ソニーから、「LinkBuds」シリーズの完全ワイヤレスイヤホン最新モデル「LinkBuds Open WF-L910」(以下、「LinkBuds Open」)と「LinkBuds Fit WF-LS910N」(以下、「LinkBuds Fit」)が発表された。
「LinkBuds」とは、ソニーが2022年より展開する新コンセプトのオーディオ製品群。「LinkBuds Open」は、「LinkBuds WF-L900」(以下、初代「LinkBuds」)で採用した穴の開いた独特のリング型ドライバーユニットを継承。いっぽうの「LinkBuds Fit」は、密閉型ながら耳の奥まで挿入しない、軽い装着感が特徴の完全ワイヤレスイヤホン。ノイズキャンセリング機能や外音取り込み機能も有しており、こちらは「LinkBuds S WF-LS900N」(以下、「LinkBuds S」)のコンセプトに近い。ただし「LinkBuds S」は販売継続のため後継モデルではない。
ソニー「LinkBuds Open」(写真左)と「LinkBuds Fit」(写真右)
僕は価格.comマガジンで、穴開きで周囲の音が聞こえる2022年2月発売の初代「LinkBuds」、そして予想外に密閉型で登場した2022年6月発売の「LinkBuds S」と歴代モデルを追いかけてきただけに、新モデルをチェックしない理由はない。
「LinkBuds Open」と「LinkBuds Fit」ともに、ソニーの完全ワイヤレスイヤホンの最新モデルとして「Sound Connect」アプリ(「Sony | Headphones Connect」から名称変更)に対応するなど非常に多機能なモデルに仕上がっている。製品のスペックや機能はレポート記事で掲載済みなので、今回は装着感、屋外使用や音漏れ具合、音質、ビデオ会議での音声通話品質など、実機を使い込んだレビューをお届けしようと思う。
さっそく、「LinkBuds Open」と「LinkBuds Fit」の外見と装着感からチェックしていこう。
「LinkBuds Open」は、音が出るドライバーユニットがリング状になっており、中央に開いた穴から周囲の音をダイレクトに取り込むというアプローチを採用したモデルだ。2つの円をつなげたようなイヤホン形状は初見だとどう装着するのか想像しづらいが、実際に耳にはめ込んでみると、2つの円が耳のくぼみ部分に収まるようになっていることがわかる。リング状のドライバーユニットが12mmから11mmに小型化したこと、耳のくぼみ部分のフィット感を高めるために、新開発の「フィッティングサポーター」を採用したのが初代「LinkBuds」との差分だ。
穴の開いた構造が特徴的すぎる「LinkBuds Open」
「LinkBuds Open」を装着したところ。耳のくぼみにうまくフィットしている
「LinkBuds Open」の装着感をレポートする前にあらかじめ知っておいてほしいのが、「LinkBuds Open」はカナル型(耳栓型)ではないため、装着感は耳の内側のくぼみへのフィット具合に左右されるということ。そして、イヤーピースがないため装着感にいわゆる“遊び”がないことだ。
耳の大きさや形状は人によって大きく異なるため、装着感の個人差はカナル型イヤホン以上に大きい。僕の場合、装着はスムーズにできたが、ドライバーユニットの固い部分が耳に直接触れるため、耳への異物感がそれなりに感じられた。慣れの問題もあるだろうが、長時間装着するほど気になるところでもあるので、気になる人はぜひ店頭で手に取って試してもらいたい。
イヤホン本体の構造。赤く囲ったところが装着時に耳に直接触れる部分だ。イヤーピースがなく、ドライバーユニットの固い部分が耳に直接触れるため、人によっては装着時に違和感があるかもしれない
また、僕の場合は「LinkBuds Open」を装着した状態で顔を下に向けると、イヤホン本体が耳から落下しそうになった。こうした装着のユルさをカバーする機構が新開発の「フィッティングサポーター」なので、落下が心配ならうまく活用したいところだ。
いっぽうの「LinkBuds Fit」は、完全ワイヤレスイヤホンで多いイヤーピース付きのオーソドックスな形状ではあるが、イヤーピースは軽くフタをするような浅めの設計で、イヤホン本体は「エアフィッティングサポーター」で支えるスタイルになっている。これは面白いアプローチで、イヤーピースが耳栓のように耳穴の奥にまで入り込むのが不快という人に向けた装着スタイルとも言える。
