2016年3月1日に、毎年春に開催される「ジュネーブモーターショー」が開幕した。今年のジュネーブショーはどんな雰囲気のショー なのか? どんなクルマが登場したのか? モータージャーナリストである鈴木ケンイチ氏がレポートする。
フランス、イタリア、ドイツといった各国と絶妙に離れた場所で開催されるジュネーブモーターショー。ヨーロッパ全般のトレンドを探ってみよう
ジュネーブは、スイスの西の端、レマン湖のほとりにある人口20万人弱の小さな街だ。3月あたまでも雪がちらつき、街のまわりの山々は白い帽子をかぶっている。しかし、世界屈指の金融センターであり、第二次世界大戦前まで国際連盟の本部が置かれたように、“欧州の中心”という役割を担ったこともある街なのだ。
ここで毎年春にモーターショーが開催される。正式名は「Salon International de L’auto et accessoires」で、通称「ジュネーブモーターショー」。今年で86回目の開催となる。初回開催が1905年。日本でいえば明治38年から続く歴史のあるショーだ。
レマン湖のほとりに位置するジュネーブ。大きな街ではないが、世界屈指の金融センターでもあり、国際機関も多くヨーロッパの顔という一面がある
欧州では、この春のジュネーブと、秋のパリ/フランクフルトの2回が恒例の大きなモーターショーとなっている。秋はパリとフランクフルトの隔年開催だ。パリはフランス勢の本拠地のショーであり、フランクフルトはドイツ勢の地元。それに対して、スイスは欧州全体のショーという位置づけになる。とはいえ、フランス領に接してフランス語圏であるためフランス勢にとっては身近だろう。また、本拠地開催のないイタリア勢にとっても力を入れたいショー。ある意味、ドイツ勢にとってはアウェイ感のあるショーかもしれない。
ショーは、ジュネーブ空港に隣接するパルエキスポ・コンベンションセンターで開催された。この会場はホールが上下2段になっていて、意外にこぢんまりとしている。感覚的には日本の東京ビッグサイトとさほど変わらない。また、あまり派手な演出はなく、展示自体は日本のショーと大差はない。あっと驚く大仕掛けのフランクフルトと比べれば展示方法自体はごく普通のものであったのだ。
開催場所のパルエキスポ・コンベンションセンターは、ジュネーブ空港に隣接。規模はそれほど大きくはない
展示方法は地味かもしれないが、並ぶクルマの派手さは、ジュネーブショーが世界一ではないだろうか。今回のショーではアストンマーティンから新型モデルである「DB11」がデビュー。ブガッティの「ヴェイロン」の次世代モデル「シロン」も初公開。フェラーリからは4シーター&4WDの「GTC4 Lusso」、ランボルギーニからブランド100周年を祝う限定車「チェンテナリオ」が登場。フェイスリフトしたベントレーの「ミュルサンヌ」や、ガラスキャノピーを掲げるマクラーレンの「570GT」も披露された。ロールスロイスは、ボディもグリルも真っ黒にしたBLAK BADGE仕様の「ゴースト」と「レイス」を持ち込んでいる。
いわゆる超プレミアなブランドがそろって新型や話題の限定車を用意したのだ。
もう少し一般ブランドによれば、アルピナから新型7シリーズをベースにした「B7」がデビュー。マセラティからブランド初となるSUVの「レバンテ」。ポルシェは限定の「911R」を発表した。
また、会場では、ピニンファリーナやイタルデザインといったデザインスタジオによるデザインスタディを見ることもできた。ほかにもケーニセグやリンスピードのような少量生産のスーパーカーブランドや、RUFやブラバス、ACシュニッツァーなどのチューニングブランドのブースも。量販車というよりも、希少でプレミアムなクルマがとにかく多いのが、ジュネーブモーターショーの最大の特徴なのだ。
アストンマーティンの新型モデルDB11。アルミを多用したボディに608馬力の5.2リッターV12ツインターボを搭載
ブガッティ「ヴェイロン」の後継モデルとなるシロン。最高出力1500馬力の最高速度420km/h。500台限定で2016年秋より発売
フェラーリからは4シーター&4WDのGTC4 Lusso。690馬力/697NmのV12エンジンを搭載したグランドツアラーだ
ランボルギーニからブランド100周年を祝う限定車チェンテナリオが登場。最高出力770馬力のV12エンジンを搭載する4WDだ
ベントレーはフェイスリフトしたミュルサンヌを展示。ハイパフォーマンス版Speedだけでなく、ロングホイールベース仕様Extended Wheelbaseも披露された
