processor」を搭載。インターフェイス部分などを集約した「Zero Connect Box」と画面部分を無線伝送して映像を映し出す仕組みだ。
なぜ画面が半透明なのか、という理由は主にインテリア的な問題だろう。大きな黒い画面が部屋の中心にあることを嫌うユーザーは、半透明でインテリアをじゃましない「LG SIGNATURE OLED T」を選べば、テレビの利用とインテリア性を高次元で両立できるというわけだ。設置については、普通のテレビのように使うスタンドアロンに加えて、壁寄せ、壁掛けのためのオプションが用意される。
画面は常に半透明なのではなく、画面背面にスクリーンのようなものを出し、あえて“普通のテレビ”のように使うこともできる。詳細は以下の動画を参考にしていただきたい。
LGエレクトロニクスは2020年には巻き取って収納できる“ローラブル”有機ELテレビ「LG SIGNATURE OLED R」を韓国などで発売した(価格は1億ウォン。当時のレートで約926万円だった)実績がある。この「LG SIGNATURE OLED T」も同様のポジションで、あまり一般に流通するものではないかもしれない。それでも、夢のある製品の登場を歓迎したい。
なお、CESでは主にスマートフォン向けの有機ELパネル大手供給元であるBOEが「49インチ透明OLEDディスプレイ」を発表している。こちらはサイネージ用途での訴求のようだが、一般ユーザーが透明な有機ELディスプレイを目にする日は意外と近いのかもしれない。
上述のとおり、パナソニックはすでに「MLA」パネルの採用実績があるが、2024年モデルもLGディスプレイ製のパネルを使った製品をリリースする。CESで発表されたのはハイエンドモデル「Z95A」ならびに「Z93A」シリーズ。「Z95A」が55/65V型で、「Z93A」が77V型。どちらも「Fire TVビルトイン」であることが大きな特徴でもある。
「Fire TVビルトイン」とは、もちろん、「Fire TV」シリーズの機能が使えること。Alexaやさまざまなアプリのインストールに対応し、動画サービスの視聴について期待されるところ。パナソニックのプレスカンファレンスではAmazonとの提携が大々的に発表されており、「Fire TVビルトイン」は「Z95A」「Z93A」シリーズだけでなく、普及価格帯のシリーズにも拡大されていくようだ。
両シリーズの映像処理エンジンは共通して「HCX Pro AI Processor MK II」だが、パネルの仕様は異なる。「Z95A」シリーズはマイクロレンズアレイを使った「Master OLED Ultimate」、「Z93A」シリーズは「Master OLED Pro Cinema」パネル。画質的な最高峰は「Z95A」シリーズであり、こちらはオリジナルのパネル構造で放熱管理を徹底し、高輝度を追求している。この「Z95A」シリーズに「MLA+」を使っているのだろう。
そのほか、ゲームに有用な機能として144Hzのリフレッシュレート対応をあげるほか、テレビでのトーンマッピング(HDR映像の最適化)をオフにするHDR画質モードを備えているという。これはソース側にHDR映像の調整を任せるという機能のこと。たとえば「PlayStation 5」には黒や白の見え方を調整する「HDR調整」機能があるわけで、HDRの最適化はこちらに任せればよいはずということ。よくよく考えれば実に合理的な機能だ。こうした機能も含めて、2024年のパナソニック有機ELテレビには期待が高まる。
日本市場で見かけることはなさそうだが、最後にサムスンエレクトロニクスの新製品もチェックしておこう。2024年の有機ELテレビの特徴として紹介されたのは、「OLED Glare Free(グレアフリー)」技術だ。
「OLED Glare Free」技術のイメージ。サムスンエレクトロニクスの有機ELテレビ2024年モデルは従来モデルから20%明るさを増したという77V型を含むハイエンド「S95D」に加え、42〜83V型の幅広いラインアップを擁する「S90D」「S85D」シリーズが発表された
これは画面への映り込みを軽減しながら画像の鮮明さ/色の精度を維持するという技術で、明るい環境下でも映像への没入感を損なわないようにするためのもの。有機ELテレビのために最適化されたコーティングで「光沢と反射のトレードオフを克服した」としていることから、光沢仕上げでありながら、低反射を実現したということのようだ。
有機ELテレビの高画質は暗い部屋、外光の影響の少ない環境でこそ生きることは間違いない。しかし、そのいっぽうでこうした取り組みでより手軽に高画質による没入感が味わえるとすれば、有機ELテレビの価値が上がるというもの。サムスンエレクトロニクス以外の、各社から登場する新モデルの映り込み具合にも注視していきたい。
2023年の有機ELテレビは輝度(明るさ)の向上具合が目覚ましかったが、2024年の有機ELテレビも引き続き輝度を増していくことになりそうだ。もちろん、輝度が必ずしも画質に直結するわけではないにしても、絶対的な明るさは映像表示機器にとって重要であることは間違いない。パネルという素材がよくなっているのだから、テレビメーカーとしてはそれを生かした「絵作り」の手腕が問われることになる。
また、ここで紹介した製品はいずれも各社の高級製品だが、ハイエンドのクオリティが向上すれば、普及価格帯の製品のクオリティも向上していくのが道理。有機ELテレビのスタンダードモデルの明るさも向上することを期待したい。