2015年5月21日に発売された、マツダの新型「ロードスター」。その走りと狙いを、試乗と開発者へのインタビューを通して、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。ちなみに、鈴木氏は十何年来のロードスターオーナーでもある。
5月21日の発売以来、1か月で5000台の受注を獲得している注目のND型ロードスター。その実力や思想を、ロードスターオーナーであるモータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏が迫った
2015年5月21日の発売から1か月で5000台を超える受注を達成し、順調な滑り出しを見せたマツダの新型ロードスター。この新型モデルは、ロードスターにとって第4世代となるため、通称「ND型」と呼ばれる(1989年登場の初代がNA型、1997年の2代目がNB型、2005年の3代目がNC型のため)。また、このND型ロードスターは、マツダにとって「CX-5」にはじまり「アテンザ」「アクセラ」「デミオ」「CX-3」と続く「第6世代商品群」のひとつ。ここ最近のマツダの好調さを導いた第6世代商品群の出来のよさは周知の通りであり、その集大成とも呼べる存在が、この新型ロードスターといってよいだろう。
その内容は、マツダの第6世代商品群ならではの最新テクノロジーを使いつつも、歴代ロードスターに受け継がれてきた文法をしっかり守ったものとなっている。
継承されてきた文法は、いくつもある。まず、小さく軽い車体にエンジンを縦置きにしたオープンのFRモデルであること。エンジンは、なるべく後ろに置くフロントミッドシップ。エンジン&トランスミッションとリヤのデフはPPF(パワープラントフレーム)で結合する。前後重量配分は50:50。サスペンションはダブルウィッシュボーンまたはマルチリンクのサスペンション。細かくいえば、サスペンションのセッティングをユーザーが好きなように変更できる調整幅が用意されていることも、歴代のロードスターの特徴であった。
FRレイアウト、フロントミッドシップ、PPFで結合する動力源とデフ、前後重量配分50:50などロードスターの基本レイアウトは踏襲される
エンジン・トランスミッションをつなぐPPFの形状も最適化されている
そうした文法を守った新型ND型ロードスターの寸法は、全長3915×全幅1735×全高1235mm(先代NC型ロードスターは全長4020×全幅1720×全高1245mm/初代NAロードスターが全長3955×全幅1675×全高1235mm)。ND型は、幅こそ大きくなっているものの全長は歴代最小となった。車両重量はベーシックな「S」で990kg。「Sスペシャル・パッケージ」で1010kg、「Sレザー・パッケージ」で1020kg。つまり新型NDは、先代のNC型の最終モデルの1110kgやNB型最終(1.6リッター+5MT)の1030kgを下回り、初代NA型の940kgに近づくほどの軽量さを達成。衝突安全基準が大幅に難しくなった現在での1トン切りは、開発陣の執念のようなものを感じる。
歴代最短の全長に加えて、四隅をぎりぎりまで絞り込まれており、取り回しのよさも追求されている
徹底した軽量化が追求されており、リアサスペンションのクロスメンバーに穴が見える
エンジンは、第6世代商品群自慢のSKYACTIV-G1.5だ。1496ccの直噴4気筒DOHC16バルブエンジン。専用設計のクランクシャフトをはじめ、燃焼室形状以外のほとんどを新設計。圧縮比は13.0に下げられたが、最高出力96kW(131PS)/7000rpm、最大トルク150Nm/4800rpm、最高回転数7500rpmは、アクセラの1.5リッターユニットよりもハイスペック。トランスミッションには、新設計の6速MTとスカイアクティブ6ATを採用。燃費性能は、MT車で17.2km/l(減速エネルギーを回収する二次電池のi-ELOOPとアイドリングストップ機能付きを装着すればMTでも18.8km/l)、AT車が18.6km/l。スポーツカーでありながら、今どきのモデルならではの優秀な数値を実現している。
1496ccの直噴4気筒DOHC16バルブエンジン「SKYACTIV-G1.5」は、最高出力96kW(131PS)/7000rpm、最大トルク150Nm/4800rpm、最高回転数7500rpm
全気筒にバランスウェイトが装着されたクランクシャフトを採用
圧縮比は13:1に引き下げられたが、出力や燃費は向上しており、従来以上の高効率を達成している
更なる軽量化が計られた軽量フライホールを採用。リニアなレスポンスと一気に吹け上がる軽快なフィーリングを実現している