マクラーレン570シリーズの第3弾は、開放感あふれるパノラミックルーフを採用した570GT。ブランドでもっともラグジュアリーな1台だ
ロールスロイスは、ボディもグリルも真っ黒にしたBLAK BADGE仕様のゴーストとレイスを持ち込んだ
イタリアのカロッツェリアであるピニンファリーナやイタルデザイン、またサプライヤーであるマグナもデザインスタディを出品
スウェーデン発祥のスーパーカーメーカーであるケーニグセグもショーに参加。数多くのモデルを出品していた
RUFやACシュニッツァーなど、チューニングブランドも数多く出品。イベントに華を添えていた
マセラティブランド初のエレガントなSUVがレバンテだ。350馬力と430馬力の3リッター6気筒ガソリンエンジンと275馬力のディーゼルを搭載
スーパーカーに続いて元気なのがフランス勢であった。PSAグループからは、DSブランドで、ほぼスーパーカーのルックスを持つデザインコンセプトの「DS Eテンス」が出品された。そして1960〜80年代に生産されていたオープンのオフロードモデルであるシトロエンの「メアリ」がEVになって復活。また、トヨタとのコラボレーションモデルであるMPVも登場。プジョー版が「トラベラー」でシトロエン版が「スペースツアラー」。ちなみにトヨタ版は「プロエース」。すべてトヨタとPSAの提携でうまれた東欧の工場で生産される。ミニバン=商用車というイメージの強い欧州ではあるけれど、PSA×トヨタのMPVは日本車風で乗用感覚が強い。欧州市場が、これをどう受け止めるかが非常に興味深い1台だ。
ルノーの目玉は「セニック」。3列シートを持つMPV。とはいえ、日本風の四角いミニバンではない流麗なスタイルがルノー流。日産とのアライアンスをうまく使って、最新の運転支援装備を満載しているのも特徴だろう。
FCAグループからは、アバルトの「アバルト124スパイダー」がデビューした。日本のマツダのプラットフォームを使うフィアット「124スパイダー」の高性能版だ。あわせてラリーへの参戦も発表され、そのラリーカーも公開されている。
ちなみにPSAグループとFCAグループのブースを見ていて気づいたのは、日本に入ってこない欧州専用車がたくさんあることだ。PSAにはシトロエンの「C1」などがあるし、フィアットには「ティーポ」。今回、その5ドアセダンとステーションワゴンが世界初公開されている。
それ以外にも、ボルボのフラッグシップとなる90シリーズのステーションワゴン版「V90」の新世代モデルも世界初公開された。
DSブランドから驚きのコンセプトDS Eテンスがお披露目された。最高出力402馬力の2駆の電気自動車だ
シトロエンのEメアリ。最高速度110km/h、航続距離は最高200km。フランスにおいて2016年の春から発売が始まる
上からプジョー版トラベラー、シトロエン版スペースツアラー、トヨタ版プロエースの3兄弟だ
ルノーの新型セニック。2016年中の発売が予告された。自動ブレーキをはじめ先進運転支援機能を満載するMPVだ
アバルト124スパイダー。エンジンは最高出力170馬力のアルファの1.4リッターマルチエアを搭載。欧州での販売価格は4万ユーロ(約488万円)
フィアットからは20年ぶりに復活したティーポのハッチバックとワゴンが登場している
ボルボのフラッグシップ90シリーズのステーションワゴン版V90。日本に導入された「XC90」ゆずりのデザインを採用している
フォルクスワーゲンからは、オープンカーのSUVである「Tクロス」が登場。アウディも同じくSUVである「Q2」を世界初公開した。Tクロスはコンセプトであるけれど、量産化を強く念頭に置いたデザインであることが強調されていた。どちらも若い世代がターゲット。Q2は「ネットが切り離せない世代のために」と、いつでもネット接続できることを訴えていたのだ。
ちなみにフォルクスワーゲングループには、セアトとシュコダという欧州ブランドがある。セアトはスペイン、シュコダはチェコに本拠を置くブランドだ。セアトからは「ATECA」、シュコダからは「Vision S」という、SUVが出品されていた。
メルセデスベンツは、「Cクラス カブリオレ」を世界初公開。BMWは7シリーズのハイパフォーマンス版である「M760Li xDrive」が登場。ちなみに、雪国であるスイスということもあってかBMWの通常モデルの展示は、ほとんどが4WDモデルであった。
