日本のファミリー層に人気のクルマと言えば、背の高いボディにスライドドアを備えた「スーパーハイトワゴン」だ。売れ筋なのは、ホンダ「N-BOX」やスズキ「スペーシア」など軽自動車の「スーパーハイトワゴン」だが、ボディサイズやエンジン排気量、乗車人数(4人まで)などの制限があるため、軽自動車ではなく普通車のほうがよいと考える方もおられるだろう。
今回は、コンパクトカーのスーパーハイトワゴン、スズキ「ソリオ」(左上)とトヨタ「ルーミー」(右下)の2台を比較してみた
そこで注目したいのが、コンパクトカーのスーパーハイトワゴンだ。特に、トヨタ「ルーミー」とスズキ「ソリオ」の2台は人気が高い。どちらも、全長の短い5ナンバーサイズで運転がしやすく、全高は1,700mmを超えているので車内が広い。大人がゆったりと乗れて、後席を倒せば広々とした荷室になる。さらに、価格も売れ筋グレードで200万円を切っているので購入しやすい。そこで、今回は「ルーミー」と「ソリオ」の2台を徹底比較してみよう。
まずは、ボディサイズから。標準ボディ同士で比べると、「ルーミー」は全長3,700mm、全幅1,670mm、全高1,735mm。いっぽうの「ソリオ」は全長3,790mm、全幅1,645mm、全高1,745mmだ。
トヨタ「ルーミー」のフロント、リアエクステリア
スズキ「ソリオ」のフロント、リアエクステリア
両車ともに、ボディはコンパクトで扱いやすい。運転していても、クルマが大きいと感じられることは少ないだろう。そのうえで比べてみると、「ルーミー」は「ソリオ」に比べて全長が少し短く、全幅は若干ワイド。「ソリオ」は、狭い道でのすれ違いなどを考慮しているので、全幅が抑えられている。
最小回転半径は、同じく標準ボディ同士で「ルーミー」が4.6m、「ソリオ」は4.8m。「ルーミー」のほうが、小回りのききはすぐれる。前後左右の視界については、どちらも同程度で良好だ。
結果:
ボディサイズは、どちらもコンパクトで運転しやすい
視界は、どちらも同程度に良好
小回りは「ルーミー」のほうがきく
内装の質感は、両車ともによく見れば少々プラスチック感があるのは否めない。だが、どちらもシルバーガーニッシュが随所に配され、合皮を思わせるような凝ったデザインなど、印象よく見えるような工夫がうまく施されている。
トヨタ「ルーミー」の姉妹車であるダイハツ「トール」のインパネ
スズキ「ソリオ」のインパネ
両車の内装で、大きく異なるのがメーターの位置だ。「ルーミー」はステアリングホイールの奥に、「ソリオ」はインパネ中央の奥にそれぞれ配置されている。位置は異なるが、視認性については一長一短だ。
「ソリオ」のメーターは、奥まった位置にあるために目の焦点移動が少なく、上下の視線移動も抑えられる。その代わり、メーターをチェックするときには視線が左側へ向く。対する「ルーミー」はオーソドックスなタイプなので、多くの人が見やすく感じるだろう。
トヨタ「ルーミー」のメーターは、従来のクルマと同じように運転席のステアリング奥に配されている
スズキ「ソリオ」のメーターは、インパネ中央の奥に配置されている。人によっては少し遠く感じられるが、目線の移動は少なくて済む
結果:
内装の質感は、どちらもよく見えるように工夫されている
メーターの位置が両車で異なる(「ルーミー」は運転席前、「ソリオ」はインパネ中央)
フロントシートの広さや座り心地については、両車ともに一般的で大きな違いはない。また、リアシートの頭上や足元の空間もほぼ同程度だ。身長170cmの大人4名が乗車したとき、後席に座る乗員の膝先には両車とも握りコブシ3つ半の余裕ができる。どちらも、後席の居住空間はかなり広いので、ファミリーなど4人までなら多人数で乗車しても快適だろう。
注意したいのが、リアシートの座り心地と着座姿勢だ。「ルーミー」の後席は、「ソリオ」に比べると柔軟性がやや乏しく、座ったときに座面の角度が水平に近い形になる。さらに、床と座面の間隔が不足しているので、足を前方へ投げ出すような座り方を強いられる。後席の座り心地や着座姿勢、腰の収まりなどは「ソリオ」のほうが勝っている。
