2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した、ホンダのコンパクトミニバン「フリード」。今回は、「フリード」のハイブリッドモデルである「e:HEV」の「AIR EX」と「CROSSTAR」という2グレードに合計1000kmほど試乗したので、その印象をレポートしたい。
上質で洗練されたシンプルデザインの「フリード AIR EX」
力強く遊び心にあふれたデザインの「フリード CROSSTAR」
2024年6月に発売された新型「フリード」は、人々の暮らしだけではなく使う人の気持ちにも寄り添い、日々の暮らしに笑顔をもたらすクルマを目指して開発された。ライフスタイルに合わせて選べるよう、上質で洗練されたシンプルなデザインの「AIR」と、力強く遊び心あふれるデザインの「CROSSTAR」という2つのタイプが用意されている。ハイブリッドモデルには、ホンダ独自の2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」が搭載され、スムーズで力強い走りを実現しているのが特徴だ。
さっそく、「AIR EX」(FF/6人乗り仕様)のステアリングを握って走り出してみよう。車内に乗り込んで最初に感じたのは、清潔感あふれるインテリアだった。内装は2トーンカラーで、シートの3分の1ほどの高さで色が切り替えられている。この切り替えラインはサイドウィンドウの下端と揃えられており、上側が明るい色調のため、開放感と室内の広がりを感じさせてくれる。
「フリード AIR EX」のインテリア
シートは、乗り降りのしやすさを優先しているのでホールド性は少し控えめだが、しなやかで座り心地は良好だ。試乗車は6人乗り仕様だったため、1列目から2列目へのウォークスルーも可能である。2列目シートも快適で、ロングスライド機構を使えば足元を広くとることができ、長時間のドライブも楽しめるだろう。
「フリード AIR EX」の1列目シート(上)と2列目セパレートシート(下)
3列目シートは、ボディサイズを考えれば前2列より小ぶりなのは仕方のないことだが、単なる緊急用ではなく、十分な居住性が確保されていた。特に座面長がしっかりと確保され、前方の視界も開けているため、1〜2時間程度の乗車であれば快適に過ごせそうだ。
「フリード AIR EX」の3列目シート
近年のホンダのハイブリッド車といえば、シフト操作がボタン式になっていることが多いが、「フリード」では一般的なレバー式シフトレバーが採用されている。これは、運転に不慣れな人でも直感的に操作できるようにという開発陣の配慮からだと言う。その狙いどおり、迷うことなく安心して運転することができた。
ただ、その周辺のレイアウトで少し気になったのは、エアコンなどの操作パネルが助手席側に寄っている点だ。スペースの制約はあるだろうが、ドライバー側からも操作しやすくなるよう、もう少し工夫がほしかったところである。
また、フロントピラー(Aピラー)に小窓が設けられ、ドアミラーがドアパネルに取り付けられていることで、左右前方の死角が少なく、視界が十分に確保されている点も高く評価したい。
走り出してすぐに感じられたのは、乗り心地のよさだ。最近のクルマは、見た目を重視して大径タイヤを履く傾向にあるが、「フリード」は185/65R15(試乗車はグッドイヤー製)サイズのタイヤを装着している。そのおかげで、タイヤが必要以上に暴れるような感覚や路面からの鋭い突き上げなどはなく、ふわりとしながらも衝撃を適切に吸収する快適な乗り心地だった。ただし、マンホールなどの段差を乗り越える際にタイヤ表面の硬さを感じることがあったが、これはタイヤ自体の特性によるものであろう。
「フリード AIR EX」
市街地では、すべての操作が軽やかだ。ステアリングも非常に軽いので、慣れるまでは少し切りすぎてしまうこともあったが、慣れてしまえばスムーズに運転できるだろう。加えて、ステアリングを切り始めた瞬間に、ゴムをねじるようなわずかな違和感があったことも記しておく。
街中から郊外へ抜ける道を走っても、車内は非常に静かで、耳障りな騒音はほとんど感じない。「フリード」のe:HEVは、発電用と走行用の2つのモーターを内蔵した電気式CVTを搭載しており、変速ショックのないきわめてスムーズな加速を味わえる。アクセルを踏んだ瞬間からモーターが力強く滑らかに車を押し出し、必要に応じてエンジンが効率よく発電に徹するという、よくできたシステムだ。走行中にエンジンが始動・停止しても、音は聞こえるもののその振動やショックはほとんどなく、同乗者はまず気づかないレベルといえる。
