Campfire Audio(キャンプファイヤー オーディオ)は、イヤホン向けリケーブルやヘッドホンアンプなどで知られるALO audioのケン・ボール氏が設立したオーディオブランド。現在のところ、ラインアップはカナル型イヤホンがメインとなっていて、全ての製品でオリジナリティ溢れるデザインの金属筐体を採用し、アメリカ国内で職人によるハンドメイド製造を行っているのが大きな特徴だ。
Campfire Audioの現行ラインアップ
そういったこだわり派の製品コンセプトが好評を博しているのか、ケン・ボール氏の知名度も手伝ってか、はたまたフラッグシップモデル「ANDROMEDA」の好評さもあってか、2015年の設立からわずか2年足らずという若いブランドながらも、日本のポータブルオーディオファンの間ではすでに名の通った存在となっている。
そんなCampfire Audioから、この冬の新製品として2モデルが登場。さらに、既存モデルも外装がセラミックコーティングに変更されるなど、2016年冬に早くも大幅な刷新が行われており、筆者も最新のラインアップ状況を把握し切れていなかった。そこで、今回はCampfire Audioの新モデルをメインに、全7製品の特徴を紹介&レビューさせていただこうと思う。
ちなみに、今回の試聴ではAstell&Kern「AK70」とQUESTYLE「QP1R」のDAP2台をメインに活用。念のため、据え置きヘッドホンアンプ(BURSON AUDIO「Soloist SL MK2」)での試聴も行っている。
個々の製品紹介を始める前に、まずは全体の製品構成を把握するためにも、ラインアップの概要について紹介していこう。先に登場した新製品を含め、現在販売されているモデルは7つ。そのうち、ダイナミック型ドライバーを搭載しているのが「VEGA」と「LYRA II」の2モデル。BAドライバーとダイナミック型ドライバーをハイブリッド搭載しているのが「DORADO」1モデル、BAドライバーを搭載しているのが「ANDROMEDA」「JUPITER CK」「NOVA CK」「ORION CK」の4モデルだ。
筐体に関しては、ダイナミック型ドライバーを搭載する3モデル(ハイブリッド構成の「DORADO」含む)が新開発のリキッドメタル合金製を採用。プラス、表面にはPVD加工が施されている。いっぽう、BAドライバー搭載の4モデルに関しては、アルミ切削ボディを採用。表面処理に関しては、最上級の「ANDROMEDA」のみがアルマイト加工の表面処理となり、残りの3モデルは新規に採用された“CK”セラミックコーティング仕上げとなっている。
加えて、全モデルともに着脱式ケーブルを採用する。コネクター部は、独自のカスタムによって安定した接続を確保したという、ベリリウム銅素材のMMCX端子が採用されている。
Campfire Audio「VEGA」
Campfire Audio初となる、リキッドメタル合金筐体採用モデル。その内部には、厚さ9ミクロンのADLC(アモルファス・ダイヤモンド・ライク・カーボン)膜をコーティングした8.5mmドライバーが搭載されている。
とてつもなくフォーカス感が高く、ダイレクトでキレのよい音。ワイドレンジながら、中高域を重視したイメージのサウンドバランスで、音楽がとてもピュアに感じられる。なかでも「QP1R」との組み合わせが絶品。マイクの種類ばかりか、ボーカルのその日のコンディションまで伝わってきそうな、とてつもなくリアルな歌声を聴かせてくれる。「AK70」との組み合わせも悪くない。こちらの方が、声のかすれがやや落ち着く印象だ。いっぽうで、「Soloist SL MK2」だと音の堅さが目立って感じられた。
Campfire Audio「LYRA II」
2015年に発売された、Campfire Audio初のダイナミック型ドライバー搭載モデル「LYRA」にリキッドメタル合金筐体を組み合わせた進化版。ドライバーユニットは、同じくベリリウムPVDコーティングが施された8.5mmダイナミック型が搭載されている。
活き活きとした、しなやかな歌声が楽しめる。フォーカスの高い低域と、ヌケのよい伸びやかな高域との組み合わせによって、演奏がとても印象的に感じられつつ、聴き心地のよいサウンドが楽しめる。特に高域は、かなりの鋭いキレを持ち合わせているのだが、全くといっていいほど耳に刺さらず、うるさくない音色なのがとても好ましい。
同じダイナミック型ドライバー搭載モデル「VEGA」とは、かなりキャラクターが異なっているのが興味深い。ダイレクト&リアル志向の「VEGA」に対して、「LYRA II」はそれなりのダイレクト感を確保しつつも聴き心地のよさ、自然な音色を大切にしているイメージがある。どちらがベストかは、好み次第だろう。
Campfire Audio「DORADO」
