ホンダを支える大ベストセラー軽が6年ぶりにフルモデルチェンジ

すべてを新しくしながら個性はそのまま、新型ホンダ「N-BOX」試乗&インタビュー

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ホンダの軽自動車のトップセールスモデルである「N-BOX」がフルモデルチェンジで第2世代に進化。2017年9月1日より、新型モデルの発売がスタートした。新しいN-BOXは、どのようなクルマなのか? 試乗と開発者へのインタビューを通して、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。

今やホンダの最重要モデルとなっている「N-BOX」。デザインの印象はほとんど変わらないが、エンジンやボディのすべてが新しくなった

ホンダの最重要モデルがブラッシュアップ

ホンダの現在の軽自動車のラインナップはN-BOXを筆頭に、「N-ONE」や「N-WGN」といった「Nシリーズ」というモデル群だ。「NEW NEXT NIPPON NORIMONO」(日本にベストな新しい乗り物)として2011年の初代N-BOXからスタートしている。そのNシリーズは、それぞれのモデルがヒットを記録し、2016年11月までに累計販売台数150万台を突破。凋落ぎみであったホンダの軽自動車を復活させたのだ。なかでも、N-BOXは最大級のヒットモデルとなり、発売から5年で4度の軽自動車の年間販売台数ナンバー1を獲得。国内で、もっとも数多く売れるホンダ車に成長した。

そのホンダの最重要モデルであるN-BOXは、このたびのフルモデルチェンジで、デザインからパワートレイン、そしてプラットフォームまで、すべてが新しくなった。しかし、驚くべきは、まったく新しいデザインだというのに、新型N-BOXを目の前にすると、「ほとんど変わっていない」という印象を抱くこと。あわてて旧型モデルの写真と見比べてみれば、グリルまわりから、ボディサイドのプレスライン、窓の形まで異なっている。しかし、全体のフォルムやたたずまいといった雰囲気はそのままなのだ。BMW「ミニ」が、何度もフルモデルチェンジしても、印象がちっとも変わらないのと同じだ。大ヒットモデルとなったN-BOXであるからして、あえてデザインの印象を変えないようにしたのだろう。

上が新型、下が従来型、側面のプレスラインや窓の形など異なる部分はいくつもあるが、全体のプロポーションや各パーツの配置バランスなど、全体の印象は変わっていない

2種類のデザイン、2種類のパワートレイン、2種類のシートレイアウトを用意

クルマのデザインは旧モデルと同様に2種類を用意した。素の「N-BOX」と、個性を強めた「N-BOX カスタム」だ。素のN-BOXの特徴となる丸目のヘッドライトはプロジェクタータイプのLEDヘッドライトを採用。リヤのコンビネーションライトもLEDで、外周が発光するのも特徴だ。まるでアメリカンコミックのマスクをかぶったヒーローのような顔つきの「N-BOX カスタム」には、内側から外側に向かって流れるように光るシーケンシャルターンシグナルを採用。先進さと個性を強めている。

左がベースとなる「N-BOX」、右はより武骨な印象の「N-BOX カスタム」。モデル構成も継承されている

左がベースとなる「N-BOX」、右はより武骨な印象の「N-BOX カスタム」。モデル構成も継承されている

新開発されたパワートレインも2種類だ。自然吸気エンジンには軽自動車初の「VTEC」を採用し、高回転域の伸びを実現。最高出力43kW(58PS)で、JC08モード燃費は27.0q/l。もういっぽうのターボエンジンには軽自動車初の電動ウェストゲートを採用。過給圧を自在にコントロールすることで、燃費性能やレスポンス向上に貢献する。こちらは最高出力47kW(64PS)で、JC08モード燃費が25.6q/lとなる。なお、全グレードにFFと4WDが用意されている。

搭載される2種類のエンジンはいずれも新開発。そのうち自然吸気エンジンは、可変バブルタイミング・リフト機構「VTEC」を採用している

プラットフォームからボディを新しくすることで、室内は若干広がっている。1列目と2列目の乗員の距離が25mm、頭上寸法も25mmそれぞれ拡大している。また、荷室も前後寸法が25mm、上下寸法も55mm広がった。さらにテールゲートの開口部は75mm下がっており、自転車などを搭載するのが、さらに楽になっている。

