悪路や雪道などを走るときに、走行安定性を高めてくれる駆動方式が4WD(4輪駆動)だ。前後輪のどちらかを駆動する2WD(2輪駆動)に比べて、4WDは滑りやすい泥道や雪道における走破性が圧倒的に高い。
今回は、三菱「アウトランダーPHEV」(写真)と「トライトン」2台の雪上試乗を交えながら、4WDの種類や選び方について解説します
たとえば、2WDでは駆動輪が凍結など滑りやすい路面に乗ると、空転して走行できなくなることがある。しかし4WDなら、前輪が滑るときには後輪が押し出してくれて、逆に後輪が滑るときには前輪が引っ張ってくれる。
昨今は、スタッドレスタイヤの性能も進化しているため、街中の平坦な雪道などでは2WDでも立ち往生するような心配は少ないだろう。しかし、雪道の急な登り坂などにおいては、2WDでは登れないことも多い。特に登り坂は、後輪に荷重が掛かるため、前輪駆動の2WDは特に空転しやすいからだ。もし、生活圏内に峠道があるような場合には、4WDのほうが積雪時などの安心感は高い。また、スキーを楽しむなど積雪の多い地域へ外出する機会の多いユーザーも、4WDのほうが安心だろう。
だが、4WDとひと口に言っても、実はさまざまな種類が存在する。今回は、4WD技術に長けている三菱自動車の「アウトランダー」「トライトン」の2台を雪道で試乗したので、その2台を含めた国産車における4WDの種類や選び方について考えてみよう。
推奨ユーザー:道路状況や天候を問わず、高い走行安定性を求める人
搭載車種例:三菱「アウトランダーPHEV」「エクリプスクロスPHEV」、日産「エクストレイル」「セレナ e-POWER」など
ハイブリッドや電気自動車には、前後に搭載するモーターによって安定した走行が可能な「前後モーター駆動」式4WDを搭載している車種がある。たとえば、ハイブリッドならトヨタの「E-Four」や日産の「e-POWER 4WD」などだ。
さらに、4輪それぞれの駆動力配分を制御することで、道路事情や天候を問わず高い走行安定性を発揮するのが「4輪モーター制御」式4WDだ。この制御を採用しているのは、三菱の「ツインモーター4WD×S-AWC」を搭載する「アウトランダーPHEV」や「エクリプスクロスPHEV」、日産の「e-4ORCE」を搭載する「エクストレイル」「セレナ e-POWER」などになる。
三菱「アウトランダーPHEV」には「ツインモーター4WD×S-AWC」が搭載されており、4輪それぞれが駆動力を制御することで雪上路でも安定した走行が可能だ
ミニバンではめずらしく4輪ブレーキ制御が取り入れられている日産「セレナ e-POWER」
三菱の「ツインモーター4WD」には前輪と後輪にそれぞれ駆動用モーターが搭載されているが、高速巡航時には燃費を高めるためにエンジンが前輪を直接駆動する制御が備わっている。いっぽう、日産の「e-4ORCE」も前輪と後輪に別々のモーターが搭載されているが、エンジンは発電専用なので直接駆動しないというのが大きな違いだ。
「4輪モーター制御」式のメリットを明確に感じさせてくれるのが、三菱「アウトランダーPHEV」だ。特に雪道では、4輪の駆動力制御が綿密に行われる。モーターは、エンジンに比べると駆動力の増減が機敏で、「アウトランダーPHEV」ではそこにブレーキ制御も加えられている。アクセルペダルを踏みながらカーブを曲がるときでも、内側のホイールを制動して車の進行方向を内側へ向ける制御などを行ってくれる。
三菱「アウトランダーPHEV」の雪上走行シーン
これらの制御によって、「アウトランダーPHEV」は雪道でもステアリングの操舵角に応じて正確に曲がってくれる。旋回軌跡を拡大させて、外側のガードレールに近づいていくような不安を感じにくく、雪上走行中は安心感をも与えてくれる。
ちなみに、「アウトランダーPHEV」にはさまざまなドライブモードが備えられているので、今回はそれらも試してみた。まず、「ノーマルモード」は文字どおり運転しやすく、「スノーモード」はスリップを抑えてくれる制御なので、積雪の市街地を走るときなどには安心だろう。
未舗装路をスポーティーに走るための「グラベルモード」は、雪道でも楽しく走れる(今回走行したのはクローズドコース)。後輪側のモーターを積極的に駆動している印象で、コーナーを曲がるときにアクセルペダルを踏み込むと後輪を横滑りさせて小さく回り込むようなこともできる。
