ニューヨーク発のヘッドホン&イヤホンブランド「MASTER & DYNAMIC(マスターアンドダイナミック)」から、牛皮革(ヘビーグレイン・カウハイド)やラム皮(ラムスキン)といった、天然皮革を使用した高級ヘッドホン「MH40」と「MH30」が登場した。価格は、MH40が約5万円〜6万円、MH30が約4万円〜5.5万円。デザイン重視の製品のようにも見えるが、その音は想像以上に本格派で、さらにポータブルで利用できるギミックやマイク付きケーブルを備えるなど、実用的な面もしっかり押さえた製品となっている。今回は、そんなMH40とMH30の魅力をレポートしていこう。
MH40。カラーは左からBLACK/BLACK、GUNMETAL/BLACK、SILVER/BROWN
MH30。カラーは左からBLACK/BLACK、GUNMETAL/BLACK、SILVER/BROWN
MASTER & DYNAMIC(以下、M&D)は、米国のニューヨークに本拠を置くヘッドホン&イヤホンメーカーだ。革新的なサウンドとクリエィティビティの融合をコンセプトにし、高耐久でかつ音質的にもすぐれた高級素材を採用した製品作りがなされているという。音作りでは、ライブ感を一切スポイルしないナチュラルなサウンドとのこと。
M&Dは設立してから日が浅く、国内では今年から本格的に展開が始まったばかり。そのため日本での知名度はまだ低く、むしろ初めて聞いたという人のほうが多いのではないだろうか。Astell&kernなどを担当するアユートが国内代理店を務めることが決まったときに、そこで始めた名前を聞いたという人も多いのではないだろうか。
国内ではまさにこれからのM&Dだが、海外では、ジャズピアニストのRobert GlasperがMH40で音楽を聴いていた写真がアップされたり、あのデビット・ベッカムもMH40を首にかけて空港にいた様子を撮られていたりと、著名人が愛用しているケースもある様子で、アメリカでちょっとした話題になっているようである。今後、注目を集めそうなメーカーであるのは間違いない。
メーカーロゴと同社のテーマ
今回取り上げるMH40とMH30は、セミオープンのような外観が特徴的な密閉型ヘッドホンだ。MH40が上位モデルでオーバーイヤータイプ。MH30が本体を折りたたみできるポータブルに特化した下位モデルで、オンイヤータイプとなっている。搭載するドライバー径の大きさやデザインは違うものの、共通の特徴は多い。その特徴を上げると以下のとおりだ。
●MH40とMH30の共通の特徴
・アルミ素材のイヤーカップ
・ヘッドバンドにプレミアムレザー(裏側はラムスキン)
・ラムスキンイヤーパッド
・イヤーカップの位置調整部にステンレススチール
・シースにWoven(織布)を採用したOFCケーブル
・左右どちらのイヤーカップにも接続できる着脱式ケーブル
・iPhone/iPad/iPodマイクリモコン搭載ケーブル(1.25m)
先述の共通する特徴に加えて、MH40では、45mm径のネオジウムドライバーを採用。イヤーカップの表面にもプレミアムレザーを施し、イヤーカップにはミュートボタンも搭載している。
MH40。ケーブルは左右ハウジングに接続できる
ヘッドバンド表側には、牛皮が施されている。ヘッドバンドの裏側にはラムスキンを使用
フィッティングの調整にはステンレススチール素材を使用した伸縮機構が使われている
イヤーパッドには、クッション性の高いフォームと、肌触りのよりラムスキンがもちいられている
赤いポイントはミュートボタン
標準のケーブルに加えて、iOS系で使えるコントローラーとマイク付ケーブルも付属している
装着例
