年始に米ラスベガスで開催された大型家電見本市「CES 2025」が今年も盛況のうちに閉幕した。CES(Consumer Electronics Show)のメインコンテンツはすでにテレビではないものの、「CES 2025」でもテレビに関する多数の発表がされている。
ここでキーとなるのは、有機ELパネルの供給元(パネルメーカー)の発表だ。そこから、2025年の有機ELテレビ事情を追っていこう。
LGディスプレイの第4世代パネルはピーク輝度4,000nit
有機ELテレビの“元”となる有機ELパネルを供給しているのは、主に2つの会社。それがLGディスプレイとサムスンディスプレイで、名前のとおりそれぞれLGエレクトロニクスとサムスンエレクトロニクスの関連会社だ。この2つの会社が新たな有機ELパネルを発表することが近年の定例となっている。
まず、LGディスプレイが発表したのは「4th Gen OLED(第4世代有機EL)」パネル。3つのコアテクノロジーにより、最大4,000nitのピーク輝度とさらなる低反射を実現しているという。
ピーク輝度を向上させつつ、消費電力を20%低減できるという
1つめのコアテクノロジーが「プライマリーRGBタンデム」。LGディスプレイ製の第4世代パネルでは、有機ELパネルの発光層を写真右のように4層(赤/青/緑/青)にしているのだ。この発光層が作る白色光がカラーフィルター(リファイナー)を通って各色を再現するという仕組みは従来と同じ。
従来品である第3世代有機ELパネルは、写真左に紹介されているように青/黄/青の発光層を持っていた。黄色の層が緑や赤などを統合していたのだが、新パネルではRGB(赤/緑/青)が独立しているというわけだ。これによって再現できる色の純度が向上し、発光量の増加によってピーク輝度も向上したとしている。
第3世代パネルのピーク輝度は3,000nit。すでにかなりの高輝度だったが、新パネルはさらに高輝度を実現したという
明るめの部屋でも画面の色が変わって見えないならば、ユーザーにとってのメリットは非常に大きい
2つめのコアテクノロジーが「ウルトラローリフレクション」。つまりは低反射の表面処理で、99%以上の外光をブロックできるというものだ。昼間のリビングルーム(明るさで言えば500ルクス)でも、100%の色再現が可能だという。
第3世代パネルもそれ以前のパネルに比べてかなり低反射ではあり、それが大きなユーザーメリットになっている点だと言える。有機ELの高画質を100%味わうには部屋を暗くする必要があるが、映画を見る際に部屋を真っ暗にする人はそれほど多くないだろう。簡単に言えば、あまり暗くない部屋でも高画質を堪能しやすくなるのだから、この部分が強化されたことには注目すべきだ。
なお、以下関連記事「55V型有機ELテレビ“ガチ”比較」内でも触れられているが、LGディスプレイ製の第3世代パネルを使ったテレビは総じて低反射で映り込みは控えめ。サムスンディスプレイ製の「QD-OLED」パネルのテレビはさらに映り込みに強い印象だった。家電量販店などで映像を見る機会があるならば、映り込みの具合もチェックしたいところだ。
3つめのコアテクノロジーとしてあげられたのは「ヒューマンフレンドリー」であること。可視光線のなかでもエネルギーの強いブルーライトを抑えることで、人の目にやさしいとしている。そのほか、エコフレンドリーであることが盛り込まれるなど、どちらかと言えば画質以外の取り組みのアピールと言えそうだ。
LGディスプレイが作ったパネルをどのテレビメーカーが採用し、どんな製品に仕上げるのか、これがユーザーの興味の主眼だろう。上記第4世代パネルが使われると発表したのは、LGエレクトロニクスとパナソニック。どちらも高級モデルへの搭載が見込まれる。
LGディスプレイの第4世代有機ELパネルが搭載されるLGエレクトロニクスの「OLED evo G5」シリーズ。日本で展開されている「G4」シリーズの後継機種だろう
LGエレクトロニクスが発表したのは、「OLED evo G5」「OLED evo M5」シリーズ(日本での発売は未定)。どちらも新パネルを搭載することはもちろん、映像処理エンジン「α (Alpha) 11 AI processor Gen2」、パネル制御技術「Brightness Booster Ultimate」の採用でさらなる高画質を目指している。
「OLED evo G5」が現行品である「G4」シリーズの、「OLED evo M5」が「M4」シリーズのそれぞれ後継機種ということだろう。「OLED evo M5」シリーズはチューナーなどが入った「Zero Connect Box」が別体となったテレビで、画面とはワイヤレスで接続する「トゥルーワイヤレス」仕様だ。