1列目と2列目の乗員の距離が25mm、ラゲッジスペースも前後方向が25mm広がり、室内空間はさらに広くなった

1列目と2列目の乗員の距離が25mm、ラゲッジスペースも前後方向が25mm広がり、室内空間はさらに広くなった

テールゲートの開口部は75mmも低くなり、自転車の積み下ろしもラクに行える

テールゲートの開口部は75mmも低くなり、自転車の積み下ろしもラクに行える

シートは、従来の前席ベンチシートだけでなく、スーパースライド仕様も追加された。これは、運転席とセパレートになった助手席が、前後に570mmもスライドできるというもの。助手席を一番前に引けば、左側のスライドドアから室内に入って、そのまま運転席に行くこともできる。子供を後席に載せた後に、親がクルマの反対側までいかなくてすむ。また逆に、助手席を下げて座れば、後席との距離がぐっと縮まる。後席の子供の面倒を、助手席から見ることができるのだ。

1列目シートは、ベンチシートと左右独立シートの2種類が用意される。独立シートの場合570mmも前後に動くスーパースライドシートとなる

スーパースライドシートなら、スライドドアから運転席に乗り込むこともできる

スーパースライドシートなら、スライドドアから運転席に乗り込むこともできる

また、運転支援システムである「ホンダセンシング」を全車で装備。自然吸気エンジン車では、装備を外して価格を安くすることもできるが、装備されているのを基本とした。価格に厳しい軽自動車ユーザー向けのビジネスとしては英断ではないだろうか。

ホンダセンシングの機能は10個。車両や歩行者とぶつからないための「衝突被害軽減自動ブレーキ」、前方に障害物があるときに飛び出さない「誤発進抑制機能」、後方の障害物にぶつからないための「後方誤発進抑制機能」、路側帯にいる歩行者とぶつからないための「歩行者事故低減ステアリング」、走行車線からはみ出さないための「路外逸脱抑制機能」、適切な車間距離を保って追従走行する「ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)」、高速道路などで走行車線の中央を維持するための「車線維持支援システム」、夜間の視界を確保する「オートハイビーム」、先行車の発進を知らせる「先行車発進お知らせ機能」、交通標識を表示する「標識認識機能」というもの。なお、N-BOXでは、従来のホンダセンシングに対して、「後方誤発進抑制機能」を新たに追加している。

運転支援システム「ホンダセンシング」を標準搭載。そのうち「後方誤発進抑制機能」は、このN-BOXが初の搭載車種となる

運転のしやすさとシャキッとしたドライブフィール

続いては新型N-BOXの走りだ。まず、ドライバーズシートに座ると、視界がよいことに気づく。Aピラーが非常に細く、左右まで広く見えるのだ。もちろん、安全性は、その後ろにあるドアのピラーを強くすることで確保されている。また、左ピラー部にサイドビューサポートミラーがある。これを見ると、左側の前輪の位置がわかる。狭い場所などを走るときに助かる装備だ。さらにメーター内にあるモニターに、前輪の向いている方向を表示することもできる。運転の苦手な人にやさしい装備が数多く用意されていたのだ。

Aピラーが従来型の約82mmから約55mmまでが細くなり、運転席からの視界が広がった

Aピラーが従来型の約82mmから約55mmまでが細くなり、運転席からの視界が広がった

助手席側のAピラーの付け根に備わる2面のサイドビューサポートミラー。前輪の様子やドアの下の様子が確認できる

メーターの左側に、カラー液晶のマルチインフォメーションディスプレイを備える

メーターの左側に、カラー液晶のマルチインフォメーションディスプレイを備える

走らせてみると、先代よりも新型は動きがシャープで、最初の一歩目から軽快だ。これは超高張力鋼板などをボディに採用することで達成した、約80kgもの減量が効いているのだろう。また、コーナリングや左右のレーンチェンジでの動きもシャキッとしている。シーム溶接や高粘度接着剤などの採用でボディ剛性が高まっているし、リヤにはスタビライザーも追加されている。また、新しくなったパワートレインは、レスポンスがよく、高回転での伸びがある。自然吸気エンジンでも十分なパワーがあり、ターボエンジンでは、余裕さえ感じることができた。これなら高速道路でのロングドライブも楽々こなすことができるだろう。N-BOXはスーパーハイトワゴンだが、もう少し背の低いハイトワゴンのような走りを見せてくれたのだ。

自然吸気モデルとターボモデルの両方を試乗。自然吸気モデルでもパワーは十分。ターボモデルではロングドライブをこなせるだけの余裕が感じられた

FF駆動モデルには後輪にもスタビライザーも標準装備。コーナリング時のロールを抑えた快適な乗り心地をもたらしてくれる

お客様の生活をよりよいものにするためのモノづくり

続いて、開発のリーダーを務めた開発責任者に話を聞くことができた。以下、インタビュー形式で紹介しよう。

白土清成氏 株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター LPL(開発責任者) 主任研究員

白土清成氏 株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター LPL(開発責任者) 主任研究員

鈴木: N-BOXのヒットの理由は、どのようなものとホンダは考えているのでしょうか?

