業績悪化に直面している日産は、新型車の投入を活発化して復活を図る。日本国内市場で注目されるのは、Lサイズミニバンの新型「エルグランド」だ。
2025年4月22日、日産は2026年に発売予定の新型「エルグランド」のエクステリアデザインを一部公開した。搭載されるパワートレインは、後述する第3世代「e-POWER」だ
日産はかつて、3列シートミニバンを豊富に用意していたが、現在は「セレナ」と「エルグランド」のみ。ほかには、商用車の「NV200バネット」の3列シート仕様くらいだ。
現行「エルグランド」は発売から約15年が経過していることから、最近の登録台数は月150台程度に留まっている。ちなみに、比較として「セレナ」の2024年度の1か月平均登録台数は6,814台になる。
その「エルグランド」が、2026年にいよいよフルモデルチェンジされる。トヨタの「アルファード」「ヴェルファイア」に相当する上級ミニバンであるため、高価格で販売会社の利益も高められるだろう。
最近は、法人がLサイズミニバンを重役の移動に使うといった需要も拡大している。今の日産には「プレジデント」や「シーマ」など法人向けの上級セダンがないため、「エルグランド」を刷新すれば新たな法人需要も獲得できる。日産復活の象徴として、豪華なLサイズミニバンの新型「エルグランド」は重要な車種となるだろう。
新型「エルグランド」に搭載されるパワートレインが、第3世代の新しい「e-POWER」であることが明らかにされた。そして今回、クローズドテストコースにおいて、その第3世代「e-POWER」を搭載した日産「キャシュカイ」(海外仕様車)を試乗したのでレビューしたい。
新型「エルグランド」に採用予定の第3世代「e-POWER」を搭載した日産「キャシュカイ」(海外仕様車)
第3世代の「e-POWER」の特徴は、1.5L直列3気筒ターボエンジンを最も効率的な回転域で回すことだ。エンジンは発電専用で、ホイールの駆動はモーターが担当するため、エンジンがホイールを直接駆動することはない。エンジンの回転数を走行状態に応じて変える必要がなく、燃料消費量も抑えられる。
第3世代「e-POWER」は、新開発の発電専用1.5Lエンジンと、モーターやインバーターなど5つの部品をモジュール化することによって軽量化された「5-in-1」を採用。大幅な静粛性と燃費の向上を実現していると言う
ただし、この制御を実現させるには、2つの条件がある。まず、エンジンノイズが小さいこと。アクセル操作や速度と無関係に、エンジンが一定の回転数で回り続けると、ドライバーに違和感を与えるため、静粛性が不可欠だ。次に、駆動用電池の容量に余裕があること。発電用エンジンを一定の回転数で回し続けると、余剰な電力が生じることがある。その電力を、余裕のある駆動用電池に蓄えれば、充電された電気で走る距離を伸ばせる。このような条件を踏まえ、第3世代「e-POWER」を、「キャシュカイ」で試した。
まず、発進直後の第3世代「e-POWER」はエンジンが停止したままで、モーター駆動のみで速度を上げていく。エンジンは、カンタンには始動しない。その後エンジンが始動するが、ノイズはほとんど高まらない。走行中、ボディの風切り音やタイヤのロードノイズなどのほうが目立ち、エンジン音はほとんど気にならない。
また、モーター駆動によりアクセル操作に対する反応は機敏だ。アクセルを緩く踏み増しただけでも、駆動力がすぐに高まる。運転感覚は、これまでよりもさらに電気自動車に近い。
第3世代「e-POWER」(上)と現行の第2世代「e-POWER」を搭載した「キャシュカイ」を比較試乗した
動力性能については、ガソリンエンジンの排気量で言えば3Lくらいに相当する。アクセル操作に対する反応がすばやく、加速力に余裕が感じられる。エンジンの存在を意識したのは、追い越しなどの際の急な加速時だ。発電量を増やすためにエンジン回転数が上昇する際に、3気筒特有の少し粗いノイズが響く。だが、急な加速が必要な場面はそれほど多くはないだろう。
第3世代「e-POWER」を搭載した「キャシュカイ」の試乗シーン
