日産は、2023年4月20日にミドルサイズミニバン「セレナ」のハイブリッド車である、新型「セレナ e-POWER」を発売した。「セレナ」のパワートレインは、「e-POWER」を搭載したハイブリッド車と、NAエンジン搭載車の2種類がラインアップされている。NAエンジン搭載車は、先行して2022年12月22日に新型が発売(FFモデル)されているのだが、ハイブリッド車は少々遅れての発売となった。
2023年4月20日に発売された、日産「セレナ e-POWER」へ試乗した。注目の「プロパイロット2.0」の使い勝手や乗り心地のほか、「セレナ」のグレード選びなどについてお伝えしたい
「セレナ」の販売状況について少しお伝えすると、2023年5月22日時点での販売台数は4万7,200台に達しているという。さらにグレード別の受注比率は、ハイブリッド車が53%でNAエンジン搭載車は47%と、ハイブリッド車のほうが多い。ハイブリッド車は、前述のとおり受注開始が遅れたので、今後はハイブリッド車の販売比率がさらに高まるものと予想される。
■日産「セレナ」のグレードラインアップと価格
※価格はすべて税込
-ハイブリッド車-
e-POWER X:3,198,800円[FF]
e-POWER XV:3,499,100円[FF]
e-POWER ハイウェイスターV:3,686,100円[FF]
e-POWER LUXION:4,798,200円[FF]
e-POWER AUTECH:4,150,300円[FF]
-NAエンジン搭載車-
X:2,768,700円[FF]/3,034,900円[4WD]
XV:3,088,800円[FF] /3,355,000円[4WD]
ハイウェイスターV:3,269,200円[FF] /3,535,400円[4WD]
AUTECH:3,733,400円[FF]/3,933,600円[4WD]
そして今回、「セレナ e-POWER」に試乗したので、ハンドルから手を放して運転できる注目の先進運転支援システム「プロパイロット2.0」の使い勝手や、乗り心地などのレビューに加えて、「セレナ」のグレード選びやライバル車との比較などについても解説したい。ちなみに、試乗したグレードは、最上級の「e-POWER LUXION」と、エアロパーツを装着した「e-POWER ハイウェイスターV」の2グレードだ。
両グレードの最も大きな違いは、「e-POWER LUXION」には前述の「プロパイロット2.0」が標準装備されていることだ。先代「セレナ」から採用されていた「プロパイロット」の進化版であり、現時点で、市販車へ搭載されている運転支援機能としては最も先進的なシステムだ。
まずは「e-POWER LUXION」から試乗して、「プロパイロット2.0」を高速道路で試してみた。ハンドルに備えられている「プロパイロット2.0スイッチ」を押すと、メーター内がグリーンで表示される。
「プロパイロット2.0」のスイッチは、ハンドルの右側に備えられている
このときには、ハンドルやアクセル、ブレーキをクルマがアシストしてくれて、アクセルから足を放しても先行車に自動で追従走行する。だが、ハンドルからはまだ手を放すことはできない。やがて、ハンズオフの条件が整うとメーター内のグリーンの表示がブルーへと変わるので、ここでハンドルから手を放した運転が可能になる。
ハンズオフは、対面通行路やトンネル内、カーブ、料金所、合流地点など、できない区間や条件などがあるため、それをメーター内のカラーによってわかりやすく色分けしているというわけだ。
メーター内の赤丸の部分がブルーになると、「プロパイロット2.0」による手放し運転が可能になる
「プロパイロット2.0」などの運転支援機能は、電子制御で車両の動きをコントロールするが、ステアリング操作に対する動きが曖昧なクルマだと、運転支援機能も正確に作動しない。ドライバーが運転しにくいクルマは、運転支援機能にとっても制御しにくいのだ。
先代「セレナ」にはその傾向があり、「プロパイロット」を作動させると車両が左右にややふらつく印象があった。だが、現行「セレナ」は先代のプラットフォームを基本としながら、ボディ底面の骨格のサイドメンバーを作り替えるなどの大幅な改善が加えられている。これによりボディ剛性やステアリングの支持剛性が高まり、「プロパイロット2.0」の運転制御は先代の「プロパイロット」に比べて、かなり正確になっている。
「セレナ」は、ボディ剛性の強化によって走行安定性などが向上していることから、「プロパイロット2.0」作動時における制御の正確性も格段にアップしている
「セレナ」は床が高く、さらに全高が1,870mmに達するので重心が高い。そのため、ワインディングなどを走るとボディの傾き方はやや大きめだ。だが、前述のように先代に比べて操舵に対する反応が正確になっており、走行安定性も向上しているので、運転感覚は自然で取り回しもしやすい。
現行「セレナ」は、前述したようにボディ剛性が強化されていることから、ワインディングなども走りやすい。画像のグレードは、「e-POWER ハイウェイスターV」
