運転中のさまざまな状況を記録するドライブレコーダーは、すっかりおなじみとなりました。今ではその映像がほぼ毎日のように「視聴者提供」としてテレビ番組でとりあげられており、それだけドライブレコーダーが一般化していることの現れなのだと思います。今回はドライブレコーダーとはそもそも何なのか、またどんなタイプがあるのかを改めてお伝えしたいと思います。
衝突や急停止など、車両に大きな衝撃が加わった際に、その前後で撮影した一定時間の映像と音声を記録するのがドライブレコーダーです。最近はあおり運転や逆走などの状況を記録することでも注目されていますが、元々は航空機のフライトレコーダーを参考に開発され、クルマ版としては2005年頃に登場しました。
当初は主としてタクシーなど、業務用途での利用がほとんどでした。一般ドライバーに普及が進んだのは、あおり運転が社会問題化し、その装着が抑止につながると考えられるようになってからです。そのため、テレビ報道されるたびにドライブレコーダーの販売実績が上がるなど、あおり運転等の危険運転行為が、ドライブレコーダーを約半数のクルマが装着するまでになった現状に一定の役割を果たしたことは事実です。そして、撮影された危険運転等の衝撃的な映像が、テレビ放送やSNSをにぎわせています。
ただ、誤解のないようにあえて指摘したいのは、ドライブレコーダーはあくまでその状況を記録するだけであって、装着すること自体が、危険運転の被害に遭わないことには直接つながらないということです。あおり運転をするような人は、ドライブレコーダーの有無はほぼ関係なく、行動に移してくると思ったほうがよいでしょうし、もし、こちらの運転にも若干でも配慮に欠ける部分があると相手が考えたとすれば、その危険はさらに高まります。また、逆走車に対して、ドライブレコーダーに抑止の効果は期待できないでしょう。
いっぽうで、あおり運転などの危険運転に遭遇してしまった場合や、それが実際の事故につながった場合、相手の危険行為を立証し、あるいは自分自身の運転に非がないことを証明する手段として、ドライブレコーダーは非常に重要な役割を果たします。さらに、そのことが一部の危険行為に、いくばくかの事前抑止的な効果をもたらすことは期待できるかもしれません。
ドライブレコーダーは、カメラとイメージセンサーで取り込んだ映像と音声を、デジタルデータとして保存するのが基本的な役割です。その意味ではデジタルカメラに近いのですが、大きく違うのは電源を入れると自動的に記録が始まり、記録がいっぱいになると古いデータから上書きされていくことにあります。さらに、衝撃を受けるとその前後を自動保存する機能も備えており、これによりアクシデントが発生した瞬間をデータとして残しておけるのです。
加えて重要なのは、このデータには映像や音声だけでなく、時刻や位置、加速度なども含まれていることです。このデータを確認することで、ドライバーがどのような運転操作をしたのかもわかります。たとえば交通事故となった場合、相手の動きだけでなく、事故の状況を客観的に分析することができます。これにより、事故によって当事者が不幸にも亡くなられた場合でも、このデータが“生き証人”として事故の原因究明に役立つというわけです。
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時刻や位置情報はGPS衛星からの電波を受信することで反映されます。もちろん、ドライブレコーダーは時計機能を備えていますが、それはあくまで内部時計の時刻であって、必ずしも正確ではありません。GPS衛星を活用することで高精度な時刻が記録可能となるのです。事故の発生時刻は正確性が重視されるため、ドライブレコーダーを選ぶときは、最低限このGPS衛星の受信に対応している機種を選ぶのがおすすめです。
事故が発生した位置や時刻を正確に記録するためにもGPS衛星からの電波を受信する必要がある。写真○内がGPS受信レベルを表す
車両の動きはドライブレコーダー内に備えられた加速度(G)センサーによって感知されます。前後方向では加減速が、左右方向ではハンドル操作などを、そのデータから知ることができます。このデータは映像を見ただけではわからず、その確認にはドライブレコーダーに用意された専用アプリを使うのが基本です。このデータをドライブレコーダーで記録された映像や音声とリンクさせることで、事故状況をかなり高精度に把握できようになるのです。
ドライブレコーダー専用アプリの一例(KENWOOD ROUTE WATCHER II)。記録した位置を地図上に表示できるほか、クルマの動きも把握できる
この加速度センサーは衝撃検知も行います。クルマが衝突したときや、走行中の大きな段差を乗り越えたときの衝撃を検知。それに応じてドライブレコーダーはその瞬間を境とした前後数十秒の映像と音声を記録します。記録方法は機種により、自動的に上書きされない別フォルダーに保存する、当該データが消去されないようロックをかけるなどの方法があります。
衝撃を検知する感度はほとんどのドライブレコーダーで任意で設定できる
また、ほとんどの機種では録画したシーンを、“イベント記録”として保存しておくこともできます。この機能を使えば、ドライブ中の車外の景色を保存しておいて、「旅の思い出記録」として楽しむことも可能です。出掛けた先で撮影した画像と一緒に保存しておくとよいと思います。
