レビュー

ファミリーに人気のコンパクトミニバン対決!「フリード」vs「シエンタ」の内外装を比較

今も高い人気を誇り、売れ行き好調なカテゴリがコンパクトミニバンだ。2024年度の1か月平均登録台数は、ホンダ「フリード」が7,567台、トヨタ「シエンタ」は9,697台に達し、小型、普通車の販売ランキングでも上位に入っている。

昨今の新車価格は、安全装備や運転支援機能の充実によって、およそ15年前の1.2〜1.4倍になった。たとえば、ホンダ「ステップワゴン」やトヨタ「ノア」「ヴォクシー」などミニバンの価格は、ハイブリッドの売れ筋グレードで370〜400万円に達する。このような価格の高騰も、「フリード」や「シエンタ」の販売増加につながっている。コンパクトミニバンは車種数が少ないので、需要がこの2車種に集中しているのだ。

今回は、「フリード」のe:HEV AIR EX [FF](321万2,000円/6人乗り)と、「シエンタ」のHYBRID Z [FF](303万6,600円/7人乗り)の2台を比較してみよう。

ボディサイズ、視界、運転のしやすさを比較

まず、外観を見て大きく異なるのが、フロントフェイスだ。「フリード」はシンプルに仕上げられており、「シエンタ」はグリルの開口部を大きく見せて存在感を強調している。

ボディの側面は両車とも水平基調だが、「シエンタ」はサイドウィンドウの下端を後方で少し持ち上げたデザインになっており、躍動感が演出されている。だが、そのデザインの影響によって、ななめ後方の視界は水平基調の「フリード」のほうが良好だ。

ホンダ「フリード」e:HEV AIR EXのエクステリア

ホンダ「フリード」e:HEV AIR EXのエクステリア

トヨタ「シエンタ」HYBRID Zのエクステリア

トヨタ「シエンタ」HYBRID Zのエクステリア

全長は、「フリード」が4,310mmで「シエンタ」の全長4,260mmよりも若干長い。最小回転半径は「フリード」が5.2m、「シエンタ」が5.0mで、「シエンタ」のほうが少し小回りはきくものの、運転のしやすさはほぼ同等だ。

結論:
「フリード」は視界がよい
「シエンタ」は小回りがきく
運転のしやすさは同等

内装の質感、視認性や操作性を比較

両車ともにインパネなど内装にファブリック(布)が用いられており、内装の質感が高められている。さらに、「フリード」は収納ボックスのフタにまでファブリックが貼られており、よりいっそう上質だ。

ホンダ「フリード」のインパネ

ホンダ「フリード」のインパネ

トヨタ「シエンタ」のインパネ

トヨタ「シエンタ」のインパネ

インパネ周辺の視認性や操作性については互角で、どちらもメーターは見やすくATレバーの形状もオーソドックスなタイプなので操作しやすい。「フリード」のエアコンスイッチは左寄りに装着されているが、実際に操作してみても不満は感じられない。

結論:
内装の質感は「フリード」のほうが少しよい
視認性や操作性は両車ともに良好

1列目シートの居住性を比較

1列目シートの座り心地は「シエンタ」が快適だ。背中から大腿部まで、しっかりと体を支えてくれる。座面の前側が少し持ち上がるため、腰が適度に下がって着座姿勢が安定する。

トヨタ「シエンタ」のフロントシート

トヨタ「シエンタ」のフロントシート

対する「フリード」は、座面の角度が水平に近いので腰が下がりにくく、もう少し腰を安定させたい。だが、シート生地の伸縮性がすぐれているため、「フリード」でも大きな不満はないだろう。

ホンダ「フリード」のフロントシート

ホンダ「フリード」のフロントシート

結論:
1列目シートは「シエンタ」のほうが快適

2列目シートの居住性を比較

3列シートを備える「フリード」エアーには、2列目がセパレートシートの6人乗りとベンチタイプの7人乗りの2種類がある。そのうち、6人乗りは2列目がキャプテンシートなので、アームレストが備わりシートのサポート性もすぐれていて座り心地は快適だ。

ホンダ「フリード」の2列目キャプテンシート

ホンダ「フリード」の2列目キャプテンシート

「シエンタ」の2列目はベンチシートのみになる。また、ベンチシートの座り心地も「シエンタ」より「フリード」のほうがよい。

トヨタ「シエンタ」の2列目ベンチシート

トヨタ「シエンタ」の2列目ベンチシート

3列目を使わないときには、2列目を後端までスライドさせて足元空間を広げられるが、「フリード」では膝先空間が握りコブシ3つぶん、シエンタは2つ半になる。

結論:
2列目シートの座り心地や広さは「フリード」のほうがよい
「フリード」は2列目に快適なキャプテンシートを選べる

3列目シートの居住性を比較

両車ともに、3列目シートを使うときには2列目シートを前側へスライドさせる必要がある。身長170cmの大人6名が乗車することを想定して、2列目に座る乗員の膝先空間を握りコブシひとつぶんにまで詰めてみる。すると、「フリード」の3列目は膝先に握りコブシ1つ半の余裕があるが、「シエンタ」は膝が2列目の背面に触れてしまう。

