レビュー

6速すべてを“使い切れる”楽しさを追求! ホンダ「シビックRS」に試乗

ホンダは、2024年に「シビック」をマイナーチェンジし、6速MTのガソリンエンジン搭載モデル「RS」を新グレードとして追加した。今回は、その「RS」を試乗してみたのでレビューしたい。

「シビック」の6速MTモデルである「RS」へ試乗。詳細は後述するが、「RS」には専用にチューニングされたステアリングや足回りが採用されているほか、MT操作をサポートしてくれる「レブマッチシステム」も搭載されている

「シビック」の6速MTモデルである「RS」へ試乗。詳細は後述するが、「RS」には専用にチューニングされたステアリングや足回りが採用されているほか、MT操作をサポートしてくれる「レブマッチシステム」も搭載されている

「RS」登場の理由はMT車の“駆け込み需要”

「シビック」マイナーチェンジにおいては、フロント周りのデザインが変更されるとともに、安全運転支援システムを強化。ハイブリッド車は、「e:HEV LX」と「e:HEV EX」の2グレードで展開されるとともに、新しい内装色が追加されている。そして、ガソリン車には今回試乗する「RS」が追加された。ちなみに、6速MTの「RS」が追加されることによって、これまで通常グレードに存在していた6速MT仕様は廃止されている。

では、「RS」を追加した目的は何なのだろうか。本田技研工業 総合地域本部 日本統括部 国内四輪営業部 商品企画課主任の佐藤大輔さんによると、大きく2つの理由があると言う。まず、ひとつめは市場環境だ。「MT車のラインアップが減少しているため、MT車の“ゆるやかな駆け込み需要”が発生しています」と説明する。今後の電動化率向上に向けて、新車でMT車を購入できるのは最後ではないかという危機感が市場にはあるようだ。

もうひとつは、「シビック」自身のネックだった“回転落ち”問題の改善だ。従来モデルは排気ガス浄化のためにしっかりと燃やし切る必要があったため、2,000rpmくらいからなかなか落ち切らず、MT操作でシフトダウン時などの際にまどろっこしい印象を与えていた。

「RS」ではここへ手を入れ、排気ガスの問題を解決するとともに、軽量化されたフライホイールやレブマッチシステムを採用することで、より素直な回転落ちやレスポンス向上を実現している。

特にレブマッチシステムは「シビックタイプR」にも採用されており、シフトチェンジ時にアップダウンの両方で回転数を合わせることでスムーズなシフトチェンジを可能にしている。

佐藤さんによると、マイチェン前と比べておよそ3割程度、回転落ちが速くなっているそう

佐藤さんによると、マイチェン前と比べておよそ3割程度、回転落ちが速くなっているそう

6速すべてを“使い切れる”楽しさを追求

また、「RS」には専用サスペンションも採用されている。北米仕様の「SI」がベースで、改良前と比較して旋回性能やハンドリングを向上させている。ただし、そのままだと日本では乗り心地悪化につながるということで、わずかにしなやかさが感じられるようにセッティングされていると言う。

ちなみに、エンジン関係はこれまでと変わらない。実は、北米仕様の「SI」は約20馬力アップしているのだが、日本向けは「騒音規制の関係で導入できませんでした」と佐藤さん。それでも、「日常公道で走れるスポーツカーを目指しました」と述べ、「シビックタイプR」では日常域では3速くらいまでで十分であるのに対し、6速すべてを“使い切れる”楽しさを求めたと言う。

また、スポーツモードも追加されており、アクセルレスポンスやステアリングの重さが変わるモードが追加されたことも付け加えておこう。

つい楽しみたくなるスムーズなシフトチェンジ

では、さっそく走り出してみよう。初めに気づいたのは、前述したエンジン回転落ちのよさだ。

冒頭にも記したが、以前の「シビック」は交差点などでシフトダウンしようとクラッチを切るとなかなか回転が落ちず、シフトチェンジがギクシャクしていた。しかし、この点が改良されたため、慣れればスムーズにシフトダウンできるようになった。

さらにレブマッチが搭載されているので、そんな煩わしいことをせずともクルマ側が回転を合わせてくれる。ちなみに、このレブマッチはシフトアップ側にも効くので、よりスムーズなシフトチェンジが可能となっている。

「RS」なら、MTの運転に慣れていないドライバーでも、とてもスムーズに走らせることができるだろう

「RS」なら、MTの運転に慣れていないドライバーでも、とてもスムーズに走らせることができるだろう

欲を言えば、マツダ「ロードスター」のように、信号などの停止時にクラッチを踏むとわずかにエンジン回転が上昇し、発進を助けてくれる機能があれば、さらに気楽に発進できるだろう。

