ボルボのフラッグシップとなる新世代SUVの「XC90」が2016年1月27日に発売となった。新しいXC90とは、どのようなクルマなのだろうか? インポーターであるボルボ・カー・ジャパンの商品企画担当者へのインタビューと試乗をあわせて、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。
ボルボのラインアップでも頂点に位置する大型SUVのXC90。国内担当者へのインタビューと試乗レポートでその特徴に迫る
新型ボルボXC90の試乗に際して、インポーターであるボルボ・カー・ジャパンの商品企画担当者である岡田氏に話を聞くことができた。まずは、インタビュー形式で紹介しよう。
ボルボ・カー・ジャパン マーケティング部 プロダクトグループ プロダクトスペシャリスト 岡田勝也氏。日本向け商品の企画を担当しており、日本市場での装備や価格を決定する
鈴木:ボルボにとってXC90とは、どのような存在なのでしょうか?
岡田:ボルボブランドは、現状も、これから目指す方向性もプレミアムです。このプレミアムブランドのポジションを、より明確に、なおかつ確固たるものにしていくために、新型車のXC90は、それに相応しいクルマとして開発されています。特に今回は飛躍的に製品レベルが向上したといえるのではないでしょうか。
鈴木:新型モデルとしての特徴は?
岡田:すべての領域において、まったく新しく、なおかつレベルアップしています。まずデザインです。ボルボのデザインには、長いスパンでのジェネレーションがあります。現行世代から次世代のデザインに入った、最初の製品というのがXC90になります。
鈴木:今回は、デザインも相当に格好よくなっていますね。
岡田:これまではFFベースで、どうしても実現できなかったプロポーションがありました。格好よく見せるポイントがあって、そこも新プラットフォームの採用によって確保することができたというわけですね。
鈴木:いわゆる車軸とAピラーの位置関係ですね。ピラーが下がったと。
岡田:フロントオーバーハングは短いのですけれど、タイヤとピラーが離れている。他社のFFベースのクルマと見比べると、XC90はぜんぜん違いますよ。
新プラットフォームを採用することで実現したプロポーション。FFベースでは難しかった、ゆったりとした雰囲気をかもし出している
鈴木:プラットフォームも新しいという意味で、次の時代のボルボの先頭バッターですね。
岡田:はい。今、プラットフォームのお話が出ましたが、次世代パワートレインのコンセプトで、ボルボには「ドライブe」というものがあります。この新世代のドライブeのエンジンは2014年から日本にも導入され、現行モデルのドライブe化を推進しています。ただし、この新型XC90は、開発のゼロの段階から、ドライブeパワートレインだけを使うことを前提に、まったく新しいプラットフォームと組みあわせて、開発し、製品化された最初のクルマ。その意味において、既存の車種とは決定的に異なります。
鈴木:どのように異なるのでしょうか?
岡田:ドライブeパワートレインとは、次世代を見据えて、もう4気筒2リッター以上のエンジンは作らないという宣言をしています。これだけ大きなクルマであっても、6気筒や8気筒エンジンはまったく想定されていないんですね。そういった意味では、非常に無駄のないスペース効率が追求できます。ドライブeのコンセプトは高効率ですから、これからの時代のニーズにあった、環境適合性の高いパワートレインといえます。それが初期設定から想定された製品ということ。ある意味、XC90はドライブeのコンセプトを最も理想的な形で具現化できる製品だと思います。
メカ部分にとどまらず、デザインもボルボのイメージを継承しつつ、新世代に進化している
鈴木:XC90は、すでに世界的に導入されていますが、評判はどうですか?
岡田:XC90は、まったく新しいプラットフォームとパワートレイン、そして新技術盛りだくさんのクルマです。そのために開発コストも製造コストもかかっているわけで、従来型よりも、各国においてプライスレンジが上昇しています。にもかかわらず、どのマーケットでも、XC90は大成功を収めております。昨年のボルボの世界全体の販売台数は、歴史上初めて、50万台を超えたと。そのボリューム面でも記録的な成績をおさめています。
鈴木:その50万台突破の大きな力にXC90がなったということですね。ちょっと高くなったけれど、高くなっただけの内容になっていると。じゃあ、これから日本で、どのように売っていきたいのか? という話ですが、まず、ボルボの日本のお客さまはどのような方なのでしょうか?
岡田:ボルボというよりも、XC90のお客さまと特定しましょう。これは先代のモデルも長く販売しておりましたのでXC90のお客さまのこともわかります。それで、このお客さま層を分析しますと、ボルボの日本におけるラインアップの中で、平均年齢層がいちばん、若いんですね。
鈴木:若いんですか?
