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“おもてなし”より走りのよさが持ち味の「欧州製ミニバン」

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自動車に関係する気になるニュースや技術をわかりやすく解説する新連載「3分でわかる自動車最新トレンド」。連載8回目はヨーロッパのミニバン事情を紹介する。それらは国産とは明らかに違う特徴を備えているが、その違いや背景などを、モータージャーナリストの森口将之氏が解説する。

ヨーロッパ製ミニバンの潜在的な注目度は高く、購買を考えている人も少なくない。国産ミニバンと異なる背景や特徴に迫ろう

ミニバンの広さや快適さは欧州でも評価されるが、2列シートが主流

毎年春、スイスのジュネーブで開催されるモーターショーに、今年は久しぶりに行ってきた。目的のひとつは、現地のミニバンをチェックするためだ。

「ヨーロッパにまで行ってミニバンなんか注目しなくてもよいのに」と思うクルマ好きがいるかもしれない。しかし前回も書いたとおり、このサイトの読者はミニバンを気にしている人が多い。その期待に応えるべく? ヨーロッパのミニバン事情を報告したかったのだ。

日本と同じように、ヨーロッパのミニバンもいくつかのクラスに分けることができる。現地には5ナンバー枠がないので、ボディサイズには違いがあるけれど、トヨタ「シエンタ」やホンダ「フリード」と同等の“スモール”、日産「セレナ」やホンダ「ステップワゴン」と同等の“ミディアム”、トヨタ「アルファード」や日産「エルグランド」と同等の“ラージ”に大別できる。

それぞれに乗用専用車と乗用兼商用車があり(後者は日本ではトヨタ・ハイエースや日産NV200バネットなどが相当する)、ミディアムでは3列シートだけでなく2列シートもポピュラーで、スモールは基本的に2列になる。

ドアもシートも多いほうがよいと考える人が主流の日本とは対照的に、ヨーロッパ人は年に1〜2度しか使わないなら3列目シートはいらないという合理的な判断を下す人が多い。でも背の高さが生み出す広さや使いやすさを認めるユーザーは一定数いるので、2列シートのミニバンが多いという。

写真はフォルクスワーゲン シャランのシートレイアウト。3列シートの設定もあるが、ヨーロッパでは2列シートのほうが一般的

日本に正規輸入されているヨーロッパ製ミニバンをこのスモール/ミディアム/ラージという3種類の大きさと、乗用/兼用という基本設計の違いに当てはめると、次のようになる。

現地では、シトロエン「C3ピカソ」やフィアット「クーボ」などが販売されているが、スモールが輸入されないのは、価格面で国産車に対抗できないからだろう。

商用車を含め、多くはエンジンをフロントに横置きした前輪駆動で、縦置き後輪駆動はVクラスぐらいだ。エンジンは、乗用タイプはガソリンとディーゼルの両方を用意するが、兼用タイプはディーゼルがメインで、Vクラスのようにガソリンエンジンの設定がない車種もある。ハイブリッド車は現状では2シリーズのプラグインタイプのみ。電気自動車はカングーの商用車仕様に設定がある。

写真はフィアット クーボ。日本では正規の取り扱いがないスモールミニバンも少なくない

写真はフィアット クーボ。日本では正規の取り扱いがないスモールミニバンも少なくない

ジュネーブショーの会場でこれらの車種をチェックしていくと、ある法則に気付いた。乗用タイプと兼用タイプでデザインがまったく異なることだ。

乗用タイプは背が低く、空力にも配慮したスタイリングを持ち、ドアは前後ともヒンジ式なのに対し、兼用タイプは背が高いボックス型で、リアドアはスライド式というのが一般的だ。乗用タイプながらスライドドアを持つシャランは、数少ない例外なのである。

つまり日本のアルファードやステップワゴンのような、乗用タイプなのにスクエアで背が高くてスライドドアを持つ車種は見当たらない。現在の日本での売れ筋ミニバンがこれらボックス型なのだから、状況はかなり違う。

写真のアルファードのような背の高いボックスタイプのボディにスライドドアを組み合わせた乗用タイプのミニバンは、日本では一般的なものだ。だが、ヨーロッパでは少数派

理由のひとつとして、走行環境が挙げられる。ヨーロッパをクルマで走ったことがある人は知っていると思うけれど、平均速度が高く、街中を出ると信号で止まることはほとんどない。しかも1回の移動距離が長い。

