スズキは、2024年12月に軽ハイトワゴン「ワゴンRスマイル」の改良を実施。内外装がよりかわいらしく、やさしいデザインへ変更されるとともに、新しいボディカラーも追加された。今回は、スズキの開発者へその詳細についてうかがったのでお伝えしよう。
改良後のスズキ「ワゴンRスマイル」のエクステリア。新色のボディカラー「トープグレージュメタリック」とルーフカラー「ソフトベージュ」の2トーン
2021年に発売された「ワゴンRスマイル」は、「スペーシア」よりもやや低い車高に利便性の高いスライドドアを採用している軽自動車だ。また、エクステリアデザインにこだわることによって、新たな需要を喚起する目的で開発されている。
同社のチーフエンジニアである高橋正志さんによると、「(『ワゴンRスマイル』は)上質さや日本車には無さそうな方向性を狙って、デザイン性が高く、落ち着いたスライドドア車を開発しました」と、当初の企画意図を語る。
2021年発売時の「ワゴンRスマイル」のエクステリア
スズキ 商品企画本部 四輪商品第一部 チーフエンジニアの高橋正志さん
しかし、実際に発売が開始されると、その思惑は少々外れてしまった。その理由のひとつが、女性ユーザーがおよそ約8割と多くを占めたことだ。高橋さんは、「男性のお客様も、背の低いスライドドア車にもっと乗ってくれるだろうと思っていたのです」と言う。その背景として、「軽スーパーハイトワゴンは、背が高くて運転しにくい印象があるという意見があったのです」。しかし、そういった意見の多くが女性だったそうだ。したがって、男性の多くは「スペーシアカスタム」など「立派で、豪華で、カッコよいクルマを選んでいました」とのこと。
さらに、「ワゴンRスマイル」について女性からは「もっとかわいいクルマがほしい」「ボディカラーも、はっきりとした色よりも淡い色、パステル系やくすみ系のカラーがほしい」との声が予想以上に多かったとのことだ。
そこで、今回の商品改良では、デザインを「かわいいに振り切ろう」という方向へと改めた。高橋さんは、デザイナーに「誰が見てもかわいいいと思えるデザインにしてほしい。かわいくないとは言われないように」と要望を出した。
すると、「強烈すぎる個性よりも、自然体でほどよい個性のほうが長く使ってもらえて、時代の流れにも左右されない。そのほうが、いまの時代には合っているのではないか、という意見が、特に若いデザイナーからあがりました。そこで、今回は『ナチュラルユニーク』というコンセプトでデザインしたのです」と説明する。ナチュラルは自然体、ユニークはほどよい個性の意味合いだ。
いっぽう、「ワゴンRスマイル」の強みとしては、燃費やスライドドアの利便性、安全性能についてユーザーから高く評価されていると高橋さんは語る。
ただし、「ワゴンRスマイル」は2021年発売とすでに4年ほど経過しているため、今回は安全運転支援システムをさらに進化させている。具体的には、ミリ波レーダーと単眼カメラを組み合わせることで、検知対象を車両や歩行者、自転車、自動二輪車に拡大。さらに、交差点での検知にも対応した衝突被害軽減ブレーキ「デュアルセンサーブレーキサポートII」にアップデートした。これを全車標準装備にしたほか、アダプティブクルーズコントロールも全車速追従機能・停止保持機能付きとなっており、前進、後退時の「低速時ブレーキサポート」などが搭載されるなど、安全機能を一気に進化させている。
また、乗り心地向上のためにショックアブソーバーの減衰力が見直され、ひび割れた路面などで若干感じられた突き上げ感が低減されているほか、ロードノイズなども吸音剤を最適配置することで抑えるようにセッティングされた。
さて、デザインに話を戻そう。「かわいい」というワードにはさまざまな思いが込められている。スタイリングを担当した長谷川尚実さんは、「自然体で、やわらかい雰囲気のかわいさを目指しました。『スマイル』という車名のとおり、自然な笑顔からナチュラルさやかわいらしさにつながると考えています」とコメントする。
スタイリング担当の長谷川尚実さん(左)と、CMF担当の山下百香さん(右)
