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小型・軽量化を実現できる「電子補正前提のミラーレス用レンズ」は是か非か

デジタル一眼カメラの主流が一眼レフからミラーレスになって、レンズの設計も変わってきている。設計の自由度が上がったことで、より光学性能の高いレンズが続々と登場していることとあわせて、「システムとしてのレンズ」の側面も強くなってきている。本記事では、ここ数年の間に徐々に増えてきた、カメラ側での電子的な歪曲収差補正を前提に設計された「電子補正前提のミラーレス用レンズ」の良し悪しについて考察していきたい。

ミラーレスでは、電子的な歪曲収差補正を前提に設計されたレンズが増えてきている

ミラーレスでは、電子的な歪曲収差補正を前提に設計されたレンズが増えてきている

ミラーレスになって電子的な補正をより積極的に活用できるようになった

デジタル一眼カメラは、一部の機種を除いて、レンズの歪曲収差、色収差、回折、周辺減光などを電子的に補正する機能を搭載している。メーカーや機種によって非対応の機能があったり、ユーザーが機能のオン・オフを選択できないものがあったり、裏側で自動で働くようになっていて機能の働きが見えないものがあったりといった違いはあるものの、レンズそれぞれの特性にあわせた補正をカメラ側で行うのは共通だ。レンズとカメラのシステムとして画像処理を行うことで、画面全域で高画質を実現するようになっている。

こうした電子的な補正機能は、デジタル一眼レフでは、レンズ側で抑えきれない収差を補正する補助的な位置付けだった。ミラーレスでも、レンズの光学性能を補助する機能であることは変わりないが、一眼レフと比べると、より積極的に取り入れられるようになっている。

一眼レフは、レンズを通った光を光学ファインダーで見る仕組みで、特に歪曲収差と周辺減光については、できる限り光学的に抑える必要がある。いっぽう、ミラーレスは、電子ビューファインダーやモニターにライブビュー映像を表示する仕組みで、電子補正後の映像をファインダー/モニターに映すことができる。ミラーレスでは、極端に言えば、カメラ側の画像処理で対応できるのであれば、レンズ側で大きな収差が出ても撮影上の問題はほぼ発生しない。この仕組みの違いによって、ミラーレスは、一眼レフよりも電子的な補正機能を活用しやすいのである。

その結果というわけではないが、ミラーレス用だからこそのレンズとして生まれたのが、電子的な歪曲収差補正を前提にした光学設計を採用する「電子補正前提のレンズ」だ。レンズ単体では、これまででは考えられないような大きな歪曲収差が発生するが、それをカメラ側の画像補正で打ち消す設計になっているのが特徴である。このタイプのレンズは、ミラーレスが商品化した当初からなかったわけではないが、フルサイズミラーレスが一眼カメラ市場の中心になってから、ここ数年の間に徐々に増えてきている。

歪曲収差補正をカメラ側にゆだねるメリットは、光学的に抑制する必要がある収差がひとつなくなるため、レンズをよりコンパクトに設計できることに尽きる。なかには、一眼レフ用の同等スペック品と比べて、大幅な小型・軽量化を実現しているものもあるほどだ。

電子補正前提のレンズは、カメラに装着すると歪曲収差補正機能が自動でオンになる。基本的にユーザーが機能のオン・オフを選択することはできない(画像はキヤノンのミラーレスの設定画面)

電子補正前提のレンズは、カメラに装着すると歪曲収差補正機能が自動でオンになる。基本的にユーザーが機能のオン・オフを選択することはできない(画像はキヤノンのミラーレスの設定画面)

電子補正前提レンズの、レンズ単体での歪曲収差をチェック

電子補正前提のレンズは、対応のカメラに装着して撮影したり、メーカー純正のRAW現像ソフトで画像編集を行う限り、自動かつ強制的に歪曲収差補正が適用される。そのため、ユーザーは、補正を意識することなく撮影・使用することができる。

とはいえ、そういったレンズが、レンズ単体でどのくらいの歪曲収差が発生するのかは気になるところだろう。以下に、電子補正前提のレンズの収差具合がわかる比較画像をいくつか掲載しよう。電子補正(歪曲収差補正+周辺光量補正)が入ったJPEG撮って出しの写真と、その写真のRAWデータを補正のない(レンズプロファイル未適用の)状態で現像したものになる。なお、補正のないものは、サードパーティー製のRAW現像ソフトを使用しているため、JPEG撮って出しとは色味やトーンが異なる仕上がりになっている。周辺光量補正もオフになっているので周辺減光も発生している。

キヤノン「RF16mm F2.8 STM」

ニコン「NIKKOR Z 14-30mm f/4 S」

パナソニック「LUMIX S PRO 50mm F1.4」

上に掲載した比較画像で使用したレンズは、キヤノンの超広角・単焦点レンズ「RF16mm F2.8 STM」、ニコンの超広角ズームレンズ「NIKKOR Z 14-30mm f/4 S」、パナソニックの大口径・標準レンズ「LUMIX S PRO 50mm F1.4」の3本。いずれも電子的な歪曲収差補正を活用していることで知られているレンズで、レンズ単体では、カメラ側の補正がないと写真として成り立たないくらいの歪曲収差(いずれもタル型収差)が発生する。

こうした電子補正前提のミラーレス用レンズは、特に、実売10万円を切る普及型のズームレンズや、コンパクトな設計の広角レンズを中心に広がりを見せている。その中には、歪曲収差だけでなく、倍率色収差や周辺減光など周辺部の補正をカメラ側にゆだねているものもある。また、比較画像を掲載した「NIKKOR Z 14-30mm f/4 S」(2022年3月29日時点での価格.com最安価格139,660 円)や、「LUMIX S PRO 50mm F1.4」(同245,520円)のような高価格な製品にも電子補正前提のものは存在する。