外部機器の接続端子やチューナーが別体となった「OLED evo M5」シリーズ
そのほか、「OLED evo G5」シリーズの55/65/77/83V型モデルはVRRで165Hz駆動に対応することなどが特徴としてあげられている。
また、LGエレクトロニクスならではということでもなさそうだが、「Ambient Light Compensation」対応のFilmmaker Modeをサポートすることも特筆される。Filmmaker Modeとは、映像制作者の意図どおりに映像を再現するという映像モードのこと。新製品では、さらに視聴環境の明るさに応じて最適化を施す最新版が搭載される。明るい環境でも使えるFilmmaker Modeが生まれたならば、汎用性が高そうだ。
パナソニックの2025年フラッグシップモデル「Z95B」シリーズは、55/65/77V型をラインアップする
パナソニックが発表したのは「Z95B」シリーズ(日本での発売は未定)。こちらは「Z95A」シリーズの後継機種だろう。
パナソニックの有機ELテレビは、LGディスプレイから調達したパネルを独自構造で取り付けることで高画質を目指してきた。これは当然2024年モデル「Z95A」シリーズでも同様。2025年の「Z95B」シリーズではこの路線をさらに突き詰め、「ThermalFlow aerodynamic cooling system」(空力冷却システム)を採用した。
これはシャーシの通気口の位置を最適化することでさらに放熱性を高める工夫のこと。明るい映像を安定して表示するには、効率のよい放熱が不可欠であるため、このような取り組みがなされている。
もう1つのテレビ用有機ELパネル提供元であるサムスンディスプレイは、どちらかと言えばPCなど、テレビにこだわらない有機ELパネルの展開をアピールした。そのうちの1つとして紹介されたのが4,000nitのピーク輝度を実現した「QD-OLED」だ。
最新の「QD-OLED」は、やはり量子ドット技術を用いた有機ELパネルで、新しい有機材料を使ったことが特徴。ピーク輝度はLGディスプレイ製の第4世代パネルと同じ4,000nit。ひとまず発表されたのはこの程度だが、一概にどちらがすぐれているというものでもないだろう。
サムスンディスプレイ製の最新「QD-OLED」がどのテレビメーカーに採用されるかは不明。2024年の日本国内モデルではシャープとソニーがサムスンディスプレイ製の「QD-OLED」を採用していた。
なお、サムスンディスプレイが真っ先に紹介していたのは、PC、タブレット、スマートフォン向けのディスプレイだ。18.1インチの折りたたみパネルのほか、注目されるのはスライドして画面が拡張できる「Slidable Flex」。さらに、2025年4月からノートPC向けの巻き取り式有機ELディスプレイを量産開始するという。「CES 2025」では、Lenovo「ThinkBook Plus G6」が展示されていた。
5.1インチから6.7インチまで垂直に画面をスライドして拡張できる「Slidable Flex Vertical」
巻き取り式テレビはLGエレクトロニクスが韓国などで「LG SIGNATURE OLED R」として2020年に製品化しているが、当時のレートで900万円以上。一般的な製品とは言いがたいものだった。すぐに実現するものでもないだろうが、巻き取り、あるいは画面を拡張できる“一般的な”テレビおよび大型モニターの登場も期待したいところではある。
2024年に引き続き、2025年の有機ELテレビはさらに“明るく”なりそうだ。近年は液晶テレビ=明るい/有機ELテレビ=暗いという図式が成り立たなくなっているが、特に高級有機ELテレビで明るさの心配をする時代は終わったということだろう。
有機ELテレビは総じて言えば画質がよいのだが、特に、少し前の有機ELテレビでその実力を味わうためには暗室であることが必須だった。しかし、LGディスプレイの発表によれば、低反射性能の向上により、ある程度の明るさがある部屋でも有機ELテレビの画質のよさを味わえるという。
というわけで、2025年の有機ELテレビでは改めて低反射性能に注目したいと思う。元々の原理的な視野角の広さ(斜めから見ても色が変わりづらいメリット)と相まって、ベーシックなユーザーメリットに直結する部分なのだから。パネルの性能が実製品にどう反映されるのか、2025年もレビューをお届けする予定だ。