ソニー「サイバーショット RX10 V(DSC-RX10M5)」(以下、「RX10 V」)は、焦点距離24mm〜600mm相当(35mm判換算)に対応する超望遠ズームレンズ搭載のデジタルカメラ。前モデル「RX10 IV」から約9年ぶりのフルモデルチェンジで話題を集めている1インチ機です。デザインや操作性、撮影性能がどのように進化しているのか詳しくレビューします。
「RX10シリーズ」の約9年ぶりの新モデル「RX10 V」。突然の登場に驚かれた人も少なくないことでしょう
「RX10 V」の前モデルからの変更点として、まず押さえておきたいのが外観デザインです。前モデルまでの「RX10シリーズ」は上面のラインがなだらかで、どちらかというと丸みのあるフォルムでしたが、「RX10 V」はよりエッジの効いた直線的なフォルムになりました。
これは、ソニーの一眼カメラ「αシリーズ」のAマウントモデル(=丸みのあるフォルム)と、最新のEマウントモデル(=直線的なフォルム)の違いに似た印象を受けます。後述する操作性に関しても同じことが言えますが、本機は各所にEマウントミラーレスカメラの要素が盛り込まれているのです。
上が「RX10 V」で、下が「RX10 IV」。「RX10 V」はよりシャープな印象のフォルムに変わりました
「RX10 V」のサイズ・重量
約136.4(幅)×94.5(高さ)×151.3(奥行)mm
約1111g(バッテリー、メモリーカードを含む)
「RX10 IV」のサイズ・重量
約132.5(幅)×94.0(高さ)×145.0(奥行)mm
約1095g(バッテリー、メモリーカードを含む)
サイズ・重量については前モデルからわずかに増加しています。ただ、実際に新旧2台を比べてみても、その違いを実感できるほどではなく、携行性についても大きな変化は感じられません。
1kg超えの重量なのでレンズ一体型カメラとしては大きい部類に入りますが、超望遠ズームレンズと1インチセンサーを搭載していることを考えれば、十分に小型・軽量を維持していると考えてよいでしょう。
続いて「RX10 V」の操作性を見ていきましょう。全体的には、「α7 V」など、ソニーの最新Eマウントミラーレスカメラと共通する操作性を取り入れることで使い勝手がさらによくなっています。
背面では、特にマルチセレクターの採用によって、AFポイントの移動などの操作性が向上しています。ソニーのミラーレスカメラを使い慣れている人なら、違和感なく操作できるでしょう。
背面にマルチセレクターを新たに搭載。「α7 V」などのソニー最新ミラーレスカメラの操作性が取り入れられています
上面は、前モデルにあった情報表示パネルがなくなり、代わりに撮影モードダイヤルがファインダー部右側に移動になりました。露出補正ダイヤルは汎用ダイヤルとなり、2つの後ダイヤルが使える仕様となっています。これは最新Eマウントミラーレスカメラで標準となっているスタイルです。
シャッターボタン周りの操作性もソニー最新ミラーレスカメラに近いです。ただし、シャッターボタンと同軸に配置されたズームレバーの存在はレンズ一体型ならでは。ズームレバーをW側に回せば広角側、T側に回せば望遠側になります
大きなグリップを備えている点も本機の魅力。超望遠域での撮影でもカメラをしっかりと構えられる高いホールディング性を確保しています。最新の「αシリーズ」と同様、人間工学に基づいたこだわりのグリップ形状を採用している点がポイントです。
人間工学に基づいたすぐれたホールディング性のグリップを採用。超望遠域での撮影もしっかりカメラを構えられます
ボタン類では、鏡筒の左側に「フォーカスモードスイッチ」「フォーカスホールドボタン」「フォーカスレンジリミッタースイッチ」を備えています。特に「フォーカスモードスイッチ」は本機で追加された機能。レンズ一体型ながら、レンズ交換式に近い本格的な操作系が採用されているのも魅力と言えるでしょう。
レンズ鏡筒には「フォーカスモードスイッチ」「フォーカスホールドボタン」「フォーカスレンジリミッタースイッチ」などが備わっています
電子ビューファインダー(EVF)は0.5型・約369万ドットで、倍率は約0.78倍。前モデルの0.39型・約236万ドット、倍率約0.70倍から大きく進化しています。「α7 V」と同等の仕様で、ファインダーを覗いたときの視認性も格段に向上しています。