ふわっとした空気感のある低域、クセのない中立的なボーカル、キレイでクッキリした高域と、聴きやすいトーンバランスが特徴的な音色。低音の量感はややもの足りなさもあるが、繊細な表現をしており迫力より質感を重視した印象だ。(ポスト)ダブステップのような低音の量感が映えるシーンでの表現はやや緩いが、逆に空間的な鳴らし方が上手であるため、音が平面的にならず奥行感を持っている。逆に生楽器での低域はなかなかのクオリティーで、特にベースパートを支えるドラムの音は、ふわっとした空気感がほどよく伝わってくる。とはいえ、低域の量感にもの足りなさを感じてしまう人もいると思うが、いっぽうで中高音とのコントラストが絶妙であるため、トータルでみると雰囲気のいい感じに仕上がっている。特に高域はきれいでのびやか。シャープな質感もあるが、耳に刺さるようなとげとげしさはない。ソフトなエッジになっている。
上原ひろみの「Alive」を聴いてみると、シンバルの音の広がり、キックの生々しさなどが感じられた。キレキレのピアノというわけではないが、音のレスポンスは標準的なクオリティーであると思う。
また、ボーカルは、キーの高いかわいい声から、低めのかっこいいハスキーなまたはウェットなタイプの声まで、クセなく聴こえる。見通しのよさや絶対的な解像感はそこまで高くないものの、一般的なクリアさはしっかり確保している印象だ。
Grace Mahyaのアルバム「Last Recording At Dug」に収録されている「Kiss of Life」を聴いてみると、しっとりとした空間の中に、生々しい声の存在が感じられた。
MH40から、さらにポータブルに特化したのがMH30だ。搭載するドライバー同じネオジムドライバーだが、大きさは40mm径のものを採用している。また、本体は折りたためる構造となっており、カバンの中でもかさばらないようにして持ち運ぶことができる。
MH30では、ハウジング表面に皮革をあしらわず、メタリックなデザインとしている
フィッティングの調整にはステンレススチール素材を使用した伸縮機構が使われている。なお、この長さは国内代理店版では長めに作られており、日本人の頭にフィットしやすいように調整されているという
ヘッドバンド表側には、牛皮が施されている。ヘッドバンドの裏側にはラムスキンを使用
クッション性の高いイヤーパッドは、肌触りのよいラムスキンが使われている
ケーブルは左右ハウジングのどちらにも装着できる
折りたためる構造
装着例
MH30では、低域のエッジをよりはっきりとし、レスポンスよく仕上げている。MH40が自然な低域だとすると、こちらはやや手を加えることで質感・量感ともに心地よくまとめられている印象だ。ドライバーが小さくなった分、低域の表現できる幅は狭まりそうだが、聴感上では部分的にMH40を上回るクオリティーを実現している。MH40とサウンドコンセプトが大きく異なるわけではないが、MH30のスウィートスポットはやや低音寄りという印象がある。また、高域はMH40の良さを引き継いでいるため、全体的に音がシャープな印象だ。ボーカルこそ大きな違いはないが、キーの高い女性だと少し刺さる感じがある。
先述の楽曲と同じKiss of lifeを聴いてみると、しっとりとした空間表現が少し晴れて、やや元気な感じがでてくる。ボーカルについては、大きな違いはないものの、気持ちシャープになった印象だ。
また、ギターのe-ZUKAとボーカルのKISHOWで構成されたGRANRODEOの「Punky Funky Love」に収録されているバラード調の「追憶の輪郭」を聴くと、ドラムスのレスポンスのよさと、エッジのはっきりとしたベースの音が印象に残る。そして男性ボーカルの艶っぽさはそのままに、しっとりと歌いあげてくれる。
以上、今回はM&Dの密閉型ヘッドホンのMH40とMH30を取り上げた。高級な天然皮革を用いたファッション性の高い点ばかりに注目しがちだが、本製品の魅力は、見た目もさることながら音も本格派であること。特に、MH40は、一体感のある聴きやすいサウンドなので、ゼンハイザーのサウンドキャラクターが好きな方なら、アリと思わせる音色になっている。また、マイク付きケーブルを付属したり、MH30では折りたためるギミックを装備するなど、実用面でのスペックも十分。正直いえば価格は高いが、その分、ルックスも機能性も音のクオリティーもよく練られており、自宅にいるときは腰を据えてじっくり聴くだけでなく、ポータブル用途でも満足感の高い製品と言えるだろう。