ホンダのミニバン「ステップワゴン」「ステップワゴン スパーダ」が第5世代に進化した。激戦の2リッタークラスのミニバンで戦うための武器は何か? 試乗と開発責任者へのインタビューを交えて、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。
強豪がひしめく2リッタークラスのミニバン。新しいステップワゴン(右奥)とステップワゴン スパーダ(左手前)は、何を武器にそれらのライバルに立ち向かうのか?
2015年4月23日より、5代目となったホンダのステップワゴン、ステップワゴン スパーダの発売が開始された。この3列シートを備えた2リッタークラスのミニバンは年間25〜30万台の販売をキープする堅調なジャンル。それだけにトヨタの「ノア」「ヴォクシー」、日産の「セレナ」、マツダの「ビアンテ」などのライバルがひしめき、しのぎを削る厳しいマーケットでもある。
そこに投入された新世代のステップワゴン、ステップワゴン スパーダには、ライバルと戦うために、3つの武器が与えられた。ひとつが、縦にも横にも開く新機構を備えたテールベートの「わくわくゲート」。そして、その長所をさらに生かす、床下収納を可能とする3列目シートの「マジックシート」。そしてホンダの次世代パワートレインとなる1.5リッター直噴VTECターボエンジンだ。
テールゲートの半分だけが横に開くわくわくゲート。ライバルにはないユニークな機構で、機能はもちろん新しいステップワゴンのアイコンでもある
アウトドアでひさしにもなる従来型のテールゲートの利点はそのまま受け継がれている
わくわくゲートとは、普通に縦に開くテールゲートに、半分だけ横に開く機構を追加したもの。テールゲートを大きく開けなくてすむため、荷物の出し入れが簡単になる。3列目マジックシートを床下に収納しておけば、横に開けたゲートからの人の乗り降りも可能だ。ベビーカーや自転車を、そこから載せることもできる。もちろん通常通りにゲートが縦にも開くので、アウトドアシーンなどで雨のときのひさしにも利用できる。利便性を大きく高めるアイデアだ。
アウトドアでひさしにもなる従来型のテールゲートの利点はそのまま受け継がれている
わくわくゲートとは、普通に縦に開くテールゲートに、半分だけ横に開く機構を追加したもの。テールゲートを大きく開けなくてすむため、荷物の出し入れが簡単になる。3列目マジックシートを床下に収納しておけば、横に開けたゲートからの人の乗り降りも可能だ。ベビーカーや自転車を、そこから載せることもできる。もちろん通常通りにゲートが縦にも開くので、アウトドアシーンなどで雨のときのひさしにも利用できる。利便性を大きく高めるアイデアだ。
3列目シートを左右独立して床下に収納できるマジックゲート。片側だけ収納すれば、テールゲートから乗り込んで運転席まで移動も可能だ
3つめの武器1.5リッター直噴VTECターボエンジンは、今後、ホンダが展開する予定の直噴ターボエンジン群の第一弾だ。いわゆる欧州車などで採用が拡大している“ダウンサイジング・過給エンジン”であり、高い動力性能とすぐれた燃費性能を両立するというもの。これまで日本メーカーは、ダウンサイジング・過給エンジンをあまり採用してこなかったが、最近では、トヨタが「オーリス」に1.2リッター・ターボを搭載するなど、採用拡大への動きが見えてきた。ホンダは、この1.5リッターを皮切りにバリエーションを拡大する予定だという。
そのホンダのターボ第一弾だけあって、今回の1.5リッターユニットはCVTと組み合わせて、最高出力110kW(150馬力)・最大トルク203Nm、JC08モード燃費17.0km/lの性能を携えて世に送り出された。自然吸気エンジンでいえば2リッター相当のパワーと従来モデル以上のすぐれた燃費性能を達成している。ちなみにライバルであるノア、ヴォクシーの1.8リッターハイブリッドは、最高出力100kW(136馬力)にJC08モード燃費23.8km/l。日産のセレナの2リッター・マイルドハイブリッドは最高出力108kW(147馬力)にJC08モード燃費16.0km/l。マツダのビアンテは2リッターで最高出力111kW(151馬力)にJC08モード燃費14.8km/l。ライバルと比べても、1.5リッターという小排気量のホンダのパワーユニットは見劣りするものではない。
