2014年9月26日より、ついに発売が開始されたマツダの新型「デミオ」。その公道試乗会において、マツダの“走り味”を生み出すキーパーソンの話を聞くことができた。マツダ快進撃の理由のひとつと言える“走り味”とは、いったいどのようなものなのだろうか? モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。
大きな注目を集め、ついに発売となったマツダの新型デミオ。自動車メディアやカーマニアからも高い評価を得ているスカイアクティブ採用車のボトムライン位置づけられるデミオは、どんなクルマに仕上がっているのだろうか?
マツダの快進撃が止まらない。マツダが「第6世代」と呼ぶ、スカイアクティブテクノロジー採用車はCX-5にはじまり、アテンザ、アクセラと続き、ついにボトムラインに位置するデミオにまでおよんだ。最初にスカイアクティブテクノロジーをフルスペックで採用したCX-5は、日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得。続くアテンザやアクセラも高い評価を得ており、ビジネス上も好成績を納めている。円安という追い風もあり、ほんの数年前まで、ひどい赤字続きだったマツダはV字回復を実現。現在は過去最高益を達成している。
しかも、注目すべきは、クルマにうるさい自動車メディアやカーマニアからも高い評価を得ていることだ。そこには、環境性能にすぐれたエンジンをモノにしたという技術的なリスペクトだけでなく、「人馬一体」とマツダが言う走りがあった。それがクルマ好きのハートをとらえたのだ。
ドライバーとクルマが一体になる走り。別に、驚くほど速いわけではない。しかし、そこには他では得られない、走る楽しさがあった。それはSUVであるCX-5でも、大型セダンであるアテンザでも、5ドアのアクセラでも同じだ。そして、公道試乗を行った新型デミオにも、しっかりと同じテイストが継承されていたのだ。
デミオの価格は、ガソリン車のFFモデルが、135万円〜171万7200円。4WDモデルが154万4400円〜191万1600円。ディーゼル車はFFが178万2000円〜199万8000円。4WDモデルが、197万6400円〜219万2400円。JC08モード燃費は、ガソリン車のFFの6ATモデルが24.6km/l、5MTで21.8km/l。ディーゼル車は6ATで最高26.6km/l、5MTが30.0km/l。現在のところ、4WD車のJC08モード燃費は未定(2014年10月時点)
最初に試乗したのは1.3リッターエンジンを搭載したデミオの「13S」。ガソリン車のミドルグレードだ。最高出力68kW(92馬力)/最大トルク121Nmは、驚くような数値ではないが、6速ATを滑らかに駆使して、勾配のきつい箱根のワインディングを駆け上がる。印象的だったのが、リヤタイヤのロードホールディングのよさだ。後輪がピタッと路面に張り付いたような感覚は、ドライバーに高い安心感を与える。フラットでしなやかな乗り心地も好印象。コーナリングの限界がむやみに高いわけではないが、クルマとドライバーの一体感が高く、タイヤの性能を使い切って振り回すような走りが楽しめた。また、軽量なクルマでありながらも、軽さゆえの不安定さや安っぽさはない。このあたりのフィーリングはドイツ車コンパクトに近いだろう。
続いては最高出力77kW(105馬力)/最大トルク250Nmのディーゼル車、「XD ツーリングLパッケージ」。停車中は確かにガラガラというディーゼル特有の音がする。その音量は最新のガソリン車と比べれば確かに大きいけれど、トラックのガラガラ音とは別次元の静かさだ。その音も走りだせば、あっと言う間に気にならなくなる。それよりも、1クラスも2クラスも上の太いトルクへの驚きに心が占められてしまう。まるでスポーツカーのように楽ラクと、きつい箱根のワインディグを駆け上がる。しかし、ガソリン車と比べれば、全体的に動きは重い。パワステのセッティングも直進優先のような気がする。ただし、後輪が路面をしっかりとつかむ安心感やフラットな乗り心地はガソリン車同様だ。
軽快で使い切る楽しさのあるガソリン車。パワフルで落ち着きある走りが印象的だったディーゼル車。どちらが上とか下ではなく、異なるキャラクターをニーズによって選択すればいいという点が気に入った。
日本とは異なる色使いのマップを表示するマツダコネクトのカーナビは、すでに数十回のアップグレードが行われたという。そのおかげか、短い試乗時間とは言え、案内するルートを外すことはなかったことを報告したい。
ガソリン車のフィーリングは、滑らかで、クルマとの一体感が感じられるものだった。ドイツ車のコンパクトカーに近い感覚だ。ディーゼル車はトルクフルで、すぐれた直進安定性が感じられた。どちらかというとGT的な雰囲気を持っている
室内は、マツダらしい質感の高さが印象的。デザイン性だけでなく、メーター類の視認性やスイッチ類の操作性にもこだわりが感じられる
メーターはアナログのタコメーターと、デジタルのスピードメーターを採用。エンジンをONにすると、メーターフードの前方に車速やナビのルートなどが表示される「アクティブ・ドライビング・ディスプレイ」が立ち上がる
ダッシュボード中央には、カーナビ機能をはじめ、さまざまな情報にアクセスできる「MAZDA CONNECT」を装備。ディスプレイは7型WVGAが採用され、少ない視線移動で画面に表示される情報を確認できる
シフトノブの手前にはナビやオーディオの操作が可能な「コマンダーコントロール」が配される
ラゲッジスペースの容量は、コンパクトカーとしては標準的。6:4分割可倒式のリヤシートを倒せば長尺物も十分に積載可能だ
最近のマツダ車の評価の高さの理由のひとつが、この「人馬一体」の走りのよさである。しかし、この“走り味”がマツダらしさと認識されたのは、それほど古いことではない。あえていえば、2010年のプレマシーからと言っていいだろう。それ以前のマツダ車の走り味は、現在のものと異なっていた。それは、ほんの少しの操作(ハンドルやアクセルなど)に、クルマがヴィヴィッドに反応するという乗り味であった。わずかにハンドルを動かせば、すぐさまノーズの向きが変わる。イメージ的には「パキパキ」とした動き。俊敏といえば、そうなのだが、ゆったりと走らせるのが難しく、疲れやすいという意見も多かった。
そんな乗り味であったマツダが、突然、2010年のプレマシーで変化した。現在の「人とクルマの一体感のある走り」となったのだ。じんわりとハンドルを切れば、クルマもじんわりと動く。ピッと速くハンドルを切れば、クルマも思うとおりに素早く動く。つまり、ドライバーの意思通りに動く、扱いやすいキャラクターとなった。
その“走り味”の変化は一部で高く評価され、その後のマツダ車はすべて、その路線の“走り味”に染まってゆく。そして、第6世代CX-5以降の大ブレイクにつながっていったのだ。
「パキパキ」な印象だったマツダの“走り味”が変わったのは、2010年のプレマシー以降のこと。現在は、ドライバーの思うとおりに操れる「人馬一体」の味付けがなされており、もちろんそれは新型デミオにも受け継がれている