“弾丸”試乗レポート
スタッドレスタイヤに秘められた氷上で滑らないためのテクノロジーに迫る

ブリヂストンの冬用タイヤの秘密をテストコースで知る

冬用タイヤとして高い人気を誇るブリヂストンの「ブリザック」シリーズ。その人気の理由のひとつは、信頼感ある高い氷上性能にある。そのすぐれた性能の秘密を、ブリヂストンタイヤを開発する栃木県のテストコースで知ることができた。レポートはモータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏によるものだ。

ブリヂストンのテストコースで行われたジャーナリスト向けセミナー。そこで最新のスタッドレスタイヤの事情が解説された

スタッドレスを使う日本の道路ならではの問題は?

2015年9月7日、ブリヂストンは栃木県にある同社のテストコース「プルービンググランド」において、日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員向けのブリヂストンの冬用タイヤのメカニズムとタイヤ開発の実際を紹介する勉強会を開催した。ここでは、そこで知った冬用タイヤの特徴と、見ることのできたタイヤ開発の現場の様子をレポートしたい。

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員向けに開催されたブリヂストンの冬用タイヤ説明会

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員向けに開催されたブリヂストンの冬用タイヤ説明会


ブリヂストンの冬用タイヤであるスタッドレス「ブリザック」シリーズの人気は高い。ブリヂストンが2014年12月から翌年3月にかけて行った独自調査によると、「スタッドレス全国装着率31.2%」「北海道・北東北主要5都市での装着率44%」「北海道のタクシードライバー装着率72%」という、3項目ともスタッドレスタイヤとしてナンバー1の結果が出た。これはブリヂストンのスタッドレスタイヤに対する市場の信頼性の高さを示すものだ。

ちなみに世界を見渡すと日本のように冬用タイヤ=スタッドレスタイヤという地域は意外と少ない。ロシアではいまだにスパイクタイヤが主流であるし、迅速な除雪が行われる北米はオールシーズンタイヤが愛用されている。欧州もすぐに除雪されるためオールシーズンタイヤに近いラメレンタイヤが利用されている。スタッドレスタイヤを使うのは日本とカナダ、北米の北エリアに限られているのだ。

日本でも1980年代以前はスパイクタイヤが使われていた。しかし、タイヤのスパイクが路面を削るため、そこで発生する粉塵問題が浮上。そのため日本では1991年よりスパイクタイヤの使用が禁止となったのだ。そこで日本に本格的なスタッドレスタイヤの時代が到来する。ところがスタッドレスタイヤが普及するにつれて、ミラーバーンが出現した。タイヤが雪を押しつぶすことで、路面が鏡のようにツルツルに凍ってしまう。そのため、日本では凍った道や雪道での氷雪上性能が重視されるようになった。そのためブリヂストンでは、特に氷のようになった路面での性能に力を入れて開発を進めているという。

スタッドレスタイヤの登場で出現したミラーバーン。その対策がスタッドレスタイヤでは重要になる

スタッドレスタイヤの登場で出現したミラーバーン。その対策がスタッドレスタイヤでは重要になる

凍った道が滑るのは水の膜ができるから

凍った道が滑るのは、氷が滑るのではない。路面の氷とタイヤの間にできた水の膜が理由だ。水の膜にタイヤが浮いてしまうために滑るのだ。カチカチに凍っていても、タイヤが路面と摩擦する熱で路面の氷の表面が溶ける。その水がタイヤを滑らせてしまうのだ。外気温がマイナス50度になる地域では氷の上を走っても水膜ができないため、スタッドレスではなくオールシーズンタイヤで走行が可能だという。日本は0度前後になることが多いため、より滑りやすいのだ。

そこでブリヂストンは水の膜を除去する技術を開発してきた。それが「発泡ゴム」という技術だ。スポンジのように、内部に気泡があるゴムのこと。製造時に特殊な材料を発泡させて気泡を作るため発泡ゴムと呼ぶ。ブリヂストン独自の技術であり、これがあることで、ブリヂストンのスタッドレスタイヤは凍った路面でも確かな性能を発揮することができるのだ。

氷がすべるのは、タイヤの摩擦などによって表面の水の膜ができるためだ

氷がすべるのは、タイヤの摩擦などによって表面の水の膜ができるためだ

ブリヂストンの保有する技術によって、ゴムに細かな気泡が作られおり、すべりの原因である氷表面の水分を効果的に吸い取ることができる


ブリヂストンの発泡ゴム開発は、1980年代後半までさかのぼる。「グリップ力を確保するため、タイヤをいかに凍った路面に接地させるか」という課題に取り組んでいたブリヂストンは、「タイヤのゴムをやわらかくすれば接地しやすくなるはず」という考えから、タイヤのゴムをどんどんとやわらかくしていった。しかし、やわらかくしすぎると、タイヤに本来必要な剛性を確保できない。そこで生まれたアイデアが「ゴムをスポンジのようにすれば剛性を確保したままやわらかくできるのでは?」というもの。ゴムの中に気泡を作ることで、全体としてのやわらかさを確保しようという考えだ。それが発泡ゴムの誕生であった。