EVFも本格的なミラーレスカメラと同等の性能となっています
上下チルト式の3.0型液晶モニター(162万ドット)を採用。タッチパネルにも対応しています
バッテリーとメモリーカードは同じスペースに収める構造です。バッテリーは前モデルの「NP-FW50(1020mAh)」から、「αシリーズ」などで採用されている「NP-FZ100(2280mAh)」に変更されました。バッテリー容量は約2倍になり、静止画の撮影可能枚数は前モデル比で50%以上向上(液晶モニター使用時で約400枚から約630枚に)。長時間の撮影にも対応しやすくなっています。
記録メディアはSDメモリーカードに対応し、新たにUHS-II規格が使用できるようになりました。高速なデータ記録が可能になり、連写や4K動画撮影など、大容量のデータを扱う場面でも快適に使用できます。
新たにUHS-IIに対応したことで、高速なデータ記録が可能になりました。なお、メモリースティックへの対応はなくなっています
花型のレンズフードが同梱。有害光の抑制とレンズの保護において有用なアクセサリーと言えるでしょう
「RX10 V」を選ぶ理由のひとつは、何と言っても超望遠ズームレンズ「ZEISS Vario-Sonnar T* 24-600mm F2.4-4.0」を搭載していることです。35mm判換算で24mm〜600mm相当という幅広い焦点距離に対応しています。
広角端の24mm相当は、目の前に広がる光景を1枚の写真に収めるのに適した画角。いっぽう望遠端の600mm相当では、広角端ではほとんど気づかなかった遠くの被写体を画面いっぱいに大きく写せます。その超望遠の威力には、結構感動を覚えるほどです。
電源を入れると、収納されていたレンズが少し伸びてこの状態になります。広角端の焦点距離24mm相当の画角で撮影できます
ズームレバーを「T」方向に倒すと、最大で焦点距離600mm相当の超望遠撮影が可能になります
以下に掲載する2枚の作例は、同じシーンで広角端(24mm相当)と望遠端(600mm相当)で撮り比べたものです。24mm相当で画面の中央付近にいる野鳥にズームしてみたところ、600mm相当ではかなり大きく写すことができました。1台のカメラでこれだけ撮り分けられるのは大きな魅力を感じます。
RX10 V、9.1mm(35mm判換算24mm相当)、F5.6、1/320秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST(Standard)
撮影写真(5472×3648、9.2MB)
RX10 V、210mm(35mm判換算600mm相当)、F5.6、1/200秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST(Standard)
撮影写真(5472×3648、8.6MB)
「RX10 V」は光学ズームを超えた望遠域でデジタルズームを利用できるのも便利です。メニュー画面でズーム設定を「超解像ズーム」にすれば最大2倍の焦点距離1200mm相当まで、「デジタルズーム」にすれば最大4倍の焦点距離2400mm相当までの撮影が可能になります。
「デジタルズーム」は、元の画像を最大2400mm相当となるようにトリミングして引き延ばしているだけなので画質は劣化してしまいます。いっぽう、「超解像ズーム」ならパターンマッチング処理を行いながら高度な画像処理をするため、最大1200mm相当ながらも高画質なデジタル的延長ズームとして利用できます。
光学ズームだけでは捉えきれない遠くの被写体を、画質を維持しながらきれいに大きく写したい場合は「超解像ズーム」。画質よりも記録性を優先して被写体を大きく撮りたい場合は「デジタルズーム」といったように、目的に応じて使い分けるとよいでしょう。
「超解像ズーム」または「デジタルズーム」に設定すれば、同じ記録画素数のままズーム域を拡大できます。画質は落ちますが「デジタルズーム」では焦点距離2400mm相当まで拡張できます
RX10 V、超解像ズーム1200mm相当、F5.6、1/250秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST(Standard)
