レビュー

“軽トラ”が楽しすぎる!スズキ「スーパーキャリイ」(5MT)初の特別仕様車に試乗

スズキは、軽トラックの「キャリイ」をベースに、キャビンスペースを拡大するなどによって快適性が高められた「スーパーキャリイ」を2018年に発売。さらに、2023年12月には「スーパーキャリイ」初の特別仕様車となる「スーパーキャリイ Xリミテッド」がデビューした。

「スーパーキャリイ Xリミテッド」は、「スーパーキャリイ X LEDヘッドランプ装着車」をベースとして、専用デカールやガーニッシュなどタフさを醸し出す外装を特徴とした特別仕様車だ

「スーパーキャリイ Xリミテッド」は、「スーパーキャリイ X LEDヘッドランプ装着車」をベースとして、専用デカールやガーニッシュなどタフさを醸し出す外装を特徴とした特別仕様車だ

今回は、その特別仕様車の特徴などをお伝えするとともに、実際に試乗した印象についてレポートしたい。結論から先に言うと、「楽しい!」のひと言に尽きた。

軽商用車をより快適に

スズキ「キャリイ」は、1961年に「スズライト」(スズキ初の市販4輪車)の本格商用車としてデビューしたのが始まりだ。それ以来、今に至るまで63年もの長寿を誇るクルマであり、大ヒット作でもある。

「スーパーキャリイ」は、現行「キャリイ」をベースにキャビンを拡大。シートの後ろにスペースを設けることで、工具箱など大切な荷物を置けるようにした。さらに、そのスペースを有効活用して、シートのリクライニング機構を追加。より快適に、運転できるようになっている。

スズキ「キャリイ」(上)と「スーパーキャリイ」(下)。外見からも、キャビンスペースが拡大されていることがわかる

スズキ「キャリイ」(上)と「スーパーキャリイ」(下)。外見からも、キャビンスペースが拡大されていることがわかる

いっぽう、キャビンスペースを単に拡大しただけでは、荷台は短くなってしまう。だからといって、「キャリイ」は軽自動車枠いっぱいのサイズなので、荷台を伸ばすことはできない。そこで「スーパーキャリイ」は、キャビンスペースの後ろの荷物置き場を上げ底化した。それによって、荷台の長手方向はこれまでと変わらない寸法を確保したのだ。結果として、これまで積載できていた脚立などの長物を、問題なく収納できるようになっている。

「スーパーキャリイ」の座席後ろには、荷物を置くスペースが確保されている

「スーパーキャリイ」の座席後ろには、荷物を置くスペースが確保されている

キャビンスペース後方を上げ底化することで、「キャリイ」と同等の荷室フロア長を実現している

キャビンスペース後方を上げ底化することで、「キャリイ」と同等の荷室フロア長を実現している

これまでになかった明るいボディカラーを追加

特別仕様車「Xリミテッド」のデザインを担当したのは、入社4年目と5年目を迎えたCMFデザイナー、スズキ 商品企画本部 四輪デザイン部 インテリア課の佐藤玲衣奈さんと、同四輪デザイン部 エクステリアグループの藤島佳那子さん。

スズキ 商品企画本部 四輪デザイン部  エクステリアグループの藤島佳那子さん(左)と、同四輪デザイン部 インテリア課の佐藤玲衣奈さん(右)

スズキ 商品企画本部 四輪デザイン部 エクステリアグループの藤島佳那子さん(左)と、同四輪デザイン部 インテリア課の佐藤玲衣奈さん(右)

2人とも、元々「キャリイ」のエクステリアCMFを担当していた。商用車ということで、あまり触れたことのない世界という危機感から、多くのユーザーの声を直接聞きに行ったとのこと。それによって、大きな気づきがあった。2人とも、自分たちはあまり乗らない商用車と構えていたのだが、実は「(聞き込みによって)キャリイを使ってくださるお客様もスーパーへ行ったり、通勤や通学で使っていたり、意外にも自分たちとクルマの使い方は変わらないことを実感しました。そこで、日常の足として使いやすくなるようなデザインをお届けしてもいいと気づいたのです」と、佐藤さん。

また、藤島さんも「これまでのボディカラーは、白や黒、シルバーしかない中で選ばれていましたが、実はもっと明るい色がほしいといったことにも気づけたのです」と言う。

そこで、まずは「『キャリイ』にクールカーキを追加し、さらに2024年4月の改良ではデニムブルーメタリックという新色をラインアップしました。今後は、より明るい色にも挑戦していきたいです」と意気込みを見せていた。

2024年4月の「キャリイ」一部仕様変更で、新たに追加されたボディカラー「デニムブルーメタリック」

2024年4月の「キャリイ」一部仕様変更で、新たに追加されたボディカラー「デニムブルーメタリック」

オシャレな作業着や道具から着想を得たデザイン

そうしたユーザーの意見を聞きつつ、「キャリイ Xリミテッド」は誕生した。そのコンセプトは、「商用車のイメージが強い『キャリイ』ですが、遊びなどの趣味や日常生活でも使いやすいクルマ、というイメージをお届けしたいというのが発端です」と佐藤さん。コンセプトワードは、“ワークバディ”。「仕事だけでなく、遊びにも使ってもらえるようなタフさや精悍さをコンセプトとして作りました」と言う。

