「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」は、28mmから400mmまで幅広い焦点距離をカバーする高倍率ズームレンズ。2024年4月19日にニコンから発売される、ほやほやの新製品です。
注目度は非常に高く、発売前にも関わらず、価格.com「レンズ」カテゴリーでの人気売れ筋ランキングは3位(2024年4月4日時点)。今回、この注目レンズを、写真家のJimaさんがじっくりレビューします。
人気のフルサイズミラーレスカメラ「Z 8」と組み合わせて「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」をレビューします
皆さん、こんにちは。写真家のJimaでございます。今回は、Zマウント用の新しい高倍率ズームレンズ「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」をいち早くレビューします。
まず、本レンズの主な特徴をチェックしておきましょう。
「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」の主な特徴
・28〜400mmの焦点距離をカバーする、Zマウント用の高倍率ズーム
・開放絞り値:広角端F4、望遠端F8
・15群21枚のレンズ構成(EDレンズ4枚、非球面レンズ3枚)
・最短撮影距離:広角端0.2m、望遠端1.2m
・最大撮影倍率:0.35倍(焦点距離28mm)
・絞り羽根枚数:9枚(円形絞り)
・フォーカシングによる全長変化のないIF(インターナルフォーカス)方式
・フォーカスブリージングの抑制やMFリニア駆動対応など動画撮影に配慮した設計
・レンズ単体5.0段/シンクロVR時5.5段の手ブレ補正(VR)機構
・STMによる高速・静粛なAF駆動
・防塵・防滴に配慮した設計
・フィルター径:77mm
・サイズ:約84.5(最大径)×141.5(全長)mm
・重量:約725g
・価格.com最安価格199,980円(税込、2024年4月4日時点)
最大の特徴は、何といっても焦点距離28mmから400mmまで約14.2倍のズーム倍率を実現していること。それでいて全長約141.5mm/重量約725gと比較的コンパクトなサイズ感がうれしいですね。
「NIKKOR Z レンズ」は近年、大口径・単焦点レンズや超望遠レンズなどを積極的にリリースしていたこともあって、高倍率ズームレンズは約8.3倍ズーム対応の「NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR」(2020年7月発売)のみという状況が続いていました。そんななか、望遠端400mm対応、DXフォーマットなら焦点距離600mm相当(35mm判換算)での撮影が可能な望遠に強い高倍率ズームが登場したということで、発売前からとても盛り上がっている印象です。
付属のレンズフードは、「NIKKOR Z レンズ」では珍しい角形タイプを採用しています
続いて、「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」で撮影した作例をいくつか掲載します。
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、160mm、F7.6、1/400秒、ISO64、+0.7EV、WB:オート0、ピクチャーコントロール:ソンバー(適用度30%)、アクティブD-ライティング:より強め1
撮影写真(8256×5504、13.4MB)
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、400mm、F8、1/800秒、ISO200、+0.7EV、WB:オート0、ピクチャーコントロール:メランコリック(適用度30%)、アクティブD-ライティング:より強め2
撮影写真(8256×5504、17.0MB)
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、400mm、F8、1/800秒、ISO560、+0.7EV、WB:オート0、ピクチャーコントロール:ソンバー(適用度 100%)、アクティブD-ライティング:より強め1
撮影写真(8256×5504、25.5MB)
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、400mm、F8、1/800秒、ISO200、+0.7EV、WB:オート0、ピクチャーコントロール:ソンバー(適用度100%)、アクティブD-ライティング:より強め2
撮影写真(8256×5504、20.5MB)
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、400mm、F8、1/60秒、ISO1000、+0.3EV、WB:オート0、ピクチャーコントロール:ディープトーンモノクローム、アクティブD-ライティング:強め
撮影写真(8256×5504、11.8MB)
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、400mm、F8、1/1000秒、ISO280、+1.0EV、WB:オート0、ピクチャーコントロール:風景、アクティブD-ライティング:より強め2
撮影写真(8256×5504、8.8MB)
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、105mm、F6.3、1/400秒、ISO64、+0.7EV、WB:オート0、ピクチャーコントロール:ソンバー(適用度100%)、アクティブD-ライティング:より強め1
撮影写真(8256×5504、16.5MB)
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、28mm、F4、1/400秒、ISO64、+0.7EV、WB:オート0、ピクチャーコントロール:風景、アクティブD-ライティング:より強め2