ホンダ「フリード」の3列目シート

ホンダ「フリード」の3列目シート

だが、「シエンタ」は足元空間こそ狭いが、薄型燃料タンクで床を低く抑えているため、着座姿勢は自然だ。「フリード」は足元空間が広く快適だが、「シエンタ」も着座姿勢のよさというメリットがある。

トヨタ「シエンタ」の3列目シート

トヨタ「シエンタ」の3列目シート

結論:
「フリード」の3列目シートは足元空間が広い
「シエンタ」の3列目シートは自然な体勢で座れる

荷室、シートアレンジを比較

両車ともに、荷室の床が低いので荷物を載せやすい。路面から荷室床面までの高さは、「フリード」が480mmで「シエンタ」は505mmだ。「フリード」は、2列目がセパレートシートになると自転車の前輪が左右席の間に収まり安定して運べる。

3列目シートのアレンジは、両車で大きく異なる。「フリード」は左右に跳ね上げるタイプだ。

ホンダ「フリード」の3列目シートを左右にはね上げた状態

ホンダ「フリード」の3列目シートを左右にはね上げた状態

いっぽう、「シエンタ」はまず2列目シートを格納して、その下に3列目シートを畳み込み、2列目シートを戻すというやや複雑な手順になる。だが、「シエンタ」は格納された3列目シートが荷室に張り出さないというメリットがある。

トヨタ「シエンタ」で3列目シートを床下に格納した状態

トヨタ「シエンタ」で3列目シートを床下に格納した状態

3列目シートの格納、展開をひんぱんに行うユーザーは「フリード」を、基本的に荷室の広い2列シートとして使う機会が多いユーザーには「シエンタ」が適している。

結論:
「フリード」は3列目シートをカンタンに畳める
「シエンタ」は荷室を広く使える

収納設備を比較

実用性が重視されるコンパクトミニバンは、収納設備が豊富だ。両車ともに、助手席前にはトレイが備わっている。さらに、「フリード」はインパネアッパーボックスがあり、「シエンタ」はメーターパネルの上側にアッパーボックスを採用しているなど、互いに多様な収納装備を提供している。

ホンダ「フリード」の助手席前インパネアッパーボックス

ホンダ「フリード」の助手席前インパネアッパーボックス

トヨタ「シエンタ」の運転席アッパーボックス

トヨタ「シエンタ」の運転席アッパーボックス

結論:
どちらも、豊富な収納装備を備えている

多人数で快適な「フリード」と多用途に使える「シエンタ」

両車ともにコンパクトミニバンなのでボディサイズも同程度だが、比較すると「シエンタ」のほうが少し小さい。「シエンタ」は全長が4,300mmを下まわり、小回りのききもよい。対する「フリード」は全長が4,300mmを超えて、「フリードクロスター」になると全幅がワイドになって3ナンバー車になる。

これは、車種のラインアップに対する考え方の違いだ。トヨタは、トヨタ車同士の「縄張り」を重視する。「シエンタ」は、ミドルサイズになる「ノア」「ヴォクシー」の領域には踏み込まない。それぞれの車種が競争せずに利益を確実に高めるためで、そのためにボディサイズも明確に区分されている。

「シエンタ」の2列目シートも、「ノア」「ヴォクシー」はセパレートタイプが人気だが、「シエンタ」はベンチシートのみになる。3列目シートの格納方法も、「ノア」「ヴォクシー」はレバーを引くと持ち上がり、サイドウィンドウ側へ押すと自動的にロックする。格納操作の使い勝手を重視しているが、「シエンタ」は3列目シートを格納するには2列目シートを動かす必要がある。その代わり、3列目シートが2列目シートの下に格納されるので、荷室に張り出さず積載性は抜群にすぐれている。

「シエンタ」は、3列シートの7人乗りでも、2列シート状態で荷物を積む機能を大切にしている。コンパクトカーに近いミニバンに仕上げることで、「ノア」「ヴォクシー」との違いを明確にしている。

いっぽう、ホンダはトヨタと違って「縄張り」をあまり気にしない。そのため、「フリード」にはミドルサイズミニバンの「ステップワゴン」に近い機能もある。たとえば、SUV風の「フリードクロスター」は3ナンバー車で、2列目シートはセパレートタイプのキャプテンシートが主流だ。3列目シートも、床と座面の間隔は不足しているが、足元空間は「シエンタ」よりも広く「ステップワゴン」に近い。

以上のようなメーカーの違いを考えると、「シエンタ」はコンパクトミニバンでも機能やデザインがコンパクトカー的なので、さまざまな用途に気軽に使いたいユーザーに適する。「フリード」は、デザインから機能までミニバンらしさが濃厚なので、2列目シートにゆったりと座ったり、多人数で移動したりする機会の多いユーザーにピッタリだ。

渡辺陽一郎
Writer
渡辺陽一郎
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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