この電気式CVTには、「全開加速ステップアップシフト制御」という機能も備わっている。これは、アクセルを全開にした際に、あえて有段トランスミッションのような段階的な吹け上がりを演出し、リズミカルで爽快な加速感を生み出すものだ。高速道路の合流などでも、CVT特有のエンジン回転だけが先行する感覚はなく、気持ちのよい加速を味わうことができる。
市街地では積極的にモーターだけで走行する(EV走行)制御だが、時折、状況に関わらず充電のためにエンジンが1500rpmあたりで回り続ける点が少し気になった。アクセル開度なども考慮して、より自然なタイミングでエンジンが始動・停止すると、さらに好印象になるだろう。
高速道路に乗り入れても、快適な乗り心地という印象は大きく変わらない。ただし、パワーに関しては若干の物足りなさを感じるかもしれない。今回は1〜2名乗車が中心だったため力不足を感じることはなかったが、100km/hを超える速度域ではエンジンが唸(うな)るように感じられた。6人フル乗車で追い越しをかけるような場面では、もう少しパワーに余裕がほしいと感じる可能性がある。
「フリード AIR EX」の走行シーン
高速道路における走行では、安全運転支援システムも試してみた。レーンキープアシストは、やや過敏に反応して小刻みに修正舵が入る印象だ。もう少しファジーな制御になると、よりリラックスして運転できるだろう。また、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)作動中に先行車がいなくなった際、次の先行車を検知して急加速することがあった。運転に慣れていないと少し怖いと感じるかもしれないため、このあたりもより穏やかな制御が望まれる。
市街地では快適だったシートだが、高速道路での長距離移動では腰回りのホールド性が物足りなく感じられた。長時間の運転やカーブが続く道では、腰への負担が大きくなる可能性もあるため、今後の改良に期待したい部分だ。
ここで「CROSSTAR」(FF/5人乗り仕様)に乗り換えてみる。内外装のデザイン変更が中心のため、基本的な印象は「AIR」と変わらない。しかし、直接乗り比べてみると、「CROSSTAR」のほうがアクセルレスポンスは鋭く、乗り心地は少し引き締まった印象で、路面からの細かな振動も「AIR」より伝わってきた。タイヤのサイズと銘柄は同じなので、ホイールの違いなどが影響しているのかもしれない。
「フリード CROSSTAR」の走行シーン
最後に燃費について触れておこう。
[AIR EX]
市街地:18.2km/L(25.7km/L)
郊外路:24.3km/L(27.5km/L)
高速道路:27.1km/L(24.1km/L)
[CROSSTAR]
市街地:17.1km/L(25.8km/L)
郊外路:21.1km/L(27.6km/L)
高速道路:21.2km/L(24.1km/L)
( )はWLTCモード値
燃費は、上記の結果となった。「AIR EX」と「CROSSTAR」のどちらも、市街地では20km/Lに届かなかったものの、郊外路や高速道路では良好な数値を記録した。特に「AIR EX」の高速道路の燃費は、カタログ値を上回った。特別なエコ運転を意識せずに達成できたので、誰もが実現可能な燃費性能と言える。
なお、「CROSSTAR」の燃費が伸び悩んだのは、走行した交通環境の違いが主な要因と考えられる。テストの都合上、「CROSSTAR」ではアップダウンの多い路線を走行する時間が長くなった。WLTCモード値でも高速燃費が郊外路より低いことからもわかるように、フリードのe:HEVは速度域が上がるとエンジンが積極的に稼働するため、登坂路などでは燃費が落ち込む傾向がある。したがって、今回の「CROSSTAR」の燃費は、やや厳しい条件下での参考値ととらえていいだろう。
今回、2台の「フリード」をテストして、どちらも非常に上質でよくできたコンパクトミニバンだと感じた。
「AIR」は、クリーンなデザインと見晴らしのよい視界がもたらす運転のしやすさが魅力だ。クルマにこだわりがない人でも、そのすっきりとした心地よい空間は気に入ることだろう。対して「CROSSTAR」は、専用デザインに加え、5人乗り仕様の荷室をベッドのように使えたり、床下収納が充実していたりと、遊び心をくすぐる工夫が凝らされている。
「フリード AIR EX」
どちらを選ぶかは好み次第だが、「フリード」本来の素直な魅力を最も感じられるのは「AIR」だろう。街並みに溶け込むシンプルでクリーンなデザインのクルマを気負いなく乗りこなすのも、実はおしゃれな選択ではないだろうか。