「ここぞ!」というシーンに遭遇したときはイベント記録ボタンを押す(丸印)と、そこから一定時間さかのぼって記録を開始して上書きされないフォルダーに保存されるものもある。写真はケンウッドDRV-G60CW、同社ホームページより
ただ、この機能で注意すべき点が1点あります。この上書きされないファイル数は制限を設けている機種が多いということです。つまり、その制限までは上書きされない対応をしても、その制限を超えれば古い順に上書きされてしまうことにもなるのです。これを知らずにイベント記録を繰り返していくと、最初に保存したはずのシーンが上書きされて消えていたということにもなりかねません。この制限数は事前に把握しておくとよいでしょう。
イベント記録が実行されると通常記録とは異なる別フォルダーに保存されるが、その設定したファイル数を超えると上書きされてしまうケースが多い
最近発売されたモデルで、搭載されていることが多いのが「安全運転支援機能」です。これは、ドライブレコーダーのカメラによって、先行車両と衝突(追突)する危険性を検出したときに警報を発する「前方衝突警戒」や、走行中に車線を逸脱しそうになったときに警告する「車線逸脱警戒」、先行車が発進したことを知らせる「前車発進お知らせ」など、ドライバーの安全運転をサポートしてくれる機能です。
ドライブレコーダーのカメラ機能を使って車線逸脱や前方衝突などの危険性を検知し、警告を発して運転を支援する
また、リアカメラを使って、後続車の接近を検知して、あおり運転の可能性を知らせる機能を搭載する機種も増えてきました。
運転支援機能では、隣車線の斜め後方の車両を検知する機能を搭載するドライブレコーダーも登場している。写真はケンウッド「DRV-EM4800」
後続車が近づいて来ると、その状況をアイコン(写真)とアラートで知らせる機能を備えたドライブレコーダーも登場している
ただ、これらの機能はあくまで付加機能であり、検知精度は必ずしも高いものではありません。機能を過信せず、危険回避の参考程度に考えたほうがよいでしょう。
ドライブレコーダーには駐車監視機能をアピールする機種も少なくありません。この機能を備えていると、運転手がいない駐車時にも衝撃を検知して映像と音声の記録をスタートさせることができます。ただ、この機能を使うにはドライブレコーダー内にバッテリーを内蔵する、あるいは専用キットを併用してクルマ側のバッテリーから直接電源を取ることができる機種を選ぶ必要があります。とはいえ、これも長時間記録に対応できるものではなく、買い物や食事などで出掛けたときの一時的な記録に役立てるのが一般的です。
前方だけを撮影するフロントカメラだけを備えた、最もシンプルなドライブレコーダーが「前方1カメラ」タイプです。本体を取り付けて電源を取るだけですぐに使え、価格も安いのがこのタイプのメリット。当然ながら後方の撮影はできませんが、それでも事故などの発生時には前方だけの撮影でも十分役立つため、購入予算を抑えつつも少しでも万一に備えたい人におすすめできます。
「前方1カメラ」タイプ。写真はケンウッド「DRV- R30S」
今売れ筋なのが、カメラを内蔵したドライブレコーダー本体とリアカメラを組み合わせた「前後2カメラ」タイプです。前方の状況を記録するのに加えて、後方の状況もとらえられるので、後方からのあおり運転などの状況を記録できるメリットがあります。さらに店頭での機種数が多く、リーズナブルな価格となっているのもこのタイプのメリットと言えます。
「前後2カメラ」タイプ。写真はコムテック「ZDR027」
次に人気となっているのが「360度カメラ」タイプです。カメラを下向きにして画角を魚眼レンズ並みに広げることで前方から側方、車内、後方までもすべてカバーできます。ただ、後方は車内越しでの撮影となるため、後方用カメラを組み合わせる対応が人気となっています。また、360度カメラでとらえられた映像はあまり鮮明ではなく、価格もやや高めとなる傾向にあります。
「360度カメラ」タイプ。写真はケンウッド「DRV-G60CW」
画質で見劣りする「360度カメラ」タイプの弱点をなくすために生まれたのが「前後+車内3カメラ」タイプです。その名のとおり、前後2カメラに車内用カメラを加えたもので、車内の状況を撮影できるだけでなく側方からのクルマの動きをとらえられます。車内の窓越しで行われた行為も撮影でき、それぞれの映像が鮮明であることもメリットです。ただ、機種数も少なく価格も割高になってしまいます。
「前後+車内3カメラ」タイプ。写真はオウルテック「OWL-DR803FG-3C」
最近になって急速に人気となっているのが「ルームミラー」タイプです。ドライブレコーダー本体をクルマのルームミラーに被せて使うもので、人気が高いデジタルルームミラーとドライブレコーダーの両機能が使えることがこのタイプのポイントになります。フロントカメラ部は本体一体型と別体型があり、車種の取り付け環境を踏まえながら選ぶとよいでしょう。価格はドライブレコーダーの中で最も高い部類に入ります。
「ルームミラー」タイプ。写真はパイオニア「VREC-MS700D」