具体的には、ルーフやドア周り、タイヤハウスに黒基調のデカールを採用したほか、フロント周りはブラックをベースにデザイン。サイドデカールは、キャビンの拡大によって前が重く見えてしまうことから、前を細くしリアへ向かって太くなっていくデザインが採用された。

「スーパーキャリイ Xリミテッド」のフロント、リアエクステリア

「スーパーキャリイ Xリミテッド」のフロント、リアエクステリア

また、ホイールアーチを黒で締めることによって、「足回りをガッチリと見せることで、頭が重く見えないようにバランスをとっています」と藤島さん。それに合わせて、ライト周りやフロントガーニッシュもマットブラック化されている。

また、デカールのデザインにもこだわりがある。佐藤さんは、「『キャリイ』で仕事をされている方も、作業着やツールボックスなどにすごくこだわっていて、オシャレな方がとても多いのです。そのような、みなさんの服装や道具などから着想を得て、デザインに落とし込みました」。藤島さんは、「道具感をわかりやすく表現すると、リベットやステンシルなどは定番ですが、これまではそのようなデザインは実施されませんでした。そこで、まずはそのようなところから、『キャリイ』が変わったということを見てもらいたいのです」とコメントする。

デカールの柄は、マット&グロスを採用。どちらか片方ではなく、両方採用することで間延び感を払拭している。実際にはツルツルに仕上げられているが、ボディに貼るとザラザラに見えるような、新しいテクスチャーのような柄となっている

デカールの柄は、マット&グロスを採用。どちらか片方ではなく、両方採用することで間延び感を払拭している。実際にはツルツルに仕上げられているが、ボディに貼るとザラザラに見えるような、新しいテクスチャーのような柄となっている

足周りは、ホイールが黒になった。佐藤さんは、「“鉄チン”は、シルバーではなくブラックになるとカッコよいと、意見が一致しました」。藤島さんも、「キャップを付けたり、アルミ切削にしたりするのではなく、鉄チンの素のカッコよさがあって、それは『キャリイ』にとてもマッチしていると2人でよく話をしました」と述べる。

「スーパーキャリイ Xリミテッド」のホイールには、メタリックが入ったブラックカラーが採用されている

「スーパーキャリイ Xリミテッド」のホイールには、メタリックが入ったブラックカラーが採用されている

もうひとつこだわったのが、「Xリミテッド」専用のカタログだ。藤島さんによると、「これまでの『キャリイ』などの商用車のカタログは、淡々と説明しているものばかりでした」。そこで、「お客様にも、営業の方にもわかりやすく、いままでの軽トラとは違うというメッセージを伝えたくて作りました」(佐藤さん)と言う。文字のフォントやレイアウトなども含め、「スーパーキャリイ Xリミテッド」のカタログは相当なこだわりを持って作られている。

「スーパーキャリイ Xリミテッド」のカタログ一部を抜粋。商用車のカタログとは思えない、オシャレなイメージが訴求されている

「スーパーキャリイ Xリミテッド」のカタログ一部を抜粋。商用車のカタログとは思えない、オシャレなイメージが訴求されている

まるで自分の手足のように扱える自在感

今回、1週間ほどクルマを借り出したので、660kmほど普段使いしてみた。その印象は、冒頭に記したとおり本当に楽しかった。

どこへでもスルリと入り込めるサイズ感はもとより、660tながら3気筒DOHCエンジンは、最高出力50ps/6,200rpm、最大トルク59Nm/3,500rpmを絞り出す。5速MTをフルに使って走らせると、空荷であれば痛痒感はまったくないどころか、流れを十分にリードできる。まるで、自分の手足のように扱える自在な感覚だ。

「スーパーキャリイ」の車量は840kgと軽量なので、その恩恵も大きい。意外と正確なステアリングフィールと相まって、ギアシフトをさぼらなければワインディングなどもスイスイと走らせられる

「スーパーキャリイ」の車量は840kgと軽量なので、その恩恵も大きい。意外と正確なステアリングフィールと相まって、ギアシフトをさぼらなければワインディングなどもスイスイと走らせられる

1速のギヤ比は、荷物を満載したときを想定しているので、空荷であれば2速発進が適切だ。2速でも、特にクラッチを滑らせることもなく非常にスムーズに発進できるし、エンジンも気持ちよく回転が上がるので、2速で引っ張って3速、4速とシフトアップするとよりラクに運転できる。したがって、空いた郊外路を流して走るのは得意中の得意だ。

短いホイールベースも相まって、ちょっとした路地へカンタンに入り込むこともできる。たとえ、先が行き止まりであっても、振り返れば荷台の隅まで見渡せるので安心だ。ただし、「スーパーキャリイ」は「キャリイ」よりもキャビンから見える荷台長が短いので、真っ直ぐにバックするのは意外と難しかった。

