やんちゃ坊主が、大人のGTに転生した!

洗練の乗り味と驚きの動力性能を兼備する、スズキ「アルト ワークス」

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2015年12月24日に発売となったスズキの「アルト ワークス」。評判のよい軽自動車「アルト」のスポーツバージョンだ。その走りと魅力をモータージャーナリストである鈴木ケンイチ氏がレポートする。

復活した「アルト ワークス」は速さも魅力だが、価格性能比にすぐれた大人のGTだった!

復活した「アルト ワークス」は速さも魅力だが、価格性能比にすぐれた大人のGTだった!

1980年代から90年代の興奮が現代によみがえる!

1980年代から90年代を知る人間にとって「アルト ワークス」の名称は、一種、特別なものだ。ホンダでいえば「タイプR」であるし、日産であれば「GT-R」のような憧れと共に語られる存在である。当時から、安価で最も身近な軽自動車であった「アルト」を本気のモータースポーツ仕様に仕上げたのがアルト ワークスである。手ごろな価格ということでヒットしたため、友人経由で「アルト ワークスは速いゾ」という話もさんざん耳にした。さらに全日本ラリー選手権や全日本ダートトライアル選手権での活躍も名声に磨きをかけた。

そんな特別な名前のクルマが現行のアルトで復活したのだ。聞くところによると、昨年春の「アルト ターボRS」の発売を機に、「アルト ワークスの復活はまだか?」という声がスズキに殺到したという。そこで急遽、本格的にアルト ワークスの復活が決まったという。また、ちょうどホンダの新型「S660」やダイハツの「コペン」なども評判を集めており、軽自動車スポーツ界隈が盛り上がっていたという時代の流れもあっただろう。とはいえ、こうしたスポーツバージョンの登場は、スポーツカー好きとしては、純粋にうれしいばかりだ。

ALTO WORKSのロゴを見るだけで心躍る人も多いことだろう

ALTO WORKSのロゴを見るだけで心躍る人も多いことだろう

アルト ターボRSに魅力的な装備をリーズナブルに追加

では、改めてアルト ワークスの特徴を説明しよう。

ベースとなったのは、2014年暮れにデビューした新型のアルト。新世代プラットフォームの採用により車両重量650kg〜という軽量ボディを実現している。エネチャージなどの省燃費技術をあわせて、最高37.0km/lの驚くべき省燃費性能を備えた。しかも、走らせてみれば軽量ボディが効いて、非常に快活で素直なハンドリングを見せる。また、パッケージングにもすぐれており、背は低いけれど大人4人がきゅうくつな思いをせず利用できる。スズキの最新技術を結集したすぐれた軽自動車だ。そのすぐれた資質に、規制いっぱいの最高出力47kW(64PS)/6000rpmのパワフルなターボエンジンを搭載したのが、2015年の春に登場したアルト ターボRS。こちらのトランスミッションは、マニュアルミッションを機械が操作するAGS(オートギヤシフト)だけであった。

そして、そのアルト ターボRSをさらに発展させたのがアルト ワークスだ。エンジンは同じ型式だが、改良を加えてトルクをアルト ターボRSの98Nmから100Nmにアップ。アクセルレスポンスも向上させたという。そして、トランスミッションは、アルト ワークス専用の5速MTを新開発。AGSと5速MTから選ぶことができる。さらに前輪駆動のFFだけでなく、4WDモデルも用意される。JC08モード燃費は、5MTの2WDが23.0km/l、4WDが22.0km/l。AGSの2WDが23.6km/l、4WDが22.6km/lとなっている。スポーツ化したとはいえ、アルトワークスの車両重量はわずか670kg(2WD/5MT)。その軽量さが好燃費にも貢献している。

アルト ターボRSと同じ形式のエンジンだが、トルクが向上し、レスポンスも改良された

アルト ターボRSと同じ形式のエンジンだが、トルクが向上し、レスポンスも改良された

専用に設計された5速のMTを用意。シフトフィールはスポーティ

専用に設計された5速のMTを用意。シフトフィールはスポーティ

このほか、サスペンションも専用チューンを施され、ダンパーはKYB製を採用。EPS(エレクトリック・パワー・ステアリング)も専用チューンされている。ホイールも幅をアップした専用165/55R15・5JのENKEI製で、タイヤはブリヂストンの「ポテンザRE050A」を履く。さらに前席シートはレカロ製。エクステリアも、ヘッドランプから前後バンパー、サイドデカール、レッド塗装のフロントブレーキなどの専用アイテムを装着することで、アルト ワークスだけの特別感を演出している。

