パイオニア デジタルミラー型ドライブレコーダー「VREC-MS700D」
パイオニアから2025年1月に発売された、デジタルミラー型ドライブレコーダー「VREC-MS700D」が好調な売れ行きを見せているという。このドライブレコーダーはどんなモデルなのか、実際に車両に取り付けてその実力を確かめた。
「デジタルミラー型ドライブレコーダー」というのは、後方カメラでとらえた映像を、ルームミラーとしても使う液晶モニターに映し出し、この映像をドライブレコーダーに活用するというものだ。車内の乗車人数や積載状況の影響を受けず、鮮明な映像として後方を記録できるのが最大のポイントとなる。
もちろん、ドライブレコーダーとして使うため、後方カメラとは別に前方カメラも組み合わせており、これにより前後2カメラでの記録を可能としている。
「VREC-MS700D」の前方用カメラ。別体式としたことで取り付けの自由度が高められた
「VREC-MS700D」の後方用カメラ。前方用とカメラのスペックは共通
「デジタルミラー」は近年上記のようなメリットが評価されて、新車を中心に装着車が増えている状況にあり、既存車両を所有するユーザーからも後付けで取り付けを希望するユーザーは多い。この需要をうまく取り込んで「デジタルミラー」をドライブレコーダーとして発展させたのがこのタイプなのだ。
パイオニアのデジタルミラー型ドライブレコーダー「VREC-MS700D」は、370万画素の高解像度カメラと11V型高輝度IPS液晶ディスプレイを搭載し、クリアな視界と高感度録画を実現する前後2カメラタイプとした。
カメラには高解像度WQHDカメラ(2560×1440ドット)を採用し、夜間走行時やトンネルなどでも自然で鮮明な映像を録画できるようSONY製CMOSセンサー「STARVIS2」や、HDR(ハイダイナミックレンジ)機能を組み合わせた。液晶モニターには広視野角で知られるIPS方式を採用したことで、ミラーアングルを気にせず取り付けられるメリットも生み出している。
特にパイオニアが開発にあたってこだわったというのがケーブルコネクタの形状やその接続位置で、本体内に沿って配線をキレイに引き回せる。このタイプは本体をルームミラーにかぶせて取り付けるため、これまでは接続したケーブルが露出しがちだった。ルームミラーはドライバーが目を向ける機会が多い場所でもあり、この配線を目立たなくすることで取り付け時の満足度を向上させたというわけである。
「VREC-MS700D」には前後1個ずつ計2個のカメラが同梱(どうこん)される。しかし、このカメラ、解像度や画角は共通で、見かけ上もほぼ同じだが、前方用と後方用とでは機能が異なる専用カメラとなっている。特に前方カメラにはGPSアンテナ機能が含まれており、これを間違えてリア部分に接続すると、GPS信号の受信ができず、速度表示もできない状態となってしまう。各カメラの表記をきちんと確認してから取り付けたい。
「VREC-MS700D」に同梱(どうこん)されている一式
そして、各カメラは角度調整が前後方向では行えるものの、左右へは回転しない。そのため、最初は仮止めをするなどしてモニター上で撮影範囲を確かめてから固定したい。いっぽうでモニターのアングルは、IPSパネルの効果もあって視野角が広いこともあり、取り付け時にあまり気にしなくても大丈夫だ。むしろ、ケーブルを本体に接続する際にタイトにならないよう、余裕を持っておくことが上手に取り付けるコツとなるだろう。
さて、まずはデジタルミラーとしての機能から見ていきたい。
電源を入れると8秒ほどで画面が起動。モニター上に後方の映像が表示され、左下にはGPS連動による時刻が表示され、右下には速度表示が浮かび上がる。
デジタルミラーの映像。モアレ(干渉縞)が出ているのはディスプレイを撮影したため
リアのスモークガラス越しでとらえた後方用カメラの映像をディスプレイ上から撮影。光の筋はガラスの汚れによるもの
デジタルミラーの画面をタッチするとホーム画面が表示され、画面のズームや明るさなどの調整が可能となる。タッチ操作はとてもスムーズで、操作していてストレスを感じさせない。
画面をタッチして表示されるホーム画面。この画面上でさまざまな設定ができ、任意のイベント録画は赤い録画ボタンをタップすることで実行できる
録画した映像を再生するには、ホーム画面でフォルダー型のアイコンをタップし、このサムネイル表示から希望のシーンを選ぶ
特にズーム機能は後方の映像を最大3倍まで拡大できるのも大きな特徴としている。実は一般的な光学式ミラーと違って、デジタルミラーは距離感がつかみにくいという弱点を抱えているが、この3倍という拡大率によってより距離感をつかみやすくしているのだ。多くのデジタルミラー型が拡大率をせいぜい1.5倍程度にしているなかで、これは大きなアドバンテージとなるのは間違いない。