改良前は、グリルやヘッドライト周りにメッキを多用していたため、「豪華できらびやかな感じやラグジュアリーな雰囲気、大人っぽいハイソなの雰囲気のクルマととらえられていました。ですが、時代の流れ的にはリラックスできるような、自然体で居られるものへの需要が高まってきています。そこで、もっとやわらかい感じで、肩肘張らずに乗ってもらえるようなデザインに落とし込めたらとデザインしました」と言う。
具体的には、まずヘッドライトやグリル周辺のクロームが目立つために、特にフロントフェイスの目(ヘッドライト)の部分が少し怖いという印象を抱かれていた。そこで、表情をやわらかくするためにヘッドライト周りのクロームをC字型にして、グリル部分をボディ同色にした。
改良後のスズキ「ワゴンRスマイル」は、フロントバンパーやフロントグリルを大らかな造形にするとともに、ヘッドライトガーニッシュをC字型にすることで目元のかわいらしさを演出している
また、ロアグリルも形状を変更している。改良前のエッジが効いたデザインから、下に向けて狭くなっていくようにデザインすることで、口角が上がっているイメージを抱かせて、内側に向けて角度を持たせることなどによって、全体的にやわらかい印象を醸し出している。
いっぽう、デザインが子供っぽくなりすぎないよう、クロームをアクセントとして適度に使用した。長谷川さんは、「女性が、イヤリングやピアスなどをおしゃれで身に着けるのと同じ意味合いで取り入れました」と説明している。
もうひとつ、全体的なデザインにも影響するポイントとして、改良前はフェンダーからロアグリルに向けたキャラクターラインも変更されている。ロアグリルのデザインを変えたことによって、その部分のキャラクターラインも変更しなければならなくなったとのこと。フェンダーのラインは変えられないので、そこからどううまくラインをつなげていくかが苦労したとのことだが、実際に見るととてもうまくなじんでいると思えた。
改良後のスズキ「ワゴンRスマイル」のサイドイメージ
商品改良に伴い、新色の「トープグレージュ」が追加された。CMFを担当した山下百香さんは、今回のデザインテーマであるナチュラルユニークに沿って「ただのグレーでもベージュでもない、ほどよく個性を感じられるナチュラルなカラーを考えました」と語る。
今回、2トーンカラーにすると、ボディ色をトープグレージュ、ルーフ色をベージュできるほか、その逆のカラーも選択できるようになっている。
ボディカラー「トープグレージュメタリック」、ルーフカラー「ソフトベージュ」の2トーンカラー
ボディカラー「ソフトベージュメタリック」、ルーフカラー「トープグレージュ」の2トーンカラー
山下さんは、「『ラパン』はガーリーかわいくて、『ハスラー』だとちょっとポップかわいい。では、『ワゴンRスマイル』はなんだろうと考えた結果として、ナチュラル大人かわいいところを目指しました」と、カラーに込めた思いを語った。
内装では、助手席前のカラーパネルも色替えされ、80案ほどの中からおよそ12色試作し、最終的に「リフレクショングレー」と「モスブルー」のカラーパネルが選ばれた。
リフレクショングレーについて、山下さんは「光が当たると少し偏光して、ゴールドの粒子がキラキラ光る上品なパネルになっています。カッパーのアクセントを合わせることで、トータルとしてもキャラクター性を感じるような組み合わせになっています」と説明する。
「リフレクショングレー」&「カッパーゴールド」の内装
また、シルバーと合わせたモスブルーは「スモーキーなブルーというイメージです。マニッシュなかわいさもクールなかわいさも、このパネルでカバーできるでしょう」とコメントする。
「モスブルー」&「シルバー」の内装
それほど背が高くないスライドドア車がほしいユーザーにとって、「ワゴンRスマイル」は最適解だろう。だが、改良前はデザインを強調しすぎたために、そのキャラクターを受け入れられない層が出てしまったようだ。そこで、スズキはその点を見直してリデザイン。さらに、女性ユーザーをターゲットに絞ることで、迷いなく開発ができたようだ。
“かわいい”というワードには多くの意味が含まれるが、「ワゴンRスマイル」は今回の改良によって、より好かれるデザインになったと言ってよさそうだ。