「セレナ」のタイヤサイズは全グレードで共通の16インチ(205/65R16)で、指定空気圧は280kPaと高い。この影響によって、乗り心地は少々硬めで、路面の凸凹が乗員に伝わりやすい。特に「e-POWER LUXION」は、「プロパイロット2.0」の正確な運転制御を考慮しているため、タイヤは直進安定性にすぐれた専用開発モデル、ブリヂストン「トランザER33」が装着されている。このタイヤを履くことで、走行安定性と引き換えに「e-POWER ハイウェイスターV」(装着タイヤはダンロップ「エナセーブEC300+」)と比べて、乗り心地は硬い。タイヤが路上で細かく跳ねるような粗さは抑えられているが、凸凹は体へ直接的に感じられる。通常は、速度が高まれば乗り心地の硬さも薄れるのだが、「e-POWER LUXION」は高速道路の段差でもショックが弱まらない。「e-POWER LUXION」は「プロパイロット2.0」を搭載しているため、高速道路を走る機会の多いユーザーが購入するはず。高速域での乗り心地は、もう少し穏やかに仕上げられるとよかったのではないか。
「e-POWER ハイウェイスターV」も少し乗り心地は硬めだが、「e-POWER LUXION」はさらに硬いのが少々気になる。購入を検討されている人は、一度ディーラーなどの試乗車に乗って、乗り心地を確かめたほうがいいだろう
「e-POWER」は、エンジンは発電を担ってモーターが駆動を受け持つシステム。その発電用のエンジンは、従来は1.2L直列3気筒だったのだが、新型は排気量が1.4Lへとアップしている。そのため、ハイブリッド車は(アクセルを踏み込まない通常走行においては)先代に比べてエンジン音が静かになっている。いっぽう、実用域を中心として駆動力も向上しており、排気量が3L前後のエンジンを搭載するクルマのような感覚で運転できるのも大きなメリットだ。
さらに、ハイブリッド車は燃費(WLTCモード)も改善されている。「e-POWER ハイウェイスターV」同士で比べると、先代は18km/Lだったが新型は19.3km/Lへと向上している。ブレーキペダルを踏むと、モーターの発電量が増える「回生協調ブレーキ」機構も採用されており、「e-Pedal」や「エコモード」など、モーターの回生ブレーキが働く機能をあえて使わなくとも燃費がいい。
先代「セレナ」から乗り換えるときに注意したいのが、「シフトスイッチ」の操作性と1列目シートの足元空間についてだ。まず、現行「セレナ」のATシフトの操作方法は、横向きに並んだプッシュボタン式の「シフトスイッチ」を押す新しいタイプへと刷新されているので、少々慣れを要する。ちなみに、プッシュボタン式を採用した目的は、インパネの中央部が手前に張り出すのを抑えて、運転席と助手席の間を移動しやすくすることにあるとのことだ。
センターパネルの右下にあるのが、「シフトスイッチ」だ
これは、現行「セレナ」のメリットでもあるのだが、インパネの張り出しを抑えたことでその内側に収まるメカニズムのレイアウトが変わり、一部の機能が下側へと降ろされたことによる。そのため、運転席に座ると足元空間の左側が狭く感じてしまうかもしれない。
フロントシートへ座った際に、センターパネルの張り出しが気にならないか、試乗車などで確かめてみるといいだろう
また、「e-POWER LUXION」は「プロパイロット2.0」を搭載しているので、そのメカニズムを収めるために運転席と助手席の間に大きなコンソールが採用されている。そのため、「e-POWER LUXION」には2列目シートの中央に装着された長いスライド機能が採用できず、1列目シートから2列目シートへの移動なども難しい。このように、先代モデルやグレードによって、使い勝手が異なる点にも注意したい。
■日産「セレナ」のグレードラインアップと価格
※価格はすべて税込
-ハイブリッド車-
e-POWER X:3,198,800円[FF]
e-POWER XV:3,499,100円[FF]
e-POWER ハイウェイスターV:3,686,100円[FF]
e-POWER LUXION:4,798,200円[FF]
e-POWER AUTECH:4,150,300円[FF]
-NAエンジン搭載車-
X:2,768,700円[FF]/3,034,900円[4WD]
XV:3,088,800円[FF] /3,355,000円[4WD]
ハイウェイスターV:3,269,200円[FF] /3,535,400円[4WD]
AUTECH:3,733,400円[FF]/3,933,600円[4WD]
さて、「セレナ」のグレード選びだが、最初にハイブリッド車とNAエンジン搭載車のどちらを選択するかについて考えたい。ハイブリッド車の価格は、NAエンジン搭載車よりも約41万円高いが、購入時に納める税額は「ハイウェイスターV」同士で比較すると、ハイブリッド車のほうが約13万円安い。そうなると、実質的な価格差は28万円に縮まる。