シフトフィーリングも小気味よく、ついついシフトチェンジを楽しみたくなる。この楽しさはエンジンフィールとの相乗効果で、3,000rpmあたりから効き始めるターボによって加速感が楽しめ、さらにそこからレッドゾーンまできっちりとストレスなく回り切るのも、「RS」の楽しさのスパイスになっている。

ハンドリングやタイヤの接地感が向上

市街地から高速道路まで、さまざまなシーンで走らせてみると、マイチェン前と比較して「RS」は回頭性も向上していることに気づいた。たとえば、交差点の右左折時のほか、ワインディングロードでもステアリングを切ったタイミングでスッと鼻先が行きたい方向に向かってくれるようになったのだ。以前は、少しアンダーステア(ステアリングを切ったときに真っ直ぐに行きたがること)気味だったのだが、それがかなり解消されておりハンドリングの向上が実感できた。

タイヤの接地感も向上しており、コーナーリング時の姿勢が明らかによく、5cmダウンした車高と相まって思いどおりにコーナーを駆け抜けられるようになっている

タイヤの接地感も向上しており、コーナーリング時の姿勢が明らかによく、5cmダウンした車高と相まって思いどおりにコーナーを駆け抜けられるようになっている

また、ブレーキに関してもまったく問題なく、踏力どおりにコントロールでき、かつその性能も15インチから16インチに大径化されたフロントブレーキによって安心感のあるものとなっている。

シフト位置や乗り心地の硬さが少し気になる

いっぽう、気になることと言えばシフト位置だ。エアコンのダイヤルとシフトノブの位置が近いので、特に1、3、5速へ入れたときにダイヤルに指が当たることがあった。エアコンが物理ダイヤルであること自体は操作しやすくてよいのだが、もう少しレイアウトを考えてほしい。

マニュアルシフトの操作時に、エアコンに指が当たることがしばしばあった

マニュアルシフトの操作時に、エアコンに指が当たることがしばしばあった

また、これは「シビック」のインテリア全般に言えることなのだが、ピアノブラックが多用されているのが気になった。確かに最初はきれいなのだが、徐々に指紋や傷が付き始めてしまうからだ。インテリアも、ピアノブラック以外の新たなアイデアが期待される時期に来ていると思う。

ピアノブラックが採用されているインテリアは、新車時はキレイだが傷が付くことを心配してしまう

ピアノブラックが採用されているインテリアは、新車時はキレイだが傷が付くことを心配してしまう

そして、乗り心地も気になった。改良前も少々硬めで、特に後席は顕著だったのだが、RS専用セッティングになっても乗り心地の硬さは変わらない。もちろん、ハンドリング向上のためと言うのはわかるのだが、常にワインディングを走るわけではないので、RS=ロードセーリングというのであれば、もう少ししなやかさを感じる乗り心地になってほしい。「シビックRS」は、印象を言えばかなり「シビックタイプR」に近い乗り心地に感じられた。

後席は広くてよいのだが、乗り心地の硬さがやや気になった

後席は広くてよいのだが、乗り心地の硬さがやや気になった

また、シートも電動で調整できるのはよいのだが、腰周りのホールド性があまり高くないので、このあたりの改良も望んでおきたい。

ニッチだがMT好きには刺さる1台

燃費だが、500kmほど走った結果は、

市街地:9.5km/L(11.3km/L)
郊外路:11.5km/L(15.6km/L)
高速道路:18.4km/L(17.8km/L)
※( )内はWLTCモード値

上記の結果となった。1.5リッターターボで182psを発揮するエンジンであることを踏まえると、特に高速道路ではがんばった燃費ではないかと思う。郊外路はもう少し延びてほしいが、これはついついシフトダウンして引っ張ってしまった影響が出てしまったのかもしれない。ちなみに、燃料はハイオク指定だ。

まずはMTを残し、さらに操る楽しさを阻害する要因を排除したホンダの姿勢に敬意を表したい。経営を考えれば、「シビック」はラインアップを絞って、MTは「シビックタイプR」に任せるほうが利益率は上がるであろうにも関わらず、手の内感レベルのパワーを求めるMT好きに1台でも多く届けたいという気持ちが継続につながったようである。

ホンダの日本へのマーケティングは試行錯誤の連続で安定性に欠けるきらいはあるが、「RS」に関してはニッチでありつつも、エンスージアストのハートをしっかりとつかむ1台に仕上がっている。

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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