2015年7月9日にトヨタの新型「シエンタ」が発売開始となった。トヨタ最小のミニバンである新型シエンタは、どのようなクルマなのだろうか? モータージャーナリスト鈴木ケンイチ氏の試乗レポートと開発者へのインタビューをあわせて紹介しよう。
実に12年ぶりの新型モデルが投入されたシエンタ。斬新なデザインに注目が集まるが……
12年ぶりのフルモデルチェンジで新型となったシエンタ。トヨタの用意したキャッチフレーズは「ユニバーサルでクールなトヨタ最小ミニバン」だ。“ユニバーサル”というのは、若者世代だけでなく、子育てを終えたシニア世代までを対象としていることを意味し、“クール”なデザインを採用した、トヨタで最も小さな3列シートのミニバンであるという意味になる。
トヨタのラインアップでは最小の3列シートのミニバンとなる。年齢や性別などさまざまなパーソナリティに向けて作られているとのこと
新型シエンタの最大の特徴は、そのデザインといってよいだろう。キャッチフレーズでいえば“クール”にあたる部分だ。ボディ表面に黒い樹脂パーツが一筆書きのように走る非常に斬新なエクステリアデザインだ。「トレッキングシューズをイメージし、機能性と動感をアイコニックに表現」したとデザイナーは説明する。ボディカラーは、目にも鮮やかなエアーイエローを筆頭に単色8色を用意。さらに、樹脂部分をアイキャッチカラーとして、ボディカラーと2色コンビとしたフレックストーン5色を用意。カラフルな色展開だ。
ボディ表面に走り書きのように流れる黒い樹脂パーツが外見上の大きな特徴
トレッキングシューズを意識したエクステリアは、機能性と動感を表現しているという
パワートレインはハイブリッドとガソリンエンジンの2種。ハイブリッドはアクアにも採用されている1.5リッターエンジン+リダクション機能付THS IIシステム合計の最高出力は73kW(100PS)。ガソリンエンジンは、カローラなどにも搭載される高効率を謳う最新の1.5リッターの2NR-FKEエンジンだ。こちらのトランスミッションはCVTで、最高出力は80kW(109PS)。これにより、両側スライドドアという重量的に不利なシエンタでありながら(車両重量は1320〜1380kgにもなる)、燃費性能はガソリン車で最高20.2km/l、ハイブリッドで27.2km/lというまずまずの数値を達成した。
ガソリンエンジンは、1.5リッターの2NR-FKE。80kW(109PS)の出力と最高20.2km/lの燃費を実現している
ハイブリッドはアクアにも採用されている1.5リッターエンジン+リダクション機能付THSU。最高出力は73kW(100PS)で、燃費は27.2km/lだ
プラットフォームは一新され、乗り込み高さは従来よりも55mm下げた330mmになり、さらにフラットな室内床を実現した。また、スライドドアの開口部は旧型よりもプラス50mm拡大し、乗降性が高められている。
乗り込み高さは従来よりも55mm下げた330mm。スライドドアの開口部も従来よりも50mm拡大している
車両寸法は、左右幅は従来と同じ1695mm。全高はプラス5mm。全長は115mm延長。また車内寸法は、室内長はプラス20mm、室内幅もプラス40mm。室内高さはマイナス30mm。ただし、全体としては10〜40mm程度の差であり、旧型と同等といっていいだろう。
シートアレンジは、ミニバンとして重要なファクターだ。新型シエンタの2列目シートはリクライニング&最大105mmの前後シートスライド機能付き。3列目シートは、5:5分割左右独立シート。折りたたむと左右それぞれを2列目シート下に収納することができる。3列目シートを収納しておけば、ラゲッジスペースをタップリ使えるという、嬉しい仕様となっている。
多彩なシートアレンジが可能で、さまざまな利用シーンに柔軟に対応できる
最長1430mmの荷室長を実現し、組み立て家具などの持ち帰りでも心強い
また、安全装備として衝突被害軽減自動ブレーキと車線逸脱警報、オートマチックハイビームをセットにした「トヨタ・セーフティ・センスC」をオプションとして用意。さらに、最近のトヨタのミニバンの例にもれず、この新型シエンタもウェルキャブ(介護福祉車両)もしっかりと用意されている。シエンタのウェルキャブは、バックドア部に車いす用のスロープが備えられたもの。これまでのコンパクトクラスのウェルキャブのベストセラーであるラクティス版と比べると、乗車可能な車いすのサイズが大きくなり、多様な車いすに対応できるようになった。ルーフの高さは基本車と変更なし(ラクティスのウェルキャブはルーフがベース車よりも高かった)。ストレッチャーでの乗車を可能とした。また、開発当初からウェルキャブを想定しているため、生産は標準モデルと同一のライン生産としている。
ウェルキャブ仕様ではバックドア部にスロープが取り付けられている。また乗車可能な車椅子のサイズもラクティス版ウェルキャブより大きい
価格はガソリン車で168万9709円から2WDが198万327円まで。4WDが183万1091円から212万1709円。ハイブリッドが222万6763円から232万9855円。ガソリン車に設定されるウェルキャブが213万円と228万円となる。
続いて試乗をレポートしよう。ドライバー席に収まって思うのは「意外と見た目の質感が高いな」ということ。インテリアに劣らず、室内のグラフィックもカラフルで凝っている。もちろん、よくよく見ればアラはある。インパネにあるステッチは、樹脂の一体成形ものであるし、キャプテンシートの縫製のクオリティもそれなりだ。しかし、カラフルなインテリアは、どこか楽しい気分にさせてくれる。また、ガソリン車とハイブリッド車であまり差がないのも特徴だ。“ハイブリッドばかり豪華で、ガソリン車は寂しい”とならないのがいい。
ダッシュボードもカラフルで、乗っているだけで楽しい気分になる
2列目シートに移れば、前後左右とも十分な広さがある。足元がフラットで広々しているのが気に入った。3列目は身長170cmの筆者でも、膝が前席にあたるかどうかギリギリ。足先は2列目シート下に入る。左右と上下の寸法は3列目シートでも十分ある。しかし、前後方向はミニマム。3列目は子供用、もしくはエマージェンシーと割り切るべきだろう。
まずはガソリン車を走らせてみる。パワフルとは言えないが、必要十分なパワー感。CVTではあるけれど、ドライバビリティは悪くない。ハンドリングも直進性を優先した感じで、コーナリングのマナーはゆったりとしつつも素直。乗り心地はフラット感が高く、コーナリングでグラリと怖い感じもしない。助手席や後席に人を乗せるクルマならではの行儀のよい動きだ。
ハイブリッド車に乗り換えてみる。パーキングスピードはEV走行だ。さすがに静かで快適である。走り出してみると、意外とガソリン車との差が少ない。パワー感も同じようなもの。負荷の少ない領域では、走行中もEV走行になる。そのときは静かで振動もなく快適だが、それほど頻繁にEV走行になるわけでもない。ただし、試乗は、7月下旬の酷暑という悪条件のため、ある程度は割り引いて見るべきだろう。とはいえ、「無理してハイブリッドにする必要もないのでは?」という印象も否めなかった。
実車を見て、触って、走らせてみれば、「これはヒットしそうだ!」と強く思えた。デザインの斬新さは楽しさに直結しているし、使い勝手も悪くない。走らせてみれば、オーソドックスでよくできたミニバンらしいハンドリングであった。装備類が非常に数多く用意されており、それを好みでチョイスできるという仕組みも嬉しい。安全装備も充実しており、ウェルキャブも備えるなど、社会的意識の高さも評価すべきところだろう。