イヤーピース付きのオーソドックスな形状を採用した「LinkBuds Fit」
ただ、「LinkBuds Fit」が軽やかな装着感かというと、実際の印象はやや異なる。イヤーピース部が浅いため、耳穴の奥が圧迫されるようなことはないが、イヤホン本体の膨らみが思ったよりも大きく、耳への当たりが強い。イヤホン本体をサポーターで支えるというのが「LinkBuds Fit」の装着スタイルの狙いのようだが、意外と耳の形状との間で相性があるように思える。
「LinkBuds Fit」を装着したところ。軽く耳に収まったうえで「フィッティングサポーター」で支える形のようだ
続いて、「LinkBuds Open」と「LinkBuds Fit」の周囲の音の聞こえ具合や音漏れについてテストしてみた。
まずは「LinkBuds Open」から。こちらは物理的に穴が空いている構造なので、当然のごとく周囲の音が自然に耳に入ってくる。自宅はもちろん、駅や街中でも音楽を聴きながら周囲の状況を把握できるし、再生している音楽はどこか近くで流れているかのように聞こえる。ただ周囲の音の聞こえ具合はイヤホン自体でコントロールできるわけではないので、音質への影響は大きい。設定などに左右されず、周囲の音が聞こえるというシンプルさが「LinkBuds Open」らしさだ。
常に周囲の音が聞こえて安心感抜群の「LinkBuds Open」
「LinkBuds Open」の音漏れは多少ある。静かな屋内で家族に協力してもらってテストしてみたが、“周囲の音を気にせずノリよく音楽を聴く”という程度まで音量を上げると音漏れしているのがはっきりとわかる。“周囲の音と音楽をバランスよく聞く”程度のボリュームなら、わずかにシャカシャカと聞こえる程度だった。周囲に騒音がある屋外での利用でもこの目安は変わらないので、屋外でもボリュームを上げすぎなければ音漏れは問題にならないはず。ただ、音漏れ具合は自分自身では確認する術がないので、自然とボリュームを押さえ気味で使うことになるだろう。
次に「LinkBuds Fit」をチェックしていこう。こちらは装着感こそ浅いが形状はカナル型ということで、周囲の音はマイクを介して取り込む形。外音取り込み機能はよくできており、「Sound Connect」アプリから取り込み具合を20段階で調整できる。実際に自宅や屋外で使ってみたが、外音取り込み時の聞こえ方は中高域をはっきりと聞かせるタイプのようで、自然な聞こえ方に近い「LinkBuds Open」とは方向性が異なる。もちろん、密閉型なので音漏れが気になることもない。
「LinkBuds Fit」を騒音下でテスト
そして「LinkBuds Fit」はノイズキャンセリング機能を搭載した完全ワイヤレスイヤホンでもある。同社完全ワイヤレスイヤホンイヤホンのフラッグシップモデル「WF-1000XM5」と比べると、ノイズキャンセリング機能の強度はやや控えめで、車や電車の走行音などの低音側は残り気味だが、「LinkBuds」シリーズのコンセプトを考えると、これくらいがちょうどよいのかもしれない。
ただ、装着状況や環境に合わせてノイズキャンセリング効果を自動的に調整する「オートNCオプティマイザー」の影響なのか、騒音下ではノイズキャンセリングにともなう違和感がやや強めに出るようだ。個人的には、「LinkBuds Fit」はある程度の騒音下でも外音取り込み機能をメインで使い、どうしても騒音が気になる場合だけノイズキャンセリング機能をオンにして使うくらいがコンセプトに合うように思える。
ここからは、「LinkBuds Open」と「LinkBuds Fit」の音質をチェックしていこう。
まずは「LinkBuds Open」から。こちらは騒音下でも聞きやすい高域重視のサウンドだ。YOASOBI『アイドル』では、ボーカルやシンバルの金属音をシャープに鳴らし、低音の厚みもほどほどに感じられる。Creepy Nuts『Bling‐Bang‐Bang‐Born』などの男性ボーカル曲では周囲の音と音楽が共存。初代「LinkBuds」では雑に鳴っていた中域が、「LinkBuds Open」ではナチュラルになったところが好印象だ。カナル型の同価格帯のイヤホンと並べられる音質ではないが、静かな室内で聞けば、オープンイヤー型としてはなかなかに高音質と言える。