白土:ある意味、当たり前ですけれど、お客様目線で開発したことでしょう。お客様が何を求めているのかを真摯に研究し尽くして開発しました。それと、「軽自動車だから、これくらいでいいだろう」というのはなくて、「他社も提供している価値は当然提供しますし、さらに上回るような価値を提供する」としました。その結果、一部、上下逆転するような装備もございましたけれど。そういうこともあえてやりました。

鈴木:いわゆる、「フィットよりもよいものをN-BOXに採用する」などのことですね。そういうように、うまくいった初代があって、2代目を作るというときにどうしようか? という話になると思うのですが……。新型は、基本的にはコンセプト踏襲で、さらにブラッシュアップしたという内容に見受けられますが?

白土:そうですね。よいものを作るというより、お客様の暮らしをよいものに変えていきたい。そう言えるくらい、お客様に近い商品にしたいというところですね。

鈴木:いわゆるハードウェアだけでなく、ライフスタイルのシーンまで考えてということですね。

白土:どういうシーンで、どういう使い方ができるのかを主眼に置きました。代表事例が、スーパースライドシートです。あれは、いろいろな使い方を考えたんですよ。ママがお子様をクルマに載せたあとに、運転席に行きやすいとか。家族3人でドライブするときに、やっぱりママは子供が大事ですけれど、お子様が寝た後に、旦那さんと一緒にドライブしたいという気持ちがあります。そういうときに、後ろとも前ともつながるような座り方ができると。そういう価値が提供できるように開発しました。

「ドライバーの暮らしをよくしたい」という願いの現れのひとつが「スーパースライドシート」として具現化された

鈴木:それと、今回は運転支援システムを標準装備としていますね。ただ、わざわざ「一部、外すこともできます」という書き方もありましたが……。

白土:本当は、まごうことなく標準装備、全車適合に持っていきたかったんですけれど、どうしても、他社との競争上、そこまでお金出せないというお客様もいらっしゃいますので。ターボは外すことができませんが、ベース仕様のほうは、今回、そういう形にしました。

鈴木:軽自動車は価格を気にする人が多いと思うので、標準化は勇気が必要だったのでは?

白土:そう思いますが、先行するフィットではオプションでしたが、7〜8割くらいの方がそれでも選んでいただけています。標準装備化は、もう少しというところまで来ていますから、今回はそういう判断にしました。

各社で採用の進む運転支援システムだが、N-BOXではターボモデルでは全車標準で、自然吸気モデルも原則として標準装備されるが、除外もできる

鈴木:ギャンブルではなく、フィットの様子を見て、これならいけそうだということだったんですね。あと、新型は走りがずいぶんとよくなっていると思いました。

白土:ありがとうございます。走りは気にしましたね。ダイナミックを見ている三上というのが、もともと走り系のクルマが好きなので。ある程度は任せるところは任せて、結果的にいいものができたと思いました。

鈴木:走りがよいのは、個人的には好ましいんですけれど、N-BOXのユーザーにとって走りはどうなんでしょうか?

白土:カッ飛ぶみたいな走りは求めてないと思いますが、やはり意のままに走るというのは、誰でも好きなんじゃないかなと思います。

軽量化されたボディを得て高められた動力性能。車の性格に合わせて、コントロールしやすく、意のままの走れるという方向で走りが進化している

鈴木:大成功したクルマの2代目ですから、相当にプレッシャーだったのでは?

白土:そうですね。ただ、私自身が旧モデルに関与していなかったら「どうしよう?」と、「ガラッと変えるか、キープコンセプトか」と迷ったと思いますが、まあ、私もやっていましたから。初代N-BOXの開発責任者代行ということで、補佐をしていましたし、よいところも悪いところも知っていたので、それを生かさない手はないなと。逆に、私が指名されたってことは、そういうことを会社が求めているんだろうなあと。

鈴木:なにか最後にアピールしたいことは?

白土:ママ目線で開発したのは、確かにそうなんですけれど。じゃあ、男は鑑みないかというと、決してそういうことはなくて、空間を広くすることで、シートポジションに余裕を持たせたんですね。より大柄な方でも、運転できるようなポジションをとれるようにしました。決して、ママだけ見て開発したクルマじゃないですよと言いたいですね。

車を変えるのではなく、ユーザーの生活を変えることを目指したN-BOX。女性に限らず男性でも扱いやすく快適な車となった

鈴木ケンイチ

鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

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2017.11.16 更新
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