岡田:はい。意外に思われるかもしれませんが若いんです。コンパクトなシリーズと比べても若い。ひとつの理由として考えられるのは、先代XC90の特徴なのですが、標準で7人乗りシートを備えていることです。同じセグメントでもライバルは、7人乗りがオプションだったりするんです。XC90は100%、7人乗りです。
鈴木:ああ、ほかのSUVは3列シート7人乗りが少ないということですね。
岡田:ごくごく当初は、XC90にも5人乗り仕様もありましたが、販売は圧倒的に7人乗り仕様が中心です。そういう特性もあってか、比較的小さなお子様のいるファミリー層のお客さまに支持されている。つまり、比較的若い、余裕のあるファミリー層のお客さまというのが、XC90のユーザー像だと思います。もちろん新型も7人乗りという特徴は変わっていないので、その延長線上にあると思います。
同クラスではオプション設定の3列目シートが標準装備されているのもXC90の魅力。小さな子どものいる家庭用として実用性が高い
鈴木:基本的には、XC90の受けいられ方は、そのままだろうと。
岡田:ただし、価格帯が上昇していますし、実際のクオリティレベルやパフォーマンスもより進化しております。そのため、さらに上級のセグメントに参入していく! というチャレンジとなっています。
鈴木:販売の現場が勝負になりそうですね。最後に何かありますか?
岡田:まったく新しいプラットフォームとか、ゼロから新設計とか、新しいことをしてきましたが、具体的に、そうしたがゆえに実現できたことがあります。たとえばシート。見た目もデザインも変わっています。快適性が大幅に向上しています。骨格も新設計で新しい機構が組み込まれています。かつて、どの自動車メーカーもやっていない縦方向の衝撃吸収能力を備えたシートです。どうやって縦方向の衝撃を吸収するかというと、縦に組み上げたショックアブソーバーのような鉄球が入っていて、その鉄球がギュッとつぶれることで、縦方向の衝撃を吸収して、乗員を守ります。そういった根本的で画期的な新しい安全技術や、強靱なボディ構造の実現は、これほどのスケールの大きな大変革の機会でないと実現しえないと。
新開発の縦方向の衝撃を吸収するショックアブソーバーを搭載。ボルボ伝統の安全性へのこだわりも健在だ
セーフティにかけるボルボのモチベーションの元は、「ビジョン2020」の実現です。これは他社と決定的にモチベーションが異なるところです。
鈴木:2020年にはボルボ乗車での交通死亡事故をゼロにするという目標ですね。規制への対応で安全装備をつけるわけじゃないということですね。でも、2020年は4年後。かなり近いですよ?
岡田:けっこう予定通りに、ビジョンに向かって現在進行形であるということです。
続いてはXC90のアウトラインを説明しよう。
ボルボのラインアップには、XC90と同じクラスにセダンのS90が存在し、昨年末に新しいS90が発表されている。開発はXC90もS90も同時であっただろうから、ボルボとしては先にローンチさせたXC90をイメージリーダーに推したいのだろう。日本でのリリースには、XC90を「ボルボの新世代フラッグシップSUV」と謳ったタイトルが掲げられた。
その新世代という意味で、XC90は、相当な大バクチの1台だと思う。なんと開発にあたって110億ドル(約1兆3000億円)もの投資を行ったのだ。この資金で、パワートレインやプラットフォームを開発し、生産工場を整えた。これだけの巨額をかけ、なおかつ、今後長く使っていくプラットフォームというわけだから、「失敗作でした」では許されない。だからこそ、理想がめいっぱいに詰め込まれたものとなった。
新世代のプラットフォームは「SPA(スケーラブルプロダクトアーキテクチャ)」だ。これは、ホイールベース、オーバーハング、車重、全高に制限なく、他車種に流用できる。硬いボロンスチールを多用することで、最小限の重量増で強固なボディ構造を実現。最新技術を使う先進安全機能の積極採用とあわせて、安全性をさらに高めた。また、電動化や自動運転も見据えたものとなっている。そのためプラグインハイブリッドが最初から用意されおり、コネクテッド技術の準備も進めているという。
プラグインハイブリッドが最初から用意されている。これも、ゼロから新規で開発されたことが影響している
グレード編成は、標準の「XC90 T5 AWD Momentum(モメンタム)」(774万円)、スポーティな「XC90 T6 AWD R-Design(アール デザイン)」(879万円)、上級の「XC90 T6 Inscription(インスクリプション)」(909万円)、そしてプラグイン ハイブリッドの「XC90 T8 Twin Engine AWD Inscription(インスクリプション)」(1009万円)の4モデル。
