オリンパス「Tough TG-5」
デジタルカメラ、特にコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)市場は、ここ数年市場全体が縮小しており、新モデルの話題もほとんど上がってこない状態が続いている。そんなコンデジ市場を今にぎわせている1台の製品がある。それが、オリンパスが2017年6月23日に発売した、タフネス仕様のコンパクトデジカメ「Tough TG-5」である。
「Tough TG-5」の最大の特徴は、アウトドアシーンでフルに活用できるタフネスボディだ。水深15mまでの防水性能(IPX8相当)や、IP6X相当の防塵性能に加え、耐衝撃2.1m、耐荷重100kgf、耐低温-10℃という、これまでのシリーズ同様の仕様に加え、本モデルでは耐結露まで加えたタフネスボディを採用。レンズ部の保護ガラスをダブルガラス構造にすることで、温度差の大きな環境でも、結露しにくくなった。
こうしたタフネスボディに加え、光学系も本モデルでは刷新されており、F2.0の明るいレンズに加えて、新開発の1200万画素「Hi-speed 裏面照射型CMOSイメージセンサー」と、同社のフラッグシップ機「OM-D E-M1 MarkII」にも搭載される高速画像処理エンジン「TruePic VIII」を採用。ISO12800までの高感度撮影にも対応するなど、暗がりでの撮影にもより強くなった。
また、撮影機能では、4種類のマクロモード(顕微鏡モード、顕微鏡コントロールモード、深度合成モード、フォーカスブラケットモード)に対応するのが特徴で、なかでも、昆虫などの小さな被写体にかなり寄って撮れる「顕微鏡モード」が人気。このほか、水中撮影用の「水中モード」などユニークな撮影モードを搭載する。動画撮影では、4K撮影に対応。フルHD対応の120fps「ハイスピードムービー」も備える。スマートフォンのアプリと連携することで、緯度・経度、温度、標高(水深)などの情報を写真に付加することも可能だ。
このように、「Tough TG-5」は、海や山などアウトドアのさまざまなシーンで幅広く使えるタフネス性能を持ちつつも、コンパクトデジカメとしての性能もしっかり磨き上げられ、さらに本機独自のさまざまな撮影モードを備えた、ユニークな製品に仕上がっている。
図1:「デジタルカメラ」カテゴリーにおける売れ筋5製品のアクセス推移(過去3か月)
図2:「デジタルカメラ」カテゴリーにおける売れ筋5製品の売れ筋ランキング推移(過去3か月)
図1は、「価格.comトレンドサーチ」で見た、「デジタルカメラ」カテゴリーにおける売れ筋5製品のアクセス推移を示したもの。これを見ると、「Tough TG-5」が発売された6月23日を境に、本機のアクセスが一気にピークに達しており、ほかの製品を大きく引き離しての首位に躍り出ていることがわかる。図2の売れ筋ランキング推移を見ても、発売日の6月23日以降、本機が首位の座をキープしており、安定して売れていることがわかる。なお、本機に続く2位(本機発売まではほぼ首位)で売れているキヤノンの「PowerShot SX720 HS」は、2016年3月発売のロングセラーモデルで、今年の4月に発売された後継モデル「PowerShot SX730 HS」は、現状、売れ筋ランキングでは20位圏内に入っていない。
図3:「デジタルカメラ」カテゴリーにおける売れ筋5製品の最安価格推移(過去3か月)
図4:「Tough TG-5」の最安価格推移(過去3か月)
図3は、上記売れ筋5製品の最安価格推移を示したもの。売れ筋ランキングで4位に入っているソニー「サイバーショット DSC-RX100M5」だけは、10万円近いプライスの高級コンデジの類で群を抜いているものの、そのほかの製品は2〜3万円台のプライスで推移しており、コンパクトデジカメでは、これくらいの価格帯の製品が売れ筋であることがわかる。これに対し「Tough TG-5」の2017年8月2日時点での最安価格は48,360円と、決して安くはない。人気製品だけに、発売から約1か月経ってもほとんど値崩れしておらず、むしろ、7月上旬に一度45,000円台にまで落ちた最安価格が、夏休み本番の8月にかけて徐々に上がってきているくらいだ(図4)。