Campfire Audio初のハイブリッド型イヤホン。「LYRA II」にも採用されている8.5mm口径のベリリウムPVDコーティング・ダイナミック型ドライバーに、高域用のBAドライバー2基が組み合わせられた3ドライバー構成となっている。また、BAドライバーはフラッグシップモデル「AMDROMEDA」と同じく、音導管を使用しないチューブレス方式「TAEC(Tuned Acoustic Expansion Chamber)」を採用している(一般的な高級カナル型イヤホンはBAドライバーユニットごとに音導管を使用するのが一般的)。
3ドライバー構成の恩恵か、低域、高域ともに余裕のある自然な帯域バランスを持つサウンド。音色傾向としても、ハイブリッド型とは思えない一体感があって、とても自然に感じられる。おかげで、女性ボーカルはのびのびとした歌声が楽しめるし、ピアノの演奏も普段よりも幾分広がり感の良好なサウンドに感じられる。
DAPとの相性についても、(意外にも!?)いちばん融通が利きやすいタイプで、「AK70」でも「QP1R」でもしっかりとフォーカスのよさを確保しつつ、ストレスのない伸びやかなサウンドを聴かせてくれた。
Campfire Audio「ANDROMEDA」
Campfire Audioのフラッグシップモデル。アルマイト加工が施された独自デザインのアルミ筐体に、5基のBAドライバーが搭載されている。また、音導管を使用しない独自設計構造「TAEC(Tuned Acoustic Expansion Chamber)」を採用することで、中域の表現力、および低域から高域にかけての安定した階調が得られているという。
ドライバー数は多ければ多いほどよい訳ではないことは重々承知なのだが、ついつい、多いと嬉しくなってしまうのもまた事実だろう。そういった意味で、(Campfire Audio製品のなかでも)注目度の高いモデルとなっているこの「ANDROMEDA」だが、ただドライバー数が多いだけではない、質のよいサウンドを持ち合わせているところがこの製品のアドバンテージといえる。
端的にいうと、整いのよいウェルバランスなサウンドバランスでありながらも、距離感の近いダイレクトな音に仕上げられているのだ。中域にしっかりとした音の厚みを持ち、変なピークのない一体感のあるサウンドでありながらも、抑揚がしっかりとしていて、細やかなニュアンスまでしっかりと届いてくる、距離感の近いサウンド。これぞ、TAECの恩恵なのだろうが、なかなかに素晴らしい。
いっぽう、音色傾向としては、ボーカルはややハスキーなイメージ。アコースティックギターなどは弦の直接音が目立つ印象で、BAドライバーらしいキレのよいサウンドキャラクターといえる。
Campfire Audio「JUPITER CK」
音導管を使用しない独自設計構造「TAEC(Tuned Acoustic Expansion Chamber)」を採用する4BAドライバー搭載モデル。2015年に発売されたオリジナルモデルに対して、アルミ製筐体のコーティングをセラミック仕上げへと変更。着脱式のケーブルも現在のデフォルトである「Litz Wire Earphone Cable」に変更されている。
ピュアでフォーカス感の高いサウンドというべきだろうか、とても素直な音がする。マルチBAらしい解像感の高さを持ち合わせているのだが、まるでシングルかデュアルのような、まとまりのよいピュアな音色がする。おかげで、バイオリンが表情豊かな音を聴かせてくれたり、女性ボーカルが色っぽく感じられたりと、表現自体に魅力が感じられる。
Campfire Audio「NOVA CK」
フルレンジBAドライバーをデュアル搭載するモデル。筐体はアルミ筐体にセラミックコーティングを施した“CK”を採用する。
パワフルで勢いのあるサウンド。シングルBAらしい中域を重視したイメージの音色傾向だが、デュアル構成の恩恵か、音にしっかりとした厚みがある。また、左右方向に大きめのステージングを持ち合わせている点も好印象だ。
Campfire Audio「ORION CK」
フルレンジBAドライバーを1基搭載したCampfire Audioのスタンダートモデル。筐体は他のBAドライバー搭載モデル同様、アルミ筐体にセラミックコーティングを施した“CK”バージョンへと変更されている。
シングルBAらしいピュアで暖かみのある音。特にボーカルの活き活きとした表現が好ましく、女性ボーカルは優しさと艶っぽさが同居するなんとも魅力的な歌声を聴かせてくれる。新採用となった「Litz Wire Earphone Cable」との相性がなかなかに良好であるため、新しいCKバージョンではなく、オリジナルバージョンを購入した人には、ケーブルの交換をお勧めしたい。
このように、Campfire Audioはわずか1年余りで7モデルもの新製品をラインアップ。しかも、そのうち6モデルを2016年11月以降に刷新しているという、いま大いに活気あるブランドのひとつとなっている。その良質なサウンドも含め、是非ともいちどはチェックして欲しい。