エンジンはすべて2リッターの4気筒直噴ガソリンだが、過給方式などの違いで、ターボのみのT5、ターボ&スーパーチャージャーのT6、ターボ&スーパーチャージャー&モーターであるプラグインハイブリッドをT8と呼ぶ。出力と燃費性能はT5が187kW(254馬力)/350Nmで12.8km/l、T6が235kW(320馬力)/400Nmの11.7km/l、T8がシステム合計300kW(407馬力)/640Nmの15.3km/lとなる。車両重量約2.5トンの巨漢としては、驚くほどの良好な燃費性能だ。トランスミッションは8速ATで、駆動方式はすべて4WDとなる。
ターボ&スーパーチャージャー&モーターであるプラグインハイブリッドを組み合わせたパワートレイン「T8」はシステム全体で300kWの大パワーだ
4気筒エンジン搭載を前提に設計されているのため、エンジンはボディに対してコンパクトな印象
自慢の安全装備には、2つの世界初の装備を採用した。ひとつが「ランオフロードプロテクション(道路逸脱事故時保護システム)」だ。これは車線からクルマが飛び出して、谷間などに落ちるような事故で働く。クルマのセンサー類が、道路から逸脱したことを検知すると、シートベルトを巻き上げて乗員を拘束。さらに上下方向の衝撃をシートが吸収して、乗員の脊椎損傷による重症化を防ぐというもの。
ランオフロードプロテクションは、転落事故の場合の乗員の保護を行う
もうひとつは、「インターセクションサポート(右折時対向車検知機能)」。右折時に、交差点を直進してきた対向車と正面からぶつかりそうなときに、自動ブレーキが作動する。重大事故の多い、いわゆる「右直事故」を防いでくれる機能だ。
また、夜間でも歩行者や自転車を検知する衝突被害軽減自動ブレーキや、時速50km以下でステアリングアシストを行う「パイロットアシスト(追従時車線維持機能)」といった先進安全機能も標準装備されている。2015年のユーロNCAPでクラス最高の評価も得ている。世界のトップをゆく先進安全装備で身を固めるだけでなく、パッシブな車両本体の基本的な衝突安全性能も備えているというわけだ。
インターセクションサポート(右折時対向車検知機能)は、右折時に、交差点を直進してきた対向車と正面からぶつかりそうなときに、自動ブレーキが作動する
試乗会で用意されていたのは、ターボとスーパーチャージャーを2丁がけする「XC90 T6 Inscription(インスクリプション)」だ。全長4950mmに全幅1930mmもの巨体だが、プロポーションがよいせいもあって間延び感がない。ギュッと詰まったような力強い塊感がある。ヘッドライトにあしらわれたTのデザインは、北欧神話に登場する雷神トールの持つ武器、トールハンマーをイメージしたもの。
ヘッドライトの横向きのTデザインは、北欧神話に登場するトールハンマーをモチーフにしている
デザインのよさは、室内も同様だ。スッキリとしたデザインで、ウッドとレザーの質感が非常にナチュラル。豪奢ではない。北欧家具のような上品なセンスと質感のよさがある。ハードスイッチはオーディオなど、よく使うモノだけに厳選されているのも、スッキリとした印象の理由だろう。インパネの真ん中にある大きなタッチパネルは、まるでタブレット。アップルカープレイにも対応するのでSiriも使いやすい。さらにマットな表示や手袋をしたままでも使用可能であるなど、使い勝手も悪くない。また、オプションであるバウアース&ウイルキンスの19スピーカー1400Wのオーディオの音のよさも感動的であった。
タブレットのような縦横比が特徴のタッチパネル。アップルカープレイに対応しているのでSiriも使いやすい
ピカピカではないが、クリーンでシンプルな中に高級感をたたえた北欧調インテリアは、ボルボの変わらない魅了だ
走らせてみると、静粛性の高さに感心した。約2.5トンの車体がスルスルと車速をあげていく。まったくパワー感に不足はなかったのだ。大柄なシートは左右のサポートも大きく、身体をがっちりとホールドする。しかも、シートヒーターだけでなく、ベンチレーターにマッサージ機能までつく。マッサージ機能はロングドライブには非常にうれしい装備だ。
試乗を終えて思ったのは「ボルボはバクチに勝ったな」と。デザインは外も中も、北欧らしいセンスのよさがある。オーディオやネット使用を前提としたカーエンタテインメントもすばらしい。そして2リッターであっても、パワー感に不足はない。ドイツ勢が占有する高級SUVに十分に切り込める実力があるだろう。
オプションでバウアース&ウイルキンスの19スピーカー1400Wが用意される
シートヒーターだけでなく、ベンチレーターにマッサージ機能まで搭載されるシート。サイズもゆったりしている
ただし、めいっぱいの夢を詰め込んだだけに消化不良に思える部分もある。もっと乗り心地はよくなる余地があるのだ。とはいえ、年次改良が行われる欧州車は、いつまでたっても完成がなくて、「いつも最新型がベスト」となる。つまり、待つといつまでも待つことになる。だから僕は「欲しい時が買い時」だと思う。試乗して気にならないというのであれば、文句なしに今が買い時だ!
最新技術を使い、ボルボの伝統である強みにさらに磨きがかかった。今後の展開も楽しみな1台だ