「ソリオ」のリアシート
「ルーミー」のリアシート
結果:
前後席の広さは同等
後席はどちらもかなり広い
リアシートの座り心地は「ソリオ」のほうがよい
(2024年6月13日:画像キャプションの文言を一部修正いたしました/編集部)
両車ともに、後席ドアは両側スライド式なので乗り降りがしやすい。そのうえで比べると、乗降性に影響を与えるスライドドアの開口幅は、「ルーミー」が597mmで「ソリオ」は640mmと、「ソリオ」のほうが少しワイドだ。
また、乗り込む際のフロアの高さは、「ルーミー」が366mmで、「ソリオ」は365mmとほぼ同じである。
「ルーミー」のスライドドア開口部は597mm
「ソリオ」のスライドドア開口部は640mm
また、「ルーミー」には「乗降用大型アシストグリップ」や、スライドドアの足元にドアの開閉に連動して点灯する「後席ステップランプ」が備わっている。「ソリオ」にもグリップは備わっているのだが、「ルーミー」のような大きなサイズではないので「ルーミー」のほうが使いやすい。
「ルーミー」には、さまざまな身長の乗員に合うように、高さが2段階の「乗降用大型アシストグリップ」が採用されている。グリップの太さが上下で異なっており、握りやすさが高められている
結果:
スライドドアの開口幅は「ソリオ」のほうが広い
「ルーミー」には、乗り降りしやすい大型グリップや足元ライトが装備されている
両車ともに、リアシートを倒せばフラットで広い荷室になる。どちらの荷室も、コンパクトカーとしてはかなり多くの荷物を積み込めて便利だ。
両車の荷室における違いは、後席の倒し方や荷室の形状にある。「ルーミー」は、後席の背もたれを前方に倒したあと、たたまれた後席を前側に寄せて床の窪んだ部分へと落とし込むことで、フラットで大容量な荷室にアレンジできる。ひとつ注意したいのは、後席をもう一段落とし込むためには、それなりに力を入れないといけないことだ。
「ルーミー」は、リアシートを前方へ倒すだけでは段差ができてしまう
リアシートを、手前(クルマ前方)へ落とし込むことでフラットになるのだが、この操作が結構重い
フラットな荷室になれば、大きな荷物なども載せられる
いっぽうの「ソリオ」は、後席の背もたれを前側に倒すだけで座面が連動して下がるタイプだ。ワンタッチで操作はカンタンなのだが、広げた荷室の床には少し傾斜ができる。つまり、荷室としての広さや積載性を重視するなら「ルーミー」、シートアレンジのしやすさなら「ソリオ」になるだろう。
「ソリオ」はリアシートを倒すだけでダイブダウンしてフラットになるのだが、荷室に少し傾斜ができることに注意したい
なお、荷室の床は「ルーミー」のほうが低い。路面から荷室開口下端部までの高さは、「ルーミー」は527mmで、「ソリオ」は665mm。床の低い「ルーミー」のほうが、荷物を積み込みやすい。さらに、「ルーミー」は広げた荷室の床を反転させれば、汚れを落としやすいシートが貼られている。泥などの汚れた荷物を積んだあとの拭き取りなどもしやすい。
荷室としての機能は「ルーミー」がすぐれており、使い勝手としては「ソリオ」のほうがすぐれていると言えるだろう。
結果:
荷室のフラットのしやすさは「ソリオ」
荷物の積みやすさは「ルーミー」
売れ筋のパワートレイン同士で比べると、「ルーミー」は1L直列3気筒エンジンなので、動力性能が少し不足している。また、登り坂では3気筒エンジンの粗いノイズが大きくなりやすい。
いっぽう、「ソリオ」で売れ筋のタイプは、1.2Lの直列4気筒マイルドハイブリッドだ。4気筒で排気量も大きく、車重は「ルーミー」に比べて80kgほど軽い。したがって、売れ筋のパワートレイン同士の動力性能や静粛性は、「ソリオ」のほうがすぐれている。
