運動をしているとイヤホンが耳から外れてしまう。電車の中だとイヤホンからの音漏れが気になる。こういった悩みを持つ方も多いのではないだろうか。今回、そんな方に注目してほしいイヤホンを紹介したい。アメリカ発の「decibullz」という製品で、15分程度で自分の耳にフィットするイヤホンを作成できるという。価格は9,800円。イヤホンとして見ると、けっして安くはないが、自分の耳にフィットする自分専用のカスタムイヤホンを自分で作れるというところがポイントだ。今回は、このdecibullzを実際に購入し、完成までの工程や、できあがったイヤホンのフィット感をレビューしたい。
なお、「自分の耳にフィットするイヤホン」というと、イヤホンにくわしい方は、音質を最重視した場合の“究極”の選択肢(数万円以上の価格)である「カスタムIEM」を思い浮かべることだろう。ただ、decibullzは、耳穴の周辺、耳介にフィットするように成形するだけで、カスタムIEMのように耳型(インプレッション)を取るわけではないので、その点は覚えておいてほしい。
完成したdecibullzを装着。フィット感はバッチリだった
decibullzは、2015年9月時点で、日本ではAmazonのみでの販売となっているようで、量販店などでは購入できない。
パッケージの内容はいたってシンプルで、イヤホン本体(ケーブル付き)、成形用のモールド、3サイズのイヤーチップ、イヤホンケースとなっている。ちなみに、作り方の手順などが書いた説明書が付属するが、日本語訳ではない。代わりに、日本語で書かれた説明書(PDF)が購入時に登録したメールアドレス宛に届くようになっている。日本語版の取説の準備が間に合わなかったとのことだった。
パッケージの中身は、イヤホン本体、イヤーチップ、モールド、ケース、英語とフランス語の取扱説明書
英語の取説。8つ折りになったA4サイズの紙・片面一枚となっている(裏面はフランス語版)。特に難しい工程はないが、もう少していねいに書いてあると親切だと思った
パッケージの中身をチェックしていて気が付いたのだが、decibullzには、イヤホン本体のスペックがどこにも書いてない。説明書にも、本体が入っていた箱にも、「decibullz」のサイトにも見当たらない。どういったスペックのイヤホンなのかを知ってから購入したい方にとっては、少し気になるところだろう。
続いて、イヤホンの成形の工程や流れを紹介しよう。大まかな流れとしては、沸騰したお湯にモールドを入れ、やわらかくなったらお湯から取り出し、モールドをイヤホンに取り付け、耳に入れて成形する。冷えて固まったら完成。
製品以外に用意するものは以下のとおり。
・沸騰したお湯
・耐熱性のあるカップ
・金属製スプーン
・乾いたタオル(紙タオルは不可)
・タイマー
・鏡
用意するもの
ケースに入ったモールド。ケースごと熱湯に入れる
続いて、製作工程を6つのステップに分けて紹介していこう。
3サイズのイヤーチップから自分の耳に合うものを選択する。
筆者は女性だが、Mサイズでピッタリだった
イヤホンからイヤーチップをはずした図。イヤホンとイヤーチップの間にモールドを挟むイメージ。
お湯を沸かし、沸騰したらモールドをケースごと入れて5分待つ。イヤーチップの装着感を確認している間に、お湯を沸かすと効率がよいだろう。
沸騰した湯に入れて5分待つ
5分たったらスプーンでモールドを取り出し、タオルでお湯を拭き取る。実際取り出すと、モールドは高温になっているので注意が必要だ。実際にやってみると、乾いたタオルで水気を拭き取る際、やわらかくなったモールドにタオルの繊維が付いてしまった。タオルは毛足が短く、縫い目が細かいものがよかったのだろう。そのまま、30秒間放置する。
スプーンでモールドをすくいだす
いよいよ耳介の型取りの開始、モールドをイヤホンに取り付ける。R(右耳用)と書かれたモールドを取り出し、右耳用のイヤホンに装着する。装着の向きは、Rの文字が耳の外側。イヤホンをつけた際にRが見える状態が正しい。
温める前にモールドをつける向きを確認した図。RやLの文字が耳の外側に来るように装着する
ここが重要ポイント。モールドがやわらかいうちにイヤホンごと耳に入れ、鏡を使用してモールド部を耳甲介へ押し付ける。この時のイヤホンの向きで、音の感じ方が変わるとのことなので、実際に音楽を流しながら装着するとよいだろう。
素手で触ると指紋&爪痕がベタベタとついてしまう
実際に装着してみると、みるみるうちにモールドが硬くなっていくので焦った。正直、鏡を見ながらの型取りは慣れないと難しいかもしれない。筆者は、念のため、他人に見てもらいながら型を取ったが、結果正解だった。鏡で見ながらだと、耳の後ろの方は見えないので、どうしてもモールドの厚みに差ができたり、ヨレてしまったりと見た目が悪くなる。その点を、第三者に微調整してもらうとよいだろう。
型を取って待つこと5分で完成! 皮膚のシワや指紋がそのまま形になるので、そのできあがりは、少々グロテスクな印象になるかもしれない。また、説明書によると、続いて「L」と書かれた(左耳用)方のモールドをイヤホンに付けることになっているが、この時点ですでに左耳用のモールドは冷めて固まりかけていた。そのため、左耳用については、再度熱湯につけて1〜2分待ち、やわらかくなってから行った。
できあがり。リアルなので若干グロテスク!?