また、今どきの運転支援システムも用意された。斜め後ろの死角を検知・警告する「ブラインドスポットモニタリングシステム(BSM)」や、対向車を検知して自動でハイビーム/ロービームを切り変える「ハイビームコントロールシステム(HBC)」、「車線逸脱警報システム(LDWS)」だ。ただし、衝突被害軽減自動ブレーキや全車速追従機能は用意されていないのが残念なところ。今後に期待したい。
グレード編成は3つ。ベーシックな「S」(6MTで249万4800円)、ミドルの「Sスペシャル・パッケージ」(6MTで270万円/6ATで280万8000円)、上級の「Sレザー・パッケージ」(6MTで303万4800円/6ATで314万2800円)。内容の違いは装備類だ。Sを基本に上級にいくほど充実している。マツダコネクトはSスペシャル、Sレザー・パッケージのみ。BoseサウンドシステムはSレザー・パッケージが標準で、Sスペシャルがオプション。LSD(リミテッド・スリップ・デフ)とリヤのスタビライザー、トンネルブレースバーは、MTのSスペシャル、Sレザー・パッケージのみ。つまりベーシックなSは、マツダコネクトもBOSEサウンドシステムもLSD/リヤスタビライザー/トンネルブレースバーが装着できないというわけだ。
必要なものを必要な位置に配するシンプルなインテリア。だがそうしたスパルタンさが、クルマのキャラクターとマッチしている
試乗会では、SとSスペシャルの2グレードのMTモデルを試すことができた。
まずは、ベーシックなグレードとなるSのハンドルを握る。インテリアは正直、そっけないほどに簡素だ。しかし走り始めると、そんなことは気にならなくなった。ゆっくりとコーナーをなぞるようにワインディングを走らせる。ステアリングもシフトもアクセルの操作に対して、一瞬、ためたような動きが返ってくる。ねっとりとしたフィールが気持ちいい。2000から3000回転という低いところでも十分なトルクがある。それくらいでも、レスポンスよくコーナーを気持ちよく立ち上がってゆく。また、オープン走行でも十分に静かだ。風の巻き込みは少なくエンジン音もおとなしい。ワインディングの脇の森で「ホーホケキョ」というさえずりさえ耳に届く。乗り心地はかなり良好だ。
しゃかりきに飛ばさなくとも十分な楽しさがあることがわかる。クルマは、ドライバーの意思の通りに動き、すぐさまフィードバックする。これこそが人とクルマのコミュニケーションであり、人馬一体のロードスターの本質的な魅力だ。ある意味、NDロードスターは、その部分が過去のモデルよりも磨き込まれている。
ベーシックグレードのSのハンドリングは独特の心地よさがある
幌を下げても風の巻き込みやノイズが少なく、鳥の鳴き声まで聞こえるほどだ
続いて、Sスペシャルに乗り換える。走り出した瞬間、「あれ?」と動きの違いに気づく。もっと重厚なのだ。気のせいか、足元も少々バタつく。これがスタビライザー付きの違いだろう。そしてワインディングではLSDの威力がハッキリと分かる。しっかりとトラクションがかかり、スピードのノリがオープンデフであるSよりも1枚も2枚も上手。飛ばしたい人やサーキット派は、迷いなくSスペシャルを選ぶべきだろう。
そして脱帽ものがBoseサウンドシステムであった。オープンカー特有の風切り音にも負けない十分なパワーと締まった音質。そしてなによりすばらしいのは、目の前に歌い手がいるような臨場感。音楽好きであれば、こちらも迷いなくチョイスしたい装備だ。
Sスペシャルに搭載されているLSD。トラクションがしっかりかかるのでワイディングロードでの挙動に大きく影響を与えている
オープンカーという条件に負けず、高音質の音楽再生を楽しめるBoseサウンドシステムはSスペシャルに用意されている
SとSスペシャルを乗り比べると、LSDのありなしで、乗り味の違いが大きいことに驚く。もちろん、どちらも基本の走り味は人馬一体、人とクルマの濃密なコミュニケーションが楽しめるもの。これこそがNDロードスターの最大の魅力だろう。
とはいえ、Boseサウンドシステムをはじめ、マツダコネクトやi-ELOOPなど、選択できる装備も意外と多い。その組み合わせが、また、なかなかに悩ましい。個人的にはSの乗り味が気に入ったが、Boseサウンドシステムを組み合わせることができない。また、少しでも軽量化したいサーキット派にマツダコネクトは不必要だろう。できれば、もっとフレキシブルに装備をチョイスできればと思うばかりだ。
しかし、ロードスターは、まだデビューしたばかり。これからも、ワンメイクレース用のNR-AやハードトップのRHTなどのグレードの追加が予想される。また、ロードスターは発売直後だけ売れればOKというモデルではなく、10年スパンで販売されるもの。慌てずに、気に入ったグレードがリリースされるまで待つという手もあり。そんなノンビリといったユーザーにつきあってくれるのも、ロードスターという長寿モデルならではの魅力ではないだろうか。