片山英則氏。
ダイハツ工業株式会社 技術本部 製品企画部 エグゼクティブ チーフエンジニア。
1981年入社。足回りの設計を20年ほど務める。2002年からビーゴラッシュ(テリオス)の製品企画に。その後、現行のタントでチーフエンジニアを担当。その次のモデルがキャストであった
続いては、開発のリーダーであるチーフエンジニアの片山氏へ話を聞くことができた。インタビュー形式でお送りしよう。
鈴木:もともとキャストは、何もないところから生まれたモデルです。その誕生の経緯から教えてください。
片山:今、各社さんが軽自動車マーケットに入ってきています。入ってこられると、一番大きなボリュームゾーン。いわゆる量販のところにたくさん車種を入れられますよね。そうすると、量産モデルが今、あふれかえっている感じになっています。そうなると、もう少し個性的なもの、もう少し自分のお気に入りを買いたいというお客さんが増えているというのが、マーケットの分析の結果で。そういうお客さんに向けたクルマが必要だろうということが始まりです。
鈴木:もっと個性的なものということですね。それがクロスオーバーであり、スポーツだったということでしょうか?
雪国、街中、走りというユーザーのライフスタイルを想定して3種類のバリエーションが用意された
片山:いや、そうではありません。まずは、ライフスタイルにあったクルマ、長くつきあっていけるクルマが必要だろうというのがスタートラインです。だから、飽きがこないようなデザインを目指したのが最初ですね。じゃあ、次に、どんなライフスタイルがありますか? クルマを使うという場面を考えると、雪国であったり、街中だったり、走りを楽しみたいシチュエーション。そんな風にバリエーションがあって、ひとつにはくくれないなあと。それではということで、機能的に分けよう。それもデザイン的にも差別化しようということから3つ作ったということです。
ベースは、愛着のわくような「スタイル」というクルマです。そのクルマで4駆を買っていただいてもかまわないのですけれど……。自分が気に入ったクルマになってほしいとなると、やはり意匠の方も、それにあったものが必要なんじゃないかなと。
大きく言うとムーヴに対して、キャストという別の大きな世界観を作った上で、その中で、さらにライフスタイルが別れるところに対応していこうと。
利便性を考慮しつつ、デザインの比重が高められている。ベースのムーヴとは根本となる世界観が異なっている
鈴木:土台にキャストという世界があって、その中で、いろいろな人に向けて3つに分けたと。
片山:そうですね。
鈴木:ムーヴとキャストの世界観の決定的な違いはどうなるのでしょうか?
片山:ひと言で言うと、実用的でスタンダードな、安心して使っていただけるのがムーヴだと思います。キャストに実用性がないとは言いませんが(笑)、プライオリティを意匠やスタイルに置いている。クルマの作り方が、そちらを重視していることですね。
鈴木: 3つのクルマを別々に作るよりも、台数がまとめられるので、この方法の方がコスト的にも有利という話を聞きましたが……。
片山:当社でも、ココアやコンテなどはベースとしてミラやムーヴを使っているんですけれど、どうしても数的にあまり出ない。そうすると投資に対して割高になって、価格も5万円とか10万円高く設定せざるをえないんですね。そこも低価格を目指したいので、ベースのボリュームをちゃんと確保した上で、個々のクルマをアフォーダブルな価格で提供したい。横に並べていただければ分かると思いますが、キャストは当社の量販車に対して割高になっていませんし、他社さんと比べても割安になっていると思います。
当社は低燃費、低価格と言っていますが。とにかく価格を抑えた形でご提供しなければいけないのは、最初からあって。それをどう成り立たせるか? というのもアイデアですね。
3バリエーションを一気に投入することでコストが抑えられた。ダイハツのラインアップと比較しても割高にはなっていない
鈴木:ちなみに、クロスオーバーはハスラーがライバルになりますし、スポーティなのは、アルトRS、スタイルはラパンかなと思うのですが。ライバルのことは、どう考えていましたか?
片山:基本的に他社対抗でやると、僕はうまくいかないと思っているんですよ。あくまでもお客さんが何を求めているのか? というのに、ちゃんと反応しないと買っていただけないと思っています。ただ、出た商品は、必ずそういう風にハスラーとかN-ONEとかアルトRSにかぶってくると思います。結果論としてはそうなりますが、ただ、キャストの世界観はハスラーとも違うと思います。向こうはカジュアル的なところもありますし、実際のクルマは違った方向になっていると思います。
鈴木:キャストは、クラシカルなミニのような、もう少しドレッシーな感じがありますね。
片山:そうですね。当社にあるコペンとか、ジーノとか。その昔はコンパーノとか。そういう小さなクルマは、丸目とか丸い意匠が似合うんですね。そういう要素を、普遍的なものを意識してやると、まあ、ああいう形になってくると思うんですよ。
円形のヘッドライトなど小型車の普遍的なデザイン要素を取り入れつつ、モダンな形で表現している
鈴木:今まで培ってきたデザインの延長ということですね。
片山:そのエッセンスをモダンな形にまとめていこうというのが、今回のデザインの狙いです。ひとつはモダン。それと普遍的。そして愛着がわく。そういうキーワードをベースにしていきました。
鈴木:今回は、かなり開発期間が短かったと聞きましたが?
片山:それはうちがずっと取り組んでいることで、それがどんどん進化しているということですね。意匠の開発自体は2012〜13年くらいから先行していてやっていて。スタディは、ずっとやってきたんですね。じゃあ、その意匠に対して、商品としてのパッケージはとか、3タイプやるよって、やりはじめたのが、ちょうど僕が入ったころでして。そこから数えると、非常に短期でやっていると。
鈴木:一番力の入っているデザインは、しっかりと時間をかけてきたと。
片山:ええ、熟成してきていますね。
鈴木:お客様にアピールしたいのは、デザインや世界観ということですね。
ライフスタイルとの調和が考えられた完成度の高いデザインで、キャストならではの世界観を表現している