1.5リッターと小型だが加給して2リッター級の出力を稼ぐ“ダウンサイジング・過給エンジン”を採用する
また、広い室内空間や充実した快適装備、先進の安全装備といった従来からあるセリング・ポイントはそのまま。室内空間は、ボディサイドをより垂直に立たせてスクエアな空間とすることで、頭まわりの左右空間を1〜3列席で先代よりも35〜45mm拡大。ホイールベースも35mm伸ばして、1列席から3列席までのシート間距離を40mm延長。広さに磨きをかけている。
ホイールベースを延長することで、ミニバンのキモとも言うべき室内スペースはさらに拡大している
先進の安全・運転支援システムは、ミリ波レーダーと単眼カメラを使った時速5km以上で歩行者や車両に対して作動する衝突被害軽減自動ブレーキ「CMBS」、前車追従機能のアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)、ステアリングの制御をともなう車線逸脱防止機能の車線維持支援システム「LKAS」、誤発進抑制機能、先行車発進お知らせ機能、標識認識機能を「ホンダセンシング」としてメーカーオプションで用意した。
注目の安全・運転支援システムは、CMBSやACC、LKASなどがホンダセンシングとしてオプション設定されている
試乗のためにドライバーズシートに収まる。横基調のインストルメンタル・パネルを見ていると、本棚を連想させる。クルマというよりも、リビングのシェルフのような印象を得る。頭上空間はたっぷりしており、広々感は十分だ。
ステップワゴンは、シフトレバーやダッシュボードに貼られた木目調パネルによって、明るいイメージを演出している
いっぽう、ステップワゴン スパーダの内装は無機的なテクスチャーのパネルを採用することで、引き締まった雰囲気だ
「新しいダウンサイジング過給エンジンは?」といえば、これが意外に存在感控えめであった。CVTを駆使した加速はスムーズそのもの。1600回転も回れば最大トルクである203Nmを発揮し、そのままフラットに5000回転まで最大トルクが続く。どんな回転数からでも、同じようなトルク感で加速ができる。驚くべきパンチ力&昂ぶるエンジン! というものではなく、実直で使いやすい特性となっている。しかもエンジンから伝わる音や振動は、ていねいに抑え込まれている。「静かなクルマだな」という印象も強く残った。
最初に走ったのは高速道路だ。本車線へ合流するための加速力は十分。直進性もなかなかのもの。また、ホンダセンシングのLKAS(車線維持支援システム)が、自動でステアリングを微調整して車線中央をキープしようとする。先行車を追従するACCを作動させれば、さらにドライバーの負担は減る。CMBS(衝突軽減ブレーキ)が存在するという安心感も、ドライバー心理的にはうれしいもの。ちなみに、ACCが作動するのは、時速30〜100kmのため、ダラダラと進む低速の渋滞の中をACCまかせの運転はできないのが残念だ。
ワインディングにクルマを向ける。狭くクネクネと曲がり、勾配もきついコースだ。しかし、大柄なミニバンであるが、意外にも不満なく走れてしまった。きついコーナーでも狙ったラインを外さないし、パワー感も十分。グイグイとワインディングを駆け上がる。ドライバー目線で不満のないパワー&ハンドリングであったのだ。
CVTと組み合わせることでミニバンの大柄なボディを軽快に引っ張る、1.5リッター直噴VTECターボ・エンジンを搭載
広い室内を磨き上げ、さらに横にも縦にも開く「わくわくゲート」という面白い新機構を追加して、ミニバンとして求められるユーティリティの高さをクリア。走りという面では、ダウンサイジング過給エンジンを投入して、十分以上のレベルを達成。さらに先進の安全運転支援システムもしっかりと用意した新型のステップワゴン、ステップワゴン スパーダ。激戦区に投入される新型だけに、さすがの隙のない仕上がりであった。