しかし、開発当初の性能はそれほどのものではなかった。それよりも、気泡のコントロールが難しく、社内では反対の声もあがっていたという。しかし、「この技術をものにする」という強い意志で開発は続行。その結果、発泡ゴムの表面を削ると、氷上での性能が飛躍的に向上した。タイヤの表面にできたミクロの気泡は、水を除去していたのだ。つまり、ゴムのやわらかさに水膜の除去という機能がプラスされたのだ。

そして1988年に発泡ゴムを採用した最初の製品「PM-10」がリリースされる。発泡ゴムを利用したスタッドレスタイヤは経年劣化に強いことも特徴だ。発泡ゴム技術を使わないタイヤと比べると3年後の性能劣化は3分の1程度だという。これは、通常のタイヤはゴムに特殊なオイルを混入させることでタイヤのやわらかさを作りだしており、その特殊なオイルが時間と共に揮発してなくなってしまう。これが性能劣化となる。ところが気泡は時間と共になくなることはない。表面が削れても、その奥から新しい気泡が表れる。そのために効き目が変わらないというわけだ。

1988年に発泡ゴムを採用する最初のスタッドレスタイヤ「PM-10」が発売された

1988年に発泡ゴムを採用する最初のスタッドレスタイヤ「PM-10」が発売された

発泡ゴムは、非発泡ゴムと比べると経年劣化に強いという優位性がある

発泡ゴムは、非発泡ゴムと比べると経年劣化に強いという優位性がある

そうして生まれた発泡ゴム技術は、継続的に磨かれてゆく。2000年には気泡だけでなく、ミクロの水路を導入。水を除去する性能を高めた。2009年には摩耗すると水路が連結するコンティニューミクロパウダーを導入。そして最新モデルである「ブリザックVRX」においては、気泡に親水性コーティングを施した。本来、水をはじくゴムを親水性とすることで、より気泡の凹みに水を捉えやすくなって、結果として水を除去する性能が高まっている。ブレーキだけでいえば、最新のスタッドレスタイヤは、かつてのスパイクタイヤ以上の性能を備えるようになっているという。

2000年以降の製品では、気泡に加えてミクロの水路が導入され、排水性能が高まった

2000年以降の製品では、気泡に加えてミクロの水路が導入され、排水性能が高まった

最新世代のブリザックVRXでは、気泡に親水性コーティングを施した「アクティブ発泡ゴム」を採用しており、水の吸収力がさらに高められている

タイヤの性能は、最終的にベテランドライバーによって確認される

最新テクノロジーを駆使して開発されるタイヤ。その開発にはコンピューターシミュレーションが欠かせなくなっている。しかし、どんなにシミュレーション技術が高くなろうとも、最終的な確認は、人間の感性が必要だ。その確認作業を行うのが、栃木県にあるブリヂストンのテストコース「プルービンググランド」である。

1977年にタイヤ専用としては日本で初めてのテストコースとして誕生。当時は40万平米の敷地に3.5kmの周回路を構えたコースであった。1989年に約77万平米に拡張。東京ドーム約16個分の広さに、直線1.3kmの全長3.9kmの高速周回路を持つ。敷地内には、ドライハンドリング路、特殊路、耐久周回路、ウェットスキッドパッド、ウェット直線路、ウェットハンドリング路、コーナリングハイドロプレーニング路が設置されている。

勉強会では、大型バスによる高速周回路走行を体験。最大バンク角50度を走ると、斜めに走るバスのイン側の窓は路面がいっぱいになる。この周回路は時速250kmを超えるスピードでの走行も可能としている。

ハンドリング路では、開発中のタイヤの繰安性能を確認。ここを20年以上も走り続けるベテランドライバーも存在しており、彼らの頭や身体には路面の凹凸すべてが刻みこまれているという。また、世界中のさまざまな路面を再現し、乗り心地や騒音などをテストするのが特殊路だ。海外の高速道路の路面から欧州の石畳までが再現されていたのだ。

また、専用トラックを利用しての、タイヤの摩擦力測定も見学することができた。トラックの真ん中に、上下できる車輪があり、そこにテストするタイヤを装着して走行中に1輪だけブレーキをかける。そこで発生する摩擦力を測定するというもの。テストに利用する、こうした専用車両や機器類もブリヂストンの独自技術のひとつだという。

東京ドーム約16個分の敷地に、直線1.3kmの全長3.9kmの高速周回路などを持つテストコース「プルービンググランド」で再現されたさまざまな環境でテストされる

目に見えないナノレベルの素材開発を土台としながらも、繰安性能や乗り心地、快適性など人の感性に訴える部分は、やはり人間のジャッジメントが必須となる。ブリヂストンのタイヤが高い評価を得ることができているのは、最新の素材技術や設計技術だけでなく、テストドライバーという職人技もあるからということのよく分かる勉強会となった。

鈴木ケンイチ

鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

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