そこで、レギュラーガソリンの価格を1L当たり160円で計算すると、約7万kmを走れば28万円の実質価格差を燃料代の節約によって取り戻せることになる。しかも、ハイブリッド車は加速が滑らかでノイズが小さく、運転感覚は3LのNAエンジンに匹敵する。上記の理由から、もし予算に余裕があればハイブリッド車を推奨したい。
次に、ハイブリッド車のグレード選びだが、機能と価格とのバランスを考えると「e-POWER ハイウェイスターV」(368万6,100円)が、買い得度は最も高い。「e-POWER XV」(349万9,100円)に比べると18万7,000円高いが、エアロパーツやアルミホイールなどが加わり、遮音性能も少し向上する。さらに、「e-POWER ハイウェイスターV」は装備の割に価格が安く、人気のグレードなので売却時も有利になるだろう。
「e-POWER ハイウェイスターV」は、豊富な装備の割に価格が安いので、最も買い得なグレードと考えられる
ただし、5ナンバーサイズのボディが欲しいのであれば「e-POWER XV」を選ぶメリットもある。ひとつ注意したいのが、ベーシックグレードの「e-POWER X」(319万8,800円)だ。価格が安い代わりに装備が乏しく、オプションの選択肢も少ない。そのため、なるべくなら「e-POWER XV」以上のグレードを選ぼう。
また、最上級グレードの「e-POWER LUXION」(479万8,200円)は、「e-POWER ハイウェイスターV」と比べて111万2,100円高い。この差額のうち、約56万円は「SOSコール」や「アダプティブLEDヘッドライトシステム」「インテリジェントアラウンドビューモニター」「NissanConnect」など、「e-POWER ハイウェイスターV」にオプション設定されている装備の標準化によるものだ。
そして、残りの差額の約55万円は、「e-POWER LUXION」の専用装備である「プロパイロット2.0」や、スマホを使って車外から車庫入れの操作が行える「プロパイロットパーキング」、合成皮革シート生地などである。「プロパイロット2.0」のみの正味価格を割り出すと40〜45万円になるので、あまり割安な装備とは言えない。もし、長距離ドライブの機会が多く、前述の装備に魅力を感じるユーザーなら「e-POWER LUXION」を選ぶ価値はあるが、そうでない場合には「e-POWER ハイウェイスターV」を推奨したい。
「セレナ」の魅力をライバル車のトヨタ「ノア」「ヴォクシー」やホンダ「ステップワゴン」と比べると、「セレナ」の3列目シートが最も快適なことがあげられる。身長170cmの大人6名が乗車したとき、2列目シートに座る乗員の膝先空間を握りコブシ2つ分に調節すると、3列目シートの膝先空間は「セレナ」が握りコブシ2つ半、「ステップワゴン」は2つ、「ノア」「ヴォクシー」はひとつ半になる。しかも、「セレナ」の3列目シートは、座面の長さも3車の中でいちばん長く、快適性が高い。
「セレナ」は、ライバル車と比較すると3列目シートの快適さが最も大きなメリットとしてあげられる
また、「セレナ」は2列目シートの中央にある「スマートマルチセンターシート」を1列目シートの間までスライドさせて、収納設備として使えるようになっている(「e-POWER LUXION」を除く)。この状態では、2列目シートの中央が通路になるので、2列目シートと3列目シート間の移動もしやすくなる。このような多彩なシートアレンジも、「セレナ」の魅力のひとつだろう。
そのほか、「セレナ」は床が高いので乗員の視線も高く、周囲の見晴らしがいい。サイドウィンドウの下端を低めに抑えているためドライバーの視界も良好で、混雑した市街地などでも運転しやすい。その代わり、ライバル車に比べて床が70〜80mm高いため、乗降時にはサイドステップを使う必要がある。
いっぽう、「ノア」「ヴォクシー」は安全装備や運転支援機能を充実させている。さらに、3列目シートを片手で格納できるなど、各部の操作性もいい。高い安心感と、カンタンに扱える使い勝手のよさがメリットだ。「ステップワゴン」は走行安定性にすぐれ、快適な乗り心地へと仕上げられている。走りに関する機能や性能が高められているのが「ステップワゴン」の特徴だ。
ミドルサイズミニバンには、前述のようにそれぞれ異なる魅力を備えているので、販売店の試乗車を乗り比べて自身に合ったクルマを見つけてほしい。いずれも、パワーユニットはハイブリッドが買い得になる。
最後に、「セレナ」の納期を販売店に尋ねると「約4か月」との返答であった。「ノア」「ヴォクシー」は今でも「NAエンジン搭載車は約8か月、ハイブリッド車は約1年を要する」と言う。「ステップワゴン」も「全グレードが約1年」なので、「セレナ」は納期が短い部類に入ることも視野に入れて購入を検討していただければ幸いだ。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト