RHA(Reid Heath Limited)のイヤホン「MA750」は、1万円を超える比較的高価なイヤホンであるものの、音質と価格のバランスにすぐれたコストパフォーマンスの高さで評判になっている機種だ。価格.comでの最安価格(2015年9月2日時点)は約13,000円。ライバルが多い1万円台の価格帯に位置しながら、価格.comの「ヘッドホン・イヤホン」カテゴリーでの売れ筋ランキングは、2015年9月2日時点で6位に位置し、過去にはトップ3にランクインするほどの人気を誇る製品だ。今回は、そんなRHA「MA750」をレビューしていこう。
RHAのMA750
MA750の製品パッケージ
RHAは、イギリスのグラスゴーに本拠を置くヘッドホン・イヤホンの専業メーカー。日本で本格的に展開が始まったのは2013年12月頃で、国内では登場して2年目に入ったばかりの新興メーカーだ。そんなRHAが国内への上陸を果たしたときに、フラッグシップのプレミアムイヤホンとして登場したのが、MA750だ。その後、2014年11月に新しいプレミアムイヤホンとして「T10」が発表され、2015年7月にはT10の進化版「T20」がリリースされているが、その間もMA750の販売は続き、RHA上位イヤホン の“顔”とも言えるようなモデルとなっている。
その人気は、価格.comの「ヘッドホン・イヤホン」カテゴリーの売れ筋ランキングの順位でもおわかりいただけると思う。2015年9月2日時点では6位。過去にはトップ3に入ったこともある。さらに、この製品の価格.comユーザレビューの評価を見ると、満足度は「4.91」(2015年9月2日時点)と非常に高い。この得点は、ヘッドホンも含めた数多くの製品が属する「ヘッドホン・イヤホン」カテゴリーの中でも5位に位置している(2015年9月2日時点)。売れているだけでなく、ユーザーからの評価も高いのだ。評価の内容を見ていくと、コストパフォーマンスの高さを挙げる声が多いことがわかる。「コスパ最高」というクチコミが多く、とにかく、コスパのよさで評価を集めているイヤホンであることが読み取れる。
では、そんなMA750のスペックを見ていこう。MA750は、ダイナミック型ドライバーを1基搭載した、1万円台のカナル型イヤホン。ダイナミック型ドライバー1基という構成は、SHURE、ゼンハイザー、ソニーといった大手メーカーも積極的にリリースしているライバルの多いゾーンである。その中でも埋もれることなく、高いクオリティーを実現している秘密は、細部のパーツにもこだわっていることだ。
特に特徴的なのがドライバーで、RHAが特別に設計したという、ハンドメイドの「560.1ドライバーユニット」を採用。クリアで自然な音色にしつつ、高い空間表現力やパワー、そして精密さを備えているという。詳しい音質については後述するが、確かにそれを実感できるだけの音に仕上がっている。
ハウジングは、素材に、耐久性が高くさびに強い、ステンレス製(303Fグレード)を採用。ボディは削り出しになっており、楽器に似た形状も特徴的だ。この形こそ明瞭度を高めるための工夫で、トランペットの音の出口(いわゆるベルと呼ばれるところだが、この部分の形や大きさを変えることで、最終的な音色が変わると言われている)からヒントを得たデザインという。
ステンレスハウジングを採用
ノズル部は、トランペットの音の出口(ベル)に似たようなデザインとなっている
ノズル径は約5mm。スクリーンには目の細かいメッシュパネル状のものが使われている
再生周波数帯域は16Hz〜40kHzで、周波数特性はフラット。いわゆる、ハイレゾ対応モデルになっており、日本オーディオ協会のハイレゾロゴマークがついた製品となっている。インピーダンスは16オームで、感度は100dB。最大出力は1/5mWとなっている。
カラーバリエーションは用意されていないが、iPhone用コントロール付きマイクを備えた「MA750i」というモデルがラインアップされている。
MA750は音質だけでなく、装着感についてもよく考えられている。一見、大きそうに見えるハウジングだが、外耳道の入り口にすっぽり入るサイズで、おさまりがよい。また、付属品のイヤーチップとして、高密度シリコン(サイズはS/M/L)、ダブルフランジ(サイズはS/M)、形状記憶(サイズはM)と3タイプ6種類用意されており、1万円台のイヤホンの中では付属のイヤーチップが充実しているのも特筆すべき点だ。
なお、ケーブルは耳掛け式となっている。耳に掛ける部分のケーブルは、フィット感を高めるためのカーブ加工がついているほか、ケーブル自体の被覆を丈夫そうなハード素材が採用されている。ラバーに比べれば肌触りは硬いが、悪くない印象だ。
ケーブル自体は高純度OFCケーブルで、接合部はスチールで強化。プラグは金メッキを採用し、形状はストーレートタイプ。L字型ではないため断線しやすいようにも思われるが、根元から2cmの範囲にはスプリングで保護しており、断線しにくい構造となっている。
このように耐久性にも配慮したケーブルだが、少々気になったのが、ねずみ色のケーブルカラーだ。ステンレスハウジングや、スチール強化された接合部など、見た目が華やかなところも多いため、ゴムっぽさに少しギャップを感じるかもしれない。
付属のイヤーチップ。サイズだけでなく形状も豊富
耳に掛けるケーブル部には、耳にフィットしやすいようにカーブが付いている
上段はケーブル分岐部(Y分岐)。下段は金メッキを施した3.5mmステレオミニピン。コネクタはL字型ではなく、ストレートになっているが、スプリングを使用した断線防止が行われている
ケーブルはねずみ色で、太さは実測で3〜4mm程(分岐後は2mm前後)で、ケーブル長は1.35mとなっている
キャリングケースとケーブル止め
今回の試聴では、プレーヤーにAstell&Kernの「AK Jr」を使用。イヤホンとプレーヤーは直接続している。
音の傾向はモニターライクで、どんなジャンルの楽曲でも受け入れてくれる懐の深さがあるサウンドだ。5,000円以下の低価格イヤホンからアップグレードしたときには、音数やS/N感で大きな違いを実感できるはずだ。逆に上位の3〜5万円クラスの高級イヤホンと比べると、細かいところのクオリティでは差を感じるものの、収録された音のスケールを落とすことなく、等身大で再生するという点では、同じようなクオリティーのサウンドを目指しているように感じた。
全体的には、ステンレスボディの採用によって、不要振動がよく抑えられているためか、この価格帯の中では、きわめてクリアなサウンドを実現している。低音もタイトかつキレ良く鳴り、量感もほどほどある。ボーカルはストレートにかつ過不足のない感じで聴こえてくる。高音はやや硬めで抑え込まれている気もするが、極端に刺さることがない。たとえば、Nora Johnsの「Come Away With Me」を聴いてみると、低い音から高い音まで、素直なサウンドが流れてくる。ボーカルのウェットな声質、楽器のこまやかな演奏表現をしっかり拾っており、生々しい感じが伝わってくる。
MA750は、ダイナミックドライバー1基の構成、かつ1万円台前半のカナル型イヤホンとしては、フラットなトーンバランスが特徴的なサウンドだ。音に極端な色付けがないいっぽうで、モニターを思わせるようなただ淡々とした分析的な音にもなっておらず、音源の持つ雰囲気を上手に引き出してくれている印象がある。そういうトーンバランスだからこそ、幅広いジャンルの楽曲を楽しめる。多くの人が好ましいと感じられるサウンドに仕上がっているのではないだろうか。人気の理由も、そうしたサウンドにあると感じた次第だ。