また日本にはない、オペルのブースも盛大だ。ちょうどモーターショー開幕直前に実施された欧州カーオブザイヤーでオペルの「アストラ」が大賞を獲得。ステージには誇らしげに「アストラ」が飾られていた。
ドイツ勢は展示スペースこそ、それなりの規模を誇ったが、内容という点は、それほど力の入ったものではないという印象であった。
ティグアンよりも下のコンパクトSUVのコンセプトとして登場したカブリオレのSUV、フォルクスワーゲンのTクロス
2016年春から発売開始となるセアトのコンパクトSUVであるATECA。シュコダのSUVVision Sはコンセプトモデルだ
アウディのコンパクトSUVであるQ2。パワートレインは116〜190馬力の1リッターの3気筒から2リッターの4気筒までを用意。もちろんアウディご自慢のクワトロも
メルセデスベンツのワールドプレミアは、古典的なソフトトップの Cクラス カブリオレ 。発売は2016年夏の予定だ
オペルは小さなスポーツカーのGTコンセプトを公開
オペルのブースでは欧州カーオブザイヤー獲得のアストラも並べて展示されていた
日系ブランドで力の入った展示を見せたのは、トヨタとホンダ、スバルであった。
トヨタは2016年中に発売を開始するSUVの「C-HR」を世界初公開。東京モーターショーではコンセプトであった「C-HRプロトタイプ」がついに量産モデルとなったのだ。プロトタイプの雰囲気は残しつつ、意外に普通なデザインになったなというのが正直なところだ。ホンダは、「シビック ハッチバック プロトタイプ」。すでに北米でリリースが始まっているセダンに続くハッチバック版だ。かなり若々しいデザインである。今回から、セダンと同じプラットフォームを使い、ハッチバックも北米など世界で発売するという。スバルは「スバル XV コンセプト」。日本国内では「インプレッサ」や「レガシィ」といったハッチバック/セダンのイメージの強いスバルだが、世界的な販売の主力はSUV。特に欧州においては、SUVが販売の85%を占めるという。そのため、今年後半に発売される次世代「インプレッサ」とプラットフォームを共用する、次世代の「スバルXV」のデザインコンセプトがお披露目されたのだ。
レクサスは「LC500h」。デトロイトで発表された「LC500」のハイブリッド版を持ち込んだ。モーターにトランスミッションを組みあわせて疑似10速変速とした新世代のハイブリッドだという。日産は、「キャシュカイ プレミアム コンセプト」と「エクストレイル プレミアム コンセプト」の2台の限定モデル。欧州で人気の高い日産コンパクトSUVのドレスアップバージョンだ。同じように三菱もトライトンをベースとした「L200 GEOSEEKコンセプト」と、RVRの「ASX GEOSEEK コンセプト」を出品。スズキは、インドで生産する「バレーノ」、マツダは東京モーターショーで人気を集めた「RXヴィジョン」を持ち込んだのだ。
2016年内に日本での発売を開始するトヨタC-HR。1.8リッターのハイブリッドと1.2リッターターボ、2 リッターNAエンジンを搭載
ホンダのシビック ハッチバック プロトタイプ。1.0リッターと1.5リッターのガソリン直噴ターボと1.6リッターディーゼルエンジンを搭載する
新しいプラットフォームを利用した次世代のスバルXVのデザインを示唆するスバルXVコンセプト
新しいマルチステージハイブリッドシステムを搭載したレクサスの「LC500h」。システム最高出力264kW(354馬力)
日産は「エクストレイル」よりもコンパクトな「キャシュカイ」をドレスアップしたキャシュカイ プレミアム コンセプトを出品
三菱は、アウトドア/レジャーシーンをイメージした2台を展示。トライトンをベースとしたL200 GEOSEEKコンセプト
三菱のもう1台はRVRのASX GEOSEEK コンセプトだ
ジュネーブは規模の小さいショーではあるけれど、世界初公開の数は意外に多かった。スーパーカーを除外しても、フォルクスワーゲンのTクロスやPASのDS Eテンス、スバルのXVコンセプト、ホンダのシビック ハッチバック プロトタイプ、スバルXV コンセプトなどの話題のコンセプトが並ぶ。量産モデルであればアウディのQ2、アバルト142スパイダー、ルノーのセニック、メルセデスベンツのCクラス カブリオレ、トヨタのC-HRなど充実の内容であった。
最近の世界のモーターショー取材に行くと、どこでも「SUVが中心」になっている。もちろんジュネーブでもSUVは多いのだけれど、その濃度が薄い。ドイツはフランスとも違う欧州という奥の深さを感じることのできるショーであったのだ。