撮って出しの写真は思った以上に高画質

上の項目で掲載した比較画像を見て、レンズ単体での歪曲収差の大きさに驚いた人もいることだろう。電子的な補正によって周辺部の画質が劣化することを心配する人も少なくないはずだ。確かに、大きなタル型収差を補正するために周辺部を大きく引き伸ばすような画像処理が必要になるので、補正後の画像は、元のRAWデータと比べて周辺部のシャープネスは落ちることになる。

だが、実際のところ、電子補正前提のレンズで撮影した写真は、意外に周辺部の画質が悪くない。言われなければ電子的に補正していることに気が付かないものがほとんどだ。これは、レンズの光学設計とカメラの画像処理がシステムとして最適化されているのが大きいのだろう。光学設計の手を抜いているわけではなく、対応するカメラで補正しやすい形になるように工夫されているようだ。以下に、先に紹介した3本のレンズを使って撮影した、JPEG撮って出しの作例を掲載しておく。周辺部も十分にシャープなことがわかるはずだ。

RF16mm F2.8 STM、EOS R5、F11、1/60秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:ディテール重視撮影写真(8192×5464、10.8MB)

RF16mm F2.8 STM、EOS R5、F11、1/60秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:ディテール重視
撮影写真(8192×5464、10.8MB)

上の作例の周辺部を等倍で切り出した画像

上の作例の周辺部を等倍で切り出した画像

NIKKOR Z 14-30mm f/4 S、Z 6、14mm、F6.3、1/250秒、ISO100、WB:オート1(雰囲気を残す)、ピクチャーコントロール:オート撮影写真(6048×4024、12.4MB)

NIKKOR Z 14-30mm f/4 S、Z 6、14mm、F6.3、1/250秒、ISO100、WB:オート1(雰囲気を残す)、ピクチャーコントロール:オート
撮影写真(6048×4024、12.4MB)

上の作例の周辺部を等倍で切り出した画像

上の作例の周辺部を等倍で切り出した画像

LUMIX S PRO 50mm F1.4、LUMIX S1R、F5.6、1/500秒、ISO100、WB:AWBw、フォトスタイル:スタンダード撮影写真(8368×5584、19.4MB)

LUMIX S PRO 50mm F1.4、LUMIX S1R、F5.6、1/500秒、ISO100、WB:AWBw、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(8368×5584、19.4MB)

上の作例の周辺部を等倍で切り出した画像

上の作例の周辺部を等倍で切り出した画像

一部機能に制限が出る場合も。サードパーティー製のRAW現像ソフトを使用する際は注意が必要

電子補正前提のレンズを使用するうえで注意したいのは、カメラの機能に制限が出る場合があることだ。どのカメラと組み合わせるかによって変わってくるので一概には言えないが、多重露出ができなかったり、連写速度が制限されるレンズもある。

加えて、サードパーティー製のRAW現像ソフトを使ってRAW現像を行う場合も注意が必要だ。サードパーティー製ソフトでもRAWデータに埋め込まれたレンズプロファイルを自動で読み込むのならいいが、そうでない場合は、ソフト側が用意するプロファイルを使用する必要がある。プロファイルがない場合、手動で対応することも可能だが、歪曲収差に加えて周辺減光に対応しないといけないものも少なくなく、満足する結果を得るのはなかなか難しい。

また、光学的な描写にこだわる場合、電子補正前提のレンズは、どうしても魅力に欠けるところがある。レンズの味を最優先にするのであれば、はっきり言えば、このタイプのレンズは選ばないほうがいい。システムとしての高画質を楽しむものと割り切って選択するレンズだ。

まとめ 条件付きで是。メーカーは電子補正前提であることを積極的に伝えてほしい

本記事は「電子補正前提のミラーレス用レンズは是か非か?」というテーマでお届けしたが、結論としては「条件付きで是」としたい。

電子補正を活用することで、画質を担保しながらレンズがコンパクトになるのは使う側にとって大きなメリットだ。高額で大きな鏡筒なのに電子補正が前提になっているものについては疑問符が付くが、光学設計を重視した高性能なレンズとともに、割り切った設計の小型・軽量レンズはあっていいし、もっと数が増えてもいいくらいだ。

「条件付き」にしたのは、メーカー側の情報の伝え方に課題があるからだ。電子補正前提のレンズは、現状、製品ページやニュースリリースなどにその旨が表記されることはほとんどなく、メディアのレビュー記事や、価格.comなどのクチコミ情報を見ないと、そういったレンズであることすらわからないことが多い。メディア向けの製品内覧会・発表会においても、取材側から質問がないと電子補正が前提であることを明らかにしないことも少なくなく、ややブラックボックス化しているところがある。

電子補正前提というのは決してポジティブな要素ではないので、メーカーから発信しにくいのはわかる。だが、ユーザーの目に留りやすい製品ページの中で注釈でも表記がないのは不親切と言われても仕方がなく、ユーザーとの信頼関係を築くうえでも、隠していると思われるようなことは避けたほうがいいはずだ。最近では、キヤノンが、「RF14-35mm F4 L IS USM」のニュースリリースで「カメラ側の電子歪曲収差補正を生かした小型・軽量設計」と表記しているが、こうした情報開示はもっと積極的に行ってほしい。

メーカーに対する提案という形のまとめになったが、電子補正前提のミラーレス用レンズは、よりコンパクトなシステムで高画質な撮影を楽しみたい人にとってピッタリの製品だ。電子補正だからといって画質が大幅に劣るものではないので安心して選んでほしい。

真柄利行(編集部)

真柄利行(編集部)

フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間までカメラやレンズのことを考えながら生きています。

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