クラリオンは、2016年7月29日に中野サンプラザで行われた「ポータブルオーディオ研究会 2016夏」(通称ポタ研)の会場内で、フルデジタルサウンドヘッドホン「ZH700FF」の発表会を開催した。同社としては初のヘッドホン製品、しかもフルデジタル伝送でハイレゾにも対応というかなり意欲的な製品だ。ここでは、新製品の特徴をお届けする。
クラリオンのフルデジタルサウンドヘッドホン「ZH700FF」。発売は10月を予定。価格はオープンだが、店頭想定売価は14万円前後を想定しているとのこと
ZH700FFは、独自の「フルデジタルサウンドシステム」を搭載するオーバーヘッドタイプの密閉型ヘッドホンだ。同社は近年、車載用のフルデジタルサウンドシステム製品に注力しており、今回の新製品もこれまでの製品で培ってきた技術を応用して製品化したという。
ポータブルスピーカーやカースピーカーで展開していたフルデジタルサウンドシステムを初めてヘッドホンに導入した
一般的なヘッドホンの場合、D/Aコンバーターやポータブルアンプを介していったんアナログ信号に変換(DA変換)し、その信号を用いてドライバーユニットを駆動させて楽曲を再生するが、ZH700FFは、Trigence Semiconductorが開発した「Dnote技術」を用いることで、デジタル入力からドライバーユニットまでのフルデジタル伝送を実現しているのが最大の特徴となる。
具体的には、専用のLSIを用いて入力されたデジタルデータをアナログ信号に変換せず、「ボイスサーキット」と呼ばれる振動板にダイレクトに電圧をかけて駆動させている。ZH700FFには4つのボイスサーキットがあり、LSIが入力されたデジタル音源のデータを解析し、それぞれのボイスサーキットに+3.3V、-3.3V、0(null)の3種類のうちのいずれかの電圧をかけ、電圧の組み合わせにより-4から+4までの9段階の力で振動板の駆動を制御している。この9段階の力の制御を0.02μsという非常に短い時間周期でコントロールすることで、非常に滑らかな音の表現を実現しているというわけだ。
デジタル信号で駆動させる仕組み。デジタル入力からドライバーユニットまでDA変換が一切なく、音質の劣化を防げるのが最大の利点だ
ボイスサーキットにかける電圧で振動板にかかる力を9段階で制御。これを0.02μsという非常に短い時間周期でコントロールし、滑らかな周波数カーブを表現している
また、最大で4つのボイスサーキットを同時に立ち上げることができるため、音の立ち上がりや立ち下りのレスポンスが非常にすぐれているのも特徴。さらに、音の大きさに合わせ、振動板を大きく動かす必要がないときは、4つのボイスサーキットのうちのいくつかを無効にするといった制御が可能のため、消費電力を低く抑えられるというメリットもある。
複数のボイスサーキットを用いることで、過渡特性と省電力性にすぐれているという
理論上はボイスサーキットの数が多ければ多いほど細かな音の表現が可能になるが、現状のLSIの処理性能と、ボイスサーキットの数が増えることでLSIの処理が重くなって消費電力が増えてしまうこともあり、ZH700FFでは4つのボイスサーキットを採用したとのこと。ちなみに、車載用で展開しているフルデジタルサウンドシステムには、6つのボイスサーキットを採用している。
またZH700FFでは、音源を劣化させずに振動板をダイレクトに駆動できるというフルデジタルサウンドシステムの特徴を最大限に生かすため、「フローティング・フラットドライバー」と呼ばれる独自の平面駆動タイプのドライバーユニットを新たに開発。ボイスサーキットを張り巡らせたシート状の振動板を磁力で浮かせ、振動板の面全体を均一に駆動させることで、一般的な平面駆動方式に比べ、歪みの少ないフラットでクリアなサウンドを実現しているという。
独自のフローティング・フラットドライバーでは、磁力で振動板を浮かせるという構造上、振動板の動きを妨げるエッジやダンパーがないため、一般的な平面方式の振動板よりも低歪み特性にすぐれているという
デジタル入力については、USB入力(microUSB)と光デジタル入力(丸型)の2系統用意しており、いずれも192kHz/24bitまでのPCM音源をサポートしている。USBデジタルオーディオ出力はUSB Audio Class 2.0規格に準拠しており、USBデジタルオーディオ出力対応のAndroidスマートフォンなら、OTGケーブルを介してハイレゾ音源を楽しめる。ちなみに、公式にアナウンスはされていないが、iPhoneもカメラコネクションキットを使えば利用可能とのことだ。
また、光デジタルと兼用となるが、3.5mmステレオミニ入力を用いたアナログ入力もサポートしている。入力される音声データをAD変換してから処理するため、完全デジタル伝送とはならないものの、デジタル出力を持たないスマートフォンやDAPに収録されている楽曲も楽しめる。
デジタル入力はUSBデジタルと光デジタルの2系統用意。アナログ入力もサポートする
左ハウジング部には、microUSBポート、光デジタル兼用3.5mmステレオミニポート、電源ボタンを、右ハウジング部には、ボリュームボタンを装備する
バッテリーはハウジング部に内蔵されており、駆動時間はUSBデジタル接続で約6時間、光デジタル接続で約12時間、アナログ接続で約10時間となる。なお、左ハウジング部には、バッテリー残量を色で確認できるLEDイルミネーションも用意されている。
LEDイルミネーションの色で内蔵バッテリーの残量を確認できる
本体アーム部は、美しい質感と強度を兼ね備えたアルミ素材を使用し、滑らかな曲線をデザインに取り入れている。デジタル回路をハウジングに収めている製品構造上、内部ケーブルが多くなってしまったため、ドライバーユニットを片側だけで支えるこの形状にすることで、ケーブル配線の最適化とデザイン性を両立したという。
滑らかな曲線を描くアーム部。アルミ素材を使用し、デザイン性だけでなく耐久性にも配慮している
このほか、イヤーパッドは立体縫製仕上げを採用し、フィット感と気密性を追求。前後で厚みに変化をつけ、振動板からの音の方向を最適化することで、音像を理想的な音の方向である前方へ定位させている。
同社初のヘッドホン製品ということで、ユーザーやさまざまな識者から意見を求め、装着感にも非常にこだわったという
正面からみると、イヤーパッドの前後で角度が違うことがしっかりと確認できる
かなり肉厚のイヤーパッドとなっており、装着感は良好。ちなみに、イヤーパッドの別売りも検討中とのことだ