富士フイルムの「X-M5」は、APS-Cサイズの撮像素子を採用する「Xシリーズ」の最新モデル(2024年11月下旬発売)。「Xシリーズ」の現行ミラーレスカメラの中で最も小型・軽量な、エントリー向けのモデルです。
市場想定価格は136,400 円(税込)で、今時のミラーレスとしては比較的低価格な部類ではないでしょうか。電子ビューファインダー(EVF)やボディ内手ブレ補正、内蔵ストロボを省略した思い切った仕様ではありますが、なんのなんの、数々の最新機能を詰め込みながら、コンパクトな見た目以上の高性能と使いやすさを実現しているのがすばらしいところです。
手のひらサイズのコンパクトボディを実現した「X-M5」。持ち運びはまったく苦になりません
「X-M5」の特徴は何と言っても小型・軽量であること。同じ「X-Mシリーズ」のカメラとしては2013年9月に発売された「X-M1」がありました。生産完了となって久しいため、はたして後継機と呼んでよいのか微妙なところではありますが、小型・軽量というコンセプトは引き継がれているようです。
キットレンズの標準ズーム「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」と組み合わせたイメージ
そんな「X-M5」のサイズは111.9(幅)×66.6(高さ)×38.0(奥行)mmで、重量は約355g(バッテリー、メモリーカードを含む)。同じくコンパクトボディを特徴とした2021年2月発売の「X-E4」のサイズが121.3(幅)×72.9(高さ)×32.7(奥行)mmで、重量が約364g(バッテリー、メモリーカードを含む)ですので、「X-M5」がいかに小型・軽量なカメラであることがよくわかります。
パンケーキタイプの小型レンズ「XF27mmF2.8 R WR」と組み合わせたイメージ
もっとも「X-E4」はEVFを内蔵していましたので、ファインダーレスの「X-M5」に比べれば大きくなるのも仕方のないこと。ファインダー以外にも、「X-M5」はボディ内手ブレ補正機構や内蔵フラッシュも非搭載です。
「X-M5」が搭載する撮像素子は有効約2610万画素の裏面照射型「X-Trans CMOS 4」センサーで、画像処理エンジンは「X-Processor 5」。撮像素子はいわゆる第4世代ですが、最新の第5世代「X-Trans CMOS 5 HR」センサーですと有効約4020万画素の高画素になってしまうため、気軽に使いたいコンパクトボディに対してはちょっと重い。「X-M5」のコンセプトによく合うという意味では、妥当な選択ではないかと思います。
撮像素子は有効約2610万画素の「X-Trans CMOS 4センサー」です
APS-Cサイズで有効約2610万画素でしたら、得られる写真の解像感にはまったく問題がありません。そこに前世代比で2倍の高速処理を実現した、最新の画像処理エンジンの「X-Processor 5」のパワーが組み合わされますので、高画質にも磨きがかかっているというものです。
X-M5、XF27mmF2.8 R WR 、27mm(35mm判換算41mm相当)、F5.6、1/550秒、ISO160、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(6240×4160、16.6MB)
「X-M5」はスペースに余裕のないコンパクトボディではありますが、小さいながらも各所に工夫が施すことで良好な操作性を確保しています。
シャッターボタン周辺でまず目立つのがモードダイヤルの存在。「X100シリーズ」や「X-Tシリーズ」のようなシャッターダイヤル主体の操作系ではなく、一般的なデジタルカメラの操作系が採用されています。小さいながらもフロントコマンドダイヤルとリアコマンドダイヤルもちゃんと装備されています。
モードダイヤルにフロント/リアコマンドダイヤルを備えたわかりやすい操作系
いっぽうで背面のボタン類はかなりスッキリと整理されており、使用頻度の高いボタンだけがわかりやすく配置されています。十字キーはありませんが、フォーカスレバー(いわゆるジョイスティック)があるので、操作に困ることはありませんでした。このサイズのカメラにフォーカスレバーを搭載しているのは意外に珍しく、親切なカメラだなと思いました。
また、上面左側には本モデルの特徴とも言える「フィルムシミュレーションダイヤル」が備えられていますが、こちらは後ほど詳しく。
