自動車ライターがズバッと解説! 3分でわかる自動車最新トレンド

車種が増加するプラグインハイブリッドカー、その背景や思わく、そして強みとは?

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自動車に関係する気になるニュースや技術をわかりやすく解説する連載「3分でわかる自動車最新トレンド」。連載11回目は、国内・海外の各メーカーがラインアップを拡充しつつあるプラグインハイブリッドカーを取り上げる。その背景や強みを、モータージャーナリストの森口将之氏が解説する。

写真は、今年発売が予定されているトヨタ「プリウスPHV」。海外勢も急増しており、今年注目を集まるジャンルになりそうだが、どのような強みがあるのか?

EVとHVの一挙両得を狙ったのがプラグインハイブリッドカーの出発点

自動車はいつでも好きな場所に、自分の意志で行けることが魅力のひとつ。今回取り上げるプラグインハイブリッドカー(以下、PHV)は、電源ケーブルを使ってバッテリーが充電できるハイブリッドカー(以下、HV)である。都市部の環境問題に対処しつつ航続距離の問題を解決するというテーマから生まれた。

ハイブリッドカーではモーター走行の距離が短いから、街中の移動でもエンジンを回すことになる。いっぽうの電気自動車(以下、EV)は、フル充電しても航続距離に限りがある。それなら1台のクルマで、街中はEV、郊外はHVという使い分けをすればよいのでは?という考えが生まれた。これがPHVの着想ポイントだ。

PHVの量産車が登場したのは2010年代になってから。第1号車がどのクルマについては諸説があるが、一般人が買えるPHVに限定すれば、2010年に発売された中国BYDの「F3DM」と、米国ゼネラルモーターズ(GM)の「シボレー・ボルト」と言われている。続いて2012年に、先代トヨタ「プリウス」をベースとしたPHVが登場。翌年に三菱「アウトランダーPHEV」がデビューし、ホンダ「アコード」もモデルチェンジと同時に、リースモデルながらPHVを設定している。

ちなみに「F3DM」は、現行プリウスとほぼ同じボディサイズのガソリンエンジン搭載セダン「F3」をベースとした車種。似たようなサイズを持つハッチバックの「ボルト」には、兄弟車としてGMの欧州拠点オペルとヴォクゾールから「アンペラ」というモデルも生まれている。

一般の人が買える世界初のPHVの1台とされるBYD「F3DM」は2010年に登場。同社のセダン「F3」をベースにしている

当初のPHVは、電気駆動を基本にしつつ航続距離を伸ばすことを目的にしたものだった

エンジンとモーターの組み合わせ方、トランスミッションの有無など、PHVのメカニズムは各車各様だ。たとえば国産車の「プリウス」と「アウトランダー」を比較しても、エンジンとモーターの接続に前者は遊星ギア、後者はクラッチを用いており、「プリウス」は前輪駆動、「アウトランダー」は4WDという違いもある。

この点はHVと同じ状況であり、今回はくわしい解説は省略させていただくが、それよりも注目したいのは、GMが「ボルト」を発表したときにPHVではなく、「レンジエクステンダーEV(REX-EV)」という呼び名を使っていたことだ。REX-EVを日本語に訳せば、“航続距離延長型電気自動車”となる。基本はEVだが、バッテリー切れで走れなくならないよう、発電用エンジンを積んだものという意味だ。

ただし、発売当初の「ボルト」のスペックを見ると、EVモードでは米国のモード走行値で約56kmなのに対し、1.4ℓガソリンエンジンで発電を行うと約610kmと、10倍以上も伸びてしまう。燃料タンク容量が約35ℓと、コンパクトカー並みであるためだが、これではとてもEVとは言えない。GMが「ボルト」をPHVと呼ばず、REX-EVという新しい言葉を用いたのは、当時すでにHVの代表格として世界的に知られていた「プリウス」とはまったく違うクルマであることをアピールするためだろうと想像している。

写真はFRレイアウトの高性能PHVセダン、BMW「330e」のパワーユニット。PHVはメカニズムが多様で、さまざまな特徴のクルマが、それぞれに適した機構が搭載されている

PHVを急激に拡充する欧州勢。日本メーカーは出遅れているという声もあるが……

「ボルト」の発売の2年後、米国の中でも環境意識が高いことで知られるカリフォルニア州が、自動車メーカーの要望に応じる形で、ゼロエミッションビークル(排出ガスがない自動車)にREX-EVを含めた。ただしここでは、エンジンでの航続距離がバッテリーでの航続距離を超えてはならないという規定がある。筆者もこの規定を、PHVかREX-EVかの分岐点としたい。

このカリフォルニア州の規定に基づいて開発された代表格が、日本でも2013年に発表されたBMW「i3」のREX-EVだ。同社のスクーターに積まれている650cc直列2気筒エンジンを発電用として搭載しているが、燃料タンク容量はわずか9ℓしかない。ちなみに「i3」と同時に発表されたスーパーカー「i8」は、モーターのみの航続距離は35kmにとどまるが、1.5L直列3気筒ターボエンジンを用いれば500km以上の距離を走ることができるので、BMWでもPHVと呼んでいる。

