Bowers & Wilkins(B&W)のワイヤレススピーカー「Zeppelin Pro Edition」(ツェッペリン・プロ・エディション)が発表された。メーカー希望小売価格は136,400円で、発売日は2024年10月下旬。
ステレオスピーカーとアンプを内蔵した据え置き型の製品で、Bluetooth(AptX Adaptive対応)のほか、AirPlay 2に対応。さらに、ハイレゾを含むAmazon Music、Spotify(Spotify Connect対応)などサブスクリプション型の音楽ストリーミングサービス再生にも対応する。
据え置き型のワイヤレススピーカー「Zeppelin Pro Edition」。いわば物理メディア再生に対応しないラジカセのようなもの
カラーバリエーションはスペース・グレーとソーラー・ゴールドの2種
基本スペックは写真のとおり。2ウェイスピーカーがステレオで入っており、サブウーハーが低域を支える2.1ch構成。5つのユニットは個別のアンプ(総合240W)で駆動されるマルチアンプシステムだ
Bowers & Wilkinsの「Zeppelin」といえば、「ああ、あれか」と思う人も多いかもしれない。初代モデルのデビューは2007年という歴史の長いモデルなのだ。その初代モデルから特徴的な横長の外観は引き継がれている。
2007年に発表された初代の「Zeppelin」。日本では2008年に発売された
外観は似ていても時代とともに進化してきたのが「Zeppelin」シリーズの特徴だ。初代モデルがiPod Dock一体型であったことに端を発し、AirPlay対応、Spotify Connect対応など、世代を経るたびにモディファイされてきた。
新製品「Zeppelin Pro Edition」の特徴は、ツイーターとミッドレンジドライバーが自社開発・製造品に改められたこと。従来モデル「Zeppelin」からAmazon Musicでのハイレゾ(ロスレス)ストリーミング再生に対応していたが、ここからさらにすぐれた音質を引き出そうという製品だ。
そのため、従来モデルと比較した場合、これといった新機能があるわけではない。あくまで付帯的な部分にはなるが、本体のライトが15色から選択可能になったこと、Alexa Built-inではなくなったことが差分としてあげられる。
なお、型番の「Pro」とはBowers & Wilkins初のスピーカー「P1」から引用されたもの。「P」は「Professional」の略で、ハイファイ(高忠実度再現の)サウンドを意味していたという。「Zeppelin Pro Edition」はハイファイサウンドを磨き上げた「Zeppelin」ということなのだ。
Bowers & Wilkinsの創始者ジョン・バウワーズ氏。「P1」が世に出たのは1966年のこと
上記のとおり、「Zeppelin Pro Edition」での高音質化のポイントは、自社開発・製造となったツイーターとミッドレンジドライバーだ。これらを含む、高音質化の中身を見ていこう。
まず、「Zeppelin Pro Edition」は2ウェイスピーカー+中央のサブウーハーによる2.1ch構成を採る。ドライバー設置には角度をつけてより広がりのある音場再現を図っている。また、埋め込むようにユニットが設置されているのは、バッフルを細くして回折(音がスピーカーの後ろに回り込む現象)による悪影響を減らすため
本体の固定ポイントを精査することで剛性を上げ、余計な振動を防ぐ工夫がされている。また、青い○部分が4か所の通気口。バスレフポートではないが、ここから空気を抜く設計になっている。本体後ろに大きなポートがあるような設計ではないため、設置場所を選ばずに使えそうだ
本体の外側に2つ搭載されるのが高域再生を担当する25mmチタンドームツイーター
まず、ツイーターは「600 S3」シリーズの技術を受け継いだとされており、振動板自体は「600 S3」シリーズとまったく同じ。従来はアルミだった振動板素材をチタンに変更。アルミよりも強度があるいっぽう、とても重いチタンを極薄に仕上げて軽量化。さらに必要なポイントに応じてダブル(2重)ドームにして強度を確保したという。
関連記事の「600 S3」シリーズ解説にもあるとおり、自社工場での内製によってこうした工作精度上の問題をクリアできたことがポイントになっているようだ。
2ウェイスピーカーの低域側を担当するミッドレンジも自社開発・製造品
ミッドレンジは、Bowers & Wilkinsのミドルクラススピーカー「700 S3」シリーズにも採用される「コンティニュアム・コーン」と同じ製法で作られているという。素材は上位機種と異なるグラスファイバーで、「コンティニュアム・コーン」よりも編み目が詰まっている。
また、写真を見てわかるように、「FST(Fixed Suspension Transducer)」と呼ばれるエッジレス構造を採っている。これはBowers & Wilkinsの高級機に見られる特徴的な構造で、「Zeppelin Pro Edition」では後ろのマウントダンパー(ユニットの支え)素材をリニューアル。軽くて密度のない素材が望まれるそうだが、軽すぎると空気が漏れてしまうという問題が起こるという。そこで素材を改めて、空気漏れを抑えたことがポイントだ。
そのほか、新ドライバーにあわせてDSPでの信号処理を最適化、フロントパネルに張られたファブリック素材を改め音の明瞭度を向上させるなどの手が加わったとのことだ。
こちらが実物のユニット。中央のサブウーハーは35Hzまでの低域を再生できるとしている
実物のカバーは外れないとのことだが、モックのカバーを確認すると、対応するユニットに応じて穴の形状が変えられていることがわかる。サブウーハーの前面は波長の長い振動を支えるため、厚みを持たせて強度を上げている
ミッドレンジ部分(左)とツイーター部分(右)でも、穴の大きさが異なるのがわかっていただけるだろうか。こうした工夫も従来モデルから引き継がれている
最後に、ごく一般的な会議室(オフィス)で再生された「Zeppelin Pro Edition」の音を聴いたのだが、とても自然な再現性に驚かされた。どこかの帯域を強調するでもなく、強引に音場を広げるでもなく、無理をしていると感じさせないごくごくナチュラル志向なのだ。
参考までに従来モデル「Zeppelin」と比較してみたところ、従来モデルは総じて線が細く感じられ、高域優勢のエッジの立った印象になってしまう。楽器1つひとつの厚みや自然な倍音の余韻を聴かせるのは圧倒的に「Zeppelin Pro Edition」だった。
こうした一体型ワイヤレススピーカーの音質は、どうしてもエクスキューズがつきやすいもの。その点、「Zeppelin Pro Edition」はかなりハイレベルで、確かにハイファイオーディオ機器として考えても自然に受け入れられるクオリティ感だ。ナチュラルな音質は“いい意味で普通”。せっかくスピーカーを買うならば、こういう音調であってほしいと思える味わいなのだ。高価ではあるものの、音のよい据え置き型スピーカーの候補として検討してはいかがだろうか。
試聴ではAmazon Musicを使ったが、本国であるイギリスでは同じくハイレゾを含む音楽ストリーミングサービスQobuz(コバズ)にも対応している。Qobuzは日本でのサービス開始が告知されているので、こちらにも対応してくれるはず。この点にも期待してよいだろう。
ORIONのCDラジカセ「SCR-B9」の記事でも感じたことだが、左右のスピーカーが離れたラジカセスタイルのステレオスピーカーは、“家用”スピーカーとしてかなり有用なのではないか。スピーカーから音を出すという作法のめっきり減った現代において、ステレオ再生できる数少ないコンポーネントとして注目していただきたい。