ENKEI製アルミホイールのサイズは165/55R15・5J。タイヤはブリヂストンのポテンザRE050A。フロントのブレーキキャリパーは赤く塗装されている

運転席と助手席のシートはレカロ製。ホールド性が高く、スポーツ走行をしっかりサポートする

運転席と助手席のシートはレカロ製。ホールド性が高く、スポーツ走行をしっかりサポートする

ちなみに価格は2WDが150万9840円で4WDが161万7840円。5MTもAGSも価格は変わらない。アルト ターボRSが2WDで129万3840円、4WDが140万5080円なので、差額は2WDで21万6000円、4WDが21万2760円。この差は驚くほど小さい。市価で考えれば、レカロのシート2脚とENKEIのホイール4本だけで21万円は越えるだろう。アルト ワークスは、相当にリーズナブルな価格設定といえる。

前後のバンパーは、アルト ワークス専用デザイン。プレミアム感が強い

前後のバンパーは、アルト ワークス専用デザイン。プレミアム感が強い

サイドに貼られたデカールは、ややレトロなデザイン

サイドに貼られたデカールは、ややレトロなデザイン

意外や意外、走り味は洗練された大人のGTであった!

続いて試乗した印象をレポートしよう。
 
ハンドルを握るまでは、過去のイメージや成り立ちを考え、「ボーイズ・ギャング」のような、荒削りだが速いゴーカートのような過敏なまでの俊敏さを備えるヤンチャなクルマを予想していた。ところが違う! 驚いたことに、その走りは「大人のGT」であったのだ。もちろん速さという点は、驚くべきもので、アクセルを踏み込んで2500回転以上でターボが効きだせば、グイっと1歩踏み出る力が1段階アップする。軽量なボディということもあって、加速感は軽自動車ではなく、ひとつふたつ上のスポーティカーのそれだ。街中で“軽自動車だから”と遠慮する必要はまったくない。さすがに高速道路では、その瞬発力は鈍るが、それでも2リッタークラスのセダンとそん色ない走りを見せる動力性能は、さすがだ。とはいえ、高速道路の5速100km/hでのエンジン回転は4000rpmだし、遮音性能は軽自動車レベルなので、それなりの騒音は覚悟する必要がある。

7000回転からレッドゾーンの始まるタコメーターを備える。右のインフォメーションディスプレイの上部に配置されるWORKSのロゴが目立つ

しかし、ハンドリングや乗り心地という点は、ぐっと洗練されていた。もちろん足は固めてあるけれど、突き上げは上手に角を丸めており、不快さはない。素早くステアリングを切れば、それなりに応えるが、基本的にしなやかで落ち着き感のある乗り味であった。

また、レザーのステアリングとシフトノブ、レカロのシートといった実際に触れる部分の質感が高い。シフトの操作感も素晴らしい。手首のひねりだけで操作できるショートさもいいし、ゴクゴクという節度感のあるフィールは、「いかにもスポーツカー!」というもの。さらに、レカロ製シートの座り心地は硬めでサポート感も強い。身体をしっかりと預けることができる。クラッチがそこそこ重いのもスポーツカーとしての雰囲気醸成に貢献している。つまり、運転に集中しているときに触れるものが、軽自動車ではなく完全にスポーツカーなのだ。確かによくよく見れば、室内の質感は軽自動車そのものだ。インパネの表面もドアの内張も軽自動車そのもの。しかし、走りに熱中すれば、そんなものは目に入らない。ステアリングの握り具合、シフト操作、シートのホールド。そういった部分のクオリティは、クラスを越えたものとなっていたのだ。

運転中に触れる、ハンドルやシフトレバー、クラッチなどの質感が高く、スポーツカーらしい雰囲気にひたれる

運転中に触れる、ハンドルやシフトレバー、クラッチなどの質感が高く、スポーツカーらしい雰囲気にひたれる

また、のんびり走るときは、アルトらしい実用性の高さがうれしい。スポーツカーとすれば、これほど室内の広いクルマはないだろう。後席の足元も広く、大人4人が苦痛なく乗ることができる。ただし、荷室はミニマムなのは、軽自動車ということで勘弁を。また、燃費は満タン法の実測で、565kmを走って19.2km/lであった。高速道路の移動は多いものの、ひどい渋滞にも巻き込まれている。さらにアイドリングストップもない。カタログ値の23.0km/lには届かないものの8掛けの数値は立派なものだ。

後席も足元が広く、大人4人が乗っても苦痛ではない

後席も足元が広く、大人4人が乗っても苦痛ではない

結論としては、動力性能は軽自動車レベル以上。フィールは大人のGT。それでいて実用性も十分。さらに価格もお手ごろ。ちなみに、今期からさっそく全日本ラリー選手権にアルト ワークスの参加が見られ、「スイフト」や「フィット」といった、格上のコンパクトカーたちを相手に健闘しているという。競技用パーツからカスタムパーツのリリースも活発だ。つまりイジる楽しみもあるということ。スズキの広報に聞いてみれば「アルト ワークスは相当に売れています」と胸を張る。この充実の内容であれば、ヒットも当然のことだろうなと思うばかりだ。

鈴木ケンイチ

鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

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2017.10.23 更新
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