ユニークなスペックを持つズームレンズ「35-150mm F/2-2.8 Di III VXD(Model A058)」のニコンZマウント用が登場。今回は、「Z 8」と組み合わせて試用しました
タムロンの「35-150mm F/2-2.8 Di III VXD(Model A058)」は、ミラーレスカメラ用のフルサイズ対応・望遠ズームレンズ。2021年10月にソニーEマウント用として登場したものですが、本日2023年8月24日、ニコンZマウント用が正式にラインアップに追加されました。9月21日の発売予定です。
本レンズは、35〜150mmというちょっと変わった焦点距離をカバーし、かつ開放絞り値がF2〜F2.8という驚きの大口径を実現しているのがポイント。「ポートレートズーム」という、これまた一風変わったうたい文句で売り出されています。ニコン「Zシリーズ」のユーザーにとって、ほかにはないスペックを持つ注目レンズが登場したと言えるでしょう。
今回は、今人気のフルサイズミラーレスカメラ「Z 8」を使って、本レンズのニコンZマウント用を検証。「Z 8」との相性を含めてレビューしていきたいと思います。
タムロンは、ユニークな特徴を持つレンズを商品化するのに長けたメーカーです。「35-150mm F/2-2.8 Di III VXD」は、そんなタムロンのレンズの中でも特に印象的なスペックを持つ製品のひとつと言えるでしょう。
焦点距離35〜150mmをカバーするズームレンズは、元々、2019年に商品化された一眼レフ用「35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD(Model A043)」からスタートしています。ミラーレス用に設計し直された「35-150mm F/2-2.8 Di III VXD」は、一眼レフ用と同じ焦点距離をカバーしつつ、広角端・望遠端ともに1段明るくなり、広角端では開放F2、望遠端では開放F2.8の明るさを達成。もちろん光学性能も進化しており、ズーム全域でさらなる高画質を実現しています。
ニコンZマウント用とソニーEマウント用のサイズ感はほぼ同じ。少し大きめのボディの「Z 8」にフィットするレンズと言えます
本レンズのニコンZマウント用のサイズは89.2(最大径)×160.1(全長)mmで、重量は1190g。ソニーEマウント用と比べると全長が2.1mm、重量が25g重くなった程度でほぼ同じサイズ感です。
大口径のズームレンズなのでさすがにそれなりの大きさ・重さですが、35mmから150mmまでの焦点距離をカバーし、かつズーム全域で大口径ということを考えれば、むしろサイズも重量もよく抑えられていると言ってよいと思います。
また、インナーズームではないため望遠側にズームするとレンズが繰り出されますが、カメラを構えた状態でズーミング操作をしても、全体のバランスが崩れて構えにくくなることはありませんでした。
望遠端いっぱいにズームしたところ
本レンズの操作系は必要にして十分な装備です。
フォーカスリングとズームリングはグリップ性がよく、適度なトルク感でスムーズに動かせます。操作系は、左手側のスイッチボックスにまとめられた「カスタムスイッチ」「AF・MF切り替えスイッチ」と3つの「フォーカスセットボタン」。いずれもほどよい高さと傾斜が付けられているため、指がかりが自然で気持ちよく操作できます。
スイッチ・ボタン類の操作感はとても良好です
最新のタムロンレンズらしく、鏡筒基部付近にはUSB Type-C 端子が備わっています。このUSB端子は、PCもしくやスマートフォンと接続してレンズをカスタマイズするためのもの。PC用は「TAMRON Lens Utility」、スマートフォン用は「TAMRON Lens Utility Mobile」というアプリが用意されていて、このアプリ経由で前述の「フォーカスセットボタン」や「カスタムスイッチ」の機能を設定できます。PC用アプリではレンズのファームウェアをアップデートすることも可能です。
レンズの基部付近にはUSB Type-C 端子を装備
PC版の「TAMRON Lens Utility」を使って「カスタムスイッチ」の機能を設定しているところ
鏡筒側面に備えられた「ズームロックスイッチ」。移動中に鏡筒が不用意に伸長してしまうのを防げます
本レンズは大口径ズームレンズだけにそれなりに大きくて重いですが、充実した装備とすぐれた操作感、重心バランスのよい設計のおかげで、思ったよりもずっと快適に撮影できました。今回はニコン「Z 8」に装着して試用しましたが、この組み合わせでの操作性は大変に良好と言って問題ないと思います。
ロック機構を備えた花形レンズフードが付属
本レンズは、「ポートレートズーム」をうたうだけに、絞り開放付近での描写は非常に重要です。というわけで、お約束ではありますが、広角端と望遠端の、絞り開放での解像性能を確認していきましょう。
広角端35mmの絞り開放F2で撮影しました。こうした平面的なシーンでポートレートを撮ろうとするときには、あまり絞り開放で撮る機会は少ないと思います。それでもレンズのポテンシャルを見たいという意味では大切なことでしょう。
