BMWのSUVである「X1」がフルモデルチェンジして第2世代に進化した。日本での発売は、2015年10月下旬よりスタートしている。新しくなったX1は、どんな魅力を持っているのか? モータージャーナリストである鈴木ケンイチ氏がレポートする。
パッケージングが大きく改善された第2世代のX1はどんなクルマなのか? 気になる居住性や操縦フィーリングなどに迫ってみよう
BMWのSUVシリーズの最小モデルとして「X1」シリーズは2009年に誕生し、翌2010年より日本での発売も開始された。世界的なSUVブームという追い風もあり、X1はこれまでの累計が73万台を販売するヒット作になっている。日本でもX1は若い世代の支持を得て、今やBMWを支える大きな柱のひとつに成長した。その初代X1の特徴は、プラットフォームは3シリーズと共有していたことだ。コンパクトSUVとしては珍しいFR駆動をベースとなっていたのがBMWらしさであった。
ところが、新型となったX1はプラットフォームを一新。なんとミニ・クラブマンや2シリーズといったFFベースのプラットフォームを採用した。これによりX1はFRベースからFFベースに変更。走りのよさを売りにするBMWとしては残念なところだが、FFベースとしたことでパッケージング面の大いなるメリットを享受することが可能となった。新型X1は、旧型モデルよりも全長で30mm短くしながらも、後席と荷室を拡大している。後席は膝回りを最大66mm拡大。身長170cmの筆者が座ったところ、膝と前席の間のスペースは、ゆうにコブシ2個分ある。荷室容量も旧型比で+85リッターの505リッターに。ラゲッジ下には100リットルもの収納スペースまである。エンジンを縦から横に配置してメカニカルスペースを短縮したことで、居住スペースの拡大を実現しているのだ。走りのフィーリングではFR駆動は確かに有利だが、SUVで4WDもあるX1の場合、パッケージングを優先したほうがメリット大と判断したのだろう。SUVモデルとしては、まったくクレバーな考えだと思う。
最大の変更点は、エンジン横置きのFFプラットフォームを採用したこと。小型SUVに適したスペースユーティリティを実現させた
BMWは伝統的に前席のパッケージには余裕がある
エンジン横置きのFFベースになることで大きく改善したのは後席の居住性。小型SUVに必須のスペースユーティリティを実現した
荷室容量も旧型比で+85リッターの505リッター。さらにラゲッジ下には100リットルの収納スペースまである
日本導入のグレードは3モデル構成だ。エントリーは、最高出力100kW(136ps)の1.5リッター直列3気筒BMWツンインパワーターボエンジンに6ATを組みあわせた、X1 sDrive 18i。素のグレードとxLine、M sportの3モデルを用意しており、価格は385〜431万円。駆動方式はFF。このモデルは2016年に入ってからの導入となる。
ミドルグレードは最高出力141kW(192ps)の2リッター直列4気筒BMWツインパワーターボエンジンに8ATを組みあわせたX1 xDrive 20i。こちらは4WD。JC08モード燃費は14.6km/l。これも素とxLine、M sportの3モデルで価格は473〜511万円。
トップグレードは、最高出力170kW(231ps)の2リッター直列4気筒BMWツインパワーターボエンジンに8ATを組みあわせたX1 xDrive 25i。JC08モード燃費は14.3km/l。こちらはxLine、M sportの2モデルで価格は569/591万円となっている。
新しいX1はノーズを短くしつつボンネットが高くなっている。クルマ全体の厚みを増して、よりSUVらしい力強いルックスになったのだ。旧型比35mmの全高アップという実際の数字よりも大きくなったような印象だ。4灯ヘッドライトやキドニーグリル、全体でXを描くフロント部など、BMWのXモデルファミリーのデザインエレメントを使用した顔つきは、手堅く安心感さえある。
ヘッドランプ周辺のデザインも、BMWの伝統である丸目4灯モチーフを継承
大き目のギドニーグリルで迫力もなかなかのもの
そのお馴染み感は、室内の眺めも同様だ。中央に8.8インチのワイドなディスプレイをいたインテリアデザインはBMWデザインそのもの。二眼のアナログメーターが並ぶメーターを眺めていると、BMWの伝統に思いをはせてしまう。プラットフォームやエンジンなどの、クルマの骨格はミニ・クラブマンと同じものを使いながらも、描き出される世界観はBMWそのもの。小さくても、しっかりとプレミアムを感じる。「よいモノ感」にあふれているのだ。
ドライバーを優先させるダッシュボードの造形など、室内はBMWらしい世界が維持されている
中央に備わる8.8インチの大画面ディスプレイもBMWらしさを感じられるポイント
2連のメーターとそのデザインもまたBMWに共通するモチーフといえる
試乗したのは2リッターエンジンを搭載するX1 xDrive20iだ。走りだしてみれば、さらにBMWらしさを確認できた。しっかり感あるステアリングの手応えに、やや硬質な乗り心地。このシャキッとした走り味がBMWらしさだ。ただし、俊敏さは、それほどではない。また、エンジンの主張もミニマムだ。ターボは下から上まで、幅広いバンドでトルクを補充しており、2リッターではなく3リッタークラスのNAエンジンのようなフィーリングだ。またエンジンサウンドは低く抑えられている。BMWではあるけれど、熱々ではなくヌクヌクという程度か。あくまでもSUVの常識内での節度あるキビキビ感である。ヤンチャではなく、大人の落ち着きを感じさせるといってもいいだろう。
手ごたえのあるステアリングと、硬質り心地というBMWらしさは息づいている
ちなみにFRからFFへの変化という面では、スタートで通りに出る瞬間や、軽いアクセルONでの加速時に、FRとは違うFFベースの4WDのフィーリングを確かめることができるが、それも一瞬のこと。ドリフトをするクルマではないSUVだ。FRをやめたネガを感じることはなかった。
FFベースらしい挙動はあるが、ドリフト走行をする車種ではなく、大きな問題にはならないはずだ
MINIクロスオーバーと同じプラットフォームやパワートレインを使うことで、X1はどうなるのか? と思っていたが、結局は、どこをどう切ってもBMW味そのものであった。同じジャガイモとニンジンを使ってもシチューとカレーは味が異なるように、MINIとBMWの味わいはまったく別のもの。しかも、カレーにもキーマから英国風まであるように、BMW風もレンジが広い。しかしX1は、SUVテイストが強いけれど、それでも十分にBMW風味であったのだ。
FFプラットフォームという素材を使いつつ、調理方法はBMWそのもの。コンパクトで便利なSUVとして引き続き人気を集めそうだ