画質は、さすがにAPS-Cセンサーを採用するだけあって、高感度でもノイズの少ない描写が得られる。色再現性や階調性も豊かなうえ、オートホワイトバランスの精度も十分。APS-Cコンデジとしては及第点の画質だと思う。
ただし、ほかでは得られないような高画質なJPEG撮影を楽しめることがウリの富士フイルムのデジカメとしては、いくつか気になるところもある。色描写は、ベイヤー配列の一般的なCMOSセンサーであるためか、X-Trans CMOSセンサー機と比べると深い色が得にくいというのが正直なところ。青色や緑色は問題ないが、仕上がり設定「フィルムシミュレーション」のモードによらず、赤系の色が潰れてしまうことが多かったのも気になった。RAWで撮って撮影後の編集が前提であればそれほど気にすることはないが、富士フイルムのJPEG画質に期待してこのカメラを選ぶのであれば注意しておきたい。
また、マルチ測光だと露出が明るめになることが多く、トーンのピークを中間からハイライト側に来るように仕上げる傾向が強いのも押さえておきたい点だ。好みの問題ではあるが、XF10は、どちらかというとエントリー向けの画質に仕上げるようになっているようだ。使い始めはハイライト側の大部分が飛んでしまったり、コントラスト感のないのっぺりとした塗り絵のような写真になってしまうことが多かった。露出補正だけでは調整が難しく、ややクセのがある画像処理だと感じた。
計11種類のフィルムシミュレーションに対応。第3世代以降のX-Trans CMOSセンサー機とは異なり、ディテールや質感の描写にすぐれ、自然な粒状感が得られるモノクロモード「ACROS」には非対応となっている
ボディ内RAW現像に対応。ハイライトトーンやシャドウトーンなど細かい画質設定も調整できる
XF10、ISO200、F8、1/220秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード、ダイナミックレンジ:100%、JPEG
撮影写真(6000×4000、6.6MB)
停泊中の大型クルーズ船を撮影した作例。逆光気味で撮っているがシャドウ側は潰れすぎることなく、トーンがしっかりと出ている。周辺まで細かいところの解像感が高く、レンズ性能も十分であることが伝わるはずだ。
XF10、ISO200、F8、1/420秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド、ダイナミックレンジ:100%、JPEG
撮影写真(4000×6000、10.5MB)
フィルムシミュレーションに鮮やかな色再現のVelviaを選択。XF10は赤系の色のディテールが潰れてしまうことが多いのが気になったが、この作例ではピンクのマーガレットの色が正確に再現できている。オートホワイトバランスの精度も高い。
XF10、ISO200、F2.8、1/150秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード、ダイナミックレンジ:100%、JPEG
撮影写真(6000×4000、7.9MB)
チューリップに近づいて開放F2.8で撮影。レンズの焦点距離は18.5mmと短いが被写体に近づくことでボケを生かした表現も楽しむことができる。ボケは輪郭の色付きが比較的少なく、二線ボケもそれほど気にならない印象を受ける。
XF10、ISO200、F5.6、1/80秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード、ダイナミックレンジ:100%、JPEG
撮影写真(4000×6000、10.0MB)
水たまりのリフレクションを撮影。絞りはF5.6にして、背景がわずかにボケるようにした。ピントを合わせたところでは濡れた道路や落ち葉の質感がうまく再現できていると思う。
XF10、ISO200、F14、1/900秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード、ダイナミックレンジ:100%、JPEG
撮影写真(6000×4000、4.9MB)
逆光耐性をチェックした1枚。太陽を画面に入れているためさすがにゴーストが出ているところはあるが、それほど気にならない印象。絞り羽根は9枚なので光芒は18本。F11以降に絞ると強い光芒が現れる。
XF10、ISO200、F5.6、1/680秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド、ダイナミックレンジ:100%、JPEG
撮影写真(4000×6000、5.1MB)
こってりとした色再現を狙ってVelviaを選択し、造花を撮影。X-Trans CMOSセンサー機ほどの鮮烈な印象の色再現ではないものの深い色が得られた。
XF10、ISO250、F2.8、1/120秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト、ダイナミックレンジ:100%、JPEG