撮影写真(5472×3648、6.8MB)
上記の超解像ズームの作例は、光学ズームの広角端(24mm相当)と望遠端(600mm相当)の作例と同じ場所で撮影したものです。望遠端時よりも被写体(野鳥)を大きく写せています。超解像処理によって精細感をキープしていているのがポイントです。
今回、本機の光学ズーム、「超解像ズーム」、「デジタルズーム」を使って感じたのは、通常ありえないような超望遠域であっても、多くの条件で手ブレ補正機能が有効に働くため、案外手持ち撮影が可能なことでした。ただ大きく写せるだけでなく、大きくきれいに写す性能もしっかり備えているカメラです。
「RX10 V」は、有効約2010万画素の1インチ積層型「Exmor RS CMOS」センサーを搭載しています。ここでピンと来る人もいるかと思いますが、前モデルは同じ積層型でも、より高速なメモリー一体型を採用していました。撮像素子の処理速度としてはスペックアップしているわけではないのです。しかし、後述するAFや連写速度は前モデルを上回っています。
これは、画像処理エンジンが、「α7 IV」などにも採用されている「BIONZ XR」に刷新されたことが大きいです。処理性能の高い画像処理エンジンを採用することで、メモリー一体型でない通常の積層型センサーでも従来を上回る性能を実現できているのです。
AFの進化については、高度な被写体認識AFに対応するのがポイント。被写体認識専用の「AIプロセッシングユニット」も搭載し、「人」「動物」「鳥」「昆虫」「車・電車」「飛行機」といった多様な被写体を認識して、自動的にピントを合わせられるようになりました。これは前モデルからの大きな進化です。
被写体認識機能は「人」「動物」「鳥」「昆虫」「車・電車」「飛行機」など、多様な被写体を認識できます
撮影データ:RX10 V、9.1mm(35mm判換算24mm相当)、F2.5、1/80秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST(Standard)
撮影写真(5472×3648、5.3MB)
実際に使ってみても、その認識性能の高さは印象的です。イヌやネコなどのペットなら「動物」に設定することで、被写体を認識してピントを合わせてくれます。
撮影データ:RX10 V、209.2mm(35mm判換算598mm相当)、F5.6、1/250秒、ISO640、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST(Standard)
撮影写真(5472×3648、4.9MB)
小さな被写体で、ピントを合わせるのが難しい「昆虫」も、被写体をしっかり認識。眼の位置を捉えて、正確にピントを合わせてくれました。
積層型センサーによる高速な読み出しと「BIONZ XR」の処理能力を生かし、電子シャッター使用時には最高30コマ/秒の高速連写が可能です。前モデルの24コマ/秒からさらに高速化しました。
連写速度は最高で30コマ/秒。一瞬の動きをより確実に記録できるスピードです
RX10 V、210mm(35mm判換算600mm相当)、F4、1/500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST(Standard)
撮影写真(5472×3648、5.4MB)
高精度な被写体認識AFと最高約30コマ/秒の高速連写を組み合わせることで、野鳥など動きの速い被写体も狙いやすくなっています。超望遠ズームレンズと組み合わせれば、これまでレンズ一体型カメラでは撮影が難しかったような被写体も、より容易に捉えられます。
RX10 V、210mm(35mm判換算600mm相当)、F4、1/160秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST(Standard)
撮影写真(5472×3648、8.7MB)
レンズ一体型デジタルカメラとしてはラージサイズの1インチセンサーを搭載しているだけに、画質のよさは「RX10シリーズ」を通しての大きな特徴です。今回は約9年ぶりのモデルチェンジとなり、画像処理エンジンは最新世代へと刷新されました。