デジタルミラーの表示倍率は最大3倍まで拡大できるので、距離感がつかみやすい
表示される映像がきわめて鮮明だったのも注目点だ。解像度も高いうえにコントラスト比も高く、その映像は美しささえ感じさせるものとなっている。この鮮明な映像はどこから来ているのか。そのポイントはタッチパネルと液晶の間に空気層を設けない「エアギャップレス構造」の採用にあった。
元々「VREC-MS700D」が採用するIPS液晶パネルは、高輝度で広視野角という特徴を持っているが、タッチパネルを加えると液晶パネルとの間に空気層が生まれ、そこで光の乱反射とにじみが発生してしまいがちだ。そこでこの空気層を樹脂素材で埋めて貼り合わせるエアギャップレス構造とすることで、この課題を解消した。さらにデジタルミラーでありがちな光の反射も十分抑えられており、ヘッドライトの反射が映り込みやすい夜間でも気になることはなかった。
ではドライブレコーダーの能力はどうか。
「VREC-MS700D」の録画視野角は、前後共に水平134度と最大クラス。撮影した映像は周囲を広範囲にとらえており、左右に映る路地の状況も映像からしっかりと把握できている。なかでも特筆すべきなのが、映像そのものがきわめて自然であったことだ。先行車のナンバーを鮮明に映し出す解像度でありながらも、輪郭にも発色にも強調感はまるで感じられない。まるでビデオカメラで撮影したかのような自然な雰囲気でとらえられていたのだ。
前方用カメラで記録したドライブレコーダーの映像。誇張感もなくきわめて自然な映像であることがわかる
トンネルの出口付近での逆光補正能力は、HDRの効果が適正に働いているようで、やや白飛びが多めではあるものの、細部をつぶさず実用上はほとんど問題ないレベルにあった。
トンネル出口付近の前方用カメラの映像。HDR機能が働いたことで少し映像が反転してしまっている
これは夜間のヘッドライトにも同じことが言え、気になるほどのものではなかったが、ヘッドライトの光が当たった部分の露出は少し抑えてもよかったのではないだろうか。いっぽうでノイズレベルはデジタルミラーで見たときよりも抑えられており、映像として残しておくのにも十分な実力を備えていると感じた。
前方用カメラでとらえた夜間の映像。ノイズがのることもなく鮮明な映像だ
後方用カメラはスモークガラスを通して撮影していることもあり、全体にレンズの絞りは開き気味となる。そのため、少し薄暗くなったあたりからノイズがのり始める。とはいえ、昼間の発色は十分で、むしろスモークガラスを通したことによるND効果でコントラストが効いたメリハリを感じる映像となっていた。後方車両も鮮明にとらえられており、夜間ではドライバーの表情までハッキリわかるほどだった。
後方用カメラで記録したドライブレコーダーの映像。ややアンダーに映っているのはスモークガラス越しのため
後方用カメラでとらえた夜間の映像。スモークガラス越しということでアンダー気味となりノイズもややのっている
それだけにドライブの想い出映像として残すにも、「VREC-MS700D」は最適な映像スペックを備えているのは間違いない。残したいと思ったシーンに遭遇したら、画面をタッチして表示される「録画ボタン」を押すだけ。これでその瞬間を境に前後20秒ずつ上書きされないイベントフォルダーに撮影した映像が自動保存されるのだ。ちなみに、このフォルダーには衝撃を検知した際の映像も自動保存される。なお、「VREC-MS700D」は静止画記録には対応していない。
カメラのフレームレートは前後とも27fpsとなっており、LED信号に対しては電源周波数が異なる東/西日本のいずれでも、チカチカとする高速点滅でとらえることが可能となっている。また、駐車監視には別売りのキット「RD-DR003」(メーカー希望小売価格6,600円/税込)を組み合わせることで対応できる。このキットを使うことで電源系の確実性が増すことにもなり、できることならこの組み合わせで取り付けることをオススメしたい。
最後になるが、ミラー型ドライブレコーダーとして「VREC-MS700D」の実力はかなり高いレベルにあるのは確かだ。しかし、残念ながら現時点で、本機には記録した映像をPCで見るための専用ビューワーソフトが用意されていない。一応、汎用ソフトで対応はできるものの、購入者がGPS信号を生かした撮影地点の確認がすぐにできないのは不親切だ。なにより万一の衝撃が加わった際の車両の挙動が把握できないことになる。これではドライブレコーダーとして本来の機能を発揮できない。「VREC-MS700D」の実力をフルに活かすためにもビューワーソフトの早急な対応を望みたい。