結果としては、周辺部分での像の乱れはごくわずかで、四隅も観賞価値を落とすほどの画質低下は確認できません。絞り値F2でこれほどの光学性能であるなら、単焦点レンズに匹敵するほどの解像性能と言っても差し支えないのではないでしょうか。
Z 8、35-150mm F/2-2.8 Di III VXD、35mm、F2、1/200秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(8256×5504、35.6MB)
同じ撮影条件で、今度は望遠端150mmの絞り開放F2.8で撮影しました。
この作例の撮影距離(5m程度)で焦点距離150mmとなると、瞳に合わせたピント面以外は思った以上に被写界深度から外れてボケてしまいますので、被写界深度内に入る部分を重点的に確認しています。
結果としては、周辺部分でも中心とほとんどそん色のない高い解像性能を発揮することがわかりました。あるいは広角端よりやや結果がよいかも? といった印象ですが、いずれにしても広角端・望遠端の両方で絞り開放から非常に高い解像性能を持ったレンズであることがわかります。
Z 8、35-150mm F/2-2.8 Di III VXD、150mm、F2.8、1/125秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(8256×5504、26.3MB)
ポートレート撮影では中心部分の解像性能の高さを特に求めるかもしれませんが、実際は被写体となるモデルの瞳は周辺に位置することも多いです。そのため、画面全体での安定した解像性能は意外に大切ですし、周辺までシャープに写るのはポートレート撮影においてこのうえない安心感をもたらしてくれます。
せっかくの「ポートレートズーム」を名乗るレンズですので、今回はモデルさんをお願いして、焦点距離を変えながらいろいろ撮影させてもらいました。
Z 8、35-150mm F/2-2.8 Di III VXD、85mm、F2.7、1/125秒、ISO64、+1.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(5504×8256、20.5MB)
焦点距離85mmを中心として前後に画角を変えていけるのが本レンズのウリのひとつ。それだけに広角端や望遠端だけでなく、中間の画角の画質も非常にすぐれたものがあります。ポートレートでは基準とも言える焦点距離85mmの描写性能を重視しているあたり、本レンズにかけるタムロンの意気込みを感じられるというものです。
Z 8、35-150mm F/2-2.8 Di III VXD、42mm、F2.5、1/800秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(8256×5504、26.8MB)
レトロな雰囲気のベンチに座るモデルさんを自然な雰囲気で撮りたいと思って、ズーミングしながら選んだ焦点距離は42mmでした。遠近感が最も人の意識に近くなると言われる画角域です。ファインダーを覗きながらズームすることで、自分が望む雰囲気を探し当てられるのは大きな長所と言えるでしょう。
Z 8、35-150mm F/2-2.8 Di III VXD、91mm、F2.7、1/500秒、ISO400、+1.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(8256×5504、19.7MB)
ベンチに座るモデルさんをきれいなボケの中に浮かび上がらせたいと思い撮影した1枚。ズーミングしながら選んだ焦点距離は91mmでした。代表的な焦点距離85mmより、わずかに長焦点を選べるのはズームレンズのよいところ。解像性能の高さもさることながら、ボケ味も一級品です。
Z 8、35-150mm F/2-2.8 Di III VXD、35mm、F2.0、1/250秒、ISO64、+1.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(8256×5504、16.9MB)
広角端35mmでの撮影です。広角域の画角でも、大口径ならではの大きなボケ味で被写体を浮き上がらせてくれます。望遠側と比べると相対的に画面におけるモデルさんの比率は下がりますが、今回使ったニコン「Z 8」のすぐれた被写体検出性能によって、あっさりと瞳にフォーカスを合わせてくれました。本レンズとの組み合わせだと、人物撮影が驚くほど簡単です。
Z 8、35-150mm F/2-2.8 Di III VXD、107mm、F2.7、1/250秒、ISO400、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(8256×5504、13.8MB)
焦点距離107mmでの撮影です。モデルさんの視線のラインと背景の斜めのラインが、いい感じでクロスするように構図を決めましたが、焦点距離は特に意識せずズーミングしながら探っています。