WLTCモード燃費は不明だが、ライバル車の数値を見ると「エルグランド」も20km/Lを目指して開発を進めているだろう。
ここからは、新型「エルグランド」の仕様や価格について予想してみたい。まず、「エルグランド」のボディサイズは現行型とほぼ同じ4,950mm前後で、全幅も1,850mm前後になるだろう。ボディサイズをこれ以上拡大すると、街中で運転しにくくなるからだ。「アルファード」「ヴェルファイア」も、全長と全幅はほぼ同じ数値になる。
画像は現行の3代目「エルグランド」
現行型と異なると予想されるのは全高だ。現行「エルグランド」の全高は
1,815mmで、「アルファード」「ヴェルファイア」よりも120〜130mm低い。
少し低めの全高によって、外観がスポーティーに見える代わりに存在感が薄れ、人気の伸び悩みに結び付いた。さらに、現行「エルグランド」は室内高も60mmほど下まわっており開放感が低く、3列目シートは床と座面の間隔が不足していた。そこで、新型「エルグランド」の全高は1,900mm前後になると予想される。現行型よりは高いが、それでも「アルファード」「ヴェルファイア」よりは少し低い。立派な外観と広い室内を備えながら、日産を象徴するスポーティーな走りを実現するミニバンとなるはずだ。
また、シートアレンジも変更されるだろう。現行の3列目シートは背もたれを前側に倒して格納するのだが、新型「エルグランド」は「セレナ」と同じく左右に跳ね上げる方式を採用する。
「エルグランド」の3列目シートは前方へ倒すことでフラットに収納できる
「セレナ」の3列目シートは左右へ跳ね上げて収納するタイプだ
先進機能としては、「プロパイロット2.0」を幅広いグレードに標準装備、あるいはオプション設定する。Lサイズミニバンである「エルグランド」は、長距離を移動する機会も多いためだ。「プロパイロット2.0」なら、ステアリングホイールから手を離しても運転支援が受けられる。
価格は、これまで述べた仕様から現行型より大幅に高くなるだろう。NAガソリンエンジンを用意せず、ハイブリッドのe-POWER専用車になることも影響して、予想価格は600万円以上、上級グレードは800万円を軽く超えるだろう。
ちなみに、「アルファード」のハイブリッドは2列目がベンチシートになるXを510万円で用意しているが、新型「エルグランド」にはそのような低価格のグレードはないだろう。2列目にセパレートタイプのシートを備えたグレードで統一されて、装備も充実させる。
現行「エルグランド」の価格は、2.5L直列4気筒NAガソリンエンジンを搭載した250ハイウェイスターSが408万2,100円。新型の価格は、現行型と比較すると200万円以上高くなる。
この価格を実現できる理由は、前述のとおり現行「エルグランド」の発売から約15年も経過しているからだ。今では、現行型からの乗り替え需要も減り、新型は実質的に新規投入車種に近い。そのため、価格も現行「エルグランド」に縛られず高めに設定できるのだ。
新型「エルグランド」について、販売店は以下のように説明する。「発売時期などは不明だが、現行型で選べるグレードはすでに減っている。3.5Lエンジン搭載車は終了した。2.5Lのみで、選べるグレードは、250ハイウェイスターSの2WDと4WD、250ハイウェイスタープレミアムの2WDだけになる」。
つまり、新型の登場は近い。日産は、2026年度(2026年4月から2027年3月まで)に発売すると公表しているが、2025年10月末から開催される「ジャパンモビリティショー2025」に出展される可能性も高い。
最後に、新型「エルグランド」の購入を希望するなら、なるべく早い時期に販売店に意思を伝えておくことが重要だ。発売されると、生産規模を超える大量の注文が寄せられ、受注が停止する可能性がある。
「アルファード」「ヴェルファイア」のハイブリッドも、定額制カーリースのKINTOを除くと受注を停止しており、通常の購入が可能なのはプラグインハイブリッドなど一部の仕様に限られる。この需要が、新型「エルグランド」に流れる可能性もあるわけだ。新型「エルグランド」は魅力的だが、購入に関しては注意点の多いクルマになっている。