“弾丸”試乗レポート

新しいクルマ文化を提案するマツダ「CX-3」の魅力

2015年2月27日、マツダから新しいコンパクトクロスオーバーである「CX-3」が発売された。この新型モデルには、どのような狙いがあるのか? モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏が、試乗と開発者へのインタビューを交えてレポートする。

発売から1か月を待たずして、累計受注台数が10000台を突破したというマツダのCX-3。早くも2015年のヒット商品に名乗りを上げそうな、このコンパクトクロスオーバーの魅力とは?

世界的トレンドになっているコンパクトクロスオーバーとは?

絶好調のマツダから、また新たな話題作が登場した。コンパクトクロスオーバーのCX-3だ。世界を驚かせたスカイアクティブテクノロジーを魂動デザインで包み、「人馬一体」の走りを実現する。「CX-5」にはじまり、「アテンザ」「アクセラ」「デミオ」と続いた、マツダの方程式を踏襲して、B〜Cセグメントのコンパクトなクロスオーバーに仕立て上げたのが「CX-3」だ。

ちなみに、コンパクトクロスオーバーは、今や世界的なトレンドだ。欧州や中国、アセアンなど、広い地域で人気を高めている。日本では、これまで、こうしたクロスオーバーは何度も提案されてきたが、残念ながら大きなムーブメントにならなかった。しかし、世界的なトレンドを受け、ここ数年、少しずつではあるが、日本にもコンパクトクロスオーバーは増えつつある。日産の「ジューク」やホンダの「ヴェゼル」、スバルの「スバルXV」、スズキの「SX-4 S-CROSS」がそれに該当する。また、トヨタの「アクア」にもクロスオーバー風の「アクア X-URBAN」が2014年の暮れに追加されているのだ。気がつけば、日本もコンパクトクロスオーバーの波が足元まで届いてきているのだ。

日本の自動車市場でも一大ムーブメントを起こしそうなコンパクトクロスオーバーの代表車種として、CX-3には大きな注目が集まる

そんなコンパクトクロスオーバーが人気を集めるのには、いくつかの理由がある。まずは。目線が高いため、運転がしやすい。さらに乗り降りもしやすいし、荷物の出し入れもしやすい。もちろん、雨や雪、悪路など、悪い環境にも強い。実用性という意味では、セダンやハッチバックよりも上だろう。さらにオーセンティックなセダンやハッチバックと比べると、どこか新しい雰囲気がある。これまでSUVがあまり普及していなかった欧州やアジアでは、こうした目新しさが魅力になるのだろう。

また、悪路を走破するクロスカントリーとは違って、クロスオーバーは舗装路での走行を念頭に置いているため、街乗りや高速走行のよさが磨かれている。もちろん、重心はハッチバックよりも高いため、ワインディングを飛ばすような走りでは不利だが、一般的なドライブでは、重心の高さが問題になることはない。

つまり、実用性が高い新しいジャンルのクルマで、しかも走りが悪くない。そういう理由で、コンパクトクロスオーバーは世界的に広く人気を集めるようになっているのだ。

人気の秘密は、実用度と走りのよさ、そして、心を刺激する新しさか

人気の秘密は、実用度と走りのよさ、そして、心を刺激する新しさか

同じアーキテクチャを使いながら、デミオとは違う世界を見せるCX-3

CX-3に話を戻ろう。CX-3をざっくりと表現するならば、「デミオのクロスオーバー版」である。エンジンは1.5リッターのディーゼルターボ。デミオにも採用されている、マツダ自慢のクリーンディーゼルだ。トランスミッションは、6速ATとMT。これもデミオと同様のもの。ホイールベースもデミオと同一だ。しかし、現物を前にすると、CX-3とデミオは、似て非なるものであることが、すぐにわかる。実際にボディパネルは、まったく別のものであり、存在感とステイタス感は、あきらかにCX-3が上をゆく。4275(全長)×全1765(全幅)×1550(全高)mmというCX-3のサイズは、少し前のVW「ゴルフ」ほど。ホイールもデミオの15〜16インチから、CX-3では16〜18インチと拡大された。また、デザインテーマは同じ「魂動」だが、デミオよりもCX-3のほうが、さらにクールである。つまりは、デミオよりもワンランクもツーランクも上のクラスのクルマに見える。もちろん、200万円以下のデミオと違って、CX-3は240〜300万円ほどのクルマだ。同じアーキテクチャを使いながらも、CX-3は価格帯に合ったクラス感を備えているわけだ。

デミオのクロスオーバー版だが、その雰囲気はワンランクもツーランクも上だ

デミオのクロスオーバー版だが、その雰囲気はワンランクもツーランクも上だ

室内に目をやると、基本のデザインはデミオと同じであるが、凝ったフィニッシュがちりばめられており、室内の上質感でもCX-3は上のクラスを実現している。ただしドライビングポジションのよさは「デミオ」と同じ。よい部分は、もちろんそのままだ。

装備類に関してもデミオよりCX-3のほうが充実度は上だ。カーコネクティビティシステムの「マツダコネクト」では、新たにカーナビソフトを日本製に変更し。完成度を高めている。オーディオには、Boseサウンドシステムを用意。先進安全運転支援システムは低速側(約4〜13km/h)で作動する衝突軽減自動ブレーキ「スマートシティブレーキサポート」だけでなく、高速側(15km/h以上)でも作動するミリ波レーダー式の衝突軽減自動ブレーキ「スマートブレーキサポート」を用意。ミリ波レーダーを備えるため、「マツダレーダークルーズコントロール」で前走車を自動で追従することも可能となった。対向車を感知して、自動でハイ/ローを切り変える「ハイビームコントロールシステム」や車線逸脱警報システム、斜め後ろの死角をモニターする「ブランドスポットモニタリングシステム」も装備。ひと通りの先進安全運転支援システムそろえている。