「LinkBuds Open」の音質をチェック。Bluetoothの接続コーデックはAAC
ただ、「LinkBuds Open」は常に周囲の騒音が聞こえるイヤホンであるため、音楽リスニング時に騒音と被る周波数帯域の音が埋もれてしまい、屋外では特に低音が弱く聞こえがち。そんなときは「Sound Connect」アプリで利用可能なイコライザーの出番だ。
まず試したいのは「Excited」や「Bass Boost」など重低音ブースト方向に振り切ったイコライザーで、これが騒音に負けて不足しがちな「LinkBuds Open」のサウンドをうまくカバーしてくれる。ただ、街中や駅構内、電車内など非常に大きな騒音下では低音を強化しても負けてしまうことが多いので、そういったときは「Trebble」(高域ブースト)でハキハキとした音に振り切ったほうが実用的だ。これは本当に周囲の騒音次第なので、「Sound Connect」アプリで最適な設定を探ってみてほしい。
続いて「LinkBuds Fit」を試してみたが、こちらはワイヤレスイヤホンとして一般的なサウンドの部類に入る。
「LinkBuds Fit」はLDACコーデックで接続して音質チェック
YOASOBI『アイドル』は、イントロから気持ちよくズンと響きを持たせた重低音が鳴り、中高域もクリアに立ち上がり聞き取りやすい。音楽に包まれる臨場感を狙ったドンシャリ系のサウンドではあるが、全体的なまとまりがよい。Creepy Nuts『Bling‐Bang‐Bang‐Born』も重低音が心地よい。
「LinkBuds Fit」は空間に音が響くライブ志向、メリハリのよさに振り切ったサウンドで、フラッグシップモデルの「WF-1000XM5」とは違った今どきのワイヤレスイヤホンの音作りを志向しているようだ。
「LinkBuds Fit」は、音楽とともに周囲の音を確認したいときは外音取り込みをオンに、逆に周囲の騒音を抑えたいときはノイズキャンセリングをオンにするなど、音楽リスニング時の周囲の音を自在にコントロールできるのが大きな強みだが、それだけでなくイコライザーによる音質調整をしてみても面白い。個人的には、ある程度の騒音下では「Vocal」など中域の厚みを増す設定がマッチしていたので、こちらもぜひ試してみてほしい。
最後に「LinkBuds Open」と「LinkBuds Fit」のマイク性能もテストしてみた。2モデルともマイクにAIによる機械学習アルゴリズムで精度の高いノイズリダクションを実現した独自の「高精度ボイスピックアップテクノロジー」を搭載。実機でマイク性能を確認してみると、2モデルとも同じ傾向だったため、ここでは2モデルをまとめて扱いたい。
「MacBook Air」とペアリングし、オンラインビデオ会議でマイク性能をテスト
今回はオンラインビデオ会議で2モデルを活用したが、マイクの声の拾い方としては、低い帯域までカバー。空間の響きも含めて拾い、声の厚みもしっかりとわかるほど。情報量は多いので、比較的良好なマイク性能と言える。特に印象的だったのが騒音下の通話性能で、声質にほとんど影響を与えることなく、周囲の騒音を聞こえないレベルにまで低減してくれる。路上やカフェ、オフィスなどで通話する機会の多い人もこのマイク性能なら十分満足できるはずだ。
「LinkBuds Open」と「LinkBuds Fit」は、どちらも完全ワイヤレスイヤホン市場に新しい使用スタイルを提示するモデルだ。穴の開いた「LinkBuds Open」のみならず、外見上はカナル型の「LinkBuds Fit」すらも、完全ワイヤレスイヤホンのスタンダードからは外れる。これは単に周囲の音を確認できるというだけでなく、これまでにない装着感を含めた利用スタイルを打ち出しているところで、これこそが唯一無二の個性となっている。
個人的にはカナル型イヤホンが合わないと感じていた人にこそ使ってほしいところだが、今回の僕のように「LinkBuds Open」「LinkBuds Fit」ともに装着感の相性が合わなかったケースもある。「LinkBuds Open」と「LinkBuds Fit」どちらを選ぶか迷っている人は、利用スタイルだけでなく、自分の耳にちゃんとフィットするかという点も合わせて確認したほうがよさそうだ。