撮影写真(6000×4000、6.2MB)
この作例はフィルムシミュレーションをASTIAに設定。やわらかい印象のトーンに仕上がった。それほど背景との距離がない状況だが十分なボケが得られた。
XF10、ISO500、F2.8、1/28秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:クラシッククローム、ダイナミックレンジ:100%、JPEG
撮影写真(6000×4000、6.8MB)
ガラスのリフレクションを生かして、棚の中にある古いレコードジャケットを撮影。フィルムシミュレーションは発色を抑えて、落ち着いた印象に仕上げるクラシッククロームを選択した。
XF10、ISO3200、F2.8、1/90秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:クラシッククローム、ダイナミックレンジ:100%、JPEG
撮影写真(6000×4000、6.1MB)
古いタイプライターを最短撮影距離付近で撮影。XF10はマクロ性能も高く、最短撮影距離はレンズ先端から約10cm。テーブルフォトにも使いやすいカメラだ。また、この作例は感度をISO3200まで上げたためノイズリダクションの影響が見られるが、ディテールは十分残っている。
XF10、ISO200、F2.8、1/90秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード、ダイナミックレンジ:100%、デジタルテレコン50mm使用、JPEG
撮影写真(6000×4000、6.0MB)
XF10には、35mm相当の画角と50mm相当の画角を選択できるデジタルテレコン機能が搭載されている。画角にあわせてトリミングするのではなく、超解像処理によって画素補間を行う機能だ。この作例は50mmのデジタルテレコンを使用。さすがにディテールは失われているが、SNSなどに公開してスマートフォンやタブレットで鑑賞する分には十分な画質ではないだろうか。なお、デジタルテレコンはJPEG記録時のみ利用できる機能なので注意したい。
XF10、ISO200、F8、1/750秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:モノクロ+Rフィルター、ダイナミックレンジ:100%、JPEG
撮影写真(4000×6000、5.3MB)
富士フイルムのデジカメはモノクロモードが充実しているのも魅力。ACROSに対応しないのは残念だが、イエロー/レッド/グリーンのフィルター効果は用意されている。この作例ではレッドフィルターを選択して青空の色を暗く落としてみた。
XF10、ISO1600、F2.8、1/28秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード、ダイナミックレンジ:100%、JPEG
撮影写真(4000×6000、6.6MB)
手ブレ補正非搭載なので暗いところで使いにくいところはあるが、ISO6400程度までの高感度を許容できるのであれば、開放F2.8限定の条件は付くものの、暗い屋内や夜のスナップ撮影にも十分に対応できる。この作例は比較的明るい被写体だったのでISO1600で撮れたが、夜の街並みだとISO3200〜6400の高感度が必要になる。
以上、スナップ撮影での使い勝手に注目してXF10をレビューした。あくまでもスナップ撮影用としての実力を見たわけだが、高いポテンシャルを秘めていると思う。価格.com最安価格で40,000円台(※2019年4月19日時点)という価格は非常にお買い得だ。道具として使い倒す、という意識でどんどん撮ってみたくなるカメラだ。
最大の問題点はAFが遅いことだろう。AFのどこまで利用するかによってこのカメラに対する印象は変わってくると思う。スナップ撮影でもAF撮影が中心になるなら使っていてストレスを感じることが多くなるだろう。いっぽう、スナップショット機能を活用してパンフォーカスで撮ることを重視するなら、とても使い勝手のよいカメラだ。「スナップショット機能のみで撮る」と割り切ってストリートスナップ用として使うのもいいだろう。
XF10とGR IIIのどちらを選ぶかで悩んでいる方は手ブレ補正の有無や画質などに注目するかもしれないが、もっとも大きな差は撮影のレスポンスだと思う。起動スピードは両モデルでほぼ変わりないが、撮影後の復旧、メニュー画面の操作、タッチパネルの反応など細かいところのレスポンスに関してはGR IIIが上回る。レスポンスが最優先で予算が許すならGR IIIを選ぶのがベターだ。
フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣を持つ。フォトグラファーとしても活動中。