よく見るとタオル繊維や指紋が目立つ。微細なゴミまでついてしまっていた
せっかくのオリジナルイヤホンなのに、ついてしまった指紋や爪痕、ゴミが気になって仕方がない筆者。そこで、やり直しを実施してみることにした! 説明書によると、フィット感や形に満足がいかない場合、モールドを温めなおすことで再形成が可能とのこと。早速試してみる。温めなおすには、再度熱湯にいれるか、ドライヤーの熱を当ててもよいそうなので、まずはドライヤーを試した。
結果、ドライヤーの風では一部にしか熱がいかなかったり、風でモールドが飛ばされたり、上手く温まらない。また、表面だけしかやわらかくならないので大掛かりな作り直しは難しかった。表面についたゴミやシワを取るのみなら有効だろう。
ドライヤーの風で飛ばされたり、熱が一部にしかいかなかったりとイマイチ上手くいかない
続いて熱湯での作り直しを試すべく、もう一度熱湯に入れて1〜2分放置してみた。結果、1度目と同じように、やわらかくなって上手く型が取れそうな状態になった。ここで、指紋で見た目が悪くならないよう一工夫。ビニール手袋をはめて形成してみたところ、指紋や爪痕が残らず、表面がツルっと綺麗な状態になった。
ビニール手袋なら指先の感覚を損なわず、表面も汚れない
耳に粘度が埋め込まれたような密着感
実際に使用してみたところ、装着感やフィット感は申し分がなかった。耳を圧迫することなく、つけていてもまったく耳が痛くない。このあたりの装着感のよさは、一般的なイヤホン(ユニバーサルタイプ)とは別物。また、外れにくさにも特徴があり、ちょっとケーブルを引っ張ったくらいでは外れないので、スポーツをしながらの使用にも向いてそうだ。
というわけで、実際にdecibullzを装着して、近所のランニングコースを40分程度走ってみた。すると、腕や服にケーブルが引っかかっても外れず、走り終わるまでまったく耳が痛くならず、爽快に走ることができた。
いざランニング!
ただし、遮音性が高すぎて、ランニング中は、周りの音がほとんど聞こえなかった。公道を走る場合は、車のクラクションや自転車のベル音に気がつけない可能性があるので、その危険を考慮すると、使用するのであればかなり気をつける必要がある。スポーツジムでのルームランニングや、安全な室内でのダンスレッスンで使用するのには適していると思う。
もちろん、音漏れも少ない。試しに音量を大きく上げた状態で装着し、どの程度音漏れをするかを他人に確認してもらったが、筆者の耳に10cmほど近づいてやっと小さな音が聞こえる程度とのことだった。ここまで音漏れが少ないのであれば、満員電車での通勤や、人混みの中でも周りに迷惑をかけずに音楽を楽しむことができるはずだ。ちなみに、筆者はこの原稿に執筆すべく、耳栓代わりにイヤホンを使用したところ(小音で音楽を流した場合)、外の人間の声や電話音を遮断することができ、仕事にも集中することができた。
ケーブルにはリモコンが付いており、曲送り、戻し、一時停止などの操作が可能。ただし、音量調節ができないのが少々残念だ。ケーブル自体は細く、耐久性の面では少し不安なところもある
自宅で気軽に、低価格でカスタムイヤホンが作れるというもの珍しさと興味本位で購入したが、decibullzは、フィット感とつけ心地が重要なスポーツ時(使用場所は自己責任)や、音漏れが気になる満員電車の中などで便利に使えると感じた。作り方にはコツがいるが、やり直しがきくので失敗したら使えない、という心配もないはずだ。モールドの成形で見た目がややグロテスクな仕上がりになってしまうが、装着してしまえば遠目にはわかりにくい。カラーバリエーションもブラック、ホワイト、パープル、ブルー、レッド、オレンジの6色展開なので、好みにあった色が選べるのはうれしいポイントだろう。
作りがややチープなところが気になるが、1万円を切る価格を考えると、使用するシチュエーションによっては満足できる一品ではないだろうか。
ちなみに、どうでもよい感想ではあるが、自分の耳にフィットするカスタムイヤホンなので当たり前なのだが、イヤホンの貸し借りができない(=イヤホンを片方ずつつけて同じ音楽を楽しむというカップル遊びができない)のが、作ってみてから気が付いた点であった。