写真を撮り始めたころから「ズームレンズでも始めに焦点距離を決めて被写体に臨む」と学んでいたものの、本レンズをポートレート撮影で使う場合、焦点距離の自由度が高いうえにボケもコントロールしやすいため、ズームを調整しながら狙った構図に追い込むことができます。撮り方が変わるというと少し大げさかもしれませんが、とても扱いやすいポートレート用レンズだと思いました。
Z 8、35-150mm F/2-2.8 Di III VXD、150mm、F2.8、1/80秒、ISO100、+1.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(8256×5504、17.1MB)
ポートレート作例の最後は、望遠端150mmで撮影したものです。ポートレートで焦点距離150mmというと、あまり意識されることがないかもしれません。しかし、本レンズを使っていると、この焦点距離とポートレートの相性のよさに気づかされます。後ボケの味のよさはもちろんのこと、前ボケも効果的に入れられる焦点距離です。
「ポートレートズーム」と言われるとポートレート専用という縛りがあるような気になりますが、焦点距離35〜150mmという使用頻度の高いズーム域と開放絞り値F2〜F2.8の明るさを考えれば、スナップ撮影や旅撮影でも大いに活躍してくれるはずです。本レンズを“大口径・高倍率ズーム”ととらえて活用するのもよい考えかもしれません。
Z 8、35-150mm F/2-2.8 Di III VXD、35mm、F2.8、1/500秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(8256×5504、17.8MB)
広角端35mmでの最短撮影距離は0.33mで、このときの撮影倍率は本レンズ最大の約0.18倍。開放F2の大口径レンズとしては相当に寄れる部類で、さすが近接撮影性能にすぐれたレンズを多くラインアップするタムロンと言ったところでしょう。ポートレートでのアップ撮影はもちろん、お気に入りの小物を大きく写したいテーブルフォトなどでも重宝します。
Z 8、35-150mm F/2-2.8 Di III VXD、50mm、F4.0、1/80秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(8256×5504、28.6MB)
焦点距離50mm、絞り値F4で撮影した作例です。ポートレート用を標榜するレンズということもあって、今回の試写では絞り開放で撮影した作例が多くなってしまいました。しかしながら、適切に絞って撮ればさらに高画質になるのは当然のこと。絞り込んだ写真ももっと撮ればよかったと反省してしまいます。
Z 8、35-150mm F/2-2.8 Di III VXD、150mm、F2.8、1/500秒、ISO800、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(8256×5504、18.0MB)
昨今は応答性にすぐれた電子ビューファインダーやAF性能を持つミラーレスが各社から発売されていますが、ニコンの「Z 8」はその最たるカメラのひとつと言えるでしょう。本レンズはタムロン独自のリニアモーターを搭載しており、ボディ側の高速性能によく追従してくれます。この性能をポートレートだけに使うのは正直もったいないと思うところで、ズーム域の広い大口径レンズとして、スナップ撮影などにも積極的に使っていきたくなります。
準広角35mmから望遠150mmを大口径でカバーする本レンズは、ソニーEマウント用が発売されたときにとても驚かされましたが、今回、ニコンZマウント用を使ってみて、画質、使用感、スピード性能とも一級品と言っても過言ではないと感じました。ニコン「Z 8」と組み合わせてみましたが、操作性やAFなどの相性は抜群によいと思います。
タムロンならではの、ほかでは味わえない特殊なレンズですので、ソニーEマウント以外でも使ってみたいと願っていたところのうれしい対応です。最近は、ニコンとタムロンが協調していることをうかがわせるレンズがいくつかラインアップされていますが 、もしかしたら本レンズの登場にもそうしたことが影響しているのかもしれませんね。
また、「ポートレートズーム」と銘打った本レンズのスペックは、なるほどと思うくらい人物を雰囲気よく写すのに適していますが、使ってみてわかったのはポートレート以外でも大いに活躍の場があるということ。サードパーティー製だからこそ楽しむことのできる本レンズの本領を、ぜひ撮影者ご自身の感性で発揮させてもらえればと思います。
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。写真展に「エイレホンメ 白夜に直ぐ」(リコーイメージングスクエア新宿)、「冬に紡ぎき −On the Baltic Small Island−」(ソニーイメージングギャラリー銀座)、「バルトの小島とコーカサスの南」(MONO GRAPHY Camera & Art)など。