「スーパーキャリイ」なら、このような細い道にもラクラク入っていける

「スーパーキャリイ」なら、このような細い道にもラクラク入っていける

「スーパーキャリイ」で、最も苦手なのが高速道路だ。タコメーターがないので回転数は不明だが、100km/hくらいが心理的な限界になる。もちろん、そこから踏み込めばさらに加速していくが、今度は直進安定性がおぼつかなくなるので、無理は禁物だ。今回、アクアラインを往復する機会もあったのだが、さすがに横風には弱かった。

乗り心地は、意外とよい。空荷ということもあって、常に跳ねるだろうと想定して走り出したのだが、意外にもショックを吸収するので、つらい思いをすることはなかった。ただし、リアのサスペンションストロークはほとんどないに等しいので、一気にステアリングを切って登りの段差などをクリアしようとすると、リアの内側タイヤが浮いてしまいがちだったので注意が必要だ。

今回は試すことができなかったが、4WDでデフロックなども付いているので、いざとなったら悪路も安心して走れるだろう

今回は試すことができなかったが、4WDでデフロックなども付いているので、いざとなったら悪路も安心して走れるだろう

質実剛健なインテリア

運転しての使い勝手は以上のとおりだが、運転席周りはどうか。ドアを開けると、Aピラーにアシストグリップが取り付けてあるので、乗降性は上々だ。平坦なシートに腰掛け、スライドとリクライニングでポジションを調整すれば、ほぼどんな人でも適切なポジションを得ることができる。ただし、若干座面が前下がりなのが気になるところだ。これは、乗降性をいかによくするかから導き出した角度だと思われるが、趣味にも使ってほしいというのであれば、もう少し先端部分は上がっていてほしい。あるいは、カンタンに調整できるオプションなどがあってもよいだろう。

「スーパーキャリイ Xリミテッド」のシート

「スーパーキャリイ Xリミテッド」のシート

スイッチなどの操作性は抜群だ。すべてのスイッチ類は思ったとおりのところにあり、軍手をしていてもカンタンに操作できる。空調類は、ダイヤル式とレバー式を組み合わせた従来からあるものなので、暑いと思えば風量と温度調節のダイヤルをひねることで適切な調整をすればいいし、風の出る場所も適宜調整が可能だ。オートエアコンなどで、温度さえ選んでおけば、後は勝手にクルマ側が調整してくれるシステムに慣れ切ってはいるが、本当はこれで十分なのだ。

マニュアルエアコンは、風の出口を細かく調整できるので、頭寒足熱などを容易にセットできるメリットも感じられた

マニュアルエアコンは、風の出口を細かく調整できるので、頭寒足熱などを容易にセットできるメリットも感じられた

そのほか、頭上には棚が設けてあり、インパネ周りも助手席側に収納スペースがあるのは便利だった。

「スーパーキャリイ」の頭上にはルーフライニングが装備されている

「スーパーキャリイ」の頭上にはルーフライニングが装備されている

もし、室内で望むことがあるなら、CMFの工夫だろう。あくまで「Xリミテッド」だからというのもあるが、せっかくエクステリアがここまでこだわっているのなら、室内ももう少し標準車との差別化をしてほしかった。だが、きっと彼女たちは気づいているに違いない。実は、佐藤さんは今回のお話をうかがう直前に、インテリアのCMFデザイナーに移動になったからだ。もちろん「キャリイ」を担当するというので、藤島さんと二人三脚で「キャリイ」をより魅力的に仕上げてくれるだろう。質実剛健なクルマなので、どうしてもそっけないデザインになりがちだが、だからこそCMFデザイナーの出番だと筆者は思うのだ。

ぶん回して走っても燃費は良好

今回は燃費も計測したのだが、残念ながら車載計がないため満タン法で行った。したがって、あまり正確ではないことをお断りしておく。

郊外路:18.9km/L(18.8km/L)
高速道路:19.0km/L(17.6km/L)
( )はWLTCモード値

一般道のほとんどは郊外路を走ったので、WLTCモードも郊外路の数値を記載している。ほとんど燃費を気にすることなく、エンジンをぶん回して走った結果なので、非常によい燃費といえるだろう。

“運転”という行為を改めて実感させてくれる

スズキ「スーパーキャリイ」は、まさに日本だからこそ生まれたクルマといっていい。極力必要のないものを削り取った結果、すべてがミニマルであり、必要にして十分。だからといって、貧乏臭さはまったくない。もちろん、すべての人におすすめできるクルマではないが、ひとつひとつの操作、たとえばキーをひねってエンジンをかけ、サイドブレーキを手でリリースするなどの作法が必要になり、それをこなすことで運転そのものがていねいになり、結果として安全な運転にもつながるような気がする。

安全デバイスの進化によって、クルマの運転がどんどんフールプルーフ化しているのは喜ばしい半面、とても危険な側面も潜んでいる。それは、運転という行為を安易にとらえてしまいがちになるからだ。安全デバイスはもちろん必要なものだ。しかし、運転をカンタンにするのは、もろ刃の剣だということも考えなければいけない。「スーパーキャリイ」へ楽しく乗りながら、そんなことをも考えさせられた。

(写真:内田俊一、価格.comマガジン編集部)

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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