日本ではコンパクトカーが高い人気を得ているが、その中でも販売好調なのがトヨタ「アクア」だ。「アクア」は、2022年1〜12月のコンパクトカーにおける新車(登録車)販売ランキングにおいて、1位のトヨタ「ヤリス」、2位の日産「ノート」に次ぐ3位にランクインしている(自販連調べ)。そんな「アクア」に、2022年11月の一部改良の際に、スポーティーな新グレード「GRスポーツ」の2代目が加わった。
※一部テキストを追記しました(2023年5月15日[編])
トヨタのスポーツカーブランド「GR」シリーズのなかで、モータースポーツによって培った知見を生かして開発されたスポーティーモデルが「GRスポーツ」だ。2022年11月29日、トヨタのコンパクトカー「アクア」へ新たに「GRスポーツ」の2代目が加わったので、同グレードへ試乗しながらその魅力について確認していこう
そこで今回は、「GRスポーツ」の魅力を解説するとともに、「アクア」のグレード選びについても改めて考えてみたい。
■トヨタ「アクア」のグレードラインアップと価格
B:1,997,000円(2WD)/2,195,000円(4WD)
X:2,107,000円(2WD)/2,305,000円(4WD)
G:2,230,000円(2WD)/2,428,000円(4WD)
Z:2,400,000円(2WD)/2,598,000円(4WD)
GR SPORT:2,595,000円(2WD)
■トヨタ「アクア」(FF)の走行性能(全グレード共通)
最高出力(エンジン):67kW(91PS)/5,500rpm
最大トルク(エンジン):120Nm(12.2kgf・m)/3,800〜4,800rpm
最高出力(フロントモーター):59kW(80PS)
最大トルク(フロントモーター):141Nm(14.4kgf・m)
まず、「GRスポーツ」の外観で特徴的なのが、フロントフェイスだ。専用のフロントバンパーは、フロントタイヤに当たる空気を整流して後方へと流す役割も果たす。また、専用のラジエーターグリルは、“G”をモチーフにした六角形のメッシュデザインが採用されるなど、凝った作りとなっている。
上が「アクア GRスポーツ」で、下が「アクア Z」のフロントフェイス。比較すると、デザインが大きく異なっていることがわかる
装着タイヤは、標準グレードの「G」や「Z」(廉価グレードの「B」を除く)には15インチ(185/65R15)タイヤが履かれているが、「GRスポーツ」には大径の17インチ(205/45R17)タイヤが採用されている。さらに、「GRスポーツ」の最小回転半径は5.3mと、標準グレードの5.2mと比べて大差がなく、大径タイヤが装着されているにもかかわらず小回りのしやすさがほとんど損なわれていないのもメリットのひとつだ。
「アクア GRスポーツ」には専用のアルミホイールと、赤で塗装されたブレーキキャリパーが採用されている
そして、「GRスポーツ」に装着されているタイヤ銘柄は上級ブランドのブリヂストン「POTENZA RE050」なので、グリップ性能が高く、ステアリング操作に対する反応も良好だ。
「アクア」は、全高が1,485mmに抑えられており、ホイールベースは2,600mmと長い(「GRスポーツ」を含む)ため、コンパクトカーの中では走行安定性が高い部類に入る。
比較のため「Z」にも試乗した。「アクア」の走行安定性も、コンパクトカーのなかでは良好なものと言える
「GRスポーツ」はさまざまなチューニングによって、性能がさらに高められている。そのひとつが、ステアリング操作に対する反応の正確さだ。スポーティーな「Z」と比べても、「GRスポーツ」では反応がさらに正確になっている。「Z」にはステアリングを回し始めたときの感触が若干鈍いところがあるのだが、「GRスポーツ」はその部分を払拭している。
だが、ステアリングは過度に敏感というわけではないので、運転はしやすい。ドライバーと車両との一体感が、さらに高められているような印象だ。ステアリングの反応を正確にすれば、走行安定性から運転の楽しさまで走りの質が幅広く向上することが、「GRスポーツ」に乗るとよくわかる。
「アクア GRスポーツ」の開発においては、特にハンドリングに重点を置いて作り込まれたという
「GRスポーツ」をワインディングへと持ち込み、少々スポーティーな走りを試してみると、4輪のグリップ力が高められていることがわかる。「Z」ではタイヤのグリップ力が失われて旋回軌跡が拡大するような場面においても、「GRスポーツ」は前輪が踏ん張るのでクルマを内側へと向けられる。さらに、後輪の接地性も高いので、下り坂のカーブなどでも不安定な状態へと陥りにくい。これらは、「GRスポーツ」のボディ剛性の強化によるものだろう。ボディ底面の中央部分には、剛性を高める床下ブレースが装着されており、ボディ後部のリヤバンパー部分にも補強材が加えられているためだ。
このように、剛性を高めてボディの捩(ねじ)れを抑えると、ステアリング操作に対する反応が正確になる。サスペンションも的確に伸縮するため、走行安定性が向上する。ボディに効果的な補強を施せば、振動なども含めてクルマのバランスを総合的に高められる。
「アクア GRスポーツ」は、ワインディングなどでは意のままに操る楽しさを味わうことができる
逆に「GRスポーツ」の欠点としては、乗り心地があげられる。市街地では少々硬めに感じられ、路面の細かな凹凸を伝えやすく、やや上下に揺すられる印象があった。突き上げるような粗さは抑えられているので不快な印象ではないのだが、購入を検討しているなら、乗り心地については確認しておきたい点のひとつだろう。
「GRスポーツ」は、259万5,000円という手の届きやすい価格にも注目したい。「GRスポーツ」のベースグレードは223万円の「G」なので、上乗せは36万5,000円に抑えられている。「GRスポーツ」は、この価格差で専用のエクステリアが採用され、17インチサイズのアルミホイールとハイグリップタイヤを装着。さらにこちらも専用のフロントシートやアルミペダルなどが採用されているほか、ボディの補強パーツの追加や、コイルスプリング、ショックアブソーバー、スタビライザー、電動パワーステアリングなどにチューニングが施されている。
「アクア GRスポーツ」には、スポーティーな専用シート(上)や、アルミペダル(下)などが採用されている
「GRスポーツ」のラインアップ追加は、「アクア」のグレード選びにも影響してきそうだ。機能や装備を考慮しつつ価格を安く抑えたいのなら、これまでどおりベーシックな「G」を推奨したい。だが、上級グレードについては、今後は「GRスポーツ」をおすすめする(これまでは「Z」を推奨していたのだが……)。
まず、「Z」の価格は240万円で、「GRスポーツ」との価格差は195,000円と、それほど大きくはない。「Z」の快適装備は「GRスポーツ」よりも充実しているのだが、10.5インチのディスプレイオーディオは38,500円、バイビーム式LEDヘッドランプは11万円で、「GRスポーツ」にもオプション装着できる。
また、「GRスポーツ」には7インチのディスプレイオーディオやベーシックなLEDヘッドランプが標準装着されるので、実用面で不満は生じないだろう。したがって、「アクア」を選ぶなら「G」か「GRスポーツ」を推奨したい。トヨタの販売店でも、「『GRスポーツ』は数年後の売却額でも有利になるだろう」と述べている。
最後に、販売店に納期を尋ねたところ、「『GRスポーツ』を含めて『アクア』の納期は約5か月」とのことだった。今のトヨタ車では短い部類に入るが、購入希望なら商談は早めに開始したいところだ。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト