“弾丸”試乗レポート

試乗して感じた「ハリアー」人気の秘密をレポート!

2013年11月に10年ぶりのフルモデルチェンジを果たしたトヨタの「ハリアー」。発売から半年間の販売成績を見ると、SUV部門で3位(2014年1〜6月 自販連調べ)にランクインするなど、大健闘していることがわかる。その魅力はいったいどのようなモノなのか? モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。

初代も2代目もスマートSUVという印象のあった「ハリアー」だが、2013年11月のフルモデルチェンジにより、その印象はさらに強くなった。発売から半年あまり経った今、その実力を詳しくチェックしていきたい

忘れ去られた存在が意外な復活を遂げて、人気を集めた

トヨタの「ハリアー」といえば、1997年の初代モデルによって「高級クロスオーバー」というジャンルを切り拓いたエポックメイキングなモデルであった。しかし、2003年登場の第2世代からはレクサス版の「レクサスRX」がリリースされ、2009年には「レクサスRX」のみが第3世代へと進化。本家本元であるトヨタの「ハリアー」は、なんの手当もなく、まるで放置状態になり、気づけば2012年に生産終了となった。「ハリアー」は「レクサスRX」に取って代わられ、消えゆく存在になるのだろうと思ったところ、2013年11月に新型「ハリアー」が登場。意外な復活劇となったのだ。

そんな歴史を持つ「ハリアー」だが、その販売は非常に順調だ。2013年11月の発売から1か月後には約2万台の受注を獲得。さらに、2014年の1〜6月の販売ランキングを見れば全体の13位、SUVとしては、ホンダ「ヴェゼル」(総合8位)、日産「エクストレイル」(総合11位)に次ぐ3位となっている(自販連調べ)。ブランド消滅さえ噂された車種としては、なかなかの人気と言えるのではないだろうか。

ちなみに、発売から1か月後の受注の内訳を聞いてみれば、年齢別には20代が16%、30代が25%、40代が24%、50代が19%、60代以上が16%、ガソリン車とハイブリッド車の比率は3:2。ガソリン車は圧倒的にFFモデルの人気が高く、全体としては上級グレードの人気が高いという。ここで特徴的なのは、20代と30代を合わせると、購買層全体の41%を占めることだ。エントリーモデルでもない「ハリアー」で、この数字は特筆すべき点であり、この数字から言えるのは「ハリアー」は若者から人気を集めているということだ。

フロントはロングオーバーハング、リヤはショートオーバーハングとすることで、スポーティーで躍動感のあるプロポーションを実現

従来モデルに比べ、デザイン的に引き締まった印象を受ける

従来モデルに比べ、デザイン的に引き締まった印象を受ける

全車標準装備のLEDヘッドランプ。中央寄りには3本のライン状に発光するクリアランスランプを採用するが、これがなかなかおしゃれなのだ

「ハリアー」とは、低空飛行を得意とするタカ科の鳥「チュウヒ」のこと。フロントグリル中央には初代から受け継がれてきた、この「チュウヒ」をかたどったエンブレムが配される

ラインアップはガソリン車のFFと4WD、ハイブリッド車の4WD

続いて新型「ハリアー」のアウトラインを説明したい。ボディサイズは、4720(全長)×1835(全幅)×1690(全高)mmで、2代目モデルから全体的に10〜15mmの縮小となる。シートは2列で、乗員定数は5名だ。

パワートレインは3種。2リッターのガソリンエンジン+CVTのFFと4WD、2.5リッターのガソリンエンジンとTHSU+E-Four(電気式4輪駆動)のハイブリッドシステムが用意される。2リッターのガソリンエンジンのスペックは最大出力111kW(151PS)/最大トルク193Nmで、FFモデルのJC08モード燃費は16km/l、4WDモデルは14.8〜15.2km/l。ハイブリッドはシステム合計出力145kW(197PS)となり、JC08モード燃費は21.4〜21.8km/lとなっている。2リッターガソリンも2.5リッターハイブリッドも、飛び抜けてすぐれているわけではないが、同クラスのライバル車と比べれば優秀なスペックを有している。

グレード編成は「GRAND」「ELEGANCE」「PREMIUM」の3つを基本に、最上級に「PUREMIUM“Advanced Package”」を加えた4グレード構成。価格はガソリン車が272〜378万9000円、ハイブリッド車が361〜447万円だ。ガソリン車のFFモデルなら、ミドルグレードの「ELEGANCE」でも280万円。この300万円を切るコストパフォーマンスの高さも若者へのアピールになっているのではないだろうか。

注目度が高いのはやはりハイブリッド車。2.5リッターのガソリンエンジンとTHSU+E-Four(電気式4輪駆動)システムが採用され、JC08モード燃費は「GRAND」で21.8km/l、「ELEGANCE」「PREMIUM」「PUREMIUM“Advanced Package”」で21.4km/lを実現

ハイブリッドシステムは、フロントに2.5リッターの「2AR-FXEエンジン」、フロントモーター、パワーコントロールユニット、回生ブレーキ/ECB(電子制御ブレーキシステム)などを搭載。リヤにはE-Four(電気式4輪駆動)用のリヤモーターとニッケル水素バッテリーが搭載される

ドレッシーな雰囲気を生み出すインテリア

今回の試乗に使用したのは、ハイブリッド車のミドルグレードとなる「ELEGANCE」。価格は367万円。プリクラッシュセーフティシステム/レーダークルーズコントロール/インテリジェントクリアランスソナー(10万5000円)や8型のSDナビ(約32万円)、アクセサリーコンセント(6万3000円)などのオプションを加えて、合計420万円ほどの車両だ。

実物を前にすると、新型「ハリアー」の魅力のひとつが、そのデザインにあることがよくわかる。エクステリアは、歴代モデルに共通する水平基調を継承。前のめりに傾倒したCピラーは、まるでスポーティセダンのようでもある。リヤのストップランプは従来モデルに比べシャープなデザインとなっており、佇まいは非常にスッキリとしている。ボディカラーは、紫がかった黒が印象的なスパークリングブラックパールクリスタルシャインや、角度によっては深いこげ茶に見えるブラッキッシュレッドマイカなど、シックな色合いばかり7色がそろう。これも「ハリアー」の特徴のひとつだ。ちなみに試乗車はもっともオーソドックスなシルバーメタリックだった。

続いてはインテリアを見ていこう。シートには、ファブリックのほか、ファブリック+合成皮革、本革を用意。内装の配色も、ディープボルドー、ブラック、アイボリーの3色が用意され、その雰囲気は2クラスほど上のモデルをイメージさせる。インパネやドアトリムのラインのうねりは、室内の陰影をより深いものにしており、ファブリック+合成皮革のシートには光沢のある糸や素材がふんだんに使われていた。ここから得るイメージは、「ディナーパーティーにおもむくドレッシーな衣装」。こういう印象を得る日本車は、ほとんどない。これが「ハリアー」の強烈な個性だ。ちなみに、この内装のデザインは、エントリーグレードであってもほとんど雰囲気は変わらない。これも、若者に支持されている理由かもしれない。

試乗したハイブリッド車の「ELEGANCE」はグレード編成の中ではミドルクラスに位置するが、非常にドレッシーな雰囲気で上質感を漂わせている。インパネの視認性、各種スイッチ類の操作性も高い

運転席から助手席へと続くダッシュボードの曲線的なラインはなかなか官能的。また、グローブボックス上側と運転席右下に間接照明を採用するなど、インテリアにも細かなあしらいが施されている

センターコンソールは光沢が美しいピアノブラックと、シフト部分の木目がうまく調和されていて高級感あふれる印象だ

ドアトリムの直線と曲線を組み合わせたデザインも個性的。内貼りには革素材を使用する

ドアトリムの直線と曲線を組み合わせたデザインも個性的。内貼りには革素材を使用する

試乗車のシート色はブラックだったが、ほかに写真のアイボリーやディープボルドーなど落ち着いた色味が用意される

フラットなラゲッジスペースには9.5インチのゴルフバッグが4個収納可能。デッキボードの下にも収納スペースを用意する

スムーズで過不足のない走り

新型「ハリアー」の走りはどうなのか? ハイブリッド車のパワートレインの印象は、「いかにもTHSU!」というもの。EVモードでスタートし、途中でエンジンとモーター駆動をひんぱんに切り替えながら走るのが、トヨタのTHSUの走行ロジックだ。その切り替えが非常にスムーズで、マルチインフォメーションディスプレイを見ないとエンジンで走っているのかモーター駆動中なのか判別できないのが特徴である。新型「ハリアー」は静粛性が高められていることもあって、音も振動もドライバーにあまり伝わらず、よけい切り替えの判別が難しい。その結果、ドライバーにとってパワートレインの存在が非常に希薄なものになる。パワー感は必要十分。パワフルとは感じなかったが、不足とも感じない。それよりも、静粛性の高さやスムーズさが魅力に思えた。これならば、同乗の人間との会話もしやすいし、同乗者がクルマに酔うことも少ないのではないだろうか。

ちなみに2リッターのガソリンエンジンのFFモデルにも試乗したが、そちらはもう少しエンジン音や振動がドライバーに伝わってくる。しかし、それも最小限のもの。ハイブリッド車同様に、エンジンの存在を主張するようなものではなかった。またパワーに関しても、印象はハイブリッドと同じ。パワフルではないが、不足はない。普通に走っている限り、不満を感じることはなかった。

ハイブリッド車もガソリン車も、その走りはスムーズで必要十分なもの。速さや力強さを追求した体育会系とは正反対の、大人っぽく余裕のあるキャラクターであった。

エンジンとモーター駆動をひんぱんに切り替えながら走るトヨタのTHSUの特徴だが、「ハリアー」はその切り替えがとてもスムーズ。エンジンで走っているのかモーター駆動中なのか、マルチインフォメーションディスプレイを見ないと判別できないほどだった

ハイブリッド車のマルチインフォメーションディスプレイ

ハイブリッド車のマルチインフォメーションディスプレイ

ガソリン車のマルチインフォメーションディスプレイ

ガソリン車のマルチインフォメーションディスプレイ

ひとつ気になったのは、先進安全装備の内容だ。衝突被害軽減自動ブレーキであるプリクラッシュセーフティは用意されているが、その作動は時速15km以上。先行車に追従するレーダークルーズコントロールは時速50〜100kmでの作動となる。つまり、全体の速度域が高く、高速道路上での渋滞時など、低速状況では作動しないというものだ。確かに、生命を守るという意味での衝突被害軽減自動ブレーキの必要性は高速域のほうが高い。しかし、現状の日本のマーケットでは低速域の衝突被害軽減自動ブレーキの普及が急速に進んでいる。新型「ハリアー」を選ぶときは、その点が他メーカーと違っていることを把握しておく必要があるだろう。

ナビ画面には、車両を上から見下ろしたような映像を表示するパノラミックモニター(左右確認サポート付)を装備。目視だけではわかりづらいクルマの周囲の状況をしっかりと確認できる

駐車場や見通しの悪い場所からの発進時に、側方から現れる人やクルマを検知して映像と音でしらせてくれるのが「左右確認サポート」。トヨタ車初採用となる安全技術だ

道路上の白線/黄線をカメラで認識し、クルマが車線を逸脱する可能性がある場合に、ディスプレイ表示とブザー音で注意喚起してくれる「レーンディパーチャーアラート(ステアリング制御付)」もトヨタ車初装備なる

記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
SPECIAL
ページトップへ戻る
×