泥道で使う「マッドモード」や砂地を走るための「サンドモード」は、ホイールを激しく空転させて強引に走破する制御を行うので、日本では特殊な道路状況でない限りは使う必要がないだろう(これらのモードで雪道を走行すると、過剰に空転して扱いにくい場面もあるため)。雪道においては、市街地では「スノーモード」、積極的に走るときは「グラベルモード」がよいだろう。
注意点:「4輪モーター制御」式は車種が限られている
推奨ユーザー:悪路を走破できて趣味性の高い車を求める人
搭載車種例:三菱「トライトン」、トヨタ「ランドクルーザー」、スバル「レヴォーグ」「WRX」など
かつて、多くの車種に採用されていた「センターデフ」式4WD。今は、後輪駆動をベースにした悪路向け4WDを中心に採用されている。クロカンの三菱「トライトン」やトヨタ「ランドクルーザー」シリーズが主だが、ツーリングワゴンのスバル「レヴォーグ」やセダンのスバル「WRX」2.4Lターボ搭載車などにも搭載されている。
三菱「トライトン」の雪上走行シーン
「センターデフ」式4WDは、前後のトルク配分が基本的に固定されているが、悪路も舗装路も4輪で駆動するため、常に駆動力の伝達効率が高いというメリットがある。今回、「トライトン」で激しい登り坂と下り坂がある雪道を走行してみたのだが、それでも舗装路と同じようにいたって普通に走れた。「トライトン」は激しい悪路を想定して開発されているので、雪上のオフロードであっても難易度は低いようだ。さらに、「トライトン」には副変速機が装着されているため、深い雪を押し出しながら走るようなこともでき、災害時などにおける機動性も高い。
三菱「トライトン」の雪上走行シーン
注意点:「4輪モーター制御」式4WDと同様に車種数が少なく、激しい悪路を走るために開発されているので、雪道程度の走行では本領を発揮できない。また、価格も相応に高いので、趣味性の高い車を求める人向けと言える。
推奨ユーザー:ハイパワーなハイブリッド4WD車がほしい人
搭載車種例:トヨタ「ハリアーハイブリッド」など
前輪駆動ベースのハイブリッド車は、後輪を前輪とは別のモーターで駆動する「リヤモーター」式4WDが増えている。この4WDシステムのメリットは、後輪の駆動力を独自に増減できて、かつ後輪に駆動力を伝えるプロペラシャフトを採用していないことだ。車内にプロペラシャフトを通すための張り出しがないので、車内の空間効率にすぐれているという利点がある。4WDの価格は、カテゴリーを問わず(2WDと比較して)20〜27万円ほどのプラスになる。
「リヤモーター」式4WDにおける、後輪モーターの駆動力はさまざまだ。たとえば、トヨタ車では「ヤリスハイブリッド」4WD車の後輪モーターは最高出力が5.3馬力と小さく、雪道の発進をサポートするのが目的だ。それでも、ハイブリッドGの4WDの価格は、2WDよりも20万8000円高い。
いっぽう、「ハリアーハイブリッド」の後輪モーターは最高出力が54馬力と比較的大きい。だが、2WDと4WDの価格差は、ハイブリッドZ同士の比較で22万円だ。2WDと比べたときの4WDの価格アップはほとんど同じだが、モーターの最高出力には約10倍の開きがある。後輪をモーターで駆動する前輪駆動ベースの4WDを選ぶときには、後輪に装着されたモーターの動力性能も確認しておこう。
トヨタ「ハリアー」
注意点:後輪モーターの出力は車種によってさまざまなので、スペック表などで事前に確認しておこう。
推奨ユーザー:価格の安さを重視する人
搭載車種例:軽自動車やコンパクトカーをはじめ、多くの国産車に採用
最も採用車種が多い4WDが、「ビスカスカップリング」や電子制御の「多板クラッチ」を使って駆動力を伝えるタイプである。前輪駆動がベースの4WDは、プロペラシャフトが床下を通って後輪に駆動力を伝達する。
「ビスカスカップリング」や「多板クラッチ」式の4WDは、前述の4WDシステムに比べると悪路走破力は下がるものの、車重を軽くできてコストを抑えられるというメリットがある。特に、電子制御ではない「ビスカスカップリング」式は小さく、軽く、低コストなので、軽自動車やコンパクトカーに多く搭載されている4WDシステムだ。たとえば、スズキ「アルト」やダイハツ「ミライース」などの4WDは、2WDとの価格差が12万円前後に収まる。
スズキ「アルト」
注意点:前輪駆動ベースの4WDは、前輪の空転を受けて後輪にも駆動力を伝える。そのため、雪道の登り坂などでは最初の前輪の空転で車両の挙動が不安定になることがある。