このように、やや低迷が続くコンデジ市場の中で見ると、「Tough TG-5」はかなり特異な存在であり、2〜3万円が主流のコンパクトデジカメの中では、数少ない付加価値によって、高価格を維持している製品ということができそうだ。
図5:防水コンデジ・主要5製品の売れ筋ランキング推移(過去3か月)
図6:防水コンデジ・主要5製品の最安価格推移(過去3か月)
なお、本機が属する「防水コンデジ」というジャンルで見てみても、この傾向は顕著だ。図5は、防水コンデジ・主要5製品の売れ筋ランキング推移を示したものだが、他の製品がよくてもランキング10位程度でとどまっているのに対し、「Tough TG-5」は圧倒的な人気で首位を独走しているのがよくわかる。図6の最安価格推移を見ても、本機の価格は、防水コンデジの中でも頭ひとつ抜けて高めになっており、従来モデル「STYLUS Tough TG-4」に比べても、現時点で約1万円近い差がついている。
このように、防水・タフネスモデルの中でも、機能性が高く、価格も高めで推移している「Tough TG-5」であるわけだが、その人気は今のところ衰える様子を見せない。その人気の理由はどこにあるのだろうか。
図7:「Tough TG-5」のユーザー評価(2017年8月2日時点)
図7は、2017年8月2日時点における「Tough TG-5」のユーザー評価を示したものだ。現状でのユーザー満足度は4.78(評価者数8名)と、同様の防水・タフネスモデルの中でも、満足度は高い。細かい項目別に見ると、「機能性」が突出して高く、4.82というかなり高い評価を得ていることがわかる。実はそのほかの項目では、さして高い評価はなく、むしろカテゴリー平均値を下回っている項目も多いので、やはり本機の魅力は、この機能性に集約されていると言ってもよさそうだ。
ユーザーレビューをつぶさに読んでいくと、本機が搭載しているユニーク機能のひとつ「顕微鏡モード」を評価する声が目立つ。「顕微鏡モード、特に深度合成は面白いですね。昆虫好きの息子には、とても嬉しい機能です」「1cmマクロから光学ズームで寄れる顕微鏡モードは感動的ですね。そのまま動画撮影もできます」「電子タバコについてのブログやっているのですが、それ用のカメラとして購入しました。小さい部品などがアップで綺麗に撮れて満足しています。深度合成も良いですね」など、このモードで、細かいマクロ写真を撮影して楽しんでいるユーザーは多いようだ。
また、画質に関しても、本機では着実な進化を遂げていると評価されており、「TG-3 よりも確実に良くなっています」「最近のハイエンドスマホと比較しても同等あるいはそれ以上の画質です。ISO6400程度までならスナップ写真なら問題なく使用できます」「TG4の完成度が高かっただけに、それほどの性能向上、機能向上は一見感じませんが、少し使ってみたところ、画像処理エンジンの更新が効いているのか、画質は明らかに向上していました」など、1/2.3インチという小さなセンサーの割には、かなりよく撮影できるという意見が多い。タフネスコンデジというと、画質が二の次になってしまうケースも多い中、本機については、画質部分もしっかり作り込まれており、そこに好感を持つユーザーも多そうだ。
本機のようなタフネスコンデジは、海や山などのアウトドア使用を前提とした目的特化型なので、万人に受けるというわけではない。それでも、本機が、低迷するコンデジ市場でここまでフォーカスされるようになったのは、かつてのコンデジが担っていたスナップ用途の写真撮影がスマートフォンにほぼ完全にシフトしてしまった後での、コンデジの利用用途の大きな部分として、アウトドアでタフに使えるタフネスコンデジの需要が相対的に上がってきたからだろう。なかでも、タフネス性能と光学性能、そして、独自のユニークな撮影モードがうまくバランスされた「Tough TG-5」は、時代が求めるひとつのコンデジの理想像として、高い支持を得ているものと考えられる。
価格.comの編集統括を務める総編集長。パソコン、家電、業界動向など、全般に詳しい。人呼んで「価格.comのご意見番」。自称「イタリア人」。