たとえばフランスでは、最高速度は高速道路が130km/h、国道が100km/hで、それぞれ日本より30〜40km/hほど上回っている。郊外の交差点はラウンドアバウトと呼ばれる環状交差点なので、ほとんどノンストップで走り続けられる。しかもその気になればドイツやイタリアまで行ける。乗用タイプの背が低く空力的なフォルムなのは、こうした環境によるところが大きそうだ。

乗用ベースのミニバンは、ヨーロッパの速い交通の流れに適したもの。写真は乗用車のようなヒンジドアを備えるルノー「セニック」

では兼用タイプはどのような場面で使われるかというと、距離は短いがまとまった数の人間を一度に運ぶ送迎などで利用されている。仮に高速道路を長時間走り続けたりすると、車体が重く空気抵抗が大きい分、確実に燃費が悪くなるから、乗用タイプに任せているのだ。

活躍のシーンが違うから、デザインも完全に分かれている。乗用タイプは同じブランドのハッチバックに似たエモーショナルなフォルムを備え、いっぽうの兼用タイプは機能重視の箱に徹している。デザインの方向性が明確で、あれこれ要素を詰め込まないから、国産ミニバンより美しく見えるのだろう。

交通事情が必要とする良好なハンドリングも欧州ミニバンの特徴

そしてもうひとつ、さすがヨーロッパ車だと思うのは、兼用タイプのカングーやVクラスであっても、似たようなタイプの国産車に比べてハンドリングがすぐれていることだ。実はこれにも理由がある。

国産ミニバンはとにかく乗り降りがしやすい。スライドドアは路肩の縁石にぶつかりそうなほど低い位置から開き、開口部にサイドシルなどの出っ張りはなく、フロアも低い。でもこのような構造はボディ剛性、特にフロア剛性を確保するうえでは不利だ。

ヨーロッパのミニバンはこの点が違う。フロアを厚くしたり、サイドシルを残したりして、剛性を保持しようという姿勢が見える。今年のジュネーブショーで発表された、トヨタとプジョー シトロエンが共同開発したラージクラスの兼用ミニバンも例外ではない。

フロアががっしりしているから、ステアリングを切ったり、アクセルやブレーキを踏んだりしたときの、クルマの反応がカチッとしている。そこからクルマに対する信頼が生まれ。走りがよいという評価につながっていく。

トヨタと共同開発されたプジョー「トラベラー」。トヨタ版の「プロエース」、シトロエン版の「スペースツアラー」がそろってジュネーブショーに展示された

アルファード(左写真)とシャラン(右写真)のドアステップの形状を比べてみると、乗りやすさを重視するアルファードと、頑丈そうなサイドシルを持つシャランの違いがよくわかる

長距離を速く安定して走りたいなら、今でも欧州ミニバンのほうが適している

以前、低い位置から開くスライドドアを持つ国産ミニバンの試乗会で、フロア剛性を高めたという説明にもかかわらず走りがシャキッとしていなかったので試乗後にエンジニアに聞いたら、「スライドドアの部分は剛性を上げることができませんでした」と打ち明けていた。

なぜ筆者が日欧のミニバンのフロア剛性の違いをここまでうるさく言うのか。それはヨーロッパ製ミニバンの変種を10年以上にわたり所有しているからだ。欧州ミニバンのパイオニアであるルノー「エスパス」のクーペ版として、2001年から2年間だけ作られた「アヴァンタイム」が愛車なのである。

アヴァンタイムはセンターピラーがなく、頭上はガラスサンルーフなので、ボディ剛性は低いけれど、フロアはしっかりしている。おかげで高速道路での安定性は、いまだに国産ミニバンのはるかに上を行く。

現在輸入されているヨーロッパ製ミニバンにも似たようなことが言える。ハッチバックやセダンやSUVでは、ヨーロッパ車に並ぶ走りを備えた国産車も出てきているけれど、ミニバンについてはフロアとドアに対する考え方が根本的に違うので明確な差があると、実体験からも思っている。

もしこのコラムを読んでヨーロッパ製ミニバンが気になった人は、実際に試してみてほしい。走り好きの人なら、違いが理解できるはずだ。

日本流の“おもてなし”は期待できないが、走りを重視するものが多いヨーロッパのミニバン

日本流の“おもてなし”は期待できないが、走りを重視するものが多いヨーロッパのミニバン

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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2017.10.23 更新
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