撮影写真(5504×8256、12.1MB)
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、28mm、F5.6、1/800秒、ISO64、+0.7EV、WB:オート0、ピクチャーコントロール:風景、アクティブD-ライティング:より強め1
撮影写真(8256×5504、16.8MB)
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、400mm、F8、1/60秒、ISO140、+0.7EV、WB:オート0、ピクチャーコントロール:風景、アクティブD-ライティング:より強め2
撮影写真(8256×5504、13.9MB)
いかがでしょうか? 「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」は非常に幅広い焦点距離に対応しており、被写体やシーンを限定せず、いろいろな撮り方ができることが伝わったかと思います。このレンズが1本あれば、日常で見ている世界を切り取りたい画角で撮れることでしょう。
肝心の画質についてですが、使ってみた印象としては、高倍率ズームレンズとしては驚くほど鮮明に写してくれました。もちろん、描写力だけを比較すると高性能な「S-Line」シリーズや単焦点レンズには及びませんが、28mmから400mmに対応するズームレンズとしては非常に優秀だと思います。
以下に、野鳥を撮影した作例の拡大画像を掲載します。ピント位置で十分な解像感が得られていることがわかると思います。
野鳥を撮影した作例。赤枠の拡大部分を見るとシャープに写せていることがわかります
「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」は28mmから400mmまでの焦点距離に対応していますが、数値では画角をイメージするのが難しいのではないでしょうか? そこで、以下に、各焦点距離での撮影画面を記録した画像を掲載します。目の前の景色を広くとらえつつ、建物の一部を大きく写せることが伝わるかと思います。
焦点距離28mm(左上)、35mm(右上)、50mm(左下)、70mm(右下)
焦点距離105mm(左上)、200mm(右上)、300mm(左下)、400mm(右下)
左が400mmで、右がDXフォーマットに切り替えた焦点距離600mm相当(35mm判換算)の状態です。建物の一部をさらに大きく表示できています
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、400mm(DXクロップ、35mm判換算600mm相当)、F8、1/2000秒、ISO1100、+0.3EV、WB:オート0、ピクチャーコントロール:風景、アクティブD-ライティング:より強め1
撮影写真(5392×3592、11.1MB)
「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」は、手ブレの影響が出やすい望遠域でも安心して撮影できるように、レンズシフト方式の手ブレ補正(VR)機構を搭載しています。補正効果はレンズ単体で5.0段、今回使用した「Z 8」など「シンクロVR」対応カメラとの組み合わせで5.5段です。
以下の作例は、焦点距離400mm、シャッタースピード1/60秒で撮影したもの。拡大部分を含めてご覧いただきたいのですが、手ブレの影響なくシャープな画質で撮れていることがわかるかと思います。
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、400mm、F8、1/60秒、ISO125、+1.0EV、WB:オート0、ピクチャーコントロール:風景、アクティブD-ライティング:強め
撮影写真(8256×5504、17.8MB)
実際、望遠域で1/100秒を切る遅いシャッタースピードでも高い確率で手ブレを抑えることができました。もちろん三脚を使用すると心強いのですが、この強力な手ブレ補正によって望遠域でも手持ち撮影が可能です。こうなると、手ブレとあわせて、風によって被写体ブレが発生しないかについても留意して撮影する必要がありますね。
本レンズのスペックで少し気になるのが、200mmを超える焦点距離域での開放絞り値がF8と大きい点です。ただ、手ブレ補正によってシャッタースピードを遅く設定できるので、室内など光量が確保できないような薄暗いシーンでも十分に対応できると思います。
「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」は、高倍率ズームレンズながら近接撮影に強いのも見逃せません。広角端(焦点距離28mm時)で最短撮影距離0.2m(最大撮影倍率0.35倍)というスペックを実現していますので、被写体にグッと近づいて撮れます。アクセサリーや料理などのテーブルフォトでも活用しやすいですね。
Z 8、NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR、28mm、F7.1、1/1000秒、ISO220、WB:オート0、ピクチャーコントロール:ポップ(適用度 30%)、風景、アクティブD-ライティング:より強め1
撮影写真(8256×5504、19.4MB)
焦点距離28mm、最短撮影距離0.2mで小さな花を撮影してみました。広角マクロ特有のパースが効いた写真に仕上がっていることがわかると思います。
撮影しているときの様子です。小さな花にギリギリまで近づいていることがわかると思います。レンズの全長が約141.5mmあってワーキングディスタンスが比較的短いため、レンズフードを付けた場合はフードが被写体と接触しないように注意しましょう