デミオをベースにしながら、CX-3は、ワンランクもツーランクも上の内容を備えたクルマであったのだ。

マツダ独自の「ヒューマン・マシン・インターフェイス」の思想から生まれた運転席

マツダ独自の「ヒューマン・マシン・インターフェイス」の思想から生まれた運転席

視認性の高いセンターメーター上部には「アクティブ・ドライビング・ディスプレイ」を装備する

視認性の高いセンターメーター上部には「アクティブ・ドライビング・ディスプレイ」を装備する

ソフトウェアのアップデートが可能なコネクティビティシステム「マツダ コネクト」も搭載

ソフトウェアのアップデートが可能なコネクティビティシステム「マツダ コネクト」も搭載

部分的に本革を使用したシートは、シンプルだが上質な雰囲気だ

部分的に本革を使用したシートは、シンプルだが上質な雰囲気だ

シートの色に合わせて内装色もコーディネイトされる

シートの色に合わせて内装色もコーディネイトされる

ラゲッジスペースの容量は必要十分な350L。フレキシブルボードを装備しており使いやすそう

ラゲッジスペースの容量は必要十分な350L。フレキシブルボードを装備しており使いやすそう

スポーツカーやコンパクトカーとは異なる人馬一体の走り

CX-3はディーゼルエンジンのみのラインアップとなっている。このディーゼルエンジンは、出力こそ最高77kW(105PS)だが、トルクは270Nmもある。JC08モード燃費はMTのFFモデルが25km/lを最高値として、6ATの4WDモデルがミニマムで21km/l。ガソリンエンジン車でいえば、2リッタークラスの出力と2.5リッタークラスのトルク。そして燃料となる軽油はレギュラーガソリンよりも15%ほど安い。つまり、ハイブリッドに迫るような経済性のよさも備えていると言っていいだろう。

採用されるエンジンは「SKYACTIV-D 1.5」のみで、JC08モード燃費は21.0km/L(4WD AT車)〜25.0km/L(FF MT車)となる

しかし、「どうしてもディーゼルエンジンの音が嫌いだ」という人もいるだろう。そんな人たちに向けて、CX-3には世界初の技術となる「ナチュラル・サウンド・スムーザー」が用意されている。これはディーゼルエンジンの特徴となる金属音(ノック音)を修正するものだ。ディーゼルエンジンの特徴的な金属音は3500Hz付近のもので、エンジン内部のピストン周辺から発生している。そこで、ピストン内に3500Hz付近の音を中和させる金属片を挿入するのだ。実際に、「ナチュラル・サウンド・スムーザー」を装備したCX-3と、そうでないCX-3のエンジン音を聞き比べてみた。すると、エンジン音のボリュームはそのままに、音色が変化していることがわかる。耳障りな硬い音から、より柔らかい音になっているのだ。イメージ的にはオーディオでEQ調整を行ったようなもの。金属音が抑えられたエンジン音は、ディーゼルというよりもガソリンターボエンジンのようなサウンドであった。

「ナチュラル・サウンド・スムーザー」の採用により、ディーゼルエンジンならではの金属音を低減している

「ナチュラル・サウンド・スムーザー」の採用により、ディーゼルエンジンならではの金属音を低減している

しかも、CX-3は遮音性が高められている。駐車場をゆっくりと移動するくらいでは、そもそもエンジン音がほとんど聞こえないほど静かだ。また、走行中も普段は1500回転ほどを目処に、どんどんとシフトアップしてゆく。太いトルクが低回転から発生できるディーゼルエンジンならではの変速だが、そのおかげでエンジン音はそもそも小さい。力強い加速を求めて、深くアクセルを踏み込むと、レッドゾーンの手前の5000回転まで軽々と吹け上がるが、そのときのビートの揃そろったエンジン音は気持ちよいものだった。

ちなみに、太いトルクによって加速は力強いのだが、速いという印象は意外に薄い。速度メーターを見れば、十分な速さが出ているのだが、高い目線位置に加え、振動やノイズの少なさが影響しているのだろう。「ドン!」という加速ではなく、スルスルスルとジェントルに速度を上げてゆくのだ。

ステアリングの手応えは全体に軽めで、コーナリングの初めの動きもゆったりとしている。ユルユルではなく、操舵通りに動くのだが、それが急ではないということ。キビキビと俊敏に動かすこともできるが、基本的には落ち着いた振る舞いを見せてくれる。乗り心地もフラットで、路面の凹凸もジェントルにいなす。

また、全グレードにMT車が用意されているのも国産車としては珍しい。6ATのレスポンスが悪いわけではないが、やはりダイレクト感という意味ではMTが勝る。燃費もMTのほうがいいわけだから、運転を楽しみたいという人はMTを選んでもらいたいものだ。

落ち着いた、ジェントルな走行感覚のCX-3。目線も高く運転しやすい

落ち着いた、ジェントルな走行感覚のCX-3。目線も高く運転しやすい

全グレードにMT車が用意されており、運転の楽しさが堪能できる

全グレードにMT車が用意されており、運転の楽しさが堪能できる

試乗を振り返ればCX-3は、スポーツカーの「ロードスターや、スポーティーハッチバックの「アクセラ」などとは違ったキャラクターがあった。もっと穏やかでジェントルなクルマだ。しかし、クルマが鈍いのではない。落ち着いているだけであり、ドライバーの意思に忠実に動いてくれる。そういう意味で、人とクルマとの一体感は確かにあった。これがクロスオーバーならではの人馬一体感なのだろう。スタイリッシュでありながら実用的で燃費もよい。さらに走りのレベルも高い。どこかに新しさがあり、その上でよいクルマがほしいという人に、CX-3はかなり刺さるに違いない。

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