「i8」と同じ年にはメルセデス・ベンツ「Sクラス」や、ポルシェ「パナメーラ」にもPHVが登場している。しかしこれらはすべて1000万円以上。「プリウスPHV」も先代がベースでモデル末期に差しかかっていたこともあり、ライバルの「アウトランダー」のほうがじわじわ人気を獲得しつつあるという状況だった。その頃、欧米では新たな動きが起こりつつあった。

左はメルセデス・ベンツ「EクラスPHV」、右はBMWのスポーツカー「i8」。いずれもPHV搭載の高級車だ

左はメルセデス・ベンツ「EクラスPHV」、右はBMWのスポーツカー「i8」。いずれもPHV搭載の高級車だ

それまでEVや燃料電池自動車(以下、FCV)に限定されていたゼロエミッションビークルにPHVが組み込まれたことで、メーカーやユーザーが優遇を受けられるようになったのだ。ちなみにHVはこの枠組みから除外されている。

たとえば欧州では、2021年までに新車のCO2排出量を1km走行あたり95g以下に抑える決定がなされた。2015年までの目標値が120g/kmだったから、かなり厳しい。そこで欧州ではPHVを優遇するルールを盛り込んだ。実際のCO2排出量に、一般的なユーザーの1日の平均走行距離とされる25kmを掛け、それを電動走行可能距離+25kmで割るという内容で、通常の測定では180gという悪い数字でも、電動走行可能距離が25kmなら、CO2排出量は半分の90gになってしまう。2021年の規定はパスするし、ユーザーに環境にやさしいクルマとアピールできる。

これを受けて欧州メーカーはPHVを次々に登場させる。それらの一部が2015年秋以降、日本に上陸を始めた。フォルクスワーゲン(VW)「ゴルフ」、アウディ「A3」、メルセデス・ベンツ「Cクラス」などだ。この流れは年が明けても続き、今年はBMW「2シリーズ」および「3シリーズ」、ボルボ「XC90」にもPHVが追加されている。

つまり現時点で、日本で買える量産PHVは、「プリウス」が新型への切り替え待ちなので、国産車としては「アウトランダー」のみ。いっぽう輸入車は、BMWの4車種を筆頭に、メルセデス3車種、ポルシェ2車種、VW、アウディ、ボルボがそれぞれ1車種ずつと、完全に欧州車が優勢になっている。欧州車びいきの一部のメディアはこの状況を取り上げ、「日本はPHVのトレンドに乗り遅れた!」と記事にしていたくらいだ。

新しい「プリウスPHV」の発売を控える現在、国内メーカー製で唯一選ぶことのできるPHVが三菱のSUV「アウトランダー PHEV」だ

電源付き駐車場を用意しやすい郊外でこそ強みが発揮されるPHV、日本の都市では不利?

しかし、筆者はそう思っていない。これは戦略だと考えている。たしかにオランダなど、環境保護のために充電施設を増やし、PHVやEVの普及をうながしている国もある。しかし、欧州の自動車関係者の中には、HVやFCVの販売で日本が先行したことをこころよく思っていない人もいる。ゆえに対抗軸を立て、優遇策まで用意して、自分たちの優位性をアピールするという戦略を打ち出した。

こうした動きは自動車以外の世界でも見られる。スポーツの分野で、日本人が活躍するといきなりルールが変更されたりするのも戦略のひとつだ。HVに対抗してディーゼルエンジンを対抗軸に置いたことも欧州の戦略だった。しかしこれは、このコラムでも以前取り上げたように、VWの不正により、あっけない幕切れとなってしまった。

欧州がこの結果を事前に予想していたかどうかはわからないが、PHV攻勢をしかけてきたのがVWの不正問題が明らかになる直前であったという事実は、なんだか興味深い。

しかし、輸入車のPHVにも欠点はある。それは価格だ。「アウトランダー」が約350万円から選べるのに対し、輸入車はもっとも安いBMW「2シリーズ」でも約500万円で、VWやアウディは「プリウス」と同等のボディサイズなのに500万円を上回る。それ以上の価格の車種は、筆者を含めた庶民には手が届かない。しかも販売台数が限られるわけだから、環境対策に大きな影響力はないと考えるのが自然だろう。

従来よりも安い価格設定の海外製PHV「A3 スポーツバック e-tron」。だが、それでも車両価格は500万円台と、かなり高価

日本でこれまでPHVが今ひとつ盛り上がらなかったのは、車庫事情もある。特に東京などの都市部では集合住宅に住む人が多く、充電設備を用意できないユーザーが多い。それに都市部は公共交通が発達しているので、PHVのモーター走行で本来まかなうべき近距離の移動はクルマに頼る必要がないということも多い。つまりPHVは地方のユーザーに向いている。この点でも、都市部での販売比率が高い輸入車は不利かもしれない。

PHVに限ったことではないが、メーカーの戦略には左右されず、予算や使い方や車庫事情を冷静に判断してクルマを選んでほしい。その結果、PHVがふさわしいという人も多くいることだろう。ただ購入を考えている人は、今年中に発売が予想されている新型「プリウスPHV」はチェックしてからにしたほうがよいかもしれない。

PHVのメリットを生かすには、身近な場所に充電設備を用意できる駐車場が必須と言える。そのため、日本の都市部の集合住宅では利点を生かしにくい

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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2017.8.19 更新
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