ただし、前述のパワートレインでは、たとえば家族4人がひんぱんに乗ったり、重い荷物を載せたり、高速道路をひんぱんに走ったりする場合などには絶対的なパワー不足を感じる。その際には、「ルーミー」ならターボエンジン搭載車、「ソリオ」ならフルハイブリッド車など、パワーのあるグレードを検討するほうがよいだろう。
結果:
(NAエンジンなら)動力性能、静粛性ともに「ソリオ」のほうが高い
「ルーミー」は、重心の高さを意識させる乗り味だ。また、ステアリング操作に対する車両の反応も鈍く、ステアリングを大きく操作すると揺り返しが発生しやすい。
いっぽう、「ソリオ」は後輪の接地性がやや少なく感じられるものの、「ルーミー」に比べると走りは安定していて不安定な挙動に陥りにくい。「ソリオ」の操舵時の車両の反応は、ハイトワゴンとしては機敏だ。
「ルーミー」は2016年に登場しているのだが、プラットフォームは2004年に発売された初代「パッソ」から基本的に変わっていない。さらに、「ルーミー」の車重は「パッソ」に比べて約200kg重いことも考えると、走行安定性、ステアリング操作に対する車両の反応、乗り心地などが2020年発売の「ソリオ」に劣るのは仕方ないかもしれない。
結果:
走行安定性や操舵の正確性などは「ソリオ」のほうが高い
市街地を時速40km以下で走ると、どちらも乗り心地はやや硬めだ。特に「ルーミー」は、路上の細かな凹凸を拾いやすい。また、少し大きな路面のうねりを通過すると、上下に揺すられる挙動も生じる。
いっぽう、「ソリオ」はタイヤが路面を細かく跳ねるような振動や、大きめの凹凸を乗り越えた際の突き上げ感などがやわらげられている。
結果:
乗り心地は、「ソリオ」のほうがよい
2車の買い得グレードは、「ルーミー」が175万3,500円の「G」で、「ソリオ」は192万1,700円の「ハイブリッドMX」だ。
価格は、「ソリオ ハイブリッドMX」のほうが約17万円高いが、マイルドハイブリッドが採用されているため、1.2L直列4気筒エンジンを搭載しながらもWLTCモード燃費は19.6km/Lと良好だ。1L直列3気筒を搭載する「ルーミー G」も18.4km/Lと比較的よい値ではあるのだが、「ソリオハイブリッドMX」のほうがすぐれている。
トヨタ「ルーミー」の「G」グレード
スズキ「ソリオ」の「ハイブリッドMX」グレード
また、「ソリオハイブリッドMX」には、「サイド&カーテンエアバッグ」や車間距離を自動制御できる「クルーズコントロール」のほか、エアロパーツやアルミホイールなどが標準装備されている。
ただし、「LEDヘッドランプ」は「ルーミー G」には標準装備されるが、「ソリオハイブリッド MX」ではオプション設定になる。また、スライドドアの電動機能も、「ルーミー G」は両側に標準装備されるが、「ソリオハイブリッド MX」は左側のみになる。それでも、装備の充実度は「ソリオ ハイブリッドMX」のほうが上まわっている。
結果:
「ルーミー」は「G」、「ソリオ」は「ハイブリッドMX」グレードが買い得
「ルーミー」は、動力性能が低い代わりに小回りがきき、荷室の使い勝手がよい。市街地を中心に走り、後席を倒して荷室を広く使う機会が多いユーザーに適している。
動力性能は少々足りないものの、使い勝手がよく価格の安さも特徴的な「ルーミー」
いっぽう、「ソリオ」は走行安定性と乗り心地にすぐれており、車間距離を自動制御できる「クルーズコントロール」など走りに関する快適な機能も備わっている。さらに、後席の座り心地が快適なので、4名など多人数で乗車して、高速道路を使った長距離ドライブなどに出かけるといった用途にも適しているだろう。
売れ筋グレードの価格は「ルーミー」よりやや高いものの、走りから快適装備まで充実している「ソリオ」。画像は、内外装がスタイリッシュな「ソリオバンディット」
「ルーミー」は日常生活のツールとして使い勝手が高いクルマで、「ソリオ」はより快適性を重視するクルマと考えればよいだろう。「ルーミー」と「ソリオ」の購入を検討する際には、これまでに述べた両車の特徴を参考にしながら、選んでいただければ幸いだ。