スッキリと整理された背面のボタン類。フォーカスレバーが装備されています
ちょっと面白いのは、アクセサリーシュー近くのカメラ背面にマイク/リモートレリーズ端子(3.5mm径)が備えているところ。外部マイクをアクセサリーシューに装着して使う場合に便利です。
マイクといえば、「X-M5」は内蔵マイクにもこだわりがあり、搭載された3つのマイクを、全方位・フロント・バック・フロント&バックの4つの指向性から選択できるようになっています。静止画撮影だけでなく動画撮影にも力の入った仕様を採用しています。
アクセサリーシュー近くに備えられたマイク/リモートレリーズ端子
背面モニターはタッチパネル搭載のバリアングル式。「X-M1」や「X-E4」はチルト式でしたので、縦位置での静止画撮影や動画撮影がよりやりやすくなりました。
モニターはバリアングル式の可動モニター
「X-M5」のデザイン上の特徴にもなっているのが、カメラ上部左側に設けられた「フィルムシミュレーションダイヤル」です。同じダイヤルは「X-T50」にもあり、これがあれば仕上がり設定の「フィルムシミュレーション」を簡単に設定できます。
カメラ上部左側に設けられた「フィルムシミュレーションダイヤル」
搭載されている「フィルムシミュレーション」の種類は20モードと、現行「Xシリーズ」の中でも「X-T50」と並んで最多。最新の「フィルムシミュレーション」である「REALA ACE」も、もちろん搭載されています。
「フィルムシミュレーション」はモニターで効果を確認しながら設定できます
「フィルムシミュレーション」設定中に「Qボタン」を押すと、その「フィルムシミュレーション」の説明が表示されるという親切さ
「フィルムシミュレーションダイヤル」を持たないモデルと比べると、ダイヤルの位置で、「今どのフィルムシミュレーションで撮影しているか」と「目的のフィルムシミュレーションがダイヤルのどこにあるか」がすぐにわかるのがよいところでしょう。
以下、「フィルムシミュレーション」を使って撮影した作例をいくつか掲載します。
初期設定でありスタンダードな「フィルムシミュレーション」です。その名のとおり、最も普遍的で安心感の高い色仕上げ設定なので、普段から安心して使えます。
「PROVIA/スタンダード」
X-M5、XF27mmF2.8 R WR 、27mm(35mm判換算41mm相当)、F2.8、1/640秒、ISO160、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(6240×4160、13.0MB)
趣向を変えてモノクロの写真を撮りたくなったら、懐かしの富士フイルムのモノクロフィルムをベースにした「ACROS」に設定して、本格的なモノクロ写真を「X-M5」で楽しむことだってできます。
「ACROS」
X-M5、XF27mmF2.8 R WR、27mm(35mm判換算41mm相当)、F5.6、1/1100秒、ISO160、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ACROS
撮影写真(4160×6240、14.7MB)
最近、筆者がスナップ写真の撮影で好んで使っている「ノスタルジックネガ」ももちろん搭載されています。1970年代のアメリカで撮られたカラー作品をイメージした「フィルムシミュレーション」ですが、同じカメラで撮ってもスタンダードとは全く違う表現になるので楽しめます。
「ノスタルジックネガ」
X-M5、XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ、15mm(35mm判換算23mm相当)、F3.5、1/150秒、ISO160、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
撮影写真(6240×4160、11.3MB)
筆者は比較的ひんぱんに「フィルムシミュレーション」を変えながら撮影するほうですので、ダイレクトに設定できる「フィルムシミュレーションダイヤル」の存在はありがたいばかりでした。好みもよると思いますが、これまであまり「フィルムシミュレーション」を変えて撮ったことがないという人にとっても、「フィルムシミュレーション」の魅力がわかる機能だと思います。「X-M5」のようにコンパクトで気軽なカメラにこそ必要なダイヤルだと感じました。