実際に撮影してみても、細かなディテールまでしっかりと描写され、発色や階調を含めた画作りにも不満はありません。画質のよさ、画作りのよさという点では、まったく問題ないカメラだと感じました。
撮影データ:RX10 V、210mm(35mm判換算600mm相当)、F4、1/500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST(Standard)
撮影写真(5472×3648、3.7MB)
広角端(焦点距離24mm相当)では、レンズ先端から3cmまで被写体に近づいて撮影できます。1インチセンサーによる近接撮影性能は非常に優秀で、最大撮影倍率は0.42倍。ハーフマクロにも迫るほどの高い接写能力を備えています。
この作例のように背景を広く画角に取り込みながら、手前の被写体を大きく写したい場合にも効果的。広角ならではの遠近感を生かしつつ、被写体をしっかり強調できるのが魅力です。
撮影データ:RX10 V、210mm(35mm判換算600mm相当)、F4、1/500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST(Standard)
撮影写真(5472×3648、3.7MB)
望遠端(焦点距離600mm相当)では、レンズ先端から72cmのワーキングディスタンスを確保しながら、最大撮影倍率は0.49倍に達します。広角端の0.42倍を上回る倍率となっており、被写体との距離を保ちながら、かなり大きく写せるのが特徴です。
ネイチャー撮影などで、昆虫や植物といった近づきにくい被写体をアップで撮影したい場合にも有効で、600mm相当の超望遠と高い近接撮影能力を組み合わせることで、望遠マクロに近い感覚で撮影できます。
撮影データ:RX10 V、210mm(35mm判換算600mm相当)、F4、1/250秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST(Standard)
撮影写真(5472×3648、8.9MB)
「αシリーズ」の最新モデルと同様に、すぐれた被写体認識機能を搭載したことは、日常的な撮影でも大きなメリットになります。散歩中に出会ったイヌやネコなども、被写体をしっかり認識してピントを合わせてくれるため、シャッターチャンスを逃さずきれいに撮影できます。
もちろん、ペットの日常を記録するような用途にも威力を発揮します。単にきれいな写真を撮れるだけでなく、「撮りたい」と思った被写体を確実に捉えやすいことこそ、本機の被写体認識AFの魅力だと感じました。
RX10 V、129.7mm(35mm判換算370mm相当)、F4、1/250秒、ISO1600、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST(Standard)
撮影写真(5472×3648、5.9MB)
本機を使っていると、広いズーム域を生かして、ついネイチャー撮影に意識が向きがちです。しかし、広角から超望遠までを1本でカバーするレンズ一体型だけに、スナップ撮影にも非常に使いやすいカメラと言えます。
スナップでは24mm相当や50mm相当といった特定の焦点距離に縛られることなく、その場の状況に応じて自由にズーム領域を選べるのが魅力と言えるでしょう。
「RX10 V」は、約9年ぶりのモデルチェンジによって、画質だけでなく被写体認識AFや最高30コマ/秒の高速連写など基本的な性能が大きく進化しました。デザインをリニューアルしつつ、サイズ・重量を大きく変えていない点も魅力です。
そして、35mm判換算で広角24mm相当から超望遠600mm相当まで幅広い焦点距離に対応し、ネイチャーはもちろん、ペットやスナップまで1台でこなせる懐の深さがあります。レンズ交換なしでこれだけ多彩な撮影に対応できる利便性の高さこそ、一眼カメラにはない「RX10 V」最大の魅力と言えるでしょう。
一眼カメラを使っていて、数本のレンズを持ち歩くことに負担を感じている人や、レンズ交換自体にわずらわしさを感じている人はいらっしゃると思います。一眼カメラには画質のよさやレンズ交換の楽しさがありますが、それよりも携行性や利便性を優先したいときに、本機は間違いなく力を発揮することでしょう。