広角マクロの撮影は、被写体に寄って撮るため、光の方向を意識して構図を決める必要があります。カメラの位置やレンズの角度によってはフードの影が写り込むケースがあるのも注意点です。こうした撮り方の工夫は広角マクロ特有のもので、「NIKKOR Z MC 50mm f/2.8」や 「NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S」など標準・中望遠のマクロレンズとは感覚が異なりますね。
なお、本レンズの望遠端の最短撮影距離は1.2mです。焦点距離400mm対応の高倍率ズームとしては優秀な性能ではないでしょうか。撮影対象のサイズ次第ですが、被写体を大きく切り取って背景に大きなボケを演出することが可能です。
高倍率ズームレンズを選ぶうえで心配なのはAFの性能だと思います。高倍率ズームはカバーする焦点距離が広いため、標準ズームなどと比べるとAFはどうしても遅くなりがちです。
「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」はSTM(ステッピングモーター)を採用していますが、使ってみた限り、広角側、望遠側のどちらでも高いピント精度を実感しました。動く方向が予想できる鉄道や飛行機などの被写体であれば、望遠端400mmでも素早くかつ正確にピントを合わせられました。さすがに、「S-Line」シリーズほどではないですが、約14.2倍の高倍率ズームとしてはすばらしい性能です。
使い方で1点注意したいのは、画角が狭くなると、その分動く被写体を画角に入れ続けるのが難しくなるということ。これはAFの性能以上に重要です。ちなみに私は、望遠撮影時に被写体を見失わないように、あらかじめ広角側で撮影対象をとらえてからズームする方法を取っています。
高倍率ズームレンズは比較的大きくて重いものが多いです。あまり重いレンズだと旅行などで持ち出すのが億劫に感じますよね。体力面を考慮すると「持ち歩き続けることが可能なレンズ」は撮影を楽しむうえで重要です。
「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」のサイズは、レンズが最も短い状態(広角端28mm時)で全長約141.5mm。容量500mlのペットボトルに近いサイズ感に収まっています。重量は約725gと少し重いですが、カメラに装着した際のバランスがよく、レンズが伸びきる望遠端でもフロントヘビーになる印象は受けませんでした。ただ、望遠端だと全長が24cm前後まで伸びるので、撮影時はレンズの先端がモノに当たらないように配慮する必要があります。
左が広角端、右が望遠端。サイズ比較用に容量500ml/2Lのペットボトルも並べてみました。使用時のサイズ感が伝わりやすいように、レンズフードを逆さ向きに装着し、レンズキャップも装着しています
1本のレンズとして見るとそれなりの大きさですが、広角28mmから望遠400mmまで対応できることを考慮するとコンパクト。普段使いのリュックや小型のカメラバッグに入れて持ち運べるサイズ感です
操作性はズームリング、コントロールリング、ズームロックスイッチのみとシンプルな内容なので、使い方で迷うことはないでしょう。ズームリングとコントロールリングは「NIKKOR Zレンズ」のなかでもしっかりと重みがあるタイプです。不意にレンズが繰り出すことを防ぐズームロックスイッチも備わっています。
広角端でズームリングがロックされるズームロックスイッチを搭載しています
「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」は、これまで「NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR」 のみだった「NIKKOR Zレンズ」の高倍率ズームの新しい選択肢です。特に、比較的コンパクトなサイズ感で400mmの望遠撮影に対応できるのが魅力。もちろん「NIKKOR Zレンズ」らしい描写力やAF性能も実現しています。重量バランスが良好なのもポイントで、「扱いやすい高倍率ズームレンズ」として商品化されていることを実感しました。
さらに、高倍率ズームとしては最短撮影距離が短く、被写体に近づけるのも特徴。これは、今までニコンの高倍率ズームを愛用してきた人が感動する点だと思います。
最近のミラーレスカメラ用のレンズは、これまでの常識を塗り替える性能を持つ製品が増えています。「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」もそうした新世代のレンズ。「高倍率ズームは大きくて重いし、画質がいまいち」といった印象を持っている人もいるかもしれませんが、本レンズはそうした印象を覆す1本だと思います。ぜひ試してほしいです。
「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」を含めて高倍率ズームは一般的に、「表現力を求めるレンズ」というよりも「どんな場面でも気軽に使えるレンズ」だと思います。そこで、最後に、高倍率ズームが活躍する具体的なシーンをいくつか紹介します。
・旅行や登山
移動が多い撮影では、複数の交換レンズを持ち歩くのが難しいことが多いです。登山ではそもそもレンズ交換が難しい場合もあるでしょう。そうした場合に、高倍率ズームは非常に便利ですし、安心して使用できます。
・イベントやスポーツ
イベントやスポーツの撮影では、広角側で会場全体の様子を写しつつ、望遠で遠くの被写体を狙うといった撮り方が考えられます。また、座席や撮影場所が指定されていて、移動が難しい場合もありますので、同じ場所からさまざまな画角で撮れる高倍率ズームは必須の1本と言えるでしょう。
・スナップ
意外に思うかもしれませんが、高倍率ズームはスナップ撮影で使ってみても面白いです。特に今回紹介した「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」は、焦点距離400mmmまでの望遠撮影が可能なので、圧縮効果を生かした写真が撮れます。いつも撮影している場所で、面白い表現が得られるアングルを探すのも楽しいと思います。