「X-M5」は、最新のモデルらしく被写体検出AFを搭載しています。人物はもちろんのこと、動物、鳥(昆虫)、車、バイク・自転車、飛行機(ドローン)、電車といった被写体の検出が可能です。
上位モデルと同じく被写体検出AFを搭載しています
実際に使用してみると、「X-T5」や「X-T50」などの上位モデルと変わらないレベルの検出性能と追従性能だと感じました。カメラ任せで瞳や顔に正確にピントを合わせ続けてくれるため、構図づくりに専念しながらシャッターチャンスをまつことができます。
X-M5、XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ、45mm(35mm判換算68mm相当)、F5.6、1/140秒、ISO2500、ホワイトバランス:8000K、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
撮影写真(6240×4160、12.8MB)
被写体検出AFはもちろん動画撮影でも有効で、撮影中に被写体が動き回っても、ピントはよく追従してくれました。こうしたAF性能の高さは、最新のAF予測アルゴリズムと、高速処理が可能な「X-Processor 5」が採用されているためだと思います。
「X-M5」から切り出した画像。動画撮影でも被写体検出AFは有効に働きます
エントリー向けのモデルではありますが、「X-M5」は動画撮影機能も充実しています。記録できる動画は最大6.2K(6240×4160)/30pで、4K(3840×2160)/60pなどにも、もちろん対応しています。
「X-M5」の動画モード設定画面
4K/60pで撮影したのが以下のサンプル動画です。すべて手持ちで撮影していますが、使用したレンズ「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」の手ブレ補正機構(OIS)に加え、ボディ側の電子手ブレ補正(DIS)も働くため、それなりに手ブレを抑えて撮影できました。
「X-M5」では、通常の動画撮影モードのほかに、「X-S20」にも搭載されていたVlog撮影モードも利用できます。Vlog撮影モードは、SNSなどに投稿するためのVlogでよく使う設定を素早く呼び出し、そのための設定変更を簡単にできるようにしたもの。言ってみればそれだけのことですが、Vlogという撮影手段とこのモードの利便性はとても相性がよいと思います。
モードダイヤルにあるVlog撮影モード
Vlog撮影モードとあわせて、新しく搭載された「9:16ショート動画モード」も「X-M5」の大きな特徴です。文字どおり縦位置でショート動画を撮影するためのモードで、ショート動画の長さは15秒、30秒、60秒の3種類から選択できます。
「9:16ショート動画モード」の設定画面
「9:16ショート動画モード」は、カメラを横位置にしたまま縦位置動画が撮れるのが特徴で、安定した姿勢で撮影できるほか、三脚を使う場合でもいちいちカメラを縦位置で固定する必要がないため便利です。
「9:16ショート動画モード」のモニター画面。カメラを横位置にしたまま縦位置動画が撮れます
試写を終えて改めて考えてみると、市場想定価格が136,400 円(税込)というのは、個人的には“安い”と感じます。最新機能を詰め込みながら、うれしくなるほどの小型・軽量ボディを実現しており、なおかつ価格とサイズから十分に納得できるだけのカッコいいデザインと高級感を備えているからです。
富士フイルムのデジタルカメラを使ううえで醍醐味とも言える「フィルムシミュレーション」を簡単に設定できるダイヤルについては、よくぞこの小型ボディに備えてくれたと思えるほどです。これなら次々と写真を撮り歩くスナップ撮影でも、面倒がらずにさまざまな「フィルムシミュレーション」を試せます。さらに、使いやすさの点では、動画撮影にVlog撮影モードを搭載したのも大きなポイント。SNSなどへの動画投稿が多い人にとっては、より気軽に動画撮影を楽しめることと思います。
EVFやボディ内手ブレ補正こそ省略されていますが、普段から同社の「X-H2S」をメインカメラとして使っている筆者としては、サブ機として本モデルが欲しくなってしまいました。手に入